漂流物衝突時の機器健全性評価に係る研究
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カテゴリ: 第16回
漂流物衝突時の機器健全性評価に係る研究
Study on the equipment integrity assessment at the time of a drifting object collision
中部電力(株)
川井
貴弘
Takahiro KAWAI
Member
中部電力(株)
安田
光博
Mitsuhiro YASUDA
Member
中部電力(株)
寺井
啓祐
Keisuke TERAI
中部電力(株)
増田
秀隆
Hidetaka MASUDA
Abstract
The regulatory standards related to nuclear energy that have been enforced since the Great East Japan Earthquake require equipment that is important for safety against tsunami to maintain its integrity. However, at present there is no systematization of impact assessment methods for equipment that is important for safety regarding the collision of the tsunami drifting object. Therefore, in this research, a free fall test that simulates a collision with equipment that is important for safety (pipe) by the tsunami drifting object (power supply unit) is conducted, and the free fall test is compared with the analysis that reproduced.
Keywords: Hamaoka NPP, tsunami protection, Drifting object collission, deterioration, Free fall test
はじめに
東日本大震災では想定を超えた津波が防潮堤を
越えて原子力発電所敷地内へ遡上し、安全上重要な 機器に大きな被害を与えた。その被害の大きさを踏 まえ、原子力関連の規制基準が見直され、中でも地 震・津波等の外部事象に対して安全上重要な機器が その健全性を保つことが要求されている。
また、確率論的リスク評価においては、個々のプ ラント毎に想定される事故シーケンスを選定し、そ の対策を講じることが要求されている。浜岡原子力 発電所は、防波壁を越流する津波による炉心損傷の 事故シーケンスを選定し、原子炉建屋内の安全上重 要な機器については浸水防止等の対策にて、屋外に 設置されている安全上重要な機器については、津波 浸水に対する健全性評価にて対応することとして いる。
図1 漂流物衝突の影響 [1]
(福島第一原子力発電所 循環水ポンプ)
連絡先 増田 秀隆
〒461-8680 愛知県名古屋市東区東新町 1 番地、中部電力株式会社、原子力部
E-mail: Masuda.Hidetaka@chuden.co.jp
図2 防波壁を越流する津波のイメーン
津波浸水に対する安全上重要な機器の影響につ いては、津波の波力が直接作用することによる影響 と、津波と共に流されてくる漂流物の衝突影響が考 えられる。しかし、波力および漂流物衝突による機 器への影響評価手法を体系化したものは現時点で はない。
事前解析結果
これらを鑑み、発電所構内で想定される津波漂流
物が、屋外の安全上重要な機器に衝突した際の衝突応力およびひずみを有限要素解析プログラムLS-DYNA(Ver.971)を用いた解析により求め、健全性を評価してきた。また、有限要素解析プログラムAbaqus(Ver6.11)を用いた静解析により、LS-DYNA を用いた解析の検証を実施してきた。
健全性評価に際しては、福島第一原子力発電所で の被災状況を鑑み、タンク、配管等を被衝突物とし た複数のケースに対しての解析を行った。
そのうち、屋外に設置される非常用ガス処理系配 管に電源盤が漂流物として衝突した場合の解析に おいて、遡上 での大きなひずみを確認した。なお漂流物の衝突速度については遡上津波の流速 5.2m/s として解析を実施した。解析モデルを図3に、解析結果を図4に示す。
図3 解析モデル
を担保するため、被衝突物を保護する防護柵、緩衝 材の設置等について検討したが、当該配管の設置場 所が 部であり施 が であること 、設成の合理化の観点から、実現象の確認および解析結 果の妥当性を検証するために実規模大の衝突試験 を行うことを計画した。
衝突試験の計画
試験体の選定
試験体は解析時と同様に衝突物として電源盤を、
被衝突物として配管を選定した。ここで、試験に用 いた電源盤については、現在廃止措置実施中の浜岡 1号機で使用されていた電源盤を流用した。
試験全景を図5に、試験体系を図6に示す。なお、図6の試験体系については、図4に示す解析結果と同等のひずみの発生を期待できる体系であること を予 解析で確認している。
(塑性ひずみ分布)(配管断面)
図4 解析結果図5 試験全景
また、配管に発生した塑性ひずみについて、下式(1)[2]を用いて破断目安値を計算した。計算結果を表 1に示す。なお、ここで TF(Triaxiality Factor 三次元応力場係数)は応力状態から求められるものでは あるが、米国ガイドライン[3]などでは、TF を算出する代わりに保守的に 2 を用いてもよいとされており、ここではその考え方を用いた。
破断目安値=破断伸び 規格値/TF ・・・(1)
表1 塑性ひずみ値からの破断目安値の算出結果
試験条件
塑性ひずみ値
[%]
材質
破断伸び
(規格値)
[%]
破断目安値
[%]
15.1
STS410
25
12.5
図6 実衝突試験体系
表1に示すように、発生した塑性ひずみ値は、破断伸び(規格値)を基に計算した破断目安値を上回 っており、解析上の局所最大値とはいえ配管の健全 性を説明できない結果となっている。配管の健全性
衝突速度については解析時に大きな塑性ひずみ
を確認している衝突速度 5.2m/s を基本とし、過酷条件である衝突速度8.0m/sのケースについても実施し た。衝突姿勢は、事前解析において特にひずみが小 さかった電源盤の底部を除き、屋根部、側面部を被
衝突物に衝突させることとした。試験条件を表2に示す。
表2 実衝突試験における試験条件
No.
