振動荷重を受ける梁の進行性変形発生条件に関する研究
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カテゴリ: 第16回
振動荷重を受ける梁の進行性変形発生条件に関する研究
Study on ratchet deformation occurrence conditions of beams due to vibration load
東京大学
笹木龍之介
RyunosukeSASAKI
Student Member
東京大学
一宮正和
MasakazuICHIMIYA
Non-Member
東京大学
呂金其
Jinqi LYU
Non-Member
東京大学
笠原直人
NaotoKASAHARA
Member
Abstract
According to experimental observations, the failure modes of piping in nuclear power plants caused by large seismic motion are fatigue or ratchet deformation. However, the mechanism of ratchet deformation under the large seismic load is not so clear. In this study, authors conducted experiments and analysis of beams which simulates piping due to cyclic sinusoidal or more complicated waves (composite sinusoidal wave). As the results, authors confirmed that ratchet deformation occurrence conditions are strongly affected by the frequency of input wave. Moreover, he mechanism of ratchet deformation was explained from the view point of energy transfer from input loading to the beam and amplification factor of the beam.
Keywords: Ratchet deformation, Vibration, Frequency ratio, Load-controlled stress, Displacement-controlled stress, Input energy, Amplification factor
はじめに
研究の背景
福島第一原子力発電所の事故以降、「事故が起こらない ような設計」に加え「事故が起こることを前提とした対策」 を重要視することが必要になっている[1]。そのため設計基準外事象(BDBE)下での実際の破損シナリオ評価が必 要になる。従来の研究で過大地震が起こるとき、原子力発電所の機器および配管の破損モードとして進行性変形お よび疲労が確認されている[2]。過大地震荷重におけるこれらの破損モードのメカニズムは明確にはわかっていない。そこで本研究では進行性変形について着目する。進行性変形とは一定の一次応力に、繰り返し二次応力が重畳した場合に、平均ひずみが蓄積されていく変形である(Fig.1)。
Fig.1 An example of strain at ratchet deformation
これまでの研究
本研究グループでは配管を模擬した梁に対して振動荷重を与えた際の進行性変形の発生条件についての研究が 行われている。その中で梁に与える振動荷重を正弦波と したときの進行性変形に関して実験及びFEM 解析によって明らかになっている[3]。解析モデルの概略はFig.2 のようになっている。片持ち梁自身の重さと先端に付与 された荷重によって一定の1 次応力が働くようになって
いる。 た梁に 力加 を与えることで繰り返しの2
次応力が発生している。進行性変形発生条件はFig.3 の
ように とめられている。fn は梁の固有振動数を表し、1.0fn は固有振動数と同じ振動数を持つ正弦波加 を与えているときに相当する。 た横軸は1 次応力を降伏応力で除して正規化した値(X)、縦軸は2 次応力を降伏応力で除して正規化した値(Y)である。図中の青線が進行性変形発生条件を表しており、線より上側の条件で進行性変形が起こる。よってグラフの線が下に来るほど、 進行性変形が発生するために必要な2 次応力が小さく、進行性変形が発生しやすいということになる。
実験及び解析において様々な振動数比の 力波に対する進行性変形発生条件を とめたものをFig.4 及びFig5 に示す。実験においてもFEM においても、固有振動数及びそれより低周波側の振動数を与えるときに進行性変形が発生しやすくなることがわかった。 た、この傾向は定 応力の大きさにかかわらないことが確認できる。
Fig.2 A schematic of the analysis model
Fig.3 Ratchet deformation occurrence condition at 1.0fn
Fig.4 Ratchet deformation occurrence conditions (experiments)
Fig.5 Ratchet deformation occurrence conditions (analysis)
目的
