新設原子力発電所に向けた技術革新による安全性の 合理的実現について

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カテゴリ: 第17回
新設原子力発電所に向けた技術革新による安全性の合理的 実現について Technology Evolution for Nuclear New Build to realize Improved Safety in more Rational Ways 日立 GE ニュークリア・エナジー 川村愼一 Shinichi KAWAMURA Member 日立 GE ニュークリア・エナジー 木藤和明 Kazuaki KITO Non-member 日立 GE ニュークリア・エナジー 松浦正義 Masayoshi MATSUURA Non-member Safety of existing nuclear power plants has been enhanced by reflecting lessons learned from the Fukushima Daiichi Accident. For nuclear new builds, safety can be further enhanced in more rational ways. Hitachi GE Nuclear Energy (HGNE) developed an ABWR design for the United Kingdom in which Fukushima lessons were reflected. Some additional safety improvements were identified and realized by using the results of full-scope probabilistic risk assessments. In addition, collaborating with GE Hitachi Nuclear Energy, HGNE is developing a small modular reactor design, which is called BWRX-300. In this design, reliability of the primary coolant pressure boundary is enhanced, and large and medium break LOCA can be mitigated in postulated design basis accidents. Plant systems are simplified and the size of the Primary Containment Vessel can be reduced significantly. As a result, reactor building volume per plant output can be reduced by half. Keywords: 原子力発電所、新増設、BWR、ABWR、SMR 1.緒 言 2011 年の東京電力福島第一原子力発電所事故(1F事故) を教訓として、既存の原子力発電所では追加の安全対策によって、その安全性向上が図られている。一方、原子力発電所を新たに設計する場合には、事故の教訓を踏まえた高い安全レベルの要求を所与の条件として設定し、それを最適な設計で実現することができる。 本稿では、はじめにその例として、英国向けに設計した改良型沸騰水型原子炉(UKABWR)の経験について論じる。 さらに新型炉の開発では、技術革新によってより高い安全性を従来プラント以上の経済性で実現できる可能性がある。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、再生可能エネルギーを今後の主力電源に位置付ける検討が進んでいるが、それだけでは電力の安定供給に課題がある。安全性を向上した原子力が将来において一定の役割を果 たす必要があると考え、日立GE ニュークリア・エナジー (日立GE)では、これまで培った設計・建設経験と燃料サイクル技術をもとに、小型化・簡素化により安全性と経済性の両立を目指した次世代小型軽水炉 BWRX-300、実績豊富な軽水冷却技術を用いた軽水冷却高速炉RBWR、固有安全性を有する金属燃料を採用した小型液体金属冷却高速炉PRISM の三つの炉型の開発を進めている。 本稿の後半では、このうち国際共同開発で2030 年までに北米での初号機建設を目指すBWRX-300 について論じる。 2.