東海再処理施設におけるPRAの適用とPRAの保全計画への活用

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カテゴリ: 第17回
東海再処理施設における PRA の適用とPRA の保全計画への活用 Application of Probability Risk Assessment in TRP and its capability to Maintenance Planning 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 再処理廃止処置技術開発センター 高瀬 友基三浦 靖中林 弘樹 Yuki TAKASE Yasushi MIURA Hiroki NAKABAYASHI Member Non-member Non-member Tokai Reprocessing plant (TRP), which temporarily suspended the reprocessing of spent fuel in 2007, moved to decommissioning in 2018 without restarting operations. Under the decommissioning situation, the high- level radioactive liquid waste generated in the past reprocessing operation is the highest potential risk in TRP. These high-level radioactive liquid wastes are stored in High Active Liquid Waste Storage Facility (HAW) and sequentially Vitrified in Tokai Vitrification Facility (TVF). The serious accident risk about evaporation accident of high radioactive liquid waste has been remained in both facilities. In this study, a loss of heat sink (LOHS) frequency of high radioactive liquid waste in HAW and TVF was assessed by Probability Risk Assessment (PRA). The risk information was extracted for the equipment of important of safety related system from the view point of maintaining the facility safety. Its capability to maintenance planning was evaluated. Keywords: Probability Risk Assessment (PRA), Reprocessing Plant, Loss Of Heat Sink (LOHS), Maintenance Planning 1.概要 東海再処理施設(TRP)では、2011 年に津波やその他の事象により全交流電源供給機能等が喪失した場合においても、使用済燃料の損傷等を防止し、放射性物質の放出を抑制しつつ機能回復を図るための緊急安全対策を実施した[1]。その後、TRP は、2018 年に廃止措置計画の認可を受け廃止措置段階に移行しており、過去の再処理運転で発生した高放射性廃液を貯蔵する高放射性廃液貯蔵場(HAW)及びガラス固化技術開発施設(TVF)に安全上のリスクが集中している。このため、TRP では、施設のリスク低減の取組を当面の最優先課題として、新規制基準を踏まえた安全性向上対策及び高放射性廃液のガラス固化処理を進めている。 本件では、リスクの集中するHAW 及びTVF を対象とし、確率論的リスク評価(PRA)を行い、蒸発乾固の起因となる高放射性廃液を貯蔵する貯槽の冷却機能喪失 (LOHS)の頻度を評価した[2]。また、施設の安全性維持の観点から、安全上重要な機器を対象に、重要度評価によりリスク情報を抽出し、保全活動への活用方法を検討した。 2.HAW における冷却機能喪失頻度評価 HAW において蒸発乾固の可能性のある高放射性廃液貯槽(常用5 基+予備1 基の合計6 基)の崩壊熱除去は、各貯槽に対して2 系統の1 次冷却系(常用1 系統、予備1 系統)、3 系統の2 次冷却系(常用1 系統、予備2 系統)及び冷却塔で行っている (図1) 。 蒸発乾固の起因となる高放射性廃液の冷却機能喪失 (LOHS)の発生頻度評価における起因事象は、①1 次冷却系機器の単一故障・単一の誤操作、②2 次冷却系機器の単一故障・単一の誤操作、③ 外部交流電源喪失の3 種の崩壊熱除去機能に関する不具合とした。定常運転時における対策では、誤操作した機器を再度操作しての正常な状態への復帰又は不具合の生じた系統から正常な系 図1 高放射性廃液貯蔵場(HAW)冷却設備概要図 統への切替えによる回復を想定した。緊急安全対策で は、可搬型設備(可搬式ポンプ、ホース等)による外部水源から1 次冷却系への直接注水を想定した。 また、冷却機能回復作業における作業員の人間信頼性 解析には、発電用原子炉で実績のあるTHERP (Technique for Human Error Rate Prediction)を用いた[3]。