地質構造から見た北海道ブラックアウト

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カテゴリ: 第16回
地質構造から見た北海道ブラックアウト Hokkaido Blackout from Aspect of Geological Structure 北海道大学杉山 憲一郎Kenichiro SUGIYAMAMember Abstract The present paper explains that the southwest region of the central Hokkaido has a geological structure of causing M6.7 earthquake on September 6, 2018, and multiple short circuits of jumper lines at transmission line towers near the epicenter, which caused the shutdowns of main hydropower units (370MW), were fatal to prevent the blackout. This means that a large-scale hydropower units with reliable capability of automatic frequency control are always required in case of a large-scale shutdown of thermal power units. The lesson is the dispersibility of large-scale power units and main transmission lines. Keywords: Hokkaido Blackout, Geological Structure, Earthquake, Short Circuit, Dispersibility 1 はじめに 18 年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、泊発電所を代替していた道内最大規模の苫東厚真火力発 電所(165 万kW)が停止し、離島などを除く道内約 295 万戸で停電(ブラックアウト)が発生した。 本報では、最初に M 6.7 地震が発生した中央北海道南西部の地質構造の特徴を紹介する。その情報に基づき、 地震リスクの大きい地域での最大火発発電設備の停止に加えて、地震動に起因するジャンパ線の多重地絡により、 自動周波数制御(AFC)機能を持つ主要水力発電設備が停止し、ブラックアウトに至ったことを報告する。 2 北海道の地帯区分 東部北海道の根釧台地と千島列島へ伸びる知床半島・根室半島部分は、地質溝造的には千島弧に分類される。この東部北海道は過去には北に位置していたが、オホーツク海の拡大と千島海溝への太平洋プレートの斜め沈み にみにより南西方向に移動した結果、中央北海道に衝突 し現在の東部北海道を形作っている。 中央北海道の地質構造は、宗谷海峡を隔ててサハリンに続いている。その証拠の具体例を一つ紹介する。旭川市近郊の神居古渾峡谷の「神居古渾帯」と呼ばれる蛇紋岩帯は、襟裳岬から伸びる日高山脈の南西部に位置する新ひだか町三石から夕張山地・道北を通過し、サハリンへ続いている[1]。また、近年、胆振東部地震の震源東側 で恐竜の全身骨格化石が発掘されたことなどから、過去 連絡先: 杉山憲一郎、〒007-0837 札幌市東区北 37 東 28 2-10 、所属先: 北海道大学名誉教授、E-mail: oldsugi@.yahoo.co.jp に北海道中央部はユーラシア大陸の東縁に位置していたことと分かっている。 西部北海道の地質構造は、南端に函館市が位置する 渡島半島で説明できる。現在、この半島は津軽海峡によ って東北地方から分離されているが、地質構造的には東 北日本の延長部である。 更に西方の日本海東縁部では、約 300 万年前以降、アムール(ユーラシアプレートの一部)・オホーツク(北米 プレートの一部)プレート間の東西方向の圧縮テクトニ クスが活発化している。このため、サハリン・北海道・東北地方の日本海東縁に太平洋側のプレート境界型と異なる南北に連続する地震発生帯(1993 年M7.8 北海道南西沖地震はこのエリアで発生)が出来上がっている[2]。 3 中央北海道南西部の地形と地質構造 Fig.1 に、中央北海道南部と東部北海道の地表と海底地 形の特徴を示す[1]。