水移送系の異常状態を模擬した体感訓練による運転・保守技術向上教育
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カテゴリ: 第15回
水移送系の異常状態を模擬した体感訓練による運転・保守技術向上教育
Achievement of training to strengthen the operation and maintenance technology with a mock-up unit of abnormal situations on water/pump transfer systems
株式会社ジェイテック
大坂
滝広
Takihiro OOSAKA
Member
株式会社ジェイテック
池本
俊幸
Toshiyuki IKEMOTO
Member
株式会社ジェイテック
冨岡
和也
Kazuya TOMIOKA
Member
In order to strengthen the operation and maintenance technology of the fluid transfer system composed of pumps ,pipes, and etc., it is very important toward a safety and stable operation to experience not only the normal operation but also abnormal situation directly with an actual sized hardware such as cavitation, water hammer, leakage, and etc. which are occurred by mal-operation, or aging of equipment. We developed training equipment for the purpose of both preventing and early detecting these abnormal situations. We introduce the overview of the specification and achievement of training of operation, diagnosis, and maintenance as bellow.
Keywords: fluid transfer, operation and maintenance, an actual sized hardware,cavitation, water hammer, leakage, abnormal situation,mal-operation,training ,diagnosis
1. 緒言
原子力施設等の各種プラントには、ポンプ・配管・弁・
計器等で構成される流体移送設備が多用されている。 当社は日本原燃(株)六ヶ所再処理工場やウラン濃縮 工場の保守や運転を受託しており、安全・安定運転に向けた技術・技能の向上のため、運転部門と保守保全部門が協力して各種異常事象体感訓練装置(以下「体感装置」という)(図1)を短期間(約6 ヶ月)で独自に開発し、当社の技術・訓練センターに設置して2017 年5 月から運用を開始した。本装置では正常運転に加え、誤操作や誤作業、内部流体の変化や設備の劣化等によって発生しうるキャビテーションやウォーターハンマ、微小漏えい等の主要9 異常事象を抽出し、これらを再現し、内部目視を含めて体感できる設計としている。
運用開始以降、運転と保守部門の社員を対象として活用中であり、本稿では本装置の概要と、これによる教育訓練状況を報告する。
連絡先:大坂 滝広
〒039-3212
青森県上北郡六ヶ所村尾駮字弥栄平1-108
株式会社 ジェイテック
設備運転部 第二運転グループ
E-mail:takihiro-oosaka@j-tech66.co.jp
図1. 体感装置の外観
図2. 体感装置 鳥瞰図
2. 再現事象
流体移送設備で発生しうる主要な9 異常事象を抽出し、
出来る限り簡易な方法でこれらを再現する設計とした。その概要を表1 に示す。
表1.再現事象の概要
分
類
事象項目
発生原因と再現方法
⑧ 流 体 膨
原因
環境温度上昇等により、隔離満水状態での内圧上昇や、拘束配
管の軸方向膨張による変形。
3.
張・配管熱膨
方法
前後弁による隔離満水液封状態において、配管外付けヒータにより50℃に昇温し、管内圧力
変化や配管膨張をつくる。
温
張
度
変
原因
保温材の施工不良や機能低下による保温効果の低減。
化
⑨配管温度保温効果
方法
厚さの異なる保温材を配管に施工し、内部ヒータにより配管
を50℃に昇温する。
3. 体感装置仕様
装置の仕様設定に当たっては、当社が運転等を担当し
ている実機設備とほぼ同様な構造や機能とした。その概
要を表2 に示す。
分
類
事象項目
発生原因と再現方法
1.
流体の挙動
①キャビテーション
原因
ポンプ入口弁の開度不良や吸入側のストレーナの詰りによ
るポンプ吸込み圧力の低下。
方法
ポンプ吸込側の入口弁を手動で絞り、減圧沸騰状態を作る。
②ウォーターハンマ
原因
空気作動弁のスピードコントローラの設定ミスや手動弁の急閉止操作による急激な流量
変動。
方法
専用の加圧タンク内で圧縮空気により加圧した水を急速に
開放して圧力波を作る。
③配管空気溜り
原因
ポンプ保守工事時のフランジ
復旧不良やガスケット劣化に
よるポンプエア噛み。
方法
ポンプ吸込側より強制的に空気を吸い込ませる。
④微小漏えい
原因
経年劣化等による配管や弁のピンホール、及びフランジや弁グランド部の締付不良による
内部流体の流出。
方法
循環運転ラインの超小型弁の開度を調整して漏えい部とす
る。
2.
