東海再処理施設における津波による漂流物の影響評価

公開日:
カテゴリ: 第17回
東海再処理施設における津波による漂流物の影響評価 Evaluation of Tsunami debris impact on Tokai Reprocessing Plant 日本原子力研究開発機構 西野紗樹 SakiNISHINO (Member) 日本原子力研究開発機構 坪井雅俊 MasatoshiTSUBOI (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 岡田純平 JumpeiOKADA (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 三枝祐 YuSAEGUSA (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 大森一樹 KazukiOHMORI (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 安尾清志 KiyoshiYASUO (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 瀬下和芳 KazuyoshiSESHIMO (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 堂村和幸 KazuyukiDOMURA (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 山本昌彦 MasahikoYAMAMOTO (Non-Member) Tokai Reprocessing Plant (TRP) is implementing its decommissioning activities based on the decommissioning plan approved by Nuclear Regulation Authority (NRA). In the decommissioning, safety countermeasure against earthquakes and tsunamis is a top priority matter, especially for High Active liquid Waste facility (HAW) and Tokai Vitrification Facility (TVF), which handle highly radioactive liquid waste with high safety risks. This study focuses on the immediate tsunami countermeasures among the other safety measures. The standardized implementation procedure for each investigation items is developed in order to accelerate entire activities as well as effective and proper evaluation. The possible tsunami debris have been investigated by the site walkdown in the surrounding area of HAW and TVF. Numerical simulations, such as debris trajectory analysis, tsunami flow pattern have also been performed. Tsunami debris with possibilities to attack HAW and TVF have been evaluated from the walkdown and simulation data. Keywords: Tokai Reprocessing Plant, Decommissioning, Safety countermeasure, Tsunami debris, risk reduction 1.緒言 廃止措置段階に移行した東海再処理施設においては、保有する液体状放射性廃棄物に伴うリスクの早期低減が当面の最優先課題とされ、高放射性廃液のガラス固化処理を進めている1)。