欧米主要国の原子力の保全分野でのAI適用例

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カテゴリ: 第16回
欧米主要国の原子力の保全分野での AI 適用例 Application of AI technology in the Maintenance at Western Nuclear Power Plants 日本エヌ・ユー・エス(株)伊藤邦雄 Kunio ITO Member 東北大学高木敏行 Toshiyuki TAKAGI Member AI application examples in the field of nuclear power maintenance in the United States (US) and Europe were investigated from publicly available information. Various tools and software utilizing digital technology such as IoT and AI are being developed by manufacturers and IT vendors, and their application has begun in some nuclear power stations in Europe and the US. AI technology is being applied to power generation, transmission and distribution facilities including nuclear power plants in the US and Europe for maintenance optimization, such as monitoring of plant conditions, early detection of degradation by the use of big data. And an active use example is image diagnosis for transmission and distribution equipment visual inspection (e.g., use of drone). AI is also applied to the field of operation (for example, improved monitoring of operation performance using big data). The AI technology applied is roughly classified into document management technology and monitoring/diagnosis technology including image diagnosis. Keywords: artificial intelligence, maintenance, nuclear power plant, IoT, document management, image diagnosis 1.はじめに 日本保全学会ではAI(人工知能)の保全適用に関する検討を開始しているが、本稿では、その一環で欧米主要国の原子力保全分野でのAI適用例を公開情報から調査した結果を以下にまとめる。 IoT などのデジタル技術やAI を活用した様々なツール・ソフトウェアが国内外の機器メーカーやIT ベンダー系で開発されていて、欧米の一部の原子力発電所においても適用が始まっている。 2.米国原子力関連機関でのAI 利用 原子力規制委員会(NRC) AI が資料のデータベース(DB)化と検索機能の高度化に利用されている。NRC の公式レコードの管理システムはADAMS と呼ばれていて、200 万件を超えるNRC 所蔵の全てのレコードが収録されている[1]。そのADAMS の文献検索機能の一つにAI(拡張知能)機能を備えたIBM のWATSON が利用されていて、高度な検索機能を提供している。本機能を利用することで、膨大な情報の中から、ユーザが望む情報が容易に検索される仕組みができている。特に、非構造化情報(例、マイクロフィッシュで所 連絡先:伊藤邦雄、〒160-0023 東京都新宿区西新宿7-5-25、日本エヌ・ユー・エス(株)エネルギー技術ユニット E-mail: itohk@janus.co.jp 蔵している古い図書情報)のADAMS データベースへの登録でWatson 機能を活用していると推察される。 そのほか、NRC の規制研究の支援を目的にAI 活用が試行されている。これはKE(ナレッジ・エンジニアリング)の分野で、自然言語分析ソフトウェア(IBM Content Analytics Version 2.2)を利用して、ADAMS 内の膨大な情報から、NRC スタッフが行う特定の研究テーマに必要な情報だけを効率的に探し出すことが可能かどうかの研究を行っている。これは、非構造化情報から必要な情報を収集・分類し、分析までを一貫して行うソフトウェアである。そこでは、3 件の事例について研究を行っており、そのうち第一の活用事例では、サイト内の複数ユニットで発生する異常事象の発生可能性と影響評価の検討材料とするために、これに該当する運転経験情報をADAMS から検索・収集することで、従来の人手に頼る方法と比較することでその効果を確認した。 エネルギー省(DOE) 2019 年4 月、DOE はAI と機械学習の関係の研究開発に2,000 万ドルの予算をつけることを発表している[2]。送電網の強化に向けて総額約700 万ドルが充てられていて、ビッグデータを活用した異常事態の検知とモデリング、送電網の高速な応答分析技術の開発、アセット管理、停電回避のための自動制御などが含まれる。また新しいAI アルゴリズムとソフトウェアの開発提案に向けて1,100 万ドルが充てられている。 電力研究所(EPRI) EPRI では電力業界へのAI 適用可能性を見極めるための20 件以上のプロジェクトを立ち上げている[3]。ドローンを活用した送変電設備の点検監視結果をAI技術で画像 診断するプロジェクトや、気象データから太陽光発電と 風力発電をより正確に予測することで送電網の需給調整 に役立てることなどが検討されている。EPRI のData Analytics Initiative と呼ばれる活動は、AI に強いIT 業界とそのユーザである電力業界との橋渡しを担う機関として、電力業界が有する膨大なデータを収集し、有効活用する ことを目指している。 大学・研究所 ANL(Argonne National Laboratory)では、プロセスの監視と故障の検知にAI 技術を適用している[4]。多変量状態推定技術(MSET)と呼ばれるリアルタイムのプロセス監視を行うためのソフトウェアシステム(状態推定モデルと故障検出モデル)と、PRODIAG と呼ばれるプロセス故障診断のためのプラント独立AI開発システムを自主開発している。 パーデュー大学ではビデオ画像情報から深層学習(ディープラーニング)を使用して原子炉機器の亀裂を検出する技術を開発している[5]。 3.欧米の電力会社や原子力発電所でのAI 利用例 米国の電力会社での例 Exelon 社傘下の6 つの電力会社では2017 年から、送変電・配電設備の保守管理にGE 社のPREDIX ソフトウェアを活用し、停電予測と管理を徹底、送配電システム全体のパフォーマンスを強化している[6]。送変電設備の外観点検結果の画像診断が主な適用技術と思われる。 