核燃料物質使用施設の高経年化リスク評価手法の開発 (1)リスク評価フローの検討

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カテゴリ: 第17回
核燃料物質使用施設の高経年化リスク評価手法の開発 (1)リスク評価フローの検討 Development of risk assessment method to cope with an aging degradation for the facilities using nuclear material. (1) Risk assessment flow of equipments 日本原子力研究開発機構 玉置裕一 YuichiTAMAOKI Member 日本原子力研究開発機構 磯﨑涼佑 RyosukeISOZAKI Member 日本原子力研究開発機構 鈴木隆太 RyutaSUZUKI Member 日本原子力研究開発機構 赤田雅貴 MasatakaAKADA Non-member 日本原子力研究開発機構 澤幡哲司 SatoshiSAWAHATA Member 日本原子力研究開発機構 米澤諒真 RyomaYONEZAWA Member 日本原子力研究開発機構 鈴木尚 HisashiSUZUKI Non-member 日本原子力研究開発機構 坂本直樹 NaokiSAKAMOTO Non-member 日本原子力研究開発機構 水越保貴 YasutakaMIZUKOSHI Non-member The five post-irradiation examination facilities in the Oarai Research and Development Institute of the Japan Atomic Energy Agency have been operated for over 40 years in order to investigate the irradiation performance and physicochemical characteristics of nuclear fuels and materials for fast reactors. The equipments associated with these facilities have been managed to maintain secure from the problems that occurred in the process of aging. Therefore, we established a safety assessment method for aging facilities in 2002, and we have been conducting maintenance management of facilities since then. In this study, designing risk assessment flow is considered in order to solve the issues detected as a result of analysis based on the experience of the repairment during the periodic safety review monitoring. Keywords: Safety Review, Risk assessment, Aging management, Hot Laboratory, Maintenance Management 1.緒言 日本原子力研究開発機構大洗研究所では、高速炉用燃 料等の研究開発施設として核燃料物質使用施設(5 施設)を有している。これらの施設は運転開始から40 年以上が経過しており、経年劣化を考慮した施設の維持管 理が重要になっている。施設を安定的に稼働させるた め、平成14 年から独自の安全評価手法[1]に基づく施設 の保全活動を実施し、これまでに700 件以上の補修課題を抽出し課題の解消に取り組んできた。しかし、安全評 価を実施していたにも関わらず不具合が発生した事象 連絡先:玉置裕一 (国研)日本原子力研究開発機構 大洗研究所燃料材料開発部 燃料試験課 〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗町成田町4002 番地 E-mail:tamaoki.yuichi@jaea.go.jp や、設備機器の補修課題を解消後に再発する事象が確認 される等、評価手法の問題点が明らかになった。そこ で、保全活動の実績及び分析結果をもとに策定した安全評価手法の改善方針[2]を受け、設備機器の高経年化に対 するリスクを数値化する新たな評価手法を開発した。 2.保全活動の実績と問題点の抽出 近年の保全活動実績を図1 に示す。図1 の活動実績を分析した結果、?に示すとおり、安全評価手法に基づき概ね適切に管理できたが、以下の①から③のタイプの不具合の発生が確認された。①【評価対象内からの不具合発生】は、補修課題として管理しながらも、耐用年数設定や経過年数の管理、劣化進行の監視が不十分であったために、不具合の発生を防止できなかった事象である。 ②【評価対象外からの不具合発生】は、設備としては補 修課題としての管理を行っていたものの、構成機器や部 品類については評価の対象となっておらず、それらで発 生した不具合が設備全体へ影響を与えた事象である。③ 【補修課題の解消後に不具合再発】は、不具合の発生を 受け補修を実施し、その後評価の対象外となり、数年後 に同様な不具合が再発した事象である。 図1 保全活動実績 不具合事象の実例を以下に示す。 ①の例では、図2 に示す空気圧縮設備において、過去の運転経験に基づきアフタークーラーの交換期限を設定 し管理していたものの、交換期限前に漏水が発生した。 これは、使用環境の変化等による劣化の進行監視や交換 期限の見直し等が適切に実施されなかったことが原因と 考えられる。 図3 無停電電源設備(コンデンサ) ③の例では、図4 に示す廃液タンクにおいて、過去に漏水事象が発生し、補修を実施したが、その後は補修課 題が解消されたものとして評価の対象外となり、数年後 に同様な事象が再発した。補修後の適切な劣化監視が実 施されなかったことが原因と考えられる。 図2 空気圧縮設備(アフタークーラー) ②の例では、図3 に示す無停電電源設備において、内部のコンデンサの寿命による電解液漏れが発生し、設備 全体に影響を与えた。