大飯原発行政訴訟の論点

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カテゴリ: 第17回
大飯原発行政訴訟の論点 A study on the trial case about OOI NPP 大阪大学名誉教授 堀池 寛 Hiroshi HORIIKE Member 元法政大学 宮野 廣 Hiroshi MIYANO Member 日本保全学会 蛯沢 勝三 Katsumi EBISAWA Member JAEA、東京大学名誉教授 高田 毅士 Tsuyoshi TAKADA Member Abstract; The trial case against operation of OOI nuclear power plant is studied from the view point of nuclear science and engineering. This case the negative judgements was decided, whose judgement is found to base on the bench’s logical at very superficial constitution, which lacked a consideration for statistical data analysis. Keywords: OOI NPP, nuclear power reactor, trial case, nuclear science and engineering, the bench, judegement 1.はじめに 原子力発電所の稼働差止訴訟は色々提起されている が、その訴訟で許認可事項に関わる基準の設定において データの具体的な取扱い方法に関して、裁判所から異議 が出されるという前代未聞の判断が出されたので、ここ で改めてその判決の分析とこれからの対応について議論 を行いたい. 既往の原発差止訴訟では原告側より規制基準を設定す る経験式のデータの取り扱いについて、そのばらつきを 最大限に評価するべきであるという趣旨の提訴は何度も 出されているが、それに関する被告事業者の疎明が裁判 所に理解されなかった例はない. 一方1 ヶ月遅れで判決された佐賀地裁における玄海の稼働許認可取消し訴訟ではデータの取り扱いについて裁 判所が問題とすることもなく、訴訟は却下されている. 今般の大飯と玄海に関する大阪地裁、佐賀地裁の裁判 はいずれも行政訴訟で、被告は国、原子力規制委員会で あり、事業者は参加人として裁判所からの指示で裁判に 参加していて、既往の裁判とは相異なる疎明が行われた ものと推定される. 講演ではその両裁判を対比しつつ経緯を検討すると共 に、裁判所の判断が別れた要因についての解明に努めた 連絡先:堀池 寛、〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1、大阪大学工学研究科気付け E-mail: horiike@nucl.eng.osaka-u.ac.jp 06-6879-7882 い. 2.大阪地裁における大飯の訴訟 裁判の経過と判決文の概要 国に、関西電力の大飯原発3、4号機の設置許可の停 止を求めた求めたものであり、2020 年12 月大阪地裁 は、「審査すべき点をしておらず違法」との判断を行 い、原発の設置許可の取り消しを命じた。 「基準地震動を策定するに当たり行われた地震モーメ ントの設定が新規制基準に適合している旨の原子力規制 委員会の判断に不合理な点があるとして、本件処分は違 法である旨判断した。」と違法性を示したが、「余の違法 事由はいずれも採用することができないものと判断した。」と、技術的問題の指摘には却下した。 原告は、福井県はもとより、広く滋賀県、京都府、兵 庫県、大阪府、奈良県、岐阜県、和歌山県、埼玉県、神 奈川県、沖縄県にも及んでいる。限定的ではあるが、広 い範囲(120km 内)の住民の適格性が認められた。 判断理由 基準地震動を策定する際に、「実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可 能性を考慮して地震モーメントをせっていするのが相当 であると考えられる。」として、「相応の合理性を有する 考慮がされていれば足りるものと考えられる。」と取り扱いの方法論まで指摘した上で、「実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する 可能性を考慮して地震モーメントを設定する必要がある か否かということ自体を検討しておらず、現に、そのよ うな設定(上乗せ)をしなかった。」と指摘し「原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程には、看過し難い 過誤、欠落があるものというべきである。」と判断している。 3.佐賀地裁における玄海の訴訟 裁判の経過と判決文の概要 九州電力の玄海3、4号機運転停止命令を求めたものであり、2021 年3 月に佐賀地裁は原子力規制委員会の設置変更許可の処分は基準に適合しているとし、「審査及び判断に不合理な点があるとは認められない。」とし た。 争点と判断 争点は、①原告適格の有無、②設置許可基準規則の基 準地震動への適合性の有無、③同、火山の影響に係る適 合性の有無、④同、重大事故等の拡大防止等のうち原子 炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な 放出の防止、原子炉容器株の溶融炉心を冷却するための 設備、放射性物質の拡散を抑制するための設備、等につ いての適合性の有無である。これら全てにおいて「原子 力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、 欠落があるとは認められない。」と結論された。 4.判断の分かれ目の考察と今後への提言と まとめ 大飯訴訟における判断の分かれ目の考察 大飯訴訟における規制委員会説明資料及び関連基準類の問題点の考察 ここれは、次のような観点から言及する。大飯判決では、 経験式が有するばらつきを考慮する場合、ばらつきの上乗せの必要性について指摘している。これに対し、原子力 規制委員会の説明資料では、基準地震動策定における不確実さに対して十分な保守性を考慮しているので妥当と 述べている。両者は、必ずしもかみ合っていないので、その理由を検討し、説明資料及び規制委員会基準類に内在 する問題点を認識した。これらの問題点を踏まえて、著者等は説明資料とこれらに係わる規制委員会基準類それぞ れを分析・検討し、次の 5 つの問題点を挙げると共に、改善策を提案した。 規制委員会基準類における地震動評価の不確実さ の取り扱い、(2)規制委員会審査における不確実さの反映 の具体的例、(3)大飯判決におけるばらつきの上乗せ、(4) 新規制基準の考え方における経験式の適用範囲の取り扱い、(5)理学と工学の総合判断 大阪地裁判断への考察 大阪地裁の判断では、原子力規制委員会の審査ガイド 通り-震源特性パラメータの設定においては経験式が有 するばらつきを考慮されている必要がある-に審査がなされていないとして審査側の対応の不適切さを指摘して いる。 技術的に重要なことは、最終的に設定した基準地震動 が適切な保守性を有しているかどうかであり、その考察 が欠如している。 一方、原子力規制委員会の見解によると、争点に対して 「地震規模の推定には数値を上乗せする方法は用いていない」と断言し、このような保守性確保の部分的な対応を 施す代わりに、「総合的な観点から不確かさを十分に考慮して策定されていることを確認し、妥当なものであるとした上で、採用した基準地震動が十分に保守的なものと なっている。」と結論している。 これらの両者の見解を鑑み、大飯発電所の審査過程において審査ガイドの記載に沿った直接的な対応となって いないことが指摘できるものの、最終的に設定された基 準地震動の保守性については、震源断層長さの不確かさ や複数断層の連動ケースも考慮した検討がなされており、 結果的には一定の保守性を有するものと考えられる。た だし、一定の保守性についてはわかりづらい。原子力規制 委員会は確保した保守性を別の方法で定量的に説明すべきであったと考える。 まとめ 判決では、決められたことを実施していない、と指摘し ているだけであり、それに対して原子力規制委員会が適切な回答を寄せたとは言い難い。 実質的には、指摘の検討がなされていることは、同様の裁判となった佐賀地裁においては、実質的に決められた 対応がなされていることが理解されていることが示され、 基準に適合しているとの見解が示されている。 本報告では、ばらつき、不確かさ、保守性についての適 切な考え方をまとめた。
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