これに伴い、安全上のリスクが高い高放射性廃液を取り扱う高放射性廃液貯蔵場(以下「HAW」 という)とガラス固化技術開発施設(以下「TVF」という) について、新規制基準を踏まえた安全対策を重要項目として実施している。特に、東日本大震災の教訓から、地震発生後の津波からHAW 及びTVF を守るため、施設内への浸水防止、津波による漂流物の影響防止等の安全対策 (以下「津波対策」という)を優先的に実施している。津 連絡先 : 西野 紗樹、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33、 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 核燃料サイクル工学研究所 再処理廃止措置技術開発センター 施設管理部 転換施設課 E-mail : nishino.saki@jaea.go.jp 波対策は、津波に対してHAW 及びTVF 施設への浸水を許容せず、津波による漂流物から施設を防護することを 基本方針とし、津波の波力や余震の重畳に対して損傷の 可能性がある建家については外壁補強及び地盤改良を実 施する。また、漂流物の建家への衝突に対しては、外壁補 強だけでは防護が困難であることから、建家に直接漂流 物が到達することのないようにHAW 及びTVF 周辺に防護柵を設置することで、津波防護措置を行う計画であ る。 本件では、津波によるHAW 及びTVF の施設への影響を評価し、適切かつ合理的な津波防護措置の設計に反映するために重要な指標となる漂流物について、調査・評価 を実施した。安全上のリスクが高いHAW 及びTVF に対して早期の津波対策を講じるためには、短期間で精度の高い調査結果を提供する必要があった。そこで、プロジェクトチームを設置し、調査の規格化、調査体制等を整備し た上で活動を展開した。プロジェクトチームでは、漂流物の調査に際して、想定される津波を考慮した調査範囲の 設定、調査範囲における建物・設備等の人工構造物、植生等の対象物の現場調査の方法、漂流物となるか判定するためのスクリーニング方法を事前に決定し、各方法により得られた施設等へ影響を及ぼす可能性のある漂流物について、数値シミュレーションの結果を踏まえ、HAW 及びTVF への到達可能性を評価した。また、漂流物調査等の実施にあたり、電子地図や衛星写真を用いた事前調査、 及びスクリーニングの判定基準の規格化により、調査の効率化を図った。 本稿では、これら調査方法及び数値シミュレーション として実施した津波の流況及び漂流物の軌跡解析結果等 について報告する。 2.東海再処理施設において想定する津波 津波による漂流物の調査にあたっては、まず想定する津波の状況を設定する必要がある。HAW 及び TVF を含む東海再処理施設に襲来が想定される津波は、東海再処理施設が立地する核燃料サイクル工学研究所(以下「核サ研」という)に隣接する原子力科学研究所(以下「原科研」という)の研究用原子炉施設(JRR-3)(平成 30 年 11 月に原子力規制委員会の認可済)における津波評価を踏まえ、最も影響を及ぼす波源として、茨城県沖から房総沖に想定する津波波源とした2)。この津波の高さは、HAW 地 点でT.P.+13.6 m であった。そこで、施設内部への水の浸入を確実に防ぐため、過去の朔望平均満潮位0.6 m 分を加えた高さT.P.+14.2 m を東海再処理施設において想定する津波高さとした。漂流物の調査では、津波高さ及び建物・ 設備等の高さを考慮し、T.P.+14.2 m 以下に存在する設備等を対象とした。 3.漂流物の調査 漂流物の調査は、調査範囲を設定した後、予備的な抽出作業として、電子地図や衛星写真を用いた事前調査の実施、調査要領の規格化、体制及び記録様式の整備等を行い、本調査である現場調査を適切かつ効率的に実施した。 また、現場調査で洗い出した対象物については、スクリ ーニングによりHAW 及びTVF における漂流物と成り得る可能性があるのかを判定した。 調査範囲の設定 東海再処理施設の周囲には、核サ研を中心に、核サ研 東側に株式会社JERA 常陸那珂火力発電所(以下、「那珂火力」という)及び茨城港常陸那珂港区(以下、「常陸那珂港」という)等の工業地帯、核サ研西側に水田地 帯や住宅街、核サ研北側に原科研が存在している。