従来の研究により、梁に正弦波加 を与えたときの進行性変形の発生条件については整理がなされている。しかし、実際には正弦波よりも複雑な地震動が起こっており、そうした状況下での構造物の進行性変形の発生条件およびメカニズムは明確になっていない。本研究では実際の地震現象に近づけるため、梁に与える 力加を正弦波より複雑な波形とした場合の進行性変形の発生 条件明らかにすることを目的とした。具体的には、正弦波の結果と複雑波の結果を周波数に着目して比較してそれぞれの相違点を明らかにし、そこから正弦波および複雑波における進行性変形発生のメカニズムを検討する。
方法
実験装置及び実験方法
Fig.6 に示すように鉛アンチモン合金の平板試験体の下端を振動台に固定して、水平振動を与えた。鉛アンチ モン合金の物性値はtable1 のようになっている。 た試験体の形状はFig.7 のようになっている。
試験体の先端には剛な金属棒を取り付け、さらにその棒の先に錘がついている。重力により梁に定 1 次曲げ応力が発生する。 た試験体に加 を与えることで慣性力が働き、これにより繰り返し曲げ応力が発生する。本実験では従来の研究に比べ複雑な振動を考えるため、
力加 として、異なる振動数の正弦波を足し合わせた複合波を用いた(下式)。
x"e = A(sin2 吋1t + sin2 吋2t)
ここでAは 力波の振幅を表し、吋1および吋2は実験のパラメータとして与える複合波の振動数となっている。例えば0.5fn+1.0fn の複合波を 力波として用いる場合、吋1 = 0 5fn、吋2 = 1 0fn となる。本実験では、吋1は固有振動数の0.5 倍で固定し、吋2を変化させてそれぞれの条件において進行性変形が発生するための加 を求め、ここから進行性変形の発生条件を とめた。進行性変形発生の基準は 力振動100 サイクルに対して、最大ひずみ(梁の根本部分、Fig.7 の黒丸部分)が1.0%となった
と設定している。
Fig.6 Experiment apparatus
Table1 Material properties of Pb99%-Sb1%
Young’s modulus
Yield Stress
Density
16GPa
8.5MPa
11340kg/m^3
Fig.7 Size of specimen
FEM 解析
実験の条件を模擬したモデルの作成をプリ・ポスト
プロセッサ FEMAP ソフトウェアによって行い、有限要素解析をソルバーとしてFINAS/STARを使用し行っ た。解析方法は大変形を考慮した動的弾塑性 刻歴解であり、実験と同様に、各振動数比条件において進行性変形
に必要な加 の大きさを求め、進行性変形の発生条件を とめた。
モデルはFig.8 のようになっている。断面が6mm×13mm、長さが140mm の一様矩形梁モデルを用いており、試験体の梁部分を模擬した形になっている。長手方向がx方向、
y 方向が高さ方向、z 方向が奥行き方向になっている。梁の右端を自由端とし、先端荷重が付与されている。左端は 中央部分のみ完全拘束になっており、その他は y 方向のみ自由 を与えている。平面応力要素を使用しており、メッシュの分 数は長手方向に120、高さ方向に32 分 されており、総メッシュ数は3840 個になっている。 たラチェットが発生するのは梁の固定端上部(Fig.8 の丸部分)なので、その周辺のメッシュが一番細かくなるようにしている。
た材料は純鉛としており、各物性値はTable.3 のようになっている。完全弾塑性モデルを用いており、塑性域において応力は降伏応力で一定になるようになっている(Fig.9)。
Fig.8 An analysis model
Table.3 Material properties of pure Pb
Young’s
modulus
Yield
stress
Density
Poisson
ratio
16 GPa
5.0 MPa
11340 kg/m^3
0.44
Fig.9 Stress vs Strain (Elastic perfectly plastic model)
ここでは重力加 は図の下向きにかかっている。先端に錘を付与することで梁及び錘の重さによって梁に定
曲げモーメントが発生する。一方固定端に正弦波加
を与えることで梁及び錘に慣性力が働き、これによる 曲げモーメントが加わる。これらのモーメントにより梁 の各部分に応力が発生するが、引張応力が最大になるのは梁の固定端の最上部であり、ここで進行性変形が発生することになる。進行性変形発生の基準は実験のものと 比率を揃え、50 サイクルの 力波に対してひずみが0.5%になった と定めた。
結果
振動数ごとにみた進行性変形発生条件はFig.10 のようになった。ここでは正弦波においても過去の研究データを用いて とめ直している。正弦波のグラフ(左)の横軸は与えた 力波の振動数比、複合波のグラフ(右)における横軸は0.5fn+xfn としたときのx になっている。例えば正弦波のグラフにおいて横軸1.0 は1.0fn の正弦波を与えた に対応するが、複合波のグラフにおいての横軸1.0fn は0.5fn+1.0fn の複合波を与えた に対応する。Y の値は各振動数比の条件に対して進行性変形が発生する 力加 の大きさを示しており、Y の値が小さいほど、小さな加 で進行性変形が発生することになる。
Fig.10 Y value vs frequency ratio (Sinusoidal and Composite)
考察
振動数の進行性変形発生条件への影響について
