内面の粗さと曲率を考慮した電磁超音波共鳴法による配管減肉評価

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カテゴリ: 第17回
内面の粗さと曲率を考慮した電磁超音波共鳴法による配管減肉評価 Evaluation of pipe wall thinning with electromagnetic acoustic resonance method considering effects of roughness and curvature of inner surface. 東北大学 木村 周平 Shuhei KIMURA Student Member 東北大学 武田 翔 Sho TAKEDA Member 東北大学 内一 哲哉 Tetsuya UCHIMOTO Member 東北大学 遊佐 訓孝 Noritaka YUSA Member 東北大学 Gildas DIGUET Non-member Abstract Electromagnetic acoustic resonance (EMAR) method is useful for measuring thickness of pipe. But in the case of thickness changing complicatedly in part of pipe wall thinning for various factor, accurate thickness measurement is difficult. In this study, thickness of specimens of pipe corroded under various conditions is evaluated by EMAR. The error of thickness evaluation is investigated in view of maximum value of spectrum and roughness and curvature of pipe. As a result, it is suggested that signal strength is important factor in EMAR measurement accurately. Keywords: Electromagnetic acoustic resonance method, Electromagnetic acoustic transducer, thickness measurement,Flow Accelerated Corrosion,pipe wall thinning 1.緒言 2004 年8 月の美浜原子力発電所での配管の破断事故は流れ加速度型腐食が原因によるものであり[1],このよう な事故を未然に防ぐため,配管の減肉を適切に評価することで設備の安全性と信頼性を保つことが重要である. 一般的な配管減肉検査手法の一つとして圧電探触子を 用いた超音波試験がある.しかしながら,この試験法は接 触媒質を必要とするため高温等の極限環境下にある配管に対して適用するのは困難であり,非接触で配管肉厚を評価可能な方法が求められている.そこで超音波試験に 代わる試験手法として, 電磁超音波探触子 (Electromagnetic acoustic transducer, EMAT)の配管肉厚の評価への適用が試みられている[2].EMAT は非接触で試験が可能なため,検査面に影響されずに肉厚を測定できるという利点がある.また,圧電探触子に比べ信号強度が 弱く SN 比が小さいという点を改善するため,EMAT を用いた電磁超音波共鳴法( Electromagnetic acoustic resonance method, EMAR)も提案されている.この手法では,共鳴周波数の間隔から試験片の肉厚を精度よく測定することができる. 腐食によって表面形状が複雑に変化している場合にはEMAR を適用しても超音波が散乱し共鳴周波数から肉厚を評価することが困難となるが,このような時の信号処理法としてN 周期加算法(Superposition of nth Compression, SNC)が提案されている.SNC は共鳴周波数が基本周波数の整数倍に現れることを利用した信号解析手法であり, スペクトルが複雑でも基本周波数を評価し,肉厚を推定 することができる[3].一方で,SNC によるEMAR 信号処理に関する研究は板材に対する検討にとどまっており, 実際の配管に近い曲率を持った試験片に関しては未だ調 査が進んでいない[4]. 本研究では,曲率を持った試験片に対し,内側の粗さとうねりがEMAR の共鳴スペクトルに及ぼす影響を調べることを目的とする.内側を腐食させることで種々の粗さを有する曲率を持つ試験片を作製し,EMAR による減肉評価を行う. 2.実験方法 本研究では,圧力配管用炭素鋼鋼管STPG90ASch40 を試験片として用いた.外径101.6 mm,肉厚5.7 mm の鋼管 を軸方向長さ50 mm に切断し,更に周方向に6 等分した. 試験片の曲率は 19.7 m-1 である.これらを塩化鉄(III)溶液(サンハヤト社, H-1000A)に 50℃にて種々の時間浸漬し, 腐食減肉度合いの異なる60 種類の腐食試験片を作製した. キャリパーゲージで試験片の中央部分 20 mm × 10 mm の領域に対して 9 点計測した平均値を厚さと定義する. 試験片の表面の粗さはワンショット3D 形状測定機(VR- 3000, KEYENCE)にて測定し,算術平均高さSa を取得した.EMAR 試験では,パルサーレシーバー(RPR-4000, RITEC)により,送受信コイルにバースト波を1 MHz か ら 4 MHz まで 0.01 MHz 刻みで掃引しながら印加する. 図 1,図 2 に使用した EMAT プローブとレーストラック型送受信コイルの概念図をそれぞれ示す.コイルは単層 で導線の直径は0.1 mm である.送受信コイルの上には長さ10 mm,奥行き20 mm,高さ20 mm 直方体型のネオジ ウム磁石を二つ組み合わせ,腐食試験片の曲率に合わせ て表面を研磨加工したものを設置する.コイルによる誘 導電流と永久磁石による静磁場の相互作用によって板厚 方向に超音波を腐食試験片表面近傍で発生させ,底面から反射してきた超音波信号を送信コイルと同じコイルで 受信する.受信した信号は再びパルサーレシーバーによ り取得する.また0.5 kHz ごとに同期検波を行い,共鳴周波数を取得する. SNC 法は共鳴周波数が整数倍に現れることを利用しEMAR により取得した信号に対し周波数軸を 1/n に圧縮し,複数のピークを基本共鳴周波数に重ねることで肉厚を測定する方法である.SNC 法の原理を以下に示す. ?? = argmax {∑ ??????} ??