新設ABWR プラントの設計(UK ABWR) UK ABWR の開発経緯 UK ABWR では、国内で培った ABWR 設計をもとに、1F 事故対策ならびに英国と欧州の規制要求を満たす設計改良を実施した。2013 年からは英国規制当局(Office for Nuclear Regulation (ONR)、Environment Agency (EA))の原子炉型式認可(Generic DesignAssessment)プロセスが開始され、2017 年12 月に審査が完了して、設計認証確認書と設計容認声明書が発出された。 英国での ABWR 建設プロジェクトは諸般の事情で中断となったが、1F 事故の教訓を踏まえて国際的に認められた設計は、ABWR を今後建設する場合に活用することができる。 UK ABWR 設計での1F 事故の教訓反映 UK ABWR の設計では、国際的な福島第一事故教訓の図書や欧州のストレステスト図書を調査し、広範な技術分野において 225 個にわたる教訓を抽出して、福島教訓図書に取りまとめ、設計への反映要否を検討した。その中でも特に重要な反映事項は、以下の7 点である[1]。 電源盤など重要設備の配置改善と可搬設備の活用およびアクセス手段の確保 隔離優先を基本としつつも、最低限の重要箇所は開操作手段を備える隔離弁の構成 重要機器に対する予備直流電源の常備 重大事故環境での計装の信頼性確保、信憑性の判断手段、信憑性がない場合の対応手段 注水系および冷却系の多様化 重大事故対処設備のアクセス性や操作性などに関する実効的な設備改善 格納容器内注水および過温破損防止手段の多様化 教訓を踏まえて、図1に示すように、使用済み燃料プー ルの冷却確保、電源の確保、注水系・最終的な除熱機能確 保、原子炉格納容器破損防止、バックアップ機能を有する 防災棟などが安全強化策としてUK ABWR に採用された。 図1 UK ABWR における1F 事故を踏まえた主な安全強化策 UK ABWR 設計でのリスク情報の活用 UK ABWR の設計ではリスク情報を積極的に活用して、設計改善案の合理的実行可能性、労力に対して得られる 効果の適切性等を見極め、実設計に取り入れた。なお、そ の際に確率論的リスク評価(PRA)を国際的な最新の標準 プラクティスに照らして妥当なものとするため、PRA モ デルについては英国と米国の専門家によるピアレビューを受けた。表1にPRA の実施範囲を示す。 表1 UK ABWR の設計におけるリスク情報の活用 リスク情報の活用による設計改善としては、残留熱除去系ポンプ吸い込み配管の肉厚増加によるインターフェイスシステム冷却材喪失事故(IS-LOCA)リスク低減、非常用ディーゼル発電機室空調の多重性強化、リスク上重要な溢水シナリオを排除するためのインターロック、複数区分にまたがる火災シナリオによるリスク低減のための特定防火区分内における耐火バウンダリの導入等を、例としてあげることができる。 3.小型モジュール炉の開発(BWRX-300) BWRX-300 開発の狙い 小型モジュール炉(SMR)では、静的安全システムの適用や、システムの簡素化とモジュール設計によって、高い安全性と経済性を同時に達成できる可能性があり、カーボンニュートラル社会実現に向けて原子力の役割が見直されるなかで、世界的に開発が注目されている。また、自由化された電力市場における発電プラントには、発電コストの低減とともに、資本費の抑制と資本リスクの低減も求められ、この点からも小型炉への期待がある。 このような背景から、日立 GE は米国の GE Hitachi Nuclear Energy(GEH)と連携し、高い安全性と経済性を達成する次世代小型軽水炉BWRX-300 の国際共同開発を進めている。 BWRX-300 の概要 BWRX-300 の主要仕様を表2に、概念図を図2に示す。 BWRX-300 は電気出力 300MW 級の沸騰水型軽水炉 (BWR)である。BWR は原子炉で蒸気を発生させてタービンに送る、シンプルな直接サイクルのプラントである。BWRX-300 ではシンプルであるという BWR の特長を活 かして、プラントシステムの簡素化を更に追及することとした。簡素化を進めることは、機器数の削減による信頼性の向上や、供用後の廃止措置における廃棄物量の低減という効果にもつながる。 表2 BWRX-300 の主要仕様 項目 仕様 炉型 沸騰水型軽水炉(BWR) 熱出力/電気出力 900MWt/300MWe 級 燃料 UO2(MOX 適用可) 運転サイクル 12~24 ヶ月 目標建設単価 $2250/kW プラント寿命 60 年 図2 BWRX-300 の概念図 簡素化実現にあたり、BWRX-300 では隔離弁を原子炉圧力容器に直付け(隔離弁一体型原子炉)することで原子炉一次冷却材圧力バウンダリの信頼性を高め、原子炉で想定される主要な事故想定である大破断および中破断冷却材喪失事故(大・中LOCA)の発生確率を徹底的に低減する革新的な概念を採用した。