従っ て、調査範囲は、HAW 及びTVF の近隣に位置し、先行して漂流物調査を実施している日本原子力発電株式会社 東海第二原子力発電所における調査範囲を参照し3)、津波の流向及び流速とその継続時間から漂流物の移動量を 算出して設定した。 その結果、核サ研周辺の海域を評価点とした漂流物の 移動量は、最大でも約3.8 km となり、この移動量を保守的に見積り、HAW 及びTVF を中心とした半径5 km 圏内で津波が遡上するエリアを漂流物の調査範囲として設定した(図 1)。なお、この結果は東海第二原子力発電所の調査範囲と同等の結果であった。 図1 漂流物の調査範囲 事前調査 地形調査 2011 年に発生した東日本大震災では、岩手県及び宮城県沿岸部等において津波による押し波のみならず、引き 波による被害も発生している。押し波及び引き波の強さ は、津波が襲来する陸上地形の特性に大きく関係するこ とが知られている4)。 国土地理院の地理院地図(電子国土 Web)の断面図ツールを用いて 5)、図2 に示す核サ研と核サ研周辺のA- B 間(約3 km)の地形状況について調査を実施した。 核サ研及び核サ研東側は太平洋に面しており、HAW 及び TVF は新川河口付近に広がる T.P. 約 6 m の低地に位置する。図 2 に示すとおり、核サ研の地形は、平坦かつ単調であり、核サ研東側の海岸線から核サ研敷地内にか けて標高が若干上昇したのち、核サ研西側の内陸部に向かって標高は低くなる。特に、核サ研よりも西側に位置す る国道及び水田地帯では、核サ研内よりもそれぞれ T.P. 約5、10 m ほど低い標高であった。 これらの結果より、核サ研及び核サ研東側の起伏はほとんどなく平坦な地形が続き、津波を増大させるような 急傾斜は確認されず、HAW 及びTVF へ襲来する津波は、 押し波の影響の方が引き波より大きいことが推測された。 図2 核サ研及び核サ研周辺の地形断面図 衛星写真による調査 調査範囲内に存在する対象物を概括的に把握するため、 衛星写真を用いた調査を実施した。 調査の結果、核サ研東側には、那珂火力及び常陸那珂港が立地し、那珂火力には体積・容量の大きいタンクや工業 用資材等、常陸那珂港には多量のコンテナや船舶、重機や 乗用車の車両等の対象物の存在を確認した。また、核サ研及び原科研では、実規模スケールの試験等で使用するタンク、大型の電気盤等の設備を多数確認した。その一方、 核サ研西側には、水田地帯と住宅街が広がっており、住宅 や国道245 号を走行する車両等の対象物が確認された。そこで、事前調査の結果を考慮し、調査範囲内の各エリ アについて、優先度及び重点度を以下のように整理して 調査を行うこととした。 核サ研 HAW 及び TVF が立地する東海再処理施設内は、対象物が HAW 及び TVF に到達する可能性が非常に高いことから最優先で調査を実施する。東海再処理施設がある核サ研内の対象物は、HAW 及び TVF との距離が近く、建物や設備等が数多く存在する。また、起伏のないほぼ平坦な地形が続くことから、押し波の影響により、敷地内の設備等が漂流物として両施設に到達する可能性が高いため、優先的にかつ重点的に調査を行う。 核サ研東側(那珂火力及び常陸那珂港) 核サ研東側は、核サ研の敷地内より標高が低く、押し波による津波の浸入が想定されること、また、 体積や重量が大きい又は数量の多い対象物が多く存 在していることから、HAW 及びTVF に大きな影響を及ぼす可能性があると推測し、優先的かつ重点的 に調査を行うこととした。 核サ研北側(原科研)、核サ研西側、東海第二発電所 北側、東海第二発電所 核サ研西側は、対象物が多いものの、西側の漂流物が HAW 及び TVF に到達するためには、引き波によって流される必要がある。しかし、地形状況よ り引き波による影響が小さいもしくは影響を無視で きると推測されたため、HAW 及びTVF への到達の可能性は低いと考えられた。また、核サ研北側(原 科研)、東海第二発電所北側、東海第二発電所については、津波が押し波時は東方向から西方向、引き波 時は西方向から東方向に流れることを考慮すると、 核サ研西側と同様に HAW 及び TVF への到達の可 能性は低いと考えられた。そこで、これらエリアに ついては、核サ研及び核サ研東側の調査後に調査す ることとした。なお、東海第二発電所については、 日本原子力発電株式会社が実施した調査結果を参考 とした3)。 現場調査 現場調査は、3 班体制とし、各班は班長の指揮のもと記録者とカメラ撮影者からなる 2~3 名で構成した。