放射光X線を用いたガラス固化体の健全性評価のための材料強度解析

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カテゴリ: 第17回
放射光 X 線を用いたガラス固化体の健全性評価のための材料強度解析 Evaluation of Material Strength for Soundness of Vitrified Radioactive Waste using Synchrotron Radiation X-rays 原子力機構 菖蒲 敬久 Takahisa SHOBU正会員 原子力機構 冨永 亜希 Aki TOMINAGA 検査開発(株) 佐藤 誠一 Seiichi SATO (株)E&E テクノサービス 畠山 清司 Kiyoshi HATAKEYAMA 原子力機構 永井 崇之 Takayuki NAGAI Abstract In order to ensure the long-term safety of the vitrified radioactive waste, the relationship between number of stirring and characteristics of material strength after melting the raw material glass and simulated vitrified radioactive waste were investigated by synchrotron radiation X-rays. As a result, it was clarified that the internal defects in simulated vitrified radioactive waste increased and the material strength of simulated vitrified radioactive waste was suitable as increasing the number of stirrings. Keywords: Vitrified radioactive waste, synchrotron radiation X-rays, stress, strain, material strength 1.緒 言 原子力発電所で発生した使用済み燃料の再処理工程で発生する高レベル放射性廃液は、通常、ガラス固化処理を行った後、貯蔵管理され、年月を経て最終処分場で地層処分される。ガラス固化体とは、ホウケイ酸ガラス原料と放射性廃液を一緒にガラス溶融炉に投入し、溶融混合したものである。ガラスは水に溶けにくく、化学的に安定しているため、放射性物質を閉じ込めるのに非常に適している。このように、ガラス固化処理はすでに実用化されている技術であるが、近年の原子力施設の廃止措置や福島第一原発事故で発生した放射性汚染物の処理技術としての適用性も有望視され、廃棄物発生量の抑制など処理技術の向上が急務となっており、ガラス固化処理技術にも高充填化などのさらなる性能向上が求められている。 ガラス固化体を評価する手法の一つとして、X 線吸収分光(XAFS)測定がよく用いられている。XAFS では特定の元素とその周辺元素の構造を分析することができるため、多数の元素を含むガラス固化体の構造評価手法として優れており、様々な研究成果が得られている。 一方、健全性評価の点では、長期にわたる材料強度の確保が必要となる。これは XAFS のようなミクロレベルの評価ではなく、ひずみや応力といったマクロレベルでの評価を意味している。 そこで本研究ではガラス固化体の健全性評価の1つのアプローチとして、高エネルギー放射光応力測定を実施する。ガラス固化体の主要成分がわずかでも変化すると材料強度特性は大きく変化することから、材料ごとの強度特性を明らかにしていく。今回は、撹拌回数と強度特性について評価したので報告する。 2.実 験 試料 本研究では、放射性物質を入れたガラス固化体の利用はできないことから、模擬ガラス固化体を作成した。試料の元となるガラスには、ホウケイ酸ガラス(PF798)を使用した。この中にCe、Zr 等をモル質量が全体の15.00wt% となるように溶融させたものを本実験では使用した(以下、本試験片を「模擬廃液含有ガラス固化体(Simulated VRW)」とする)。試料作成に際しては、1150℃まで加熱、溶融させたのち、撹拌を行う。本研究はこの撹拌回数を0、1、2、3 回と回数を変えたものを作成し、作成された試験片(φ18mm、長さ60mm 程度)の「上」、「中上」、「中下」、 「下」と4 か所から3×3×5mm の試験片を複数個切り出 した。 実験 実験は、大型放射光施設 SPring-8 に設置された原子力機構専用ビームラインBL22XU を使用した。X 線のエネルギーは複数回行った実験のたびにわずかに変化しており、その都度、CeO2 標準粉末試料からの複数の回折線に対して回帰分析を行うことで正確に算出しているが、おおむね 30keV である。測定においては、割れた時の拡散防止、測定精度の向上の観点から、カプトンチューブ両サイドからアルミナセラミックスを挿入し、その間に試験片を設置した。試験片の側面から縦0.5mm、横0.2mm に整形したX 線を照射し、試料からの透過回折または散乱X 線をシンチレーターで可視光に変換した後、CCD カメラにより計測した。測定は、適当な負荷を加えた状態で回折または散乱X 線を連続して行なった。 