津波により福島第二原子力発電所に浸入した海水の扱い及び処理技術
公開日:
カテゴリ: 第15回
津波により福島第二原子力発電所に浸入した海水の扱い及び処理技術
The Safety Handling Technic of the Sea Water that intruded Fukushima-Daini NPP at the Tsunami Disaster 2011
東京電力 HD(株)
矢羽々
寛和
Hirokazu YAHABA
東京電力 HD(株)
上坂
昌生
Masao UESAKAMember
東京電力 HD(株)
渡邊
貴之
Takayuki WATANABE
東京電力 HD(株)
矢内
誠
Makoto YANAI
Abstract
Large amount of sea water intruded Reactor Buildings including controlled area of Fukushima-Daini Nuclear Power Plant (NPP) at the Tsunami disaster 11th May 2011 and the sea water was contaminated by some radioactive substances. Although the concentration of the radioactive substances was low enough to meet the criteria of technical specification for discharge to the sea、we decided to decontaminate it under the limit of the detection for more safe. Then the result of the discussion with local government and some related parties it was decided to separate completely to the radioactive substances、 pure water and salt. The safety handling and separate technic are described in this paper.
Keywords: Fukushima、 Tsunami Disaster、 Pitting Corrosion of Stainless steel、 Separation of Radioactive and Sea water、 Discharge of Plant Water、 Nuclear Power Plant
1.概要
2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震を起因とする津波により、福島第二原子力発電所の建屋内(管理区域内)に大量の海水が浸水し、これらはプラント内の微量の放射性物質や福島第一原子力発電所から飛来した放射性物質を含む海水(以下、海水という。)となった。この海水に含まれる放射性物質の濃度は微量であり法令順守の観点では海洋放出可能なレベルであったが、当社としては検出限界以下まで放射性物質を除去した後に海洋放出を検討することとし、その後、社外関係機関からの要請により放射性物質を除去した状態であっても海洋放出は行わない方針となり、最終的には放射性物質を除去した海水について、塩分等と水に分離することとした。
本稿では、海水を発電所内で分離処理するための
対応および処理技術について報告する。
2.津波直後の対応
浸水箇所は発電所構内の広範囲にわたった[1]。浸水箇所を図 1 に示す。建屋内(管理区域内)に浸入したことで汚染した海水は約 3000m3 であり、これについてはプラント安全性確保の観点(安全系機器類 の復旧および配管・機器類の腐食進行防止など)か ら、建屋内より排水する必要があった。
この状況において、次の 2 点が課題となった。
建屋内からの早急な海水の排水
海水の排水先の選定
図1 浸水箇所
2.津波直後の対応
建屋内からの排水
各建屋の浸水箇所に仮設ポンプ・仮設ホースを設置し、既設の放射性液体廃棄物処理系統に移送して排水を行った。図 2 に排水経路図を、図 3 に使用した仮設ポンプ・仮設ホースを示す。
図2 排水経路図
図3 仮設ポンプ・仮設ホース
既設系統は海水を使用する設計ではないため腐食等の恐れがあったが、浸水箇所の機器復旧・腐食進行防止を優先させる観点から、既設系統を排水の為に一時的に使用する事を最善の策として選定した。排水後は腐食リスクの低減を図るため、既設系統の洗浄を実施した。
排水先の選定
海水の排水先として、サプレッションプール水サージタンク(以下、SPH サージタンクという。)を選定した。SPH サージタンクはサプレッションプール水や床ドレン水等の放射性物質を含む液体を受け入れるタンクであり、容量が大きく海水を全量受け入れられること、内面のゴムライニング施工により耐食性が確保されていることから受け入れ可能と判断した。
各建屋への仮設ポンプの設置が完了次第排水を行い、排水が終了した建屋から、順次移送配管等の洗浄も行った。完了時点で SPH サージタンクに排水した水は、海水と洗浄水合わせて約 6、000m3 となった。
3.海水の処理
SPH サージタンクに排水した海水については、放射能濃度を検出限界以下にしてから海洋放出を検討することとしたため、放射性物質の除去に向けた検討を行った。また、SPH サージタンクも既設系統と同様に海水を使用する設計ではないため、設備損傷リスク低減のために、放射性物質の除去に合わせて、貯留する海水を可能な限り減容することとした。
