東海再処理施設の廃止措置におけるプロジェクトマネジメントの 取組み
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カテゴリ: 第17回
東海再処理施設の廃止措置における プロジェクトマネジメントの取り組み
Project management Efforts in the decommissioning project of Tokai Reprocessing Plant
原子力機構
田口 茂郎
Shigeo TAGUCHI
Member
原子力機構
田口 克也
Katsuya TAGUCHI
Non-member
原子力機構
牧野 理沙
RisaMAKINO
Non-member
原子力機構
山中 淳至
Atsushi YAMANAKA
Non-member
原子力機構
鈴木 一之
Kazuyuki SUZUKI
Non-member
原子力機構
髙野 雅人
Masato TAKANO
Non-member
原子力機構
越野 克彦
Katsuhiko KOSHINO
Non-member
原子力機構
石田 倫彦
Michihiko ISHIDA
Non-member
原子力機構
中野 貴文
Takafumi NAKANO
Non-member
原子力機構
山口 俊哉
Toshiya YAMAGUCHI
Non-member
Abstract
In 2018, Tokai Reprocessing Plan (TRP) shifted from operation stage to the decommissioning stage. In order to proceed with steady decommissioning work, TRP effort to enhance project management function. This paper describes an establishment and role of the Decommissioning Project Management Office, effectiveness of applying the project management tool and its utilization concept, and method of materialize the equipment dismantling plan.
Keywords: project management, decommissioning, reprocessing plant, dismantling, management
1.はじめに
再処理施設は、原子力発電所から発生する使用済核燃 料を化学的に処理し、ウラン、プルトニウムを分離する 化学プラントである。東海再処理施設(以下、TRP) は、使用済燃料0.7 トン(金属ウラン換算)/日(年間
最大210 トン)の処理能力を有する日本初の再処理施設として整備され、1977 年にホット試験を開始して以降、2007 年5 月までに軽水炉及び新型転換炉「ふげん」の使用済燃料等、合計約1140 トンを処理し、2018 年に廃止措置に移行した。
廃止措置への移行に伴い、従来の施設の保守や運転管理を中心とした業務から、今後は、除染、機器解体、廃 棄物処理施設の整備、新規廃棄物保管施設の整備、廃止
田口茂郎、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 核燃料サイクル工学研究所 再処理廃止措置技術開発センター
E-mail: taguchi.shigeo@jaea.go.jp
措置に必要な技術開発などプロジェクト型の業務が主体となることが想定される(図1)。TRP の廃止措置を着実に遂行する上では、このような多種多様なプロジェクトを同時並行的にかつ、限られたリソース(人員、予 算)で遂行するためのプロジェクトマネジメントが重要な要素となる。そこで、本件では、将来の本格的な廃止措置への移行に向けて、TRP が現在取り組んでいる、プロジェクト体制の構築やプロジェクト管理のための計画類の整備などの取り組みについて報告する。
図1 廃止措置移行に伴う業務形態の変化
2.プロジェクトマネジメント強化に向けた取り組み
2.1 プロジェクト管理体制の強化
TRP は、現在、保有する液体状の放射性廃棄物に伴うリスクの早期低減を目指すリスク低減の段階にあり、高 放射性廃液のガラス固化処理、高放射性廃液貯蔵場
(HAW)及びガラス固化技術開発施設(TVF)の新規制 基準を踏まえた安全性向上対策、低放射性廃液をセメント固化するための低放射性廃棄物処理技術開発施設の整備、高放射性固体廃棄物貯蔵庫の廃棄物の取出し/再貯蔵 のプログラムが進行している。また、次の廃止措置準備段階においては、工程内に分散している核燃料物質を集約する工程洗浄、被ばく線量を低減するための系統除 染、汚染状況の調査、機器の解体など、廃止措置の進捗に応じて、様々なプログラム、プロジェクトを立ち上げ実施していくこととなる。TRP の廃止措置プロジェクトでは、個々のプログラム、プロジェクトは自律的に運営されているが、それぞれは関連性を有しており、資金、要員、プロジェクト間の作業上の取り合いなどを調整しながら、複数のプロジェクトを同時並行的に進めていく必要がある。プロジェクトを主体とした業務運営においては、全プロジェクトを横断的に管理し、支援するPMO(Project Management Office)と呼ばれる組織内の部門が重要な役割を果たす[1]。TRP では、このPMO の役
