東海再処理施設 ガラス固化処理施設の分析セルに係る 設備・機器の保全技術の構築
公開日:
カテゴリ: 第17回
東海再処理施設 ガラス固化処理施設の分析セルに係る設備・機器の保全技術の構築
Remote maintenance technologies of equipment and analyzing apparatus in hot cell of Tokai Vitrification Facility, Tokai Reprocessing Plant
日本原子力研究開発機構
青谷樹里
JuriAOYA
Member
検査開発株式会社
宮田克彦
KatsuhikoMIYATA
Non-member
検査開発株式会社
寺門章仁
AkihitoTERAKADO
Non-member
検査開発株式会社
小堤洋治
YojiOTSUZUMI
Non-member
検査開発株式会社
黒澤太輝
DaikiKUROSAWA
Non-member
検査開発株式会社
砂庭崇敦
TakanobuSUNABA
Non-member
検査開発株式会社
大山勇登
YutoOHYAMA
Non-member
日本原子力研究開発機構
稲田聡
SatoshiINADA
Non-member
Abstract
The high level radioactive liquid waste is analyzed for the vitrification process control and the vitrified waste quality in the hot cell of Tokai Vitrification Facility, Tokai Reprocessing Plant. There are 8 Master-slave manipulators, 7 lighting equipment, an electronic balance, and an inductively coupled plasma-optical emission spectrometer used for remote operation, securing visibility, total oxide analysis, and elemental analysis in the analytical hot cell. These equipment and analytical apparatus must be secured with the integrity all the time because the vitrification process cannot be proceeded without analysis of the high level radioactive liquid waste. We constructed the self-remote-maintenance technologies of these equipment and analytical apparatus which reduce the risks of radioactive contamination, radiation exposure, and injury of an operator and also were optimized with respect to a labor, time, and cost, based on the operation of approximately 20 years.
Keywords: Master-slave manipulator, Lighting equipment, Electronic balance, ICP-OES, Hot cell, TVF, TRP
1.緒言
東海再処理施設の廃止措置では、使用済核燃料の再処理により発生した高放射性廃液によるリスクを低減するため、ガラス固化処理を最優先で実施している [1] 。ガラス固化処理では、高放射性廃液をホウケイ酸ガラスと ともに溶融した後、キャニスターと呼ばれるステンレス鋼製の容器に注入し固化体を製造する。ガラス固化処理にあたっては、運転管理及び固化体の品質管理のため、高 放射性廃液中の全酸化物量、ナトリウム濃度等の分析が 不可欠である。分析は、1.3 m 程度のコンクリート製遮へい壁で覆われた分析セル内で行っており、セルには遠隔操作のためのマスタースレーブマニプレータ(M/S マニプレータ)、視認性確保のためのセル内照明、全酸化物量 の分析等に使用する電子天秤、ナトリウム濃度等の分析
