AIを用いた異常予兆検知システムの開発 (1)異常予兆検知AI技術「2段階オートエンコーダ」
公開日:
カテゴリ: 第17回
AI を用いた異常予兆検知システムの開発
異常予兆検知 AI 技術「2段階オートエンコーダ」
Development of anomaly detection system using AI
Anomaly detection AI technology, two-stage autoencoder
株式会社
東芝
内藤
晋
Susumu NAITO
Member
株式会社
東芝
田口
安則
Yasunori TAGUCHI
Member
株式会社
東芝
加藤
佑一
Yuichi KATO
Non-member
株式会社
東芝
中田
康太
Kouta NAKATA
Non-member
東芝エネルギーシ
名倉
伊作
Isaku NAGURA
Non-member
ステムズ株式会社東芝エネルギーシ
富永
真哉
Shinya TOMINAGA
Non-member
ステムズ株式会社
東芝エネルギーシ
三宅
亮太
Ryota MIYAKE
Non-member
ステムズ株式会社東芝エネルギーシ
青木
俊夫
Toshio AOKI
Non-member
ステムズ株式会社
東芝エネルギーシ
宮本
千賀司
Chikashi MIYAMOTO
Non-member
ステムズ株式会社
東芝エネルギーシ
寺門
優介
Yusuke TERAKADO
Non-member
ステムズ株式会社東芝エネルギーシ
高戸
直之
Naoyuki TAKADO
Non-member
ステムズ株式会社
Abstract
In large-scale power plants such as nuclear and thermal power plants, thousands of sensors are installed to monitor the performance and health of the plant. However, it is difficult for operators to monitor all sensor values at all times. Therefore, Toshiba has developed a unique AI technology that comprehensively monitors thousands of sensor values and detects possible abnormalities earlier than humans. In a power plant, there are major fluctuations in sensor values during operation and minute fluctuations in sensor values. It has been difficult to learn these fluctuations with enough accuracy to identify minute abnormalities buried in them. Toshiba has developed a technology to detect signals buried in the fluctuations with high accuracy by enabling learning through a deep learning network structure that corresponds to the characteristics of the plant's sensor values. The effectiveness of this technology was confirmed by using simulation data of about 3,000 sensors generated with a nuclear plant simulator.
Keywords: plant monitoring, multivariate time series data, anomaly detection, deep learning, autoencoder
1.はじめに
Cyber Physical System (CPS)におけるサイバー領域の基
本技術として、機械学習の導入が様々な分野で進んでい る。大量のデータに埋もれた異常の検知は、機械学習が 得意とする分野である。大規模発電プラントでは、様々 なシステムや機器の監視のために数千点のセンサが設け られている。発電プラントを効率的に運用・保守するた めには、複雑に変化するこれらのセンサ値を監視し、異
図1 異常予兆検知システムの画面例(a)トップ画面、(b)1系統の偏差ランキングと、プロセス値と予測値のトレンドデータ
