浜岡1号機原子炉圧力容器に関する研究 ―廃止措置プラントを活用した材料研究―
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カテゴリ: 第15回
浜岡1号機原子炉圧力容器に関する研究
―廃止措置プラントを活用した材料研究―
Research on reactor pressure vessel in Hamaoka Unit 1
- Material research utilizing decommissioning NPS -
中部電力掬 原子力安全技術研究所
熊野 秀樹
Hideki YUYA
Member
中部電力掬 原子力安全技術研究所
大山 正孝
Masataka OYAMA
Member
Fact finding survey of actual reactor pressure vessel in decommissioning Hamaoka nuclear power station has been conducted. All boat samples was already transported to a domestic post irradiation examination (PIE) facility. During the PIE, un-irradiated archive materials was also investigated for better understanding of cladding HAZ in base metal, as introduced in the 14th JSM conference. This is the progress report describing some new results obtained after the conference.
Keywords: RPV, Decommissioning, Sampling, Boat sample, Irradiation, Embrittlement
1. 緒言
当社は、2009 年に運転を終了した浜岡原子力発電所 1 号機の原子炉圧力容器の調査研究を 2014 年度に
した。 調査は 2015 年度からは の にも採択されている。
実機の調査はサンプリング、輸送およびシャルピ ー衝撃試験片等の加工に相当な準備期間を要したた め、今年度に 格試験が集中している。採取した実機サンプルは原子炉内表面クラッディング下の母材 であり、この部位に対する過去の調査 例は少ないことから、実機保管材(非照射材)を利用して予備 検討を行った。前報では、実機サンプルと保管材
(非照射材)の金相や硬さ分布が内表面から圧力容 器の厚さ方向に傾斜しているという共通の特徴を見 出した。このことから、内面クラッディング下の圧 力容器母材はクラッディング溶接熱影響部(クラッ ディング HAZ)であることが確認で た。
今回、前報からの進捗について報告する。
2 試験結果
2 1 材料調査
実機の硬さ分布の原因を探るため、保管材を対象
に FE-EPMA による元素分析を行った結果、内面クラッディングと母材の境界近傍では、マンガンと炭素 の濃度がピークを示すという特徴が見られた。特に 炭素は境界近傍に遍在していた。
連絡先:熊野秀樹, T437-1695 静岡県御前崎市佐倉
5561, 中部電力株式会社 原子力安全技術研究所, E-mail:Yuya.Hideki@chuden.co.jp
詳細に溶融境界近傍の炭素の線分析を行った結果、 溶融境界近傍での炭素のピークの幅が約 30μm あり、圧力容器側で炭素の枯渇する部分が幅約 150μm 存在する傾向を示した。
溶融境界近傍を TEM と EDS 分析した結果、元素濃度変化が生じている領域にはマルテンサイト 組織に特有の高密度の転位が存在し、細かい線状の 模様が見えた。この各元素濃度が変化している領域 を詳細に した結果、Cr が析出していた。面分析の結果、Cr 富化領域が島状に分布しており、溶接時に母材側に拡散したと推測した。
これらが実機の硬さ分布の原因と推測した。
2 2 シャルピー衝撃試験(1)試験結果
研究で用いる実機サンプルから採取で るシャルピー衝撃試験片は標準サイズ(10×10×55mm)に対 し小型になる。このため、保管材の非熱影響部(母 材部)から標準サイズ試験片および 1/3 サイズ試験片を採取し、サイズ効果を検討した。その後、クラッ ド HAZ の 1/3 サイズ試験片から、標準サイズ試験片の衝撃特性の予測・評価を行った。
衝撃試験に使用した試験片は以下の3 種類である。
・母材部(1/4 厚さ位置)の標準サイズ試験片
・母材部(1/4 厚さ位置)の 1/3 サイズ試験片
・クラッディング HAZ の 1/3 サイズ試験片
図 1 に衝撃試験片の形状、表 1 に衝撃試験片の寸法を示す。クラッディング HAZ から採取した試験片は、圧力容器鋼内側から 6.6mm の位置にノッチ底が位置するように採取した。
図 1 衝撃試験片形状
表 1 衝撃試験片寸法
(2)サイズ効果の検討
USE に対するサイズ効果の 正法に関し、4 研究グ
ループが試験片寸法やノッチ部の応力集中係数(Kt) を考慮した式を提唱している。それらを 研究結果に適用すると 15~44%の誤差が生じた。これは試験片長さやアンビル間隔に関する考え方が異なっている ためである。 研究では、シャルピー衝撃試験時の変位-荷重曲線の詳細な 結果と試験片がアンビル間を通過するために必要な移動距離(l)を考慮した 以下の(3)式を 正係数として考案した。
Bb(B + l)
標準サイズ
1/3 サイズ
L [mm]
55
27.5
B [mm]
10
3.3
b [mm]
8
2.7
A [mm]
2
0.6
θ [°]
45
30
r [mm]
0.25
0.08
X =(3)
Kt
この 正係数により、150J 以 の鋼材に対しては
10%以下の誤差で予測で た(図 2)。
試験機は、標準サイズ試験片用の計装化 300J 試験機および微小サイズ試験片用の計装化 50J 試験機で、アンビル間隔はそれぞれ 40mm と 20mm とした。ロードセルはハンマーに埋め込まれており、衝撃力の時 間変化を波形解析することがで 、この変位-荷重曲線から吸収エネルギーE が分かる。試験片の温度は、77K の時は液体窒素、163K から室温では極低温槽を用いて任意に変化させた。
ハンマーの衝撃負荷速度は300J の試験機ではJIS 通りの 5.0 から 5.5m/sec で実 し、50J の試験機では 3.8 m/sec で実 した。
各温度で得たデータは従来から行われている通り、 以下の式でカーブフィッティングした。
E = A + B tanh(T- TO)(1)
C
E は の吸収エネルギー、T は試験温度、A、B、
C、TOは定数である。また各定数間には以下の関係が
り っている(DBTT 性 性 移温度、USE
部棚エネルギー、LSE 下部棚エネルギー)。
A + B = USE
図 2 予測したUSE と誤差
方、DBTT に対するサイズ効果についても検討し、
12K 以内の精度で 正する方法を考案した。
3 まとめ
内面クラッディング近傍の母材には炭素の偏析増 大によるマルテンサイト相形 と Cr 炭化 の析出や Fe/Cr の二相分離が起 ていると考えられる。
衝撃特性に す試験片寸法の影響については、1/3 サイズ試験片データから標準サイズ試験片データを予測する関係式を新たに 発した。
A-B = LSE TO = DBTT
(2)
4 今後の展開
試験結果をまとめると、試験片サイズの減少とと
もにDBTT、USE およびLSE が低下する傾向がある。1/3 サイズ試験片では母材部の USE が高い 方、DBTT は母材部と HAZ の いは ではなかった。
研究では、実機サンプルの 性試験を実 中である。また、実機サンプルのアト プローブ分析も行う予定である。