連絡先: 青谷 樹里、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理廃止措置技術開発センター 施設管理部 分析課
E-mail: aoya.juri@jaea.go.jp
に使用する誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES) 等が設置されている(図1、2)。
図1 ガラス固化処理施設 分析セル
図2 ガラス固化処理施設 分析セルの前方鳥瞰図
これらの設備、機器は、故障が発生すると分析作業に支 障をきたし、ガラス固化処理の遅延、停止を招くリスクと なるため、常時、健全性を維持する必要があると共に、故 障が発生した際に、早急に復旧できる体制、方法を整えて おく必要がある。さらに、設備の保全では、取扱う試料が高放射性であることから汚染や被ばく並びに設備に付随する鉛遮へい体等が重量物であることから負傷、設備の損傷等の防止に留意する必要がある。また、分析機器においては、メーカー技術者による修理が必要になる場合も あり、作業に伴う時間、コストの増加等が課題となる。そこで、著者らは、約20 年に渡るガラス固化処理施設
の分析セルの設備、機器の運用経験で得た知見を踏まえ、各設備、機器の保全方法を体系的に整備することで、汚染、 被ばく、負傷のリスクを低減し、作業労力、時間、コストを最適化した自主的な保全技術を構築した。本件では、これらの内容について報告する。
2.セル内設備
M/S マニプレータ
故障・不具合発生への対応
M/S マニプレータは、セル内の分析試料、分析機器等の遠隔操作に不可欠な設備であり、マスターアーム、スル ーウォールチューブ、スレーブアーム、ブーツから構成さ れる(図 3)。M/S マニプレータに不具合が発生すると、高放射性廃液の分析ができず、ガラス固化処理の停止の 原因となり得るため、M/S マニプレータは、常時、健全性を担保する必要がある。一方、メーカーによる M/S マニプレータの調整、交換は、1 基あたり約500 万円であるため、1998 年以降は、故障、不具合に対して自主復旧による事後保全を行うこととし、事後保全で得られた交換に
係るデータに基づき、予防保全の体制を整備した。
使用中の M/S マニプレータに不具合が発生した場合の事後保全としては、速やかに正常品と交換できるように、 複数基のマスターアーム及びスレーブアームを予備機として準備している。不具合が発生したM/S マニプレータは、汚染が作業環境へ拡散することを防止するため、パネルハウス内で不具合の原因部品を調整し、予備機として管理している(図4)。なお、スレーブアームのワイヤー、テープの交換は、予め測定した新品のたわみ量を基準とし、テンションメータで測定しながら調整することで、作業員の感覚に依存しない調整方法により実施した。
これまでは、M/S マニプレータの突発的な不具合に対する事後保全を実施してきたが、M/S マニプレータの交換、調整に係るデータの蓄積により、不具合が発生しやすい設置場所や各部品の交換頻度が明らかとなり、不具合の発生時期や原因となる部品の予測ができるようになってきている。そこで、M/S マニプレータの調整では、故障の有無にかかわらず、約40 部品の動作確認及び状態確認により交換の要否を診断し、予防保全を実施することで、 常時、健全な状態を維持できるようにした。
上記に加え、使用頻度が高く、複雑な操作を行う M/S マニプレータは、故障を防止するため、不具合発生前に予備機と交換している。さらに、操作内容を制限する等、日頃の取扱いにも留意している。例えば、M/S マニプレータへの負荷が大きいため、電動操作と手動操作、アームの伸ばしとねじりの同時動作は行わない等のルール化、表 示による見える化を実施した。また、各部品の在庫も、管理方法のルール化、チーム内での共有、過去の実績に基づいた在庫数の最適化を図り、在庫管理体制を整備した。
図3 M/S マニプレータの構造図4 パネルハウス内でのM/S マニプレータの調整
M/S マニプレータの交換
M/S マニプレータの交換は、汚染、被ばくを防止するため、タイベックスーツ、半面マスクを装備すると共に、M/S マニプレータが高所に設置されているため、ヘルメット、安全帯を着用し、ローリングタワー上で行っている。 このため、M/S マニプレータの交換にあたっては、汚染、被ばくの他、M/S マニプレータの落下に伴う作業員の負傷、設備の損傷も防止する作業方法が求められる。