(1) (1)式において,f1 は基本共鳴周波数,x(f)はスペクトル強度,n はスペクトルを取得した周波数範囲での共鳴次数, argmax は最大値における引数である.求めた基本共鳴周波数 f1 および材料の横波速度 V を用いることで,減肉部の厚さ d を d = V/2 × f1 より計算することができる.本研究では,非減肉試験片に対して行ったEMAR 試験とキャリパーゲージで測定した肉厚の結果から得られた横波速度V = 3270 m/s を材料の横波速度とす る.また,最大ピークである周波数を基本共鳴周波数と して肉厚を計算する. Fig. 1 EMAT probe. Fig. 2 Coil dimensions 実験結果および考察 代表的な試験片として,腐食があまり進まなかった試 験片をA,腐食がより進んだものをB とし,図3 に光学顕微鏡により観察した試験片表面像を示す.試験片B はA と比較して表面により大きな凹凸形状が見られる.また,これらの試験片について形状測定機を用いてカットオフ周波数λc を5 mm として算術平均高さSaを算出した結果,それぞれ16 ?m,42 ?m であり,光学顕微鏡での観察結果と同様に試験片 B の方がより表面が粗いことが確認された. 代表的なEMAR 測定結果として,試験片A,B の測定結果を図 4,図 5 にそれぞれ示す.試験片A に対してB のスペクトルは複雑かつそのピーク強度が全体的に低い ことがわかる.これらの測定結果にSNC 法を適用した結果を図 6,図 7 にそれぞれ示す.試験片A の基本共鳴周波数は(1)式より0.279 MHz で推定肉厚は5.86 mm であった.このとき,キャリパーゲージによる実測値は5.81 mm でありSNC による推定肉厚とほぼ一致した.一方,試験片B の推定肉厚は6.24 mm であり,実測値の5.37 mm と (a) Specimen A (b) Specimen B Fig. 3Optical microscope images of specimen surfaces. Fig. 4EMAR spectrum of specimen A. Fig. 5EMAR spectrum of specimen B. Fig. 6SNC result of specimen A. Fig. 7SNC result of specimen B. Sa が30 ?m 以上であった.一方,誤差が10%以上の試験片では,スペクトル強度の最大値がいずれも0.14 未満となることがわかった.続いて,算術平均高さSa スペクトル強度との関係を評価した.図11 に粗さとスペクトル強度との関係を示す.粗さが大きくなると信号強度が弱くなる傾向が見られた.この結果は,腐食が進行し, 材料表面の粗さが大きくなると,表面での超音波の散乱が大きくなり信号強度が弱くなることを示している. Fig. 8Comparison of samples thickness measured by EMAR and caliper gauge. は10%以上の誤差があった.また,60 個すべての腐食試験片におけるキャリパーゲージによる実測値とSNC による推定値との関係を図8 に示す.二乗平均誤差は0.62 mm であり実測値と平均値は高い精度で一致したが,一部の 試験片には誤差の大きいものも存在することがわかった. 誤差の生じる要因を明らかにするために,SNC による推定値とキャリパーゲージによる実測値との絶対誤差を実測値で割った相対誤差を算出し,粗さのパラメータである算術平均高さSa とスペクトル強度の最大値との関係をそれぞれ調べた.図9 に算術平均高さSa と誤差との関係を,図10 にスペクトル強度の最大値と誤差との関係を示す.誤差が大きい試験片は、いずれも算術平均高さ Fig. 9 Correlation between Sa and relative error of samples. 結言 Fig. 10 Correlation between maximum value of spectrum and relative error of samples. 本研究では,曲率を持った腐食減肉試験片に対し,内側 の粗さがEMAR による共鳴スペクトルに及ぼす影響を調べることを目的とした.内側を腐食させることで種々の 粗さを有する曲率を持つ試験片を作製し,EMAR を用いて減肉評価を行った.その結果,曲率を持った腐食減肉試 験片でもSNC 法を適用することで二乗平均誤差0.62 mm の高い精度で肉厚を推定可能であることが明らかになっ た.また,試験片の粗さが測定精度とスペクトル強度の最 大値に影響を与えているため,信号強度を調べることに よって測定結果の信頼性を評価し,信頼性の低い測定結果を除外することでより高い精度で肉厚を評価できることが示唆された.本研究においては,EMAR 信号の最大信号強度が 0.14 以上の測定結果のみを抽出した場合,二乗平均誤差 0.10 mm の高精度な肉厚測定結果を得られることが明らかになった.今後は,Sa 以外の粗さのパラメータや異なるカットオフ波長に関して検討を行うことで, 表面形状や曲率がEMAR 試験に及ぼす影響について更なる検討を進める. Fig. 11 Correlation between maximum value of spectrum and Sa. 参考文献 原子力安全・保安院「関西電力株式会社美浜発電所 3 号機二次系配管破損事故について (最終報告書) 平成17 年3 月30 日(2005). R. Urayama, et al., Online Monitoring of Pipe Wall Thinning by Electromagnetic Acoustic Method, E-Journal of Advanced Maintenance, Vol. 5, (2013), 155-164. H. Sun, et al., Effect of Scaly Structure on the Measurement of Pipe Wall Thickness using EMAT, E-Journal of Advanced Maintenance, Vol.9, (2017), 15-25. D. Iwata, et al., Investigation of the Factors Determining Spectrum of Electromagnetic Acoustic Resonance on Thickness Measurement of Corroded Carbon Steel Specimen, Seventeenth International Conference on Flow Dynamics, Sendai, Japan, October 28-30, 2020.
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