危険感受性・敢行性の客観データに基づく評価

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カテゴリ: 第16回
危険感受性・敢行性の客観データに基づく評価 Evaluation of risk sensitivity and risk taking behavior based on objective measurements 東北大学 伊藤 誠人 Masato ITO Member 東北大学 吉田 康貴 Koki YOSHIDA non Member 東北大学 高橋 信 Makoto TAKAHASHI Member 東北大学 狩川 大輔 Daisuke KARIKAWA non Member 東京電力 HD 鹿毛 佳子 Keiko KAGE non Member 東京電力 HD 池野 太郎 Taro IKENO non Member 東京電力 HD 吉田 久 Hisashi YOSHIDA non Member Abstract: The purpose in this research is to verify whether risk recognition can be explained not only by the subjective evaluation methods but also by the objective evaluation based on autonomic nervous activity. In the present study, a fundamental method to realize objective risk recognition evaluation has been proposed using heartbeat data in the safety education at experiential training facilities. Based on the results obtained in this research, it has been confirmed that risk-taking behavior characteristics can be evaluated not only by the results of the questionnaire survey but also by more objective autonomic nerve index estimated based on heart rate. It is expected that the proposed method can help to improve the reliability of evaluation of risk cognition in the safety education. Keywords: risk cognition, risk taking behavior, heart rate measurement, experiential training facilities ー 背景 近年の産業現場では、身近に災害や危険を体験する機会が少なく、危険予知能力の低下が懸念されており、近年様々な産業現場において安全教育が推進されている。その中でも受講者が危険を擬似的に体験できる体験型研修施設を利用した安全教育が近年注目を集めている。体験型研修施設では、実 に受講者が現実的に こりうる様々な危険を体験するという点で効果が期待されているが、中 の研究によると体験型教育や体 教育は一 的な体験内容に留まり、作業員の実質的な安全態度の向上に繋が ず、むしろ不安全行動を助長する可能性があると指摘されている[1]。このような安全教育などか 得 れるはずのプラスの効果を、受講者がより危険な行動をとることで相殺することを危険補償行動と口い、安全教育の副作用として指摘されている。体験型研修施設による安全教育は、危険補償行動などの影繹を考慮する必要があるが、体験型研修施設における安全教育の理論的背景の検討が現状不十分となっている。更に安全教育の効果測定に関しては、確立された一般的評価 法は未t 存在しないのが現状となっている。 危険補償行動に関連する概念として、危険 受性と危険 行性がある。 はこの つの概念を ることでリスク認知に関する行動パターンをKK マッピングと呼ばれる方法で大きく4つに分類している[2]。 KK マッピングによるリスク認知評価は、安全教育において様々な応用ができ、安全教育の目的の明確化や効果 測定を行う上で有用であるが、KK マッピングはアンケートなどの主観的評価方法によって評価されることが多く、その信頼性については検 の余地がある。そこで新たな 測定?検 として注目されているのが生体計測である。