東海再処理施設における放射性固体廃棄物の遠隔観察装置の開発

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カテゴリ: 第17回
東海再処理施設における放射性固体廃棄物の遠隔観察装置の開発 Development of a remote observation device for radioactive waste drum in the Tokai Reprocessing Plant 日本原子力研究開発機構 鬼澤 寿和 ToshikazuONIZAWA Member 日本原子力研究開発機構 星野 昌人 MasatoHOSHINO Non-member 日本原子力研究開発機構 根本 英典 HidenoriNEMOTO Non-member 日本原子力研究開発機構 秋山 和樹 KazukiAKIYAMA Non-member Abstract Low level liquid waste generated from reprocessing of spent nuclear fuel in the Tokai Reprocessing Plant solidified with bitumen from 1982 to 1997. About 30,000 of bituminized wastes were produced, and have stored in the storage facility. Recently, the leakage phenomenon due to the corrosion of bituminized waste drum occurred in the other nuclear facility. Based on the malfunction event, we have advanced the development of remote observation device for grasping soundness of the bituminized waste drums stored in the storage facility. This paper is reported about our effort to develop a remote observation device of the bituminized waste drums stored in the storage facility and the observation results with the developed device. Keywords: remote device, radioactive waste, Tokai Reprocessing Plant 1.緒言 東海再処理施設では、使用済燃料の再処理により発生した低放射性液体廃棄物を蒸発減容処理した後、1982 年から1997 年にかけてアスファルトと混合し固化体としている。この間、約3 万本のアスファルト固化体(200 L 鋼製ドラム缶容器に収納)を製造し、貯蔵施設のセル内で貯蔵している。 2015 年にふげん第2 固体廃棄物貯蔵庫において、貯蔵中のアスファルト固化体のドラム缶底部から内容物が漏えいしている事象が確認された。この原因は、アスファルト固化体中に残留していた水分に塩素イオン等の炭素鋼の腐食を促進させる物質が含有されていたことからドラム缶の内部から腐食が進行し、貫通・漏えいしたものと推定されている。 東海再処理施設のアスファルト固化体については、運転条件等の調査結果から、固化体中に水分が残留しておらず、また、1989 年から1998 年にかけて、貯蔵後1 年~ 15 年が経過したアスファルト固化体(72 本)からコアサンプルを採取し含水率を測定し、その結果において固化体中の水分は 1 wt%を超えるものはないことを確認しており、容器の内部から腐食する可能性は低いものと考え 連絡先: 鬼澤 寿和、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理廃止措置技術開発センター 環境保全部 環境管理課 E-mail: onizawa.toshikazu@jaea.go.jp られるが、アスファルト固化体は今後も貯蔵を継続する計画であり、容器の健全性を担保するためには、容器の表面状態の観察を強化していく必要がある。 容器の外部からの腐食の有無については、セル内に設置された監視カメラの視野範囲のアスファルト固化体について容器の表面状態を観察していたが、これらの現状・認識を踏まえ、これまで容器の表面観察ができていない範囲に貯蔵されたアスファルト固化体を対象に、効率的に容器の表面状態を観察することが可能な遠隔観察装置の開発を進めてきた。 本件では、その取組み内容及び開発した装置によるアスファルト固化体容器の観察結果について報告する。 2.アスファルト固化体の貯蔵状況 アスファルト固化体を貯蔵している第二アスファルト固化体貯蔵施設(AS2)は、地上3 階、地下1 階の鉄筋コンクリート造であり、アスファルト固化体は、地上 2 階 及び1 階にある貯蔵セル(幅:約42 m×奥行:約56 m× 高さ:約6 m)内に金属製パレット(幅:約1.3 m×奥行: 約1.3 m×高さ:約0.15 m)上に4 本を乗せ、自動フォー クリフトにより 3 段積みで貯蔵される。貯蔵されているアスファルト固化体のうち、線量率が低いもの(約 200μ Sv/h)は地上2 階のセル、線量率が高いもの(約10m Sv/h) は地上1 階のセルに分別して貯蔵している(図1)。 貯蔵セル内の配置については、2,520 区域(24 列×35 行×3 段積み)に区分してパレットが配置され、パレットとパレットの間隔は縦方向が約 90 mm、横方向が約 210 mm となっている。また、天井部と 3 段目ドラム缶の隙間は約800 mm となっている(図2)。 容器の腐食、変形、変色及び内容物の漏えいの有無を観察できるカメラ性能 パレット間の隙間(210 mm)を進入できる形状 カメラ映像をモニタに表示できる機能 1~3 段目の容器側面(半周程度)を観察できる機能 (図3) 約56 m を往復できる動力性能 制御信号の有線による伝送機能 故障時の回収機能 図1 貯蔵状況 :観察範囲 :観察装置 の移動位置 上 面 図 ・観察装置を任意の位置で停止させ、1段目の容器を観察する。 ・2段目、3段目は、観察装置 を任意の位置まで上昇させ、容器を観察する。 :観察範囲 :観察装置 の移動位置 正 面 図 図3 容器の観察範囲 平 面 図 3段積み A-A 断 面 図 図2 貯蔵セル内の配置 3.遠隔観察装置の要求性能、仕様 アスファルト固化体容器の貯蔵状況や環境を踏まえ、遠隔観察装置に要求される性能、仕様を検討・整理した。主な要求事項を以下に示す。 4.遠隔観察装置の設計・製作 3 項の要求性能、仕様を満足する観察装置を開発するため、(株)キュー・アイと共に観察装置を設計・製作した。設計において検討した主な事項を以下に示す。 装置構成に係る検討 観察装置は、高線量下であるセル内での作業員の作業時間を極力短縮することを考慮し、「走行部」と「制御部」の構成とした。走行部は作業員がセル内に入域し、進入箇所(パレット間の隙間)手前に配置し、制御部はセル隣接の線量の低いアンバー区域に配置した。走行部と制御部の間の給電及び制御信号の伝送にケーブルを採用した(図4)。 部位 仕様等 電動式ケーブルドラム ケーブル長: 約70 m 巻取り方式: ケーブルトラバース方式(距離計測センサー取付け) 巻取り速度: 最大約15 m/分 【主な考慮事項】 ・台車と連動し動作(前進時:ケーブル送り、後進時: ケーブル巻取り) ・台車停止時はドラムクラッチ作動によりケーブルの弛みを防止。 ・台車の走行不能時は、ドラムコントローラーによる強 制巻取りで台車を進入箇所まで引出し回収。 昇 降 装 置 図4 観察装置の構成概要 走行部の詳細検討 3 項の要求性能、仕様を満足する機能を走行部の各部位に持たせるため、台車形状や観察用カメラの昇降方法の検討等を行った。検討においては、(株)キュー・アイがこれまでに開発した配管内検査カメラや小型の自走式カメラ等の技術を応用した(表1、図5、図6)。 側 面 モータ収納ボックス ケーブル 前進用カメラ 観察用カメラ後進用カメラ 台車 正 面 ドラムコントローラー トラバース機構部 後進用カメラ観察用カメラ 台車 表1 走行部の仕様等 運搬台車 形状:幅:約450 mm×奥行:約550 mm ×高さ:約460 mm 電動式ケーブルドラム 図5 走行部の外観 部位 仕様等 台車 形状: 幅170 mm×長さ800 mm×高さ約1,000 mm 重量: 約74 kg 走行速度: 最大約7 m/分 駆動方式: 4 輪独立駆動(クラッチ付モータ使用) 走行方向: 前進、後進(左右操舵機能付) 【主な考慮事項】 ・セル床面は平滑でエポキシ樹脂塗装仕上げのため、25 mm 幅タイヤを使用しグリップ力を向上。 ・走行時及び昇降時の転倒防止のため、台車の重心位置を床面近くに配置。 ・セル内作業時間短縮のため、専用の牽引式低床台車を 使用し、セル内に台車を搬入。 観察用カメラ 画 質: カラーCCD 約40 万画素照 明: 高輝度LED 4 灯(調光式) ズーム: 4 倍電子ズーム パ ン: 360°エンドレス旋回チルト: 上85°、下50° ・約400 m Sv/h の放射線環境下での使用実績あり。 前進用カメラ後進用カメラ 画 質: カラーCCD 約38 万画素照 明: 高輝度LED 2 灯 ズーム: 4 倍電子ズーム 昇降装置 昇降方式: ボールネジによる昇降 3 段式(クラッチ付モータ駆動、リミットスイッチによる各段切換え) 昇降高さ: 約2,100 mm(観察用カメラの昇降範囲:床上約400 mm~約2,500 mm) 昇降速度: 最大約1.1 m/分 1 段目の観察時 2 段目の観察時 3 段目の観察時 図6 昇降装置の上昇概要 制御部の詳細検討 走行部の制御等に必要な機能を検討し、5 つのユニットに分けて配置し、キャスター付きラックに収納した。また、走行部への給電及び制御信号の伝送は、手動式ケーブルドラムとした(表2、図7)。 表2 制御部(制御ラック)の機能 ユニット 仕様等 モニタ ・観察用カメラ、前進用カメラ、後進用カメラの映像表示 ・観察用カメラの状態及び表示ユニットの情報(台車の移 動距離等)をモニタに表示 記録 モニタ映像の記録用レコーダー 操作 ・観察用カメラの機能(調光、角度、焦点及びズーム等) 操作スイッチ ・前進用カメラ及び後進用カメラの機能(ズーム)操作ス イッチ ・昇降装置の操作スイッチ、速度調整つまみ ・観察用カメラ、前進用カメラ及び後進用カメラの選択ス イッチ ・台車の前進及び後進スイッチ、左右操舵の操作スイッチ、 速度調整つまみ 表示 日時及びセル番号を設定・表示 電源 ブレーカー、電源表示灯 モニタユニット 図8 モックアップ状況 記録 ユニット 操作 ユニット 表示 ユニット 電源 ユニット ケーブル(約70 m) ハンドル 寸法:幅:約570 mm×奥行:約630 mm ×高さ:約1,100 mm 制御ラック 寸法:幅:約540 mm×奥行:約430 mm ×高さ:約400 mm 手動式ケーブルドラム 図9 貯蔵アスファルト固化体容器各部の観察結果 図7 制御部の外観 5.装置のモックアップ及び貯蔵アスファルト固化体の観察結果 観察装置は、平成29 年度に設計・製作を完了し、平成 30 年度に貯蔵状態を模擬したモックアップ作動試験及び操作訓練を行った(図 8)。この結果、観察装置を改良する必要はなく実運用に問題がないことを確認した。 令和元年度から実運用を開始し、これまでに地上 2 階に貯蔵されている約300 本(貯蔵期間:約26~31 年間) のアスファルト固化体容器の側面(半周程度)を観察した。その結果、軽微な錆、変色、凹凸は認められたが、補修を要するものはなかった(図9)。 6.結言 セル内に貯蔵されたアスファルト固化体容器の表面状態を観察可能な遠隔観察装置を開発することにより、これまで容器の表面状態を観察できていなかった範囲に貯蔵されたアスファルト固化体容器の表面状態の観察を効率的に行うことができ、貯蔵管理の強化が図られた。 今後も本観察装置を用いてアスファルト固化体容器の健全性の把握を継続し、表面状態の変化の早期発見に努めたい。
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