異常振動
⑤配管の振動
原因
流量調整用オリフィス部の乱流による配管振動。
方法
配管外付けのバイブレーター
により強制的に振動させる。
⑥電動機の軸ずれ振動
原因
電動機の保守工事時の芯出し不良や長期運転による軸ズレによる発生。
方法
流体移送配管系とは別置の小型電動機のベースを任意にずらして軸ズレ状態とし、電動機
を起動する。
⑦ベアリング異常による振動
原因
長期間運転によるベアリング
の摩耗や油脂切れによる。
方法
正常なベアリングと摩耗したベアリングの両者を流体移送配管系とは別置の軸受にセットし電動機を起動する。
表2.体感装置の仕様
名称
型式
機能
キャビテー
ションポンプ
遠心横型渦巻
き式
流量:6 ?/h
揚程:20m
移送ポンプ
遠心横型渦巻
き式
流量:4.5 ?/h
揚程:29.5m
加振装置
空気式 タービンバイブレー
ター
使用圧力 :0.3MPa
配管熱膨張
ヒータ
マグネット
ラバーヒータ
最高使用温度:50℃
130W×2
保温材
ロックウール
製
厚さ:40mm、20mm
配管
ステンレス鋼管
最高使用圧力:0.5MPa 材質:SUS304
配管サイズ :40A+
25A
加圧タンク
たて置円筒形
第二種圧力容器
最高使用圧力:0.3MPa 材質:SUS304
容量:50L(満水)
貯水タンク
たて置円筒形
最高使用圧力:静水頭材質:SUS304
容量:254L(満水)
4. 教育計画
運用初年度である 2017 年度として、運転部門を中心
にして新たな運転員への基礎教育と経験運転員への異常事象体感による運転技術の習熟を図るとともに、保守保全部門では現場計測・診断技術の向上への適用を開始した。その概要を表3 に示す。
教育項目
教育スケジュール
2017 年6 月以降12 月末までに体感装置を使用して集中的に教育を行い、2018 年度以降の教育計画の検討ベースとした。その概要を図3 に示す。
表3. 教育内容
訓練項目
目的
事象体感訓練
キャビテ
ーション
流量調整時の異音や配管振動により調
整範囲を判断する。
ウォータ
ーハンマ
弁開閉時の適正な操作早さを理解する。
配管空気
溜り
ポンプ起動時の異音について判断する。
漏えい量
目視測定
微小漏水を目視で確認し、おおよその漏
えい流量と漏えい量を判断する。
配管異常
振動
振動計を使用して簡易的な異常振動測
定・判断技術を習得する。
電動機の軸ずれ振
動
電動機据付けの正常時、軸ずれ時の振動
を比較して簡易的な診断をする。
玉軸受異
常音
聴診棒により電動機軸受の正常時、異常
時の音を比較して簡易的な診断をする。
配管温度
保温効果
保温材の厚さの違いによる保温材表面
温度の違いを理解する。
配管熱膨
張
隔離満水状態での昇温による内圧上昇
等の危険性を理解する。
運転操作訓練
ラインナ
ップ訓練
弁類のラインナップの順序や指差呼称、
弁操作の基本動作を習得する。
隔離訓練
隔離範囲の設定、隔離方法(電源隔離、液抜き範囲・方法、)隔離札の設置、隔
離解除等の基本を実施する。
設計図書読取り訓
練
配管計装線図、インターロックブロック
線図、配線図等の設計図書を読み、体感
装置の現物間との照合をする。
保守保全訓
練
振動測定訓練
キャビテーション発生時の電動機の振
動を測定し、計測・診断技術を習得する。
3 次元レーザー計測訓練
設備のアズビルト情報を 3 次元レーザーにより計測しデータ化して、この計測技術とデータ処理技術の習熟を図る。
図3. 教育スケジュール
対象者
運転部門を中心にして下記の社員を対象として教育訓練を行った。その実績概要を表4 に示す。
表4. 実績概要
訓練項目
対象
人数
①事象体感訓練
全運転部員