M/S マニプレータの交換では、クレーンを用いてスレーブアーム及びスルーウォールチューブを分析セルから引き抜き、新しい M/S マニプレータを挿入する(図 5)。 M/S マニプレータの引き抜きにあたっては、汚染の拡散を防止するための対策として、抜き出したマニプレータの下部にビニール養生シートを取付け、適宜汚染検査を行っている。加えて、引き抜きでは、M/S マニプレータを約 50 cm ずつゆっくりと引き出し、その都度線量率を確認することで、作業員の被ばく量を確認している。
M/S マニプレータの挿入にあたっては、セル壁の貫通スリーブがスルーウォールチューブと隙間なく密着する 構造であるため、M/S マニプレータが途中で貫通スリーブに干渉し、抜き差しできなくなるリスクがある。そこで、 水平を維持した状態でM/S マニプレータを押し込むための改善として、水平器を用いて位置を調整すると共に、スルーウォールチューブ及びナイロンスリングへのマーキ ングを行い、スレーブアームの押し込みを補助するガイ ドローラーの位置を調整している(図 6)。これにより、 貫通スリーブへの M/S マニプレータの干渉を防止でき、設備の損傷リスクを低減することができた。また、クレー ン及びナイロンスリングを用いることで、高所であって も安定してマニプレータを保持できるため、落下や作業員の負傷リスクの低減も図ることができた。
これらに留意することで、汚染、被ばく、負傷、設備の 損傷なく、スムーズなM/S マニプレータの交換を実現することができている。
図5 M/S マニプレータの交換方法図6 M/S マニプレータ挿入時の位置調整
セル内照明器具
分析セル内には、7 基の照明器具がセル壁に設置されており、各照明器具には、水銀ランプ又はナトリウムランプ が 2 本ずつ取り付けられている。劣化等によりランプが点灯しなくなると、照度低下に伴い視認性が低下し、作業 環境が悪化するため、M/S マニプレータを用いた遠隔操作でランプ交換を実施している。
照明器具は、セル内全体を照らすため、セル内の高所に取り付けられており、その重量は各照明で6~10 kg 程度である。このため、M/S マニプレータのみを用いて照明器具をセル壁から取外し、ランプ交換を行ったものをセル壁へ再び取付ける場合、マニプレータ操作を誤ると、照 明器具が落下するリスクがあった。また、照明器具の取付け位置となる高所にまでM/S マニプレータを伸ばして操作すると、マニプレータが破損するリスクもあった。そこ
で、これらを防止するため、分析セル内の照明器具の交換 では、M/S マニプレータに加え、専用の照明吊り具を使用する方法により実施している。
照明吊り具は、約250 kg のバランスウェイト、ホイストやクレーンへの連結リング、照明器具の吊り下げフック及びアームから構成されている(図 7)。照明吊り具を用いた結果、吊り具のフックに照明器具の吊りハンドルを掛け、クレーンで移動させることが可能となり、照明器 具の落下リスク及びM/S マニプレータへの負荷減少による故障リスクの低減化を図ることができた(図 8)。さらに、クレーン、鏡、ITV カメラ等を用いることで、M/S マニプレータの稼働範囲外や直接視界に入らないセル内前面部の照明器具にも容易にアクセスすることができるようになり、円滑なランプ交換を実現できた。
図7 照明器具、照明吊り具の構造図8 照明吊り具を用いたセル内照明器具のランプ交換
3.分析装置
電子天秤
分析セルには、試料等の重量測定に使用する電子天秤 が設置されており、2002 年から2011 年までは、電子回路の放射線劣化を防止するため、秤量部をセル内、制御部及 び液晶部をセル外に設置する独自改造を施した装置を使用していた。これは、10~30 万円程度で購入できる市販の電子天秤に比べ、改造費用を含めて約 250 万円と高コストである上、1 年3 ヶ月程度で故障した事例もあり、コストパフォーマンスに課題があった。
そこで、各メーカーから販売されている複数台の電子 天秤をそのまま分析セル内に搬入して運用、故障の都度交換し、セル内環境における装置の耐久性を約 9 年間に渡って調査した。その結果、3 ヶ月程度で故障してしまう装置があった一方、1 年~1 年5 ヶ月程度使用できる装置もあることが分かった。これは、メーカー等により内部の 電子回路の設置位置が異なるため、吸収線量に違いが出て、耐久性に差が現れたのではないかと推測された。この ため、分析セル内では、1 年程度の耐久性を有する市販の