重要度評価では、対象機器の故障確率を0 とした際の LOHS 発生頻度の低減の程度を示すFussell-Vessely (FV)重要度、および対象機器の故障確率を1 とした際のLOHS 発生頻度の増加の程度を示すRisk Achievement Worth(RAW)を指標として用いた[4]。重要度分類にお ける、機器の安全上重要な機器の判断基準として、FV 重要度=0.005、RAW=2 を用いた。 その結果、HAW におけるLOHS 発生頻度は、緊急安全対策の実施により、4.16×10-7(回/年)から6.69×10-8 (回/年)の約6 分の1 に低下した。 安全上重要な機器の重要度評価では、交流電源喪失事象において、RAW=2 とFV=0.005 を超える事象として、恒設機器である1 次冷却水ポンプ及び冷却塔設備の故障の影響が最も大きく寄与した(図2)。作業員の人的過誤については、FV 重要度が極めて大きい傾向にあることから、回復操作の信頼性が向上したときLOHS 発生頻度の低減に最も寄与する。貯槽内の高放射性廃液の温度上昇を検知する機器については、発生頻度への寄与は 図2 HAW 冷却設備トラブルにおけるリスク重要度 (シナリオ9: 交流電源喪失事象) ほとんどなかった。 以上のことから、緊急安全対策の実施については、人的過誤による外部水源から1 次冷却系への注水失敗の影響が最も大きく寄与し、次いで可搬式ポンプの故障の影響が大きい結果となった。 TVF における冷却機能喪失頻度評価 TVF において蒸発乾固の可能性のある貯槽は、HAW から送られてきた高放射性廃液を取り扱う受入槽、回収液槽、濃縮液槽、濃縮液供給槽及び濃縮器がそれぞれ1 基ずつの合計5 基である。貯槽の崩壊熱除去は、二重化された1 次冷却系冷却系(常用2 系統)、2 次冷却系(常用2 系統)及び冷却塔(1 系統に3 基)で行っている。1 次冷却系、1 次冷却系と2 次冷却系は、通常時はそれぞれ2 系統で運転するが、片系統のポンプが停止した場合は流量調整のための制御回路が動作し、自動的に両系統に冷却水が流れる設計としている。(図3) 図3 ガラス固化技術開発施設(TVF)冷却設備概要図 TVF におけるLOHS 発生頻度及び安全上重要な機器の重要度評価は、2 項と同様の条件で評価した。 その結果、TVF におけるLOHS 発生頻度は5.11×10-5/ 年と評価され、HAW に比べ2 桁程度高かった。 安全上重要な機器の重要度評価では、1 次冷却系の同時機能喪失、2 次冷却系の同時機能喪失、1 次冷却系機器故障、あるいは2 次冷却系ポンプ故障の順位で寄与が大きい評価となった。一方、2 次冷却系の片系統での不具合発生時における冷却水の流量調整のための自動運転切り替えに関する制御回路の故障、2 次冷却系冷却塔故障については事故発生への寄与が比較的少なかった。(図4) 今後の課題 2 項及び3 項で得られた HAW 及び TVF のリスク情報に基づき、TRP の保全活動への活用方法を検討し、今後の課題を整理した。 ① 精度の高い環境影響評価のためには、蒸発乾固に伴う放射性物質の放出量を詳細に評価する必要がある。このため、HAW 及びTVF におけるLOHS 頻度評価は、貯槽 1 基のみでなく、沸騰する貯槽数ごとに評価できるモデルとすることが必要である。 ② 信頼性向上のため、可搬型設備(可搬式ポンプ、ホース等)の機器故障率は十分に整備されていないため、当該機器に関する故障率データの収集が必要である。 ③ THERP による人間信頼性解析は、発電用原子炉での比較的単純な作業を対象とした評価手法であるため、現場で多数の機器を操作する再処理施設へ適用した場合、過剰に保守的な評価となる可能性があ る。このため、他の人間信頼性解析手法を用いた比較を行い、最適化する必要がある。 ④ リスク情報はより有効な安全対策の策定や事故対処時の実施判断の検討等への活用には、新規制基準を踏まえ安全性向上対策として整備した事故対策資機材ごとの重要性や安全対策の有効性を定量的に比較する必要がある。 図4 TVF 冷却設備トラブルにおけるリスク重要度 まとめ 本件では、東海再処理施設において安全上のリスクが集中するHAW 及びTVF を対象として、PRA を行い、蒸発乾固の起因となる高放射性廃液のLOHS 頻度を評価した。また、安全上重要な機器を対象に、重要度評価によりリスク情報を抽出し、保全活動への活用方法を検討した。 その結果、両施設の崩壊熱除去機能の維持の観点で重要な機器・作業に関するリスク情報の抽出が可能であることを確認するとともに、PRA の高度化に関する知見が得られた。 参考文献 日本原子力研究開発機構 「平成23 年福島第一・第二原子力発電所等の事故を踏まえた再処理施設の緊急安全対策に係る実施状況の報告について」2011 日本原子力学会標準 核燃料施設に対するリスク評価に関する実施基準:2018 一般社団法人 日本原子力学会、2019 [3] A. D. Swain, H. E. Guttmann, “Handbook of Human Reliability Analysis with Emphasis on Nuclear Power Plant Applications Final Report”, NUREG/CR-1278, August 1983. [4] JEAG-4210-2016 原子力発電所の保守管理指針 ,原子 炉規格委員会
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