また実験の最初に試験片の内部の様子を確認するために、透過イメージング測定を行なった。 3.実験結果 図 1 は、模擬廃液含有ガラス固化体の 0 回、及び 3 回の透過イメージング像である。0 回撹拌ではすべての場所が一様なコントラストとなっているのに対して、3 回撹拌はすべての場所に数百 μm 程度の気泡が多々見られる。特に、下の部分からのイメージング像では0.5mm 程度の気泡が集中的に見られる。これは粘性の強い液状ガラスにおいて撹拌により空気が内在したためであると推察される。なお、気泡の割合に関しては、図 1 の 3 回撹拌下からも明らかなように、個体差があることから正確な数値を出すことは非常に難しいが、全体としては1%未満に対して、「下」に限っては数%を超えている可能性はある。 以上から、撹拌による影響の 1 つとして、気泡=内部欠陥が発生することが確認された。 図2 に、模擬廃液含有ガラス固化体のX 線散乱を示す。ここで、青矢印で示した回折リングは試料がない状態でも存在していることから、本測定結果から除外するものとする。10nm 以上の結晶粒が存在していれば、回折リングがはっきり写っているが、(a)0 回撹拌、及び(b)3 回撹拌ではそれが見られない。このことから本試料では模擬廃液がガラスに溶けている、もしくは結晶化していたとしても10nm 以下であると考えられる。 図 3 に、図 2(a)中に示す扇状の範囲を 1 次元積分した散乱プロファイルを示す。強度の違いは、試験片の若干の Fig.1 Transmitted images of simulated VRW. Zero stir(b) three stir Fig.2 X-ray scattering pattern of simulated VRW. 厚みの差によるものと思われる。5 度付近の回折ピークは図 2 の青矢印に対応するものである。この回折ピークと比較すると、模擬廃液含有ガラス固化体からの散乱は非常にブロードであることがわかる。このような散乱はさらに高角にも周期的に発生しており、構成元素と原 子間距離に依存している。そのため、負荷を加えるとわずかではあるが、散乱ピークの角度が若干シフトする1)。そこで、図3 の散乱ピークより以下の式を用いて、負荷に Fig.3 X-ray scattering profile of simulated VRW. 対するひずみを算出した。 ε = - ????????- ???????? ???????? ここで、2θ は7°付近の散乱のピークポジション、2θ0 は負荷をかける前の散乱ピークポジションである。 図4 に一例として、0 回撹拌「下」に対して圧縮負荷をかけた時のひずみε の変化を示す。ここで黒点が実測、赤線は一次関数による回帰直線を表している。圧縮負荷に 対して、ひずみの絶対値は単調増加している。本結果の傾 きからヤング率(=応力/ひずみ)を算出することができる。 図5 に切り出した試験片から得られたヤング率を示す。本測定に関して、0 回撹拌に関してはいずれの試験片に対しても割れることなく-400MPa まで負荷をかけることができたが、3 回撹拌に関しては気泡の影響で-400MPa に到達する前に割れる試験片が発生した。そのため 3 回撹拌に関しては複数回測定し、-400MPa まで割れることなく荷重がかけられた試験片から得られたヤング率である。0 回撹拌では同一場所から切り出した試験片でも差が多少あり、上から下に向かって単調減少している。これに対して、3 回撹拌では同一場所での差は小さく、上から下と場所を変えてもほとんど変化していない。これは撹拌回数の増加に伴い、模擬廃液が原料ガラスの中で一様に溶けているためであると推察される。また、過去の測定から、原料ガラスのヤング率は約115GPa であり、今回の結果はその結果に比べると明らかに高い。つまり、模擬廃液が原料ガラスに溶けると材料強度は増加することが明らかとなった。 以上から、撹拌による影響のもう 1 つとして、模擬廃液の均一分散が発生することが確認された。 Fig.4 Stress- strain curve of simulated VRW. Zero stir Three stir Fig.5 Young’s modulus of simulated VRW. 4.結 言 高エネルギー放射光X 線を利用し、模擬廃液含有ガラス固化体の生成過程中の撹拌回数と材料特性の関係を調べた。以上は、その結果である。 撹拌回数を増やすことにより、気泡=内部欠陥が発生する 撹拌回数を増やすことにより、模擬廃液の均一分散が発生する 本研究は、経済産業省資源エネルギー庁「令和 2 年度放射性廃棄物の減容化に向けたガラス固化技術の基盤研究事業」の成果の一部である。記して感謝の意を表する。 参考文献 [1] S. Sato, H. Suzuki, T. Shobu, M. Imafuku, Y. Tsuchiya, K.Wagatsuma, H. Kato, A. Deny, Setyawan and J. Saida, “Atomic-scale characterization of elastic deformation of Zr-Based metallic glass under tensile stress”, Materials Transactions, vol. 51, No. 8, 1381-1385 (2010).
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