Southern Nuclear 社では、DecisionIQ 社のAI ソフト (Genesis AI)をプラントデータのリアルタイム監視と故障予知に利用している[7]。プロセスデータのビックデータ活用と思われる。 Ameren 社のCallaway 原子力発電所ではBentley 社のAssetWise を文書管理に利用している。非構造化情報も扱うことが可能なこのツールを利用することで、発電所内の約24 万個の機器についての情報がシステムやフォーマットに関係なく一元的に管理されている。 欧州の原子力業界の例 2017 年、Areva はIBM Watson と提携し、機器とデータベースのデータを組み合わせて保全計画効率を向上させ、限られたリソースの使用を最適化するビジネスを目指す ことを発表した。 EDF Energy 社は2017 年、原子力発電所のAI 適用を目指すとしており、特に予知保全分野への適用を考えている。センサーから取得したデータをリアルタイムで解析して予知保全につなげるというもので、将来的には発電所の自動運転につなげることを考えている。 4.IT ベンダー、メーカーなど IT ベンダー、メーカー系が開発するAI 関連ソフトは幅広い適用分野があるが、これには発電所の保全分野への適用が可能なものが含まれる。 IBM Watson 自然言語などの非構造化データや画像認識など12 種類の API を使用できるが、これには言語解析系、画像認識系、音声認識系がある[8]。前述したようにNRC の資料ライブラリーADAMS でもWatson が利用されている。 GE 社 GE 社ではここ数年デジタル化への取り組みを強化している。クラウドベースの産業向けIoT プラットフォームであるPredix が主たる商品で、発電所その他の設備の故障予知やオペレーション効率向上に活用されている[9]。日本のNEC が持つAI 技術群「NEC the WISE」をクラウドサービスとしてGE のPredix 開発者向けサイト 「PREDIX.io」で提供する計画も2016 年に発表されている。ただし、GE は2018 年末に営業方針の見直しを行い、産業用ソフトの子会社を売却するとともに、残ったデジタル事業を分社化するとの報道もある。 Bentley 社とSiemens 社 Bentley 社とシーメンス社は発電所向けアセットパフォーマンスマネージメント(APM)ツールを共同開発しており、2019 年にはアセットマネージメント関係の優秀賞を受賞している[10]。APM は発電所の信頼性とパフォーマンスに影響を及ぼす全ての機器をモデルに取り込み、デジタルデータからリアルタイムで発電所の健全性を評価することで効果的な予知保全につなげるものである。発電所の計算機保守情報管理システム(CMMS)とのシー ムレスにリンクしている。 Bentley 社のAssetWise はデジタル技術を活用したもので、設備のパフォーマンスを最適化し、安全性、信頼性、 法令遵守、運転効率およびリスク軽減をサポートする[11]。AssetWise は、共通のデータ環境を活用するハイブリッドクラウド計算機プラットフォーム上に構築されていて、 資本計画から資産管理までの意思決定を可能にしている。 Uptake 社 UPTAKE 社(米)とは、米国の原子力発電所で最近その適用が始まった価値基準保全(VBM:Value Based Maintenance)の実施をサポートするツールPREVANTANCE を提供するAPT 社(米)を吸収した産業向けのAI/IoT ツールの開発・提供会社である[12]。PREVANTACNCE は、EPRI のPM テンプレートとPM 基盤データベース(PMBD)情報を含むツールとして商業化された製品である。従来のRCM(信頼性重視保全)に代わる手法として、よりコスト効果性の高い保全方法を見出すための評価手法としてAPT 社の創業者らが開発した手法である。 同社の最大の強みはASL(Asset Strategy Library)と呼ばれる世界最大の予防保全にかかわるデータベースを有 していることで、これには800 以上の機器タイプについて 58,000 以上の故障モードに関する情報が含まれている。 4.まとめ 欧米主要国の原子力発電所を含む発電・変電・送電設備へのAI 適用分野としては、保全分野(発電所設備の状態監視、予兆の早期検知、送変電施設の点検支援(例、ドローン利用)など)の他にも、運転分野(例、ビッグデータを利用した運転パフォーマンスの監視技術の向上など)、発電事業分野への適用などがある。 適用されているAI 技術としては、文書管理技術と画像診断を含む監視・診断技術に大別される。 AI の適用には一般に実用段階、研究・実証段階あるいは基礎研究段階のものに区分されるが、欧米の原子力分野では一部が実用段階に入っているようである。 我が国では、火力発電所や送変電設備などでAI の実証が始まっている。原子力発電分野では、その実証や実用はまだ先のことと思われるが、欧米を含む発電分野での 成功経験を踏まえて今後は徐々に導入が進められていくものと思われる。 参考文献 NRC web site ; https://www.nrc.gov/docs/ML1505/ML15055A041.pdf, https://www.nrc.gov/docs/ML1635/ML16355A373.pdf DOE web site ; https://www.energy.gov/articles/department-energy-annou nces-20-million-artificial-intelligence-research EPRI web site ; http://eprijournal.com/can-artificial-intelligence-transform- the-power-system/ ANL web site ; http://eprijournal.com/can-artificial-intelligence-transform- the-power-system/ Purdue web site ; https://www.purdue.edu/newsroom/releases/2017/Q4/syst em-uses-deep-learning-to-detect-cracks-in-nuclear-reactor s.html Exelon web site ; http://www.exeloncorp.com/newsroom/exelon-and-ge-par tner-to-strengthen-system-performance-and-reliability Southern information ; http://uwckb.ans.org/2017/UWC_KB_2017_Rev_Release A.pdf IBM web site ; https://www.ibm.com/watson/jp-ja/what-is-watson.html GE web site ; https://www.ge.com/digital/iiot-platform Siemens web site ; https://new.siemens.com/global/en/products/energy/servic es/digital-services/asset-performance-management.html Bentley information ; https://www.plantservices.com/resource-center/bentley/ UPTAKE web site ; https://www.uptake.com/about
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