生体計測により、個人のリスク認知の定量的な評価 が可能となれば、 の評価 法より信頼性の高い検が可能となることが期待される。 本研究では、生体計測データの1 つである心拍データを用いた体験型研修施設における安全教育での客観的なリスク認知評価の実現に向けた基盤的検討を行った。心拍計測は生体計測の中でも比較的簡便であり、体験型研修施設での計測に適している。 2 手法 心拍計測による人間状態の評価 研究の第一 階として心拍計測機器、解析 法、被験者の統制方法について検討を行った。予備実験の結果か 、心拍計測に関しては ンピー ンス 心拍計によっ 連絡先:伊藤誠人、〒980-8579 青薬区荒巻字青薬6-6-11 総 研究棟904 号室、東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻、高橋(信)?狩川研究室 E-mail: masato.ito.r4@dc.tohoku.ac.jp て高精度の 系列RRI データを取得すること、評価法としては 系列RRI データをローレンツプロット法を用いることでLP 面積を算出し、この指標によってストレス負荷レベルを推定する方法が適切であると結論づけた。心的負荷のベースラ ンとなるリラックス状態の実現方法として黙読法が被験者をより安定したリラックス状態に導くことを確認しこの方法を用いることとした。予備実験の結果、 ー デ アンリ ムは、リラックス の 神経活動と精神負荷を与えた の 神経活動のどち にも影繹を及ぼし、精神負荷を与えた のストレス負荷レベルは、同 間帯におけるリラックス状態のストレス負荷レベルの値に応じて変化することが示された。本研究では、ある一定の精神負荷状態のLP 面積を目的変数とし、黙読 のLP 面積を説明変数とする回帰直線を作製した。このモデリング以降は実験直 にリラックス状態、U-KT 行 の状態を一度tけ計測すれば、被験者の神経活動を相対的に評価することが可能となった。 危険敢行性の評価 本研究ではリスク認知の客観的評価の実現に向け、リ スク認知を危険 受性と危険 行性の 軸によって捉えるKK マッピングに基づいた 法を し、 に危険行性の客観的評価 法について検討した。 危険 行性認知実験では つの質問紙によるリスク認知の調査を行う。一つ目のKK アンケートは危険 受性に関する質問10 問と危険 行性に関する質問10 問の計20 問で構 されている 。もう つは、 が作 したRPQ Risk Propensity Questionnaire リスク傾向質問紙) である 。RPQ は、 ャン ル 向性、状 的 行性、確信的 行性、安全性配慮の4つのリスク傾向を評価する質問紙である。 本実験では、危険 行性の評価を行うための認知としてBART Balloon Analogue Risk Task)を用いる。Lejuez.et al.により されたBART Balloon Analogue Risk Task)及びこれを が一部改変したものを参考に、心拍計測を行うことを とした本実験向けのBART を作 した 5 6 。BART は、PC 画面上に 示される複数の疑似風船を膨 ま なが 「この風船の金額」を上昇さ ていき、「獲得金額」に「この風船の金額」を貯金していくタスクである。風船は青色、緑色、黄色、赤色の種類あり、それぞれ「増加金額」と「破裂範囲」が定め れている。風船は、青色、緑色、黄色、赤色の順でハ リスク?ハ リターンとなるように設定されている。赤色以 の 色は 行数 5 回であり、ラン ムに 示さ れる。赤色の 行数が5 回で 行回数 0 回ごとに 示される。 計50 個の風船にチャレンジし、獲得金額をできるtけ高い状態で終えることを目的とする。 本研究で使用したBART は心拍計測と並行して行うことを としており、 風船 行中の 神経活動を評価するための十分な 間的長さを有するデータを取得することが必要不可欠である。そのため、RRI (R-R Interval) 10 個分 度のLP 面積によって 神経活動の経 的変化が把握できるようBART の実行 間を調整している。 3 認知実験 3.1 実験概要 認知実験においては、危険 行性の客観的評価 法構 築を目的にして、危険 行性すな ちリスクテ キング行動 性をアンケートtけでなく、心拍計測によって得 れる 神経指標によって客観的に検 可能であるかを明 かにすることを目的とする。危険 行性の評価において、質問紙調査と認知実験の2 つを実施しその結果を比較した。質問紙調査ではKK アンケートとRPQ を使用し、認知実験では で たように心拍計測をに改良したBART を用いた。質問紙調査の評価点数、BART の結果、BART 中の 神経活動の つを総 的に検討し、リスクテ キング行動と 神経活動の関係性を検討した。 