・設備の保守管理
・放射線管理
・核物質管理
・分析業務
・品質保証
割を果たす組織として「廃止措置推進室」を2020 年9 月に設置した。図2 に廃止措置プロジェクトにおける廃止措置推進室(PMO)の位置づけとその役割を示す。3.プロジェクト管理ツールの活用検討
プロジェクト管理ツールによるタスク間の関
連性の管理
TRP の約70 年に及ぶ廃止措置プロジェクト全体を対 象として、必要なタスクを洗い出し、全体を俯瞰したと ころ、その数は数百に及ぶことがわかった。再処理施設 の廃止措置は、国内初の事業であり、不確定な要素も多 く、工期も長期にわたるため、現時点で精度の高い工程 を作成することは困難と考えられる。このため、計画と しては、当面10 年程度を視野に、計画を具体化し管理
していくことが妥当と考えられる。当面10 年程度の計画策定に当たっては、複雑に関連した複数のプロジェクトの関連性を見える化し、整合性のある廃止措置の全体計画を策定し、プロジェクト管理を実施していくことが重要と考えている。図3 にタスク間の関連性(順序関係)の表記例を示す。ガントチャート上の各タスク間の 関連性の一つに順序関係が存在する。各タスクに順序関係を付記することにより、一つのタスクの遅延が影響す るプロジェクトを明らかにすることができ、その遅延がプロジェクト納期に及ぼす影響を把握できる。また、プ ロジェクト間の順序関係が明確になることにより、新規のプロジェクトの立上げ時期の決定にも有効である。プ ロジェクトマネジメントの機能強化の取り組みの一つとして、タスク間の順序関係を踏まえた計画策定や進捗管理にプロジェクト管理ツール(プロジェクト管理ソフ ト)の導入を検討している。また、計画の策定に当たっては、プログラム、プロジェクトの関係性のみを考慮 し、多数のプログラム、プロジェクトを同時並行的に進
全プログラム 、プロジェクトの横串を通した進捗管理、予算管理などのプロジェクト遂行上重要なリソースの統括的管理。
全プログラム 、プロジェクトの進捗状況と課題を把握し、リスクの早期発見と各プロジェクトの遂行支援。
プロジェクトマネジメント機能の強化推進。
複数のプログラム 、プロジェクトに関連する許認可申請を統一的な考えのもとで実施。
図2 廃止措置プロジェクトにおける廃止措置推進室の
位置づけと役割
タスク間の関連性の表記
FS(Finish to Start)
タスク1が完了したらタスク2開始
FF(Finish to Finish)
タスク1が完了したらタスク2も完了
SS(Start to Start)
タスク1が開始したらタスク2も開始
SF(Start to Finish)
タスク1が開始したらタスク2は完了
図3 タスク間の関連性(順序関係)管理の例
行させる工程では、実現性のある計画とは言えず、資金 及び人工数などのリソース、プロジェクトの緊急度や重 要度などの要素を考慮することが非常に重要となる。と りわけ、再処理施設の廃止措置における機器解体計画で は、廃棄物発生量、人工数が重要である。現在、タスク とリソースを関連付けた工程管理を目指し、その管理 に、プロジェクト管理ツールの活用を検討している。プ ロジェクト管理ツールを用いたリソース管理の例につい ては、3.3 項に示す。
機器解体計画作成手法(具体化)の検討
廃止措置を進める上では、廃止措置の進捗段階に応じた必要な計画類の整備(図4)と、その計画を遂行するためのプロジェクト管理の両者が不可欠となる。TRP の廃止措置では、先行して使用を取りやめる分離精製工場
(以下、MP)、ウラン脱硝施設、クリプトン回収技術開発施設、プルトニウム転換技術開発施設の主要4施設か ら機器の解体に着手する方針としている[2]。なかでも、使用済燃料の受入れ、使用済燃料からのウラン、プルト ニウムの抽出・分離を行っていたMP の機器の解体は、解体作業の難度、工期、コストの点において、主要4 施設の機器解体の大部分を占めると推定され、MP の機器解体計画の整備は特に重要となる。そこで、現在、MP を対象とした機器解体計画の具体化手法を検討している。
分離精製工場(MP)の機器解体計画
図4 機器解体計画の整備案
図5 に解体作業工程策定の一連の流れを示す。現在検討している手法では、はじめに、標準モデルとするセルを選択し、そのセルの解体作業工程をブロックフローチャート形式で整理し、それをベースに、WBS、ガントチ ャートを作成する。次に、過去の保守作業経験に基づ き、人工数、作業時間を推定評価するものである。今回の試行的取り組みでは、標準モデルセルとしては、MP の使用済燃料の溶解を行っていたホットのセルである濃縮ウラン溶解セル(以下、溶解セル)を選択した。今