また、現場調査で洗い出した対象物は、津波漂流物対策施設設計ガイドラインに示す漂流物の衝突エネルギーの算出に係る評価条件を考慮して6)、建物・設備、流木、船舶、車両に分類し、それらの設置状況、主要構造/材質、形状、寸法、重量を記録した。なお、記録にあたっては、表1 に示す専用の様式を作成して対象物を分類及び整理し、記録方法を統一及び明確にすることで調査の効率化を図った。また、核サ研内の対象物においては、設計図書や製作図面等を用い、より詳細な寸法や重量等を調査すると共に、核サ研外の那珂火力や常陸那珂港等については、管轄する事業者の協力、又は衛星写真等から情報を収集した。 本現場調査は、事前調査を実施したことで、各調査エリ アに対し、約 1~2 日の調査期間及び 1 班 2~3 名からなる班を 3 班という少ない人数かつ短期間で効率的に調査 することができた。調査の結果、表 2 に示すとおり、調 査範囲内の建物や設備、車両等を含めて計約 31 万 6000 件を洗い出した。事前調査からデータ整理まで、約 1 ヶ月の期間で実施した。 表1 調査エリアごとにおける漂流物調査結果の例 漂流物の判定 (1)スクリーニング方法の立案 東海再処理施設に津波が浸入することを仮定し、漂流物調査で洗い出した対象物に対し、HAW 及び TVF における漂流物と成り得る可能性があるのか、図 3 に示すスクリーニングにて判定した。スクリーニングにあたっては、評価者によって判定結果に差が生じないよう以下に示す判定基準を規格化した。 判定フロー①:建物の滑動に関する判定基準 建物及び簡易建物(テントハウス等)については、2011 年東日本大震災における津波による建物への被災状況から 4)、鉄筋コンクリート造、鉄構造の建物は形状が維持され漂流物にはならず、コンクリー ト、鉄骨等の構成部材ががれきになることとした。 判定フロー②;固定ボルトに関する判定基準 核サ研屋外にあるボルトで固定された対象物に対し、ボルトの有効断面積及び本数から許容応力を求め、津波の波力と比較し評価した7-9)。なお、核サ研外の対象物のように、ボルトの詳細が不明な場合は、 ボルトは損傷すると仮定し保守的に判定した。 許容せん断応力と短期許容せん断応力については、 以下の式(1)~(3)に基づき、対象物に対する許 容せん断応力(τ)と短期許容せん断応力(fs)を比 較し、τ > fs ならばボルト等は損傷し、τ < fs な らばボルト等は損傷しないものと評価した。 ・固定ボルト等に生じる津波波力 Q= 1 ?ρ?g?B???2ahZ -Z2?-(2ahZ -Z2)?(1) 22 21 1 表2 対象物の調査結果(総数内訳) Q 津波波力(N) ρ 海水密度(1030 kg/m3) g 重力加速度(9.80665 m/s2) B 津波を受ける評価対象物の幅(m) a 水深係数(a=3) h 浸水深さ(m) Z2 津波を受ける評価対象物の最高高さ(m) Z1 津波を受ける評価対象物の最低高さ(m) ・固定ボルト等に生じるせん断応力 調査エリア 総数(件) 核サ研内(屋外) 約40,500 核サ研内(屋内) 約241,000 核サ研外(屋外) (那珂火力/常陸那珂港・南側/核サ研西側/原科研・北側) 約34,500 計 約316,000 τ = ???????????? (2) τ ボルトのせん断応力(N/mm2) Q 津波波力(N) N 評価対象物の固定ボルトの本数(本) A 固定ボルトの有効断面積(mm2) ・ボルト等の許容せん断応力 fs = ? ????1.5√3 ? × 1.5(3) fs 短期許容せん断応力(N/mm2) F 材料強度(N/mm2) 判定フロー③:固縛強度に関する判定基準(屋内) 屋内に設置された設備の固縛部材の強度から、浸 水時の浮力及び津波の流出時の応力と比較し、屋外 への流出する可能性について判定した。 判定フロー④:撤去又は移動に関する判定基準 津波の遡上エリアにおいて、エリア内で移動する対象物、または撤去される予定の対象物については、 漂流物にならないと判定した。 判定フロー⑤:浮遊性に関する判定基準 タンクや車両等の内部に気密性を有する対象物に対し、浮力及び自重から浮遊性について確認し、判 定した10)。浮力及び自重については、以下の式(4) 及び(5)に基づき、対象物に対する浮力(Qz)と自重(W)を比較し、Qz > W ならば浮遊し、Qz < W ならば浮遊しないものと評価した。 ・浮力 ・自重 QZ = ρ ?g?V(4) Qz 浮力(kN=t・m/s2) ρ 海水密度(1030 kg/m3) g 重力加速度(9.80665 m/s2) B 評価対象物の体積(m3) W= g?m(5) W 評価対象物の自重(kN) ρ 重力加速度(9.80665 m/s2) g 評価対象物の質量(t) 図3 スクリーニングの方法(判定フロー) (2) スクリーニングによる判定結果 現場調査で洗い出した対象物に対し、図 3 に示すスクリーニングを実施し、判定した結果、漂流物に成り得ると 判定された対象物は、倉庫やタンク、コンテナ、車両等を 含めた計約6 万8000 件が該当した。 調査を実施したエリアごとに、判定した結果を各分類 判定フロー⑥:緊急退避行動に関する判定基準 東日本大震災の被害報告より、大型船舶は緊急退 避を行ったため漂流せず、船舶の被害が少なったこ とが報告されている。そこで、船舶等については、 緊急退避行動に係る規定の有無を判定基準とした。 (建物・設備、流木、船舶、車両)で整理し、表3 に示すようにまとめた。これにより、スクリーニング判定後、第 3 者による検証が容易になり、調査結果の精度が確保された。 表3 スクリーニングの判定結果表(一部抜粋) 4.津波の流況解析及び漂流物の軌跡解析 津波の流況解析 漂流物がHAW 及びTVF に到達する可能性を確認するため、津波の流況解析を実施した。本解析にあたっては、HAW 及び TVF 周辺に建物がないと仮定し、津波の流速がより速くなる条件で保守的に評価を実施した。 図 4 に示すように、核サ研内における津波は、地震発生後約37~39 分にかけて、HAW 及びTVF の北東方向及び南東方向から到達し、その後、核サ研西方向に向かって 遡上する。また、核サ研の北側にある新川から遡上した津 波は、核サ研西側の水田地帯に浸入し、全域に広がる。地 震発生約50 分以降は、津波の遡上はなく、HAW 及びTVF 付近の浸水深及び流況分布に大きな変動は生じなかった。 引き波については、地形調査結果からの推測と同様に、 国道 245 号及び水田地帯の標高が核サ研より低いため、核サ研西側からHAW 及びTVF に向かうような流況は確認されなかった。このため、核サ研西側の漂流物は、万が一、引き波で海域側へ流された場合であっても、新川を通って移動し、HAW 及び TVF に向かうことはないものと考えられた。 また、HAW 及びTVF 付近における津波の押し波時の最大流速は約6 m/s、引き波時の最大流速は約2 m/s であり、解析結果は地形調査から推測された押し波及び引き 波の傾向と同様の結果であった。 図4 HAW 及びTVF 周辺の津波の流況(地震発生約39 分後) 漂流物の軌跡解析 判定した漂流物の中から、評価点を設定し、軌跡解析を 実施した。評価点はHAW 及びTVF を中心に、周辺に均一になるように配置させた合計25 箇所とした。評価時間 は地震発生から 240 分間、浸水深が 10 cm 以上で漂流物は漂流することとした。なお、軌跡結果は、津波遡上解析 を実施し、水粒子位置(評価点)の時刻歴毎の速度ベクト ル(流向・流速)から水分子の軌道を算出した。 図5 に評価点の軌跡解析結果の一部を示す。 図5 軌跡解析結果 5.HAW 及び TVF に到達の可能性がある漂流物 地形調査、流況解析及び軌跡解析より、HAW 及びTVF に到達する可能性のある漂流物について、調査エリアご とに評価した結果を表4 に示す。 核サ研 HAW 及び TVF の東側にある漂流物(防砂林、HAW 及びTVF 周辺の車両)は、両施設からの距離が近く、平坦な地形であるため北東方向から浸入し た押し波によって到達する可能性が高い。また、図 5 に示す軌跡解析の結果からも、防砂林は、HAW 及びTVF へ到達する結果となった。 HAW 及びTVF より西側にある漂流物は、引き波の流速が遅いことから、両施設に向かうものはなかった。ただし、核サ研内の構内車両(中型バス、公 用車)はHAW 及びTVF 近傍まで移動する可能性があることから、保守的に到達すると判定した。 核サ研東側(那珂火力及び常陸那珂港等) HAW 及び TVF に強い押し波が到達するものの、那珂火力及び常陸那珂港等から直接両施設に向かうような軌跡は見られなかった。これは核サ研の標高が核サ研東側より数 m ほど高いためと考えられた。 