常の影響が拡大する前に早期に検知する必要がある。し かしながら、全てのセンサ値を運転員が常時監視するこ とは困難である。そこで、人の替わりに数千点のセンサ 値を監視し、異常の可能性を早期に検知するAI 技術を開発し、システム構築を進めている[1-6](図1)。発電プラントでは、運転操作中などのセンサ値の変動や、ポン プ脈動などのセンサ値の微小な揺らぎがある。その中に 埋もれた微小な異常を判別できる精度で、変動や揺らぎ を機械学習モデルが学習するのは困難である。東芝では、プラントのセンサ値の特徴に対応した深層学習のネ ットワーク構造により学習を可能にし、変動や揺らぎの 中に埋もれた信号を高い精度で検知する技術を開発した。この技術の有効性を、原子力プラントシミュレータ を用いた約3000 点のセンサデータで確認した。
2.2段階のオートエンコーダを用いた異常検知[1]
異常検知の方法は、ユーザーが検知結果やしきい値の 意味を理解し易い方法が望ましい。このため、各センサ 値とそれらの予測値の差がしきい値を超えたら異常と判 定する方法を採用した。予測値は正常なセンサ値とは一 致し、異常なセンサ値とは異なることが必要である。
発電プラントは複雑なシステムであり、正常であって も内部状態が複雑に変化する。正しい予測値を得るため には、正常なセンサ値から以下を学習できることが必要 である。
① 多数のセンサ値間の複雑な関係性(センサ間の相関)
② 運転操作中などのセンサ値の時間的変動(時間方向
図2 (a)単純なオートエンコーダ、(b)時間窓を用いたオートエンコーダ
の相関)
③ ポンプ脈動などのセンサ値の微小なゆらぎ
①に対応するためにオートエンコーダ(Auto Encoder : AE)を用いた。図2(a)に単純なAE を示した。AE は、教師無し学習アルゴリズムであり、入力と出力が一致す るようにニューラルネットワークを学習する。正常なセ ンサ値を学習することで正常なセンサ値を予測する。AE は高次元かつ非線形の関係を学習できるので、多数のセンサにまたがる複雑な関係を学習できる。②の対応 については、長期間の膨大なデータをそのまま学習する ことは困難なので、時間窓で切り出したデータを入力に した(図2(b))。この工夫により時間窓内のセンサ値の時間変動が学習でき、時間窓幅を適切に設定することで、データに含まれる特徴的な時間変動が学習できる。 時間窓はスライドさせて用い、プラント監視では時間窓 の右端の値を予測値として用いる。
③のセンサ値の微小なゆらぎについては、単一のAE では上手く学習できない。微小なゆらぎを学習するため に、AE を多層の深いネットワークにすると、予測値は正常なセンサ値とよく一致するようになるが、異常なセ ンサ値とも一致するようになり、異常が検知できなくな る。そこで2段階のAE を考案した(図3)。初段の時
間窓AE を中間層が1層の浅いネットワークにすることで、その出力は正常なセンサ値のおおまかな変動を捉え た曲線になる。センサ値の微小なゆらぎは、センサ値と 出力の差(偏差)として抽出される。2段目のAE で偏差のみの学習をすることで、センサ値の微小なゆらぎが 上手く学習できるようになる。このように2段階のAE で異なる性質の信号を学習することで正常なセンサ値を 高精度に予測する。
図3に記載したように、初段の時間窓AE では、出力変動、運転操作、運転モード変更など、プラント運転状 態に応じて変化してゆく、各部プロセス量の時間的変動 特性(動特性)を学習する。2段目のAE では、ポンプ脈動による流量振動や、流量振動による熱交換器での伝 熱量の揺れが起こす温度振動など、動的機器のローカル な微小振動による、プロセス量の微小変動特性を学習す る。2段階AE は、動的機器を用いて流体を扱うシステムに適している。
3.シミュレーションデータによる評価
原子力プラントの運転訓練シミュレータ[7][8]で作成した、2720 点のセンサ値データを用いて、2段階AE の検知性能を評価した。異常事象は、検知の難しい事象とし て、プラント起動時の運転操作中の異常と、センサ値が
図3 2段階のオートエンコーダ(Auto Encoder : AE)
表1 誤検知回数
系統
センサ数[個]
単純AE[回/日]
2段階AE [回/日]
核計装系
196
0.0
0.0
工学安全系
267
0.0
0.0
原子炉系*1
884
0.5
0.0
格納容器、放射線モニタ系
155
0.0
0.0
給・復水系*2
669
2.6
0.0
発電機系
106
0.0
0.0
タービン系
443
1.8
0.0
合計
2720
4.9
0.0
*1) 事例1の異常は、原子炉系で発生
*2) 事例2の異常は、給・復水系で発生
微小に揺らぐ中での微小な異常を選んだ。比較のために、図2(a)の単純なAE でも評価した。単純AE の中間層は1層に設定した。発電プラントには、プラントの機 能ごとに機器を分類した系統(システム)という概念が ある。系統には原子炉(原子力)やボイラー(火力)へ の給・復水系や、発電に用いるタービン系などがある。 系統間の物理的な関係性は低いので、学習の精度を上げ るために、2段階/単純AE のモデルは系統ごとに作成した。全7系統あり、ひとつのモデルで100~1000 点のセンサを扱う。学習には、定常運転時のセンサ値データ を20 日分と、運転操作時のセンサ値データを90 時間分用いた。