正弦波において1fn より低い振動数に着目すると、どこもY の値が1 付近と小さく進行性変形が起こりやすくなっているが、1fn より高振動数側では振動数が大きくなるにつれて進行性変形が起こりにくくなっている。一方複合波において1fn より低振動側では正弦波の とほぼ同じ値になっている。しかし1fn より高振動側では正弦波の に比べY の値が小さくなり、進行性変形が起こりやすくなっていることがわかる。これは固有振動数よ り低振動数側である0.5fn の影響であり、低振動数と高周波数の複合波においては低振動数が進行性変形の発生条件に対して支配的な影響を持つ。
入カエネルギーによる進行性変形発生条件のメカニズムの説明
4.1 での考 は振動 サイクル当たりの梁に 力されるエネルギーの観点から理解することができる。Fig.11 は梁に働く 力加 の最大値を一定値に定めたときにおける、正弦波及び複合波の振動数比ごとの 力されるエネルギーを表した図である。正弦波及び複合波においてヒークが0.75fn となり、振動数がそれより高くなるに従い 力エネルギーは低下する。 た全体的に複合波に比べ正弦波の の方がやや値が大きくなっている。これより複合波0.5fn の成分によって進行性変形が起こりやすくなっていることがわかる。
Fig.11 Input energy per 1 cycle load
1 自由度系モデルによる複合波加速度での振幅倍率及び正弦波との比較
梁を1 自由振動系とみなした の応答倍率を考える。正弦波及び複合波の の応答倍率を理論式から求めるとそれぞれFig.12 およびFig.13 となる。
Fig.12 Amplification factor (sinusoidal)
Fig.13 Amplification factor (composite)
ず複合波加 の振幅倍率の傾向を確認する。正弦波加 のときと同様に、振幅倍率のヒークは減衰比が大きくなるほど固有振動数より低振動側に移動する。これは塑性化に従って共振周波数が低下する現象である。 これにより低振動数側で振幅倍率が高くなり進行性変形が起こりやすくなっている。一方高振動数側では振幅倍率が小さくなり、進行性変形が起こりにくくなっている。
た、正弦波加 の場合との比較を行う。Fig.12 とFig.13 を比べると、高振動数側において複合波加 の方が正弦波加 に比べ振幅倍率が高くなっている。これは複合波における0.5fn の成分による影響であり、低振動数の成分が進行性変形を起こしやすくしていることがわかる。
結論
本研究では梁に対して、2種類の周波数の正弦波を重ね合わせた複合波加 を与えた実験及びFEM 解析を行い、単一周波数の正弦波加 の結果と比較することで下記のことが新たに分かった。
複合波加速度を与えたときの進行性変形発生条件の傾向
複合波加 の成分がどちらも低振動数側(周波数比が より小)であるときの進行性変形発生条件は、どちらか片方の正弦波加 を与えたときの進行性変形発生条件と変わらなかった。低振動数同士の加 成分は互いの進行性変形発生条件に対して影響を与えないことがわかった。
一方複合波加 の成分が高振動数(周波数比が より大)と低振動数の組み合わせの は、進行性変形は高振動数の正弦波の に比べ起こりやすくなる。これは低振動数の成分が加わったことによる影響だと考えられる。
入カエネルギーによる進行性変形発生のメカニズム
正弦波加 及び複合波加 を与えたときの進行性変形発生条件の傾向は定 状態における振動荷重1 サイクル当たりに梁に 力されるエネルギーの観点から説明することができた。低振動数側で 力エネルギーは大きくなり、高振動数になるに従いエネルギーは りづらくなった。 た、複合波と正弦波の差異についても、 力エネルギーにより説明できた。
振幅倍率による進行性変形発生のメカニズム
1 自由 理論モデルを用いて複合波加 における振幅倍率線図を作成した。低振動数側で振幅倍率が大きく なり、高振動数側で振幅倍率が小さくなるという結果は、複合波加 における進行性変形発生条件の傾向を
説明することができた。 た高振動数側では正弦波加
の に比べ複合波加 の方が振幅倍率は大きくなった。これは低振動数成分の影響であり、このことは高振動数側において 力エネルギーが複合波加 の方が大きいこと、進行性変形が複合波加 の方がしやすいことの理由を説明している。これらの結果から、進行性変形の発生に対して、低振動数の正弦波成分が支配的な影響を及ぼすことがわかった。これより、実際の地震荷重 を与えたときの進行性変形の発生条件を評価する際、地震波の周波数成分の中で、機器配管の固有振動数より低振動数側の加 成分に着目すればよいという仮定が生
れる。本研究は、今後実現象である地震荷重を対象に研究を行っていくうえで有益な結果が出たといえる。
複合波加 を与えたときの進行性変形発生条件を振動数比ごとに とめることができた。 た同じ形式で正弦波加 の の進行性変形発生条件も とめ、これらを比較することで複合波においては低振動数の成分が進行性変形を起こしやすくすることがわかった。この傾向は一定の外力を与えたときに低振動成分を持つ方が 力エネルギーが大きくなることから理解することができ た。
参考文献
ASME, “Forging a New Nuclear Safety Construct”, 2012
EPRI, “Piping and Fitting Dynamic Reliability Program Volume 1: Project Summary”, 1994.
Md Abdullah Al Bari, Ryota Sakemi, Yamato Katsura, Naoto Kasahara, “Proposal of Failure Mode Map under Dynamic Loading ? Ratcheting and Collapse”, Journal of Pressure Vessel Technology, ASME (Submitted, January 2017) , pp-3.