落下速度
[m/s]
衝突姿勢
保温材
1
5.2
側面部
無し
2
8.0
3
屋根部
試験結果
実衝突試験結果
代表箇所として、基本条件である試験 No1 について、配管反力、配管変位の時刻歴波 を図7に、試験後の配管の外観を図8に示す。
500
400
300
200
荷重[kN]
100
0
-100
-200
-0.0500.050.10.15
時間[sec]
時刻歴波 (配管反力)
衝突部全体
A-A 断面B-B 断面図8 配管外観(試験 No1)
図7より衝突は 0.05 秒程度であり、最大 60mm の
変 が発生したあと する様子が分かる。
図8より衝突痕および変 は確認されるものの破断は無く、耐圧漏洩試験により配管のバウンダリ 機能を確保できることを確認した。なお、すべての 試験ケースにおいて同様の結果を確認した。試験結
表3 試験結果
No.
試験結果
荷重
[kN]
変位
[mm]
ひずみ
[με]
破断
有無
耐圧漏洩
結果
1
455
61
1200
無
良
2
472
107
1300
3
409
88
1000
10
0
-10
-20
変位[mm]
-30
-40
-50
-60
-70
-0.0500.050.10.15
時間[sec]
時刻歴波 (配管変位)
図7 実衝突試験結果(試験 No1)
果を表3に示す。
実衝突試験と事前解析結果との比較
衝突試験結果では配管の破断は確認されてはい ないが、2.で実施した事前解析では配管の破断が予 想されていた。また、事前解析では特に変位、ひず みが大きな値で出力されており、衝突試験結果との 間に差異が生じている。試験体系および試験結果を 踏まえて両者に差異が生じた原因として以下の2 点を推定した。
実配管強度(ミルシート値)と規格値との差事前解析では規格より物性値を入力して
いたが、一般的に実配管は規格値より高めの強度を有する。 回の配管強度については、降伏点で 25%,,.. 56%高いものであった。
配管のひずみ速度 性の考慮
事前解析ではひずみ速度による物性値の 変化を考慮していなかった。実材料ではひずみ速度により引張強度が増加していること が考えられる。ひずみ速度 性は下式(2)[4] により算出できる。
図9より、事前解析では考慮していなかった点
(実配管強度およびひずみ速度 性)を考慮することにより、実衝突試験結果と概ね一致する結果と なった。この結果により、解析の妥当性が検証でき た。
なお、ここで得られた結果をもとに、前述の式(1) 等を適用し配管の解析条件を見直して健全性を評 価した結果、破断の 点となる配管の内面側における引張ひずみは破断 に達しておらず、配管の健全
??
?? ? ??1.5 ? 1
??
1??
性を確認することができた。
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T 0 ? ????
TT 0?
\ E )
? ? 9 ? ?
? 9 ? ? ? ・・・(2)
?? ln?10 ? ? ln?10
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まとめ
σT ひずみ速度 ε のときの材料の引張強さ
σT0 ひずみ速度 0 のときの材料の引張強さ
ε 材料のひずみ速度
4.3 再現解析結果と実衝突試験との比較
解析の妥当性を検証するため、上記の要因を考慮したうえで、実衝突試験の再現解析を行った。なお、 再現解析においては、配管が直径に対して厚肉であることを考慮し、積分点を3点から5点に増加して解析を実施した。実衝突試験結果と、再現解析結果の比較を図9に示す。
500
400
300
200
荷重[kN]
100
0
-100
-200
-300
-0.0500.050.10.15
時間
本研究において解析結果の実証試験を行うこと で、配管を防護するための大規模な設 対策を行うことなく、配管の健全性を確認することができた。 また、解析条件の見直しを実施することにより、実証試験の再現解析が可能となり、解析の妥当性を検証することができた。
参考文献
電気技術規程原子力 原子力発電所耐津波設計技術規程(JEAC 4629-2014)
日本機 会 発電用原子力設 規格 シアアクシデント時の構造健全性評価ガイドラ イン BWR 格 器 ( JSME S NX2-2014)
Nuclear Energy Institute Methodology for Performing Aircraft Impact Assessments for New
10
0
-10
-20
変位[mm]
-30
-40
-50
-60
-70
-80
-0.0500.050.1
時間[sec]
時刻歴波 (変位)
0.15
Plant Designs (NEI 07-13 Revision 8P)
的繰返し大変 を受ける溶接 構造物の脆性破壊性能評価方法(WES2808:2003)
2000
1500
1000
ひずみ[με]
500
0
-500
-0.0500.050.10.15
時間[sec]
時刻歴波 (ひずみ)
図9 事前解析結果、実衝突試験結果および再現解析結果の比較(試験 No1)