表1に、正常なセンサ値の20 日分のテストデータで評価した誤検知回数を示した。しきい値は、学習に用い た各センサ値データと、これらを2段階/単純AE に入力した時の予測値との差の標準偏差を用いた。この標準 偏差はモデルの誤差に相当する。2段階/単純AE を同一条件で評価するために、しきい値は全てのセンサで一 律3σ値に設定した。全センサの誤検知回数の和は、単 純AE では4.9 回/日に対し、2段階AE ではゼロと良好な結果が得られた。
図4に、プラント起動時の運転操作によるセンサ値の 上昇中に異常が発生した時の、2段階/単純AE の予測値を示した。異常の判定のためにセンサ値と予測値の差 も示した。単純AE は、予測値が正常なセンサ値だけではなく、異常なセンサ値ともほぼ一致し、異常を早期に 検知できなかった。時間方向の相関を学習していないこ とと、瞬間値であれば学習データに似たセンサ値がある ため、異常値を正常と認識した。一方、2段階AE は、時間方向の相関を学習しているため、異常発生と同時に 予測値は異常なセンサ値とは異なった値となり、異常を 早期に検知できた。
図5に、異常によりセンサ値が微小に変化した時の、 2段階/単純AE の予測値を示した。センサ値には、実データの揺らぎに相当する大きさの振幅の人工ノイズを 付与した[1]。単純AE は、センサ値の微小な揺らぎは予測しないので、異常を検知できるものの、先の表1の*2 に示したように誤検知が発生した。一方、2段階AE の予測値は正常なセンサ値の微小なゆらぎも一致し、かつ 異常なセンサ値とは異なる値になり、明確に異常を検知 した。
図4 事例1 (a)単純オートエンコーダの予測値 (b)2段階オートエンコーダの予測値
図5 事例2 (a)単純オートエンコーダの予測値 (b)2段階オートエンコーダの予測値
4.おわりに
原子力や火力などの大規模発電プラントにおいて、数 千点のセンサ値を監視して、異常の可能性を早期に検知 するAI 技術を開発した。この技術の有効性を、原子力プラントシミュレータを用いた約3000 点のセンサデータで確認した。原子力と火力プラントの数千点の実デー タでも、低誤検知かつ早期検知の良好な結果を得ている。現在、新たな事例での評価と各プラントの特徴に応 じた改良を継続して進めている。本技術は、発電プラン トの異常検知~原因分析~処置・対策立案~対策実施ま でのプロセスを効率的に行う運用・保守サービス実現の 中での、最初の部分に関する技術である。また発電プラ ント以外のインフラセンサデータにも応用可能である。 今後とも、効率的なプラント運用・保守サービスの実現 へ向けて、コアとなる技術の開発に取り組んでゆく。
参考文献
S. Naito, Y. Taguchi, Y. Kato, K. Nakata, R. Miyake, I. Nagura, S. Tominaga, and T. Aoki, “A New Data Driven Method for Monitoring a Large Number of Process Values and Detecting Anomaly Signs with a Two-stage Model Composed of a Time Window Autoencoder and a Deviation Autoencoder”, Proceedings of the 2020 International Conference on Nuclear Engineering (ICONE-28) (2020), Paper No. ICONE2020-16150.
名倉 伊作、富永 真哉、三宅 亮太、青木 俊夫、内
藤 晋、田口 安則、加藤 佑一、中田 康太、“AI を用いた原子力発電所における異常予兆検知システ ムの開発 (1)オートエンコーダを適用した検知アルゴリズムの検討”、日本原子力学会2020 年春の年会、2020、2J01.
富永 真哉、名倉 伊作、三宅 亮太、青木 俊夫、内藤 晋、田口 安則、加藤 佑一、中田 康太、“AI を用いた原子力発電所における異常予兆検知システ ムの開発 (2)原子力発電所への導入に向けた構成検討”、日本原子力学会2020 年春の年会、2020、2J02.
名倉 伊作、富永 真哉、三宅 亮太、青木 俊夫、内藤 晋、田口 安則、加藤 佑一、中田 康太、“AI を用いた原子力発電所における異常予兆検知システ ムの開発 (3)異常予兆検知システムの全体概要”、日本原子力学会2020 年秋の大会、 2020、2K01.
内藤 晋、田口 安則、加藤 佑一、中田 康太、名倉伊作、富永 真哉、三宅 亮太、青木 俊夫、“AIを用いた原子力発電所における異常予兆検知システム の開発 (4)2段階オートエンコーダによる検知アルゴリズムの改良”、日本原子力学会2020 年秋の大会、2020、2K02.
富永 真哉、名倉 伊作、三宅 亮太、青木 俊夫、内藤 晋、田口 安則、加藤 佑一、中田 康太、“AI を用いた原子力発電所における異常予兆検知システ ムの開発 (5)原子力発電所への導入へ向けたユーザーインターフェースの検討”、日本原子力学会2020 年秋の大会、2020、2K03.
H. Yonezawa, H. Ueda, and T. Kato, “A Full Scope Nuclear