一方、コンテナや車両等の所在する位置が日々変 化する漂流物については、HAW 及びTVF に向かう軌跡を示す地点に移動する可能性があることから、保守的に両施設へ到達すると判定した。また、船舶については、航行中を想定した各海域、艇泊中を想定した停泊位置における軌跡解析を実施したものの、 全ての評価点で HAW 及び TVF に向かう軌跡は確認されず、船舶は停泊中及び航行中であっても両施設に到達することはないと判定した。 核サ研西側 核サ研西側は、水田地帯及び住宅街が広がり、国 道245 号では、多数の乗用車等の車両が走行するものの、図6 に示す地形状況、流況解析及び軌跡解析の結果から、引き波によって住宅や車両等の漂流物 が核サ研へ浸入することはなく、HAW 及びTVF にも到達することはないと判定した。 今回の漂流物調査の結果を踏まえ、HAW 及び TVF に到達する可能性のある漂流物については、廃止措置計画 申請書に反映し、調査から申請書作成までの全ての作業 を約6 ヶ月の期間で終了することができた。 表4 HAW 及びTVF に到達する可能性のある漂流物 図6 核サ研西側の地形状況 6.結言 HAW 及び TVF の津波対策を早期に進めるために、漂 流物の調査及び影響を評価した。その結果、調査範囲内において発生する漂流物として抽出した約6 万8000 件の対象物からHAW 及びTVF に到達する可能性がある漂流物は、押し波によって両施設への到達が考えられる防砂林やHAW 及びTVF 周辺の車両、核サ研の構内車両の中型バス及び公用車と判定した。また、核サ研東側に位置するコンテナや車両等は、所在する位置が日々変化するため、 保守的に到達すると判定した。これらの調査結果を具体的な津波対策の設計に反映し、令和 3 年度から設置工事を進めている。 今回の漂流物調査では、早期の津波対策を講じるため、 電子地図や衛星写真を用いた事前調査、及び漂流物化を判定するためのスクリーニングの判定基準の規格化を実施することで、調査の効率化を図ることができ、調査から廃止措置計画申請書作成まで約6 ヶ月の期間及び約10 名の人工ですべての作業を終了することができた。 東海再処理施設の廃止措置は、約70 年の期間を要する国内で初めての巨大プロジェクトであり、安全確保を最 優先とした上で効率的な廃止措置を進めるために、これ まで蓄積した技術やノウハウを活用して積極的な技術開 発に取り組んでいく。 謝辞 本調査を実施するにあたり、情報を提供していただい た関係各社に深く感謝する。 参考文献 岡野 他: “東海再処理施設の廃止措置計画の概要”, デコミッショニング技報, 第57 号, pp.53-64 (2018). 原子力規制庁. “第38 回東海再処理施設安全開始チーム”. 原子力規制委員会. https://www.nsr.go.jp/data/000304991.pdf, (参照2021-05- 14) 日本原電株式会社. “東海第二発電所津波による損傷の防止”. 5 条-28-5 条-34, 原子力規制委員会. https://www2.nsr.go.jp/data/000213219.pdf, (参照2021-05- 14). 平川 新: “東日本大震災を分析する”, 明石書店 (2013). 国土地理院. “国土地理院地図/GSI Maps”. 国土交通省. https://maps.gsi.go.jp/#5/36.104611/140.084556/&base=std &ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1, (参照2021-05-14). 「津波漂流物対策施設設計ガイドライン」(財)沿岸技 術研究センター、(社)寒地港湾技術研究センター (平成26 年3 月). 基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド,平成 25 年6 月19 日原子力規制委員会決定. 東日本大震災における津波による建築被害を踏まえた 津波避難ビル等の構造上の要件に係る暫定指針,平成23 年11 月17 日付国住指第2570 号. 原子力発電所耐震設計技術指針, JEAG4601-1991. 国土交通省 国土技術政策総合研究所: “津波避難ビル等の構造上の要件の解説”, ppⅠ-19 (2012).
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)