電子天秤を使用することで、コストの低減を図ることと した。実際に、250 万円の改造型電子天秤を1 年3 ヶ月使用した場合のコストが約 16.7 万円/月であるのに対し、
30 万円の電子天秤を 1 年使用した場合は約 2.5 万円/月であり、大幅にコストを削減できた。また、当該品は市販品であるため、故障に備えた予備機の確保が容易であり、 同型の装置を使用することで、使用期間及び使用回数の記録により故障時期を予測でき、新しい電子天秤との交換作業をスムーズに実施できるようになった。
なお、電子天秤のセル内への設置にあたっては、操作ボ タンへの衝撃吸収材の貼り付けによるM/S マニプレータ操作時の負荷の低減(図 9)、天秤背面の各ケーブル端子 のコーキング処置による防塵、防滴(図10)、天秤吊り具 やクレーンを用いた移動による落下リスクの低減(図11)、鏡を用いた水平状態の確認を実施している(図12)。これ らの対策を講じることで、コストパフォーマンスの改善 に加え、装置故障リスクも低減し、セル内で円滑に電子天秤を使用できるようになった。
図9 操作ボタンへの衝撃吸収材の貼り付け図10 ケーブル端子へのコーキング処置
図11 吊り具を用いた電子天秤の移動図12 電子天秤の水平状態の確認、調整
ICP-OES
ガラス固化処理に伴う高放射性廃液の元素分析におい て、ナトリウム濃度は、試料採取後、4 時間以内の迅速且つ正確な分析が必要であり、セル内での遠隔操作のために独自改造を施した ICP-OES を用いて実施している [2]
(図13)。ICP-OES は、優れた分析性能を有しているが、故障時の復旧に時間を要した場合は、分析の中断を原因としてガラス固化処理運転が停止してしまうリスクがある。そこで、ICP-OES の故障が発生した場合においても、ガラス固化処理運転の遅延、停止を生じさせない時間内での分析を可能とするため、自主復旧体制の整備、予備品の確保、代替分析法の検討を実施した。
ICP-OES の不具合は、試料導入時に使用するネブライザ、チャンバ等の詰まり、プラズマ発生部のトーチの変形、 損傷等、ガラスウェアにおいて発生が多い。そこで、セル内であっても、これらのガラスウェアをユーザー側で交換可能となるように、専用ホルダー及びホルダーの昇降治具を製作した(図14)。これらを用いた結果、M/S マニ プレータによる遠隔操作であっても、ガラスウェアを所定の位置に取付けることが容易になり、不具合が発生し た場合に、3 時間以内に部品の自主交換ができるようになった。加えて、交換方法は、マニュアル化、作業員への教育及び操作訓練を行うことで、故障発生時の復旧体制を整備した。また、予備品を確保するため、物品管理台帳を作成し、チーム内で共有することで在庫の見える化を実施し、円滑な復旧対応が可能となった。
さらに、メーカーへの修理依頼が必要となり、復旧に時
間を要する場合に備え、代替分析法の開発も行っている。 高放射性廃液中のナトリウム濃度の代替分析としては、イオン濃度に応じた起電力を測定するイオン電極法をベースとし、ナトリウムに対して選択性を有するイオン電極を用いた分析法の確立にも取り組み、見通しが得られている。これらは、円滑なガラス固化処理運転の実現において重要な役割を担っているため、今後も継続して機器故障時の対応方法の整備を進めていく。
4.結言
東海再処理施設のガラス固化処理施設の分析セルに設 置される M/S マニプレータ、照明器具、電子天秤、ICP- OES に故障、不具合が発生した場合について、各設備、機器の特徴に応じた対処法を体系的に整備することで、メーカーに頼らない保全技術を構築した。今後も継続し て復旧対応や在庫管理に係る体制を整備し、汚染、被ばく、 負傷等のリスク、作業労力、時間、コストの低減を進め、自主保全技術のさらなる向上を目指していく。
参考文献
岡野 正紀他,“東海再処理施設の廃止措置計画の概要”, デコミッショニング技報, No.57, pp.53-64, (2018)
動力炉・核燃料開発事業団 東海事業所,“セル内操作型黒鉛カップ直接導入ICP 発光分光分析装置の開発(ガラス固化体中のナトリウム分析法の開発-II)”, PNC TN8410 93-081, (1993)
図13 改造型ICP-OES図14 ガラスウェアホルダー及びホルダー昇降治具