この状況において、次の 3 点が新たな課題となった。
既設系統を使用して放射性物質を除去した場合の腐食リスク
複数の放射性核種の除去
海水の減容
既設系統の腐食リスク
建屋からの排水時は既設の放射性液体廃棄物処理系統を使用したが、既設系統は前述の通り海水を使用する設計ではないため、腐食等のリスクが高い。実際に排水を行った際には、一部の設備に想定以上の腐食による影響が確認された。そのため、放射性物質の除去については仮設設備を導入することとした。
海水を移送する配管については、新たにポリエチレン管を敷設することとした。ポリエチレン管は一般産業でも使用されているものであり取扱いに優れ、また耐食性に優れることから、海水移送における工期・費用の低減、処理中の腐食リスクの回避を可能とした。
複数の放射性核種の除去
放射性物質の効率的な除去について調査した結果、海水を吸着材に通し、核種を吸着させる方法で行うこととした。海水には複数の放射性核種(以下、核種という。)が含まれていた。主な核種は Co-60、Mn-54、I-131、Cs-134、Cs-137 である。これらの核種に対してどのような吸着材が必要となるのか調査した結果、ゼオライトによる吸着が有効との知見を得たが、ゼオライトは一部の核種に対しては優れた吸着性能を示すが、すべての核種を検出限界以下にするものではないことも確認されていた。加えて、キレート樹脂等による浄化が効果的との知見も得た。これらの知見に基づき、複数の吸着材について、それぞれの核種に対しどの吸着材が有効か確認する試験を行った。核種ごとの有効な吸着材を表 1 に示す。
表1 核種ごとの有効な吸着材
核種
吸着材
Co-60
キレート樹脂
Mn-54
キレート樹脂
I-131
活性炭
Cs-134
ゼオライト
Cs-137
ゼオライト
上記の結果から、キレート樹脂塔、活性炭吸着塔、ゼオライト吸着塔に海水を通すことで、各核種を除去する設計とした。また、試験の結果から吸着材の吸着性能は処理流量に依存することが明らかとなった。そのため、処理の迅速性と吸着性能を考慮して処理流量を 0.5~1m3/h と設定した。図 4 に吸着処理フローを示す。
図4 吸着処理フロー
海水の減容設備
既設系統に海水の減容設備が無いため、仮設の逆
浸透膜(RO)淡水化装置を導入し、海水を淡水と濃縮海水に分離することとし、淡水はプラント保有水として処理、濃縮海水は最終的な放出等の方針が決まるまでSPHサージタンクに貯留することとなった。
仮設設備は、放射性物質の除去と海水の減容を連続して処理できるよう設計した。図 5 に海水処理フ
ローを図 6 に実際に使用した仮設吸着塔・仮設淡水化装置を示す。
図5 海水処理フロー
図6 仮設吸着塔・仮設淡水化装置
図に示すように、放射性物質を除去した後に淡水化を行い、濃縮海水については放射能濃度を測定して、検出限界以下でなければ再度放射性物質の除去を行ったうえでSPH サージタンクに回収した。
海水処理
表 2 に処理前の海水に含まれる核種の濃度と処理目標とする検出限界値を示す。
表2 核種の処理前の濃度および検出限界値(Bq/cc)
核種
処理前濃度
検出限界値
Co-60
~1*101
0.02
Mn-54
~1*10-2
0.006
I-131
~1*10-1
0.009
Cs-134
~1*10-2
0.009
Cs-137
~1*10-2
0.009
約 1 年 9 ヵ月の処理により、全ての核種が検出限界以下となった。また、減容処理により約 6、000m3 の海水を約 2、000m3 まで減容した。
4.塩分除去
放射性物質を除去した海水は海洋放出を検討していたが、社外関係機関からの要請により海洋放出は行わない方針が決定した。しかし、濃縮海水の状態ではプラント保有水として処理できないため、塩と淡水に分離させることで海水から塩分を除去し、塩は固体廃棄物として保管、淡水はプラント保有水として処理することに決定した。
塩分除去に使用する装置として、蒸留によって分離を行う減圧脱水乾燥装置を導入することとした。海水を蒸留し塩に分離する際に、分離前と比べ放射能濃度が上昇する可能性があり放射線管理が必要となることから、工事計画届出対象設備に該当すると判断し、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第43条の3の10第1項と、電気事
装置は全部で 4 基あり、平日 24 時間の連続運転を行っている。実際に塩分除去を行っている状況では、残渣として排出される塩分が想定以上に固着しやすいこと、蒸留中に想定以上の発泡があること等の課題がある。これらは対象の海水がこれまでの濃縮処理や長期間の保管等による通常の海水との性質の差に起因すると推察される。これらについても消泡剤等の適切な対策を行い、安全に処理を完了する見込みである。
5.終わりに
津波の浸水被害を受けた後で、設備保護の観点から海水の処理を迅速に行う必要があり、そのなかで各種設備を設計、調達および運用しなければならなかったこと、また海洋放出の方針変更により新たな対応策を打ち出す必要があったことなど、対応には多大な困難が伴った。
一方で、海水処理に伴う種々の調査や試験により、多方面での知見が蓄積したこともまた事実である。本稿のような対応が今後必要とならないことが最良ではあるが、得られた知見を無駄にせず活かしていく必要がある。また、本稿を読んでいただいた方に、震災直後という特殊な条件下において行われた対応について、少しでも伝えることが出来れば幸いである。
参考文献
業法第48条第1項に基づく工事計画届出を行い設
置し、使用前検査に合格した。この設備を図 7 に示す。
図7 減圧脱水乾燥装置
[1]東京電力株式会社“:
pp109-111(2012)
福島原子力事故調査報告書”、
(平成 30 年 5 月 25 日)