本実験の被験者は11 性11 、 性0 、 21.73 歳、SD=0.786)であった。本実験は東北大学大学院工学研究科人を対 とする研究に関する 理 員会の認を得て行った。 本実験で得た心拍データは、黙読 、U-KT 本 タスク 、BART 本 タスク の つである。黙読 とU-KT 本 タスク のLP 面積か ベースラ ンを め、これを 基 として BART 本 タスク のストレス評価を行った。 3.2 実験結果 基 心拍 応の測定の結果、 中 の被験者で黙 読 の方がLP 面積が有意に大きかった p < .001)。被験者11 の黙読 とU-KT のLP 面積の相関係数を算出 したところ、高い正の相関が認め れた r = .917、p < .001)。 被験者11 のデータについて回帰分析を行った結果、( ) を得た。ここで、LPU-KT はU-KT のLP 面積、LPReading は黙読 のLP 面積である。 由度調整済 決定係数は0.823 であった。この回帰 より得 れるLPU-KT か の増加 によって 被験者のBART 中のストレスを 評価した。 LPU ?KT ? 0.4633? LPRe ading ? 3.720 (1) 群の10 行毎のBART SCORE の の推移を めた結果、状 的 行性得点群別の推移とは異なり、高群と低群ともに一貫した減少傾向になかった。 次に、KK アンケートの危険 行性とRPQ の状 的 行性、確信的 行性の結果について考察を行う。RPQ の状 的 行性と確信的 行性の間には相関係数 .832 p < .01)の強い相関が認め れた。また統計的に有意とは口えないものの、KK アンケートの危険 行性とRPQ の状 的 行性の相関係数は .445 p = .17)とやや大きい値となった。なお、KK アンケートの危険 行性とRPQ の確信的 行性の相関係数は .113 と低い値となり、この つの関連性は低いと考え れる。以上よりKK アンケートの危険 行性は確信的 行性より状 的 行性との関連性が高いと考え れる。 は状 的 行性が低い場 は、 行経過によってリスクを回避する傾向がある一方、高い場 は一貫した減少傾向にないことを指摘している。本実験においてもこの傾向を確認した。RPQ の状 的 行性の得点の を算出し、 より低い被験者を低群、高い被験者を高群に り分け、 群の10 行毎の「青色の風船を膨ま た回数の最大値 BART SCORE)」の の推移を めた結果を図 に示す。高群は、一貫した減少傾向になく、 0 行までは寧ろ増加傾向を示している。これに対して低群は、 行経過によってBART SCORE の が一貫して減少していること示されている。更に10 行毎でSteel-Dwass 法による多重比較検定 Steel-Dwass 検定)を行った。その結果低群において統計的に有意とはいえないものの、「 行目か 10 行目までのBART SCORE の 」と「その他の 行毎のBART SCORE の 」との比較においてp 値が単調に減少した。また、同様に低群において、「 行目か 10 行目までのBART SCORE の 」と「41 行目か 50 行目までのBART SCORE の 」に対してBrunner-Munzel 検定を実施した結果、有意差が認め れた p < .01)。したがって、低群において、BART SCORE の が 行経過によって減少傾向にある可能性がある。低群でBART SCORE の が減少する傾向は の結果と一 しており、この結果は状的 行性得点が相対的に低い被験者は 行経過によってリスクを回避する傾向にあることが示している。以上よりRPQ の状 的 行性によるリスクテ キング行動評価の信頼性は高い可能性がある。 同様に、KK アンケートの危険 行性の得点の を算出し、 より低い被験者を低群、高い群を高群として、 一般に、危険 行性が低い人間はリスクを回避するタ プに当てはまることか 、RPQ の状 的 行性が実のリスクテ キング行動をより上 く説明できていると考え れる。青色の風船の 行回数で定義されるBART SCORE と同様に、緑色、黄色、赤色の風船に対しても危険 行性及び状 的 行性得点群別の10 行毎の膨 ま た回数の最大値の 推移を確認したが、BART SCORE のように 的な傾向は れなかった。この結果は、Lejuez et al.のクリック可能回数の小さい風船はばつきが限定されるため統計解析に適さないとする指摘と一 した。したがって、本研究でも青色のBART 結果に注目することとした。 図 に状 的 行性及び危険 行性得点群別の青色の風船10 行毎のLP 面積の増加 の 値の推移を示す。被験者毎で正規化処理を施してある。 状 的 行性得点群別においては、高群では 行経過によって減少する傾向にある一方で、低群はその傾向にないことが窺える。