中央北海道南端の襟裳岬から北方へ伸びる日高山脈(南北約150km)は、東部北海道の南西方向への動きにより衝上断層ができ、めくり上がることで形成された。日高山脈の西に位置する衝上断層は、石狩低地東縁活断層帯と呼ばれており、苫東厚真発電所に極めて近い。図には示されていないが、石狩低地帯の西側には、太平洋プレートの沈み込みにより造り出された支 笏カルデラや恵庭岳・樽前山火山がある。 このため、石狩低地以東の胆振東部地域は、これらの 噴火によって噴出した火山灰や軽石などのテフラ(火山砕屑物)層で覆われている。軽石層は透水性が高く、古いテフラ層は化学的風化で粘土化していく。9月 5 日の 台風21 号に加えて夏期の降水量が平年の約1.6 倍と多か 技術論文「放射光CTによる原子炉材料のsCCき裂観察」 Fig.1 Thrust faults in the related zone [1] ったことから、この地層に多量の水が含まれていて、立 日6日のM6.7 地震で一気に斜面崩壊が生じた[3]。 更に東方の北電の主力水力発電所がある日高山脈南西部は、以前から地震活動が活発で、1920 年以降、M6.7 以上の地震が5 回発生している。最大の地震は、1982 年の 沖地震で M7.1 であった[2]。苫東厚真発電所の東エリアで発生したM6.7 胆振東部地震は、このエリアの西端に位置し石狩低地東縁活断層帯南部の東側である。 石狩低地東縁断層帯主部(北部)は美唄市から安平町まででM7.9 程度、南部は千歳市から勇払平野沖の海域まででM7.7 以上と評価されている[2] 。苫東厚真発電所は断層帯南部に隣接している。価格の安いオーストリア産の海 を することを前 に、道内の電力 地に近いこの地域のリスクと評価し、運 がされていた。今回の地震では、震源に近い地域でジャンパ線の 動により3 線路の4 回線で同時地絡事故が発生した[3]。 Fig.1 に示されるように、中央北海道の南部にある日高山脈は、千島海溝と日本海溝の会合部付近から伸びている襟裳海脚と襟裳岬付近で併存し、西に凸型状の衝上断層を作り出している。この地域は、東部北海道の地殻から西向きの圧力を受ける一方で、東北地方と一体の西部北海道の地殻にと拘束されている。更に、千島海溝と日 本海溝の会合部付近から西に傾いて(西向きの運動力を得て)中央北海道南部の地殻に沈み込む太平洋プレートからと拘束されている。 中央北海道の胆振東部・日高地域で地震が発生し易い理由は、地震波の伝わる速さの変化に基づき求めた地殻の構造から定性的に理解できる。 Fig.2 は、昨年の胆振東部地震の震源地に近い南西・北東方向の断面で太平洋プレートスラブ上での中央北海道地殻の変形状況を示している[1]。東部中央北海道地殻の厚さは40Km 以下である Fig.2 Crust deformation in the related zone [1] のに対して、西部中央北海道地殻は厚さが約70Km に達し太平洋プレート上面の海洋地殻に接している。また、南 西側の東北ウエッジマントルは、この領域に刺さり込む ように狭くなり、北東側のウエッジマントルは、中央北 海道地殻にせり上がっている。すなわち、東部中央北海道地殻と西部中央北海道地殻の 2 の上 プレートが衝突しながら互いに重なり、太平洋プレートに接するまで厚くなっている。要約すると、この地域はプレートの3 重会合的領域が形成されており、地殻構造的に逆断層型の地震が発生し易いことが分かる。 まとめ 本報では、苫東厚真発電所の地域は、 された 600 Gal 以上の強振動地震が発生し得ることを、地質構造的に説明した。大規模斜面崩壊を発生させた地震に対して主要送電鉄塔は健全であったが、ジャンパ線の多重地絡事故が発生した。その結果、周波数が上 し、自動周波数制御(AFC)機能を持つ主要水力発電設備が停止し、苫東厚真発電設備を代替できなかった。強振動による多重事故がブラックアウトの原因である。今回の教訓は、「主要発 電設備・主要送電線の分散」と言える。また、日本海側の泊発電所あるいは京極陽水発電所が稼働中であれば、ブラックアウトは発生しなかったと推定できる。 参考文献 学 2 名“, れ動く大地 プレートと北海道 ”,北海道新聞, 2018 年8 月. 笠原稔 3 名,“北海道の地震と津波”,北海道新聞, 2012 年2 月. 電気学会 電力・エネルギー部門,“北海道胆振東部地震で発生したブラックアウトを考える”,公開シンポジウム,北海道大学 ,2019 年3 月19 日.
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