無停電源設備全体を評価対象とし て管理していたものの、構成機器や部品類までは評価の 対象としておらず、評価の対象範囲が不十分であったこ とが原因と考えられる。 図4 廃液タンク ①から③の問題点と発生原因を基に検討した結果、こ れまでの健全性を確認する安全評価では不十分であることが明らかとなったため、高経年化リスクを数値化することで設備の不具合発生時期を予測可能となる新たな評価手法を開発することとした。 3.高経年化リスク評価手法の開発 開発方針 リスクを評価するにあたり、図5 に示すように、想定される事象が発生した場合の影響の大きさと発生確率の 二つの因子を考える。高経年化に伴うリスクの評価とし て、設備機器が有しているリスクをリスクポイントとし て数値化し管理することとした。設備機器の経年化、補 修や更新によるリスクポイントの変化のイメージを図6 に示す。リスクポイントは経過年数の増加や補修課題の 発生、劣化の進行により増加し、補修や更新を実施する ことにより減少する。設備機器のライフサイクルを通じ てリスクポイントの推移を見た場合、経年化の影響を受 けていない新規設置直後や更新直後が最もリスクが低い 状態であり、この時の値をリスクポイントの最小値とし て管理する。また、高経年化や劣化の進行により設備機 器が機能喪失に至ると想定されるリスクポイントを、リ スクポイントの最大値として設定し管理することで、機 能喪失までの期間を見極め、計画的な保全に資すること とした。近年の保全活動実績から抽出された問題点を改 善するための対応を以下に示す。①については、耐用年 数の設定、経過年数の増加や劣化の進行状況をもとに、 不具合の発生時期を適切に見極める。②については、機 能維持が求められる全ての設備機器を抽出し、評価対象 のリストを作成する。評価の対象は、設備への影響を考 慮し、必要に応じて構成機器や部品類まで詳細化する。 ③については、補修課題の有無に関わらず、評価対象の リストに挙げられた設備機器を対象に評価を実施するこ とで、補修課題解消後も評価を継続する。 図5 リスクの因子 図6 リスクポイントの経時変化 リスク評価の流れ 設備機器の故障発生時の影響を多角的に数値化し、こ の値に経年化の影響による故障発生確率の変化を加味す ることで、リスクポイントを算出し、リスクの経時変化 を定量的に把握できるようにした。リスク評価の流れを 図7 に示す。 図7 リスク評価フロー 対象設備の抽出・細分化 施設で使用されている設備機器の中から、機能維持が 求められるもの(故障や不具合の発生により施設に影響 を与えるもの)を評価対象設備機器として抽出し、必要 に応じて構成機器や部品類まで細分化したリストを作成 する。 故障発生時の影響 設備機器が有する重要度等により、故障発生時の影響 としてリスクポイントの最小値を求める。①核燃料物質の閉じ込め機能への影響:設備機器の故障が発生した場合の核燃料物質の閉じ込め機能への影響に応じて分類する。②施設の安定運転への影響:設備機器の故障が発生した場合の「施設運転」、「放射線防護」、「照射後試験」 へのそれぞれの影響を評価する。③補修実施時期への影響:設備機器の補修や更新等対応が必要となる時期について、予防保全又は事後保全に分類する。①から③を基 に、リスクポイントの最小値を設定し、これを設備機器の故障発生時の影響として管理する。 経年化による故障発生確率の変化 【経年化状態】耐用年数に対する経過年数の割合を経年化状態として、リスクポイントに反映する。①耐 用年数:各種規格、メーカーの交換推奨期間、これまで の運転経験、補修課題の再発等を考慮し、設備機器の耐 用年数を定める。②経過年数:設置・更新、補修課題解 消後の期間。①と②を基に耐用年数に対する評価時の経 過年数の割合を経年化状態として求めリスクポイントに 反映する。 なお、経過年数が耐用年数に達すると機能喪失に至る と想定されるため、リスクポイントが最大となる。 【補修課題】設備機器の経年劣化によるリスクの変動をリスクポイントに反映する。具体的には、監視に より、補修課題の発生、進行が確認された場合、リスク ポイントが増加する。①課題の有無:評価時の補修課題 の有無を確認する。②劣化の進行:経年劣化により生じ る補修課題の軽重や進行の度合いを確認する。 【保守活動】更新や補修等保守活動の実施によるリスクの変動をリスクポイントに反映する。劣化に応じた補修の実施や、設備更新による補修課題解消等を、リ スクの減少としてリスクポイントに反映する。 リスク評価 上記の故障発生時の影響に経年化による故障発生確率 の変化を加味することでリスクポイントを算出する。こ れにより、評価時に設備機器が有しているリスクを把握 することが可能となる。また、設備機器毎に算出したリ スクポイントと、それぞれのリスクポイントの最大値に 対する割合は、設備機器が機能喪失するまでの期間を把 握するための指標となる。例として、重要度の異なる設 備のリスクポイントの推移のイメージを図8 に、リスクポイントの最大値に対する割合の推移のイメージを図9 に示す。リスクポイントの最大値に対する割合を用いる ことで、設備機器の重要度に依らず全ての評価対象につ いて劣化の進行度合いを一律に比較することが可能であ る。この割合を定期に確認することで、設備機器の機能 喪失時期を見極め、補修の実施時期や優先度を決定する 等計画的な保全に資することが期待できる。リスク評価 の結果を踏まえ、補修を実施した場合は経年化による故 障発生確率の変化を再評価し、更新を実施した場合には 故障発生時の影響を再評価することにより、設備機器の ライフサイクルを通じた評価が可能となっている。 図8 リスクポイントの推移 図9 リスクポイントの最大値に対する割合の推移 4.結言 これまでの安全評価に基づく保全活動実績の分析結果 から明らかとなった問題点を改善するため、新たな設備 機器の高経年化リスク評価手法を検討した。作成したリ スク評価フローに従い、設備機器の継続的な経年劣化監 視を行うことで、補修の実施時期や優先度の決定する指 標として活用する等適切に設備機器を評価管理する見通 しを得た。今後、本評価フローを具体化した評価シート を作成し、実際の設備機器への適用性を検討する。 参考文献 藤島雅継、水越保貴、坂本直樹、大森雄、“核燃料 物質使用施設の高経年化に係る安全評価手法の開発”、保全学、Vol. 13, No. 2、2014、pp. 113-123. 坂本直樹、藤島雅継、水越保貴、“核燃料物質使用施設の高経年化に関わる安全評価手法の改善策の検 討”、保全学、Vol. 19, No. 2、2020、pp. 125-126.
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