Steel-Dwass 検定の結果、高群において統計的に有意とはいえないものの、「 行目か 10 行目までのLP 面積の増加 」と「その他の 行のLP 面積の増加 」との比較において、p 値が減少傾向であった。 図 状 的 行性得点群別の10 行毎のBART SCORE 推移 図 状 的 行性( )及び危険 行性( )得点群別の青色の風船10 行毎のLP 面積増加 の 推移 また、同様に高群において、「 行目か 10 行目までのLP 面積の増加 」と「「41 行目か 50 行目までのLP 面積の増加 」に対して、Brunner-Munzel 検定を実施した結果、有意傾向であった p < .10)。LP 面積の増加 が減少傾向にあるとは、 行経過によって交 神経が冗進していったと考え れ、よりストレスの高い状態へと遷移していったと解釈できる。 危険 行性得点群においては、高群での 「21 行目か 50 行目までのLP 面積の増加 」において 的な減少傾向が窺える。Steel-Dwass 検定の結果、高群において、「21 行目か 30 行目までのLP 面積の増加 」及び「31 行目か 40 行目までのLP 面積の増加 」と「41 行目か 50 行目までのLP 面積の増加 」と の比較において、有意傾向であった 順に、p < .10、p = .18)。また、同様に高群において、「21 行目か 30 行目までのLP 面積の増加 」と「41 行目か 50 行目までのLP 面積の増加 」に対して、Brunner-Munzel 検定を実施した結果、有意差が認め れた p < .001)。すな ち、状 的 行性と危険 行性の高群両方において、序盤も しくは中盤か 終盤にかけてLP 面積の増加 が減少する傾向にあり、交 神経が徐々に冗進していったと解釈される結果となった。 続いて、赤色の風船についても検討を行った。危険 行性得点群別及び状 的 行性群別の赤色の風船を膨ま た回数の を図 に示す。Brunner-Munzel 検定を行った結果、統計的に有意ではないものの危険 行性得点群別で、高群がより多い傾向であった p = .14)。状 的 行性得点群別では、非有意であった p = .57)。より な検 が必要ではあるものの、危険 行性の評価点数と最もハ リスクな赤色の風船の膨 ま た回数との関連性が示唆された。 以上より、状 的 行性はBART SCORE の 推移と関連性が認め れ、危険 行性はハ リスクな赤色の風船の膨 ま た回数との関連が示唆された。すな ち、状 的 行性は経 的にリスク回避側にシフトしていくか かの尺度、危険 行性は にハ リスクなものに対するリスクテ キング行動の尺度となる可能性がある。4 結論 本研究では、心拍データを用いた体験型研修施設にお 図 状 的 行性及び危険 行性得点群別の赤色の風船を膨 ま た回数の ける安全教育での客観的なリスク認知評価の実現に向け、リスク認知を 神経活動による客観的な裏付けによって説明できるかを検 した。その結果、「危険 行性が低い場 、 行経過によってリスク回避側にシフトしていき、実験中は交 神経活動が比較的 制され、そのを保つ。危険 行性が高い場 、 行経過によってリスク回避側にシフト ず、予想されるリスクへの緊張?ストレスか 交 神経活動が比較的冗進状態となる。」という傾向を確認することができた。本研究の結果は危険 行性を質問紙調査の結果tけでなく、より客観的な 神経指標によって評価できる可能性を示している。今後 は、体験型研修施設における安全教育の有効性について も、得 れた知 に基づき検 する予定である。 参考文献 中 隆宏、“安全教育における擬似的な危険体験の 効果と ”、安全工学、Vol.46, o2、2007、pp.81-88. 一己、 “交通危険学-運転者教育と無事故運転者のために-”、 啓正社、1996. 久保 、“ 在的安全意 の評価に関する実験研究”、 29 年度東北大学大学院工学研究科修士論文、2018. 慎吾、 臼井伸之介、“リスクテ キング行動尺度の信頼性? 当性の 検討”、 科学、 87 巻、 6 号、2011、pp.211-225. C.W. Lejuez, et al, “Evaluation of a behavioral measure of risk-taking: The Balloon Analogue Risk Task (BART)”, Journal of Experimental Psychology, 2002, pp.75-84. 慎吾、 “リスクテ キング 生メ ニ ムの 解明とその防止に関する研究”、 25 年度大阪大学大学院人間科学研究科博士論文、2014、pp.20-31.
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