この結果、安全性を高めつつ、これまでのBWR にあった非常用炉心冷却系(ECCS) ポンプ等の大型機器やサプレッションプールを削除するとともに、原子炉建屋及び原子炉格納容器を大幅に小型 化し、出力あたりの原子炉建屋物量を大型原子炉の半分程度に削減できる見通しを得ている。 原子炉一次冷却材圧力バウンダリの信頼性向上に向けた開発は必要であるが、原子炉系の多くの機器設計は実績のあるものを採用する。原子炉圧力容器や燃料、気水分離器や蒸気乾燥器等の炉内構造、制御棒駆動機構等の主要な機器は、国内で運転・建設実績が豊富な ABWR やBWR の設計が活用できる。また、自然循環技術や、静的安全システムである非常用復水器は、米国の原子力規制委員会(NRC)から設計認証を取得した ESBWR で採用済みの技術である。これらの実績ある技術を採用することで、開発リスクを避けるとともに、信頼性を確保することができる。 また、日立GE では機器・配管や構築物をモジュール化したうえで据え付ける、合理的な建設工法を開発してき た。図3に大型モジュールの例を示す。この経験を活用し、BWRX-300 では小型炉であることの利点を活かして建設時のモジュール化率を向上し、工場完成型一体据付建設 手法を追及する。これによって、建設における品質の向上 を図りつつ、建設工期の短縮および遅延リスクの低減を 図る。 また、原子炉建屋を小型化することで掘削コストを削減し、完全地下設置を合理的に実現することができる。これによって、外部ハザードのリスク低減、建屋コンクリート物量の最小化、セキュリティの強化等を図る。 さらに、大型炉に比べて炉内の放射性物質量が少ないことや、静的安全系採用による長期グレースピリオドなどの特長を活かし、重大事故時に避難を要する放射線量が敷地境界で発生するような事故シーケンスの発生頻度を大幅に低減することを検討している。発電所周辺地域の住民を防護するうえで、革新的な改善となるように開発を進めている。 図3 モジュール工法の例(ABWR の水圧制御ユニット室) BWRX-300 の実現に向けた開発事項 BWRX-300 のプラントコンセプトを実現するため、以下に示す技術開発を実施する計画である。 一次冷却材圧力バウンダリの高信頼化: LOCA の発生確率を徹底的に低減した原子炉システム(隔離弁一体型原子炉)の構築、非常用復水器による原子炉圧力容器過圧防護対策など 小型炉特有のメリット最大化: 工場完成型の一体据付建設手法、系統数最適化の検討など 先進一般産業技術の徹底活用によるコスト低減: 高強度コンクリートの採用、垂直掘削工法、空冷式発電機の採用など その他原子力技術の応用研究: 原子炉圧力容器の小型化、 地下埋設式建屋の耐震評価など 今後、概念設計に引き続いて米国での先行安全審査、サイト選定を進め、2030 年頃に北米での初号機運開を目指すことにしている。 4.結 言 カーボンニュートラル社会の実現に向けて、再生可能エネルギーを今後の主力電源に位置付ける検討が進んで いるが、電力の安定供給の観点から、安全性を向上した原子力が将来において一定の役割を果たす必要がある。 日立GE は実績あるABWR の設計に更なる安全性強化策を取り込んでUK ABWR を設計し、英国規制当局から原子炉型式認定を取得した。原子力発電所の建設に際しては、その国の社会環境、規制条件、事業者の要求事項等を踏まえた設計が求められるが、1F 事故の教訓を反映し、最新の国際的水準のPRA も活用して検討したUK ABWR の設計を有効に活用することができる。 また、小型化・簡素化により安全性と経済性の両立を目指した次世代小型軽水炉BWRX-300 を、GEH と連携して開発している。その設計では、隔離弁一体型原子炉の採用により大・中LOCA の発生確率を徹底的に低減するとともに、静的安全系採用による長期グレースピリオドの実現などをはじめ、小型炉であることの特長を活かしたシンプルな設備構成で、より高い安全性の実現を図る。2030 年までに北米での初号機建設を実現すべく、国際共同開発を進めているところである。 参考文献 [1] 松浦正義 他3 名、“福島第一原子力発電所事故の教訓と安全性向上の取り組み”、日立評論、Vol. 94, No. 11、2012.
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