回、標準モデルとして選択した溶解セルをはじめ、ホットセルの解体・撤去作業については、過去に例がなく標準工法が確立されていない。また、今回対象とした当該セルの内部については、目視や作業員の入域による現場確認は困難である。そのため、ブロックフローチャートは、写真や図面情報を参考として、ホットの保守作業の経験者や、当該セルの運転・保守に携わる作業員の経験に基づき作成した。廃棄物発生量については、機器の図 面情報を基に評価した。
機器解体計画の策定においては、現段階においては、計画の精度よりも、ある程度の不確かさを許容しつつも作業の全体ボリュームの把握を優先させるべきと考えられる。そこで、本検討では、溶解セル以外のセルの解体作業時間については、廃棄物発生量を基準として、標準セルで求めた作業時間を比例倍することで簡易的に算出し、機器解体計画を作成した(図6)。今回作成した溶解セルの解体作業工程については、ホットの保守作業の経験者や、当該セルの運転・保守に携わる作業員の経験が反映されたものであり、評価した作業時間や人工数については、妥当性のある見積もりと考えられる。一方で、溶解セルの廃棄物発生量を基準として推定した他のセルの解体作業時間等の評価値には、隣接するエリアでの作業干渉による工程遅延や、複数のセルを同時並行で実施することによる作業時間の短縮、解体工法の違い(遠隔操作、半遠隔操作、作業員により近接解体方式など)による作業時間への影響については考慮していない。さらに精度を高めるためには、これら要因についての補正が必要となる。
廃棄物発生量、人工数管理へのプロジェクト管理ツールの適用検討
原子力施設の廃止措置においては、一般産業の設備解体とは異なり、解体により発生する廃棄物の貯蔵場所の 確保は廃止措置を円滑に進めるための重要な要素となる。TRP の廃止措置では、解体により発生する廃棄物は、機器の解体・撤去が完了したエリアに、保管する計画としている[2]。したがって、エリア別の機器撤去が完了する時期、廃棄物発生量並びに発生時期の調整は計画を最適化する上で考慮すべき重要なマネジメント要素となる。また、再処理施設の解体対象設備は、高レベルかつα核種の汚染、さらには、その汚染は非密封状態にあるなど、放射線防護上に特に注意を要する。このような設備を対象としたホット作業に習熟した作業員の数は限られており、機器解体計画を策定する上では、作業員数の平準化についても
図5 解体作業工程策定フロー
考慮しなければならない。図 6 は、前項で作成したガントチャート(作業エリア別の作業項目と作業時間を整理) に、廃棄物発生量を関連付けて作成した機器解体計画の一例を示している。図の左縦列には、作業エリアとそれに付随するタスクを、横軸は作業時間を示している。各タスクには、廃棄物発生量をリンクさせ、図中下部に、それぞれ廃棄物発生量を棒グラフとして表記している。図 6 に示す機器解体計画は、プロジェクト管理ツールを用いて作成しており、縦軸のタスクを入れ替えた場合、廃棄物発生量も連動して変化する。そのため、タスクの実施時期や順番を入れ替えての廃棄物発生量や最適化シミュレーションを容易に行うことができる。同様に、各タスクと人工数をリンクさせることで、人工数の最適化シミュレーションも可能となる。このような形式で工程とリソースを関連付ける管理手法は、リソースと整合性のある機器解体計画を整備していく上で有用なツールになるものと考えられる。
TRP の長期にわたる廃止措置を円滑に実施するための基礎となるプロジェクトマネジメントを強化する取り組みとして、廃止措置全体プロジェクトの横串機能をも ち、プロジェクトの全体管理を実施するPMO の役割を担う廃止措置推進室の設置、プロジェクト間の関連性を 踏まえた計画策定、リソース管理へのプロジェクト管理ツールの活用の検討、機器解体計画の具体化手法の検討について報告した。プロジェクト管理ツールの適用については、様々な活用ケースをシミュレーションしている段階であり、今後は部分的な試行運用を通して課題の抽出や、業務を遂行する組織との適合性などを評価していく。機器解体計画の具体化については、ブロックフローチャートをベースとしてモデルセルの解体工程を作成 し、その廃棄物発生量を基準として、他セルの人工数、作業時間等を推定評価することで簡易的に解体計画を作成できることを確認できた。
参考文献
日本プロジェクトマネジメント協会、“改訂3 版P2M プログラム&プロジェクトマネジメント標準ガイドブック” 、日本能率協会マネジメントセンター、2019、pp.468-471.
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、“国立 研究開発法人日本原子力研究開発機構 核燃料サイクル工学研究所 再処理施設に係る廃止措置計画認可申請書”、2017 年6 月30 日申請、p.130、p210.
廃棄物発生量
図6 廃棄物発生量を関連付けた機器解体計画の例
4.まとめ
謝辞
機器解体計画作成手法の検討については、日揮株式会 社の協力のもとに実施した成果である。ここに感謝の意 を表する。