170 名
②設計図書読取り訓練、
ラインナップ
運転部門
新規配属者
5 名
③隔離訓練
運転部員
20 名
④振動測定訓練
保守部門新規配属者
1 名
⑤3 次元レーザー
計測訓練
保全部門
新規配属者
1 名
5. 実績
2017 年度の教育計画に基づいて、スケジュールどおり
教育訓練を実施し、各技術力を習得した。
① 事象体感訓練
異常兆候の早期発見と異常判断への技術力を高めた。
② 設計図書読取り訓練、ラインナップ訓練
運転員として必要な一連の基本動作を習得した。
③ 隔離訓練
隔離作業にあたっての基本実務動作を習得した。
④ 振動測定
各種振動原因のうち、キャビテーションによって発生する機器振動の特長を振動計によって直接確認した。この結果、体感装置のキャビテーション時には図 4 のとおり高周波数帯域で振動加速度スペクトルが盛り上がる特長を示す等、振動測定と診断に係る技術を習得した。
図4. 振動加速度スペクトルの比較
③計測・診断技術
向上
振動測定や3 次元レーザー計測とその診断やデータベース化の訓練に
利用し技術力を向上する。
④非破壊検査技術
向上
設備の健全性に関する非破壊検査の訓練に利用し、検査方法や評価方
法等の技術力を向上する。
⑤再発防止教育
現場で発生した事象を体感装置で模擬し、再発防止対策として訓練を行
う。
社
外
協力会社等へも上記①~⑤の教育訓練を
開放し、技術力向上へ活用する。
⑤ 3 次元レーザー計測訓練
新たな本業務担当者が体感装置の構造に関してレーザー計測を行い、そのデータ処理を行って3D-CAD 図化するまでの一連の作業を習得した。
図5. 計測データから作成したCAD モデル
図6.計測画像データにCAD データ追加
6. 更なる展開計画
2017 年度の導入実績等をベースにして 2018 年度以降
は教育プログラムを強化するとともに、当社の運転部門や保守保全部門だけでなく、当社協力会社等も利用できるよう展開を図る計画である。
表5.展開計画
項目
内容
社内
①事象体感訓練の
拡大
保守保全部門への適用を拡大することで、保守や保全技術及び現場管
理能力の一層の向上を図る。
②保守の知識・技術力向上
基本的な保守技術(ガスケット交換、ポンプ・弁・計器点検、操作盤内電気品・計装品交換)の訓練を通
じて知識・技術力を向上する。
7. 結言
流体移送設備等の各種設備においては、異常が発生
しないように設計製造し、常にその運転や保守を適切に行っている。しかし異常兆候の早期発見や万一の異常時の早期判断等のためには、現場作業担当者がキャビテーション事象、ウォーターハンマ事象等の異常状態を模擬で習熟し、実際の現場で速やかに判断する能力が重要である。
本体感装置を使用して約 1 年ではあるが、従来からの机上教育に加えて、通常時と異常時の両者を実規模で体感することにより、現場における五感の向上と運転・保守保全技術が一層向上してきている。
また、新たに担当となった社員においても、体感装置訓練により早期に実機の現場作業を行うことが可能となってきている。
今後も継続して教育訓練プログラムの改善を図るとともに、当社社内各部門や協力会社での活用拡大を図ることで一層の技術力向上と工場の安全・安定運転に貢献していく所存である。
参考文献
佐々木一人、瀨川佑太、吉村定志、他“六ヶ所再
処理工場における回転機器の設備診断 -振動解析による設備診断- ”、日本保全学会 第11 回学術講演会 要旨集、2014、pp.439-446
山本光、他“六ヶ所再処理工場における各種設備アズビルト情報の 3 次元レーザー計測と設備保全への適用”、日本保全学会 第 12 回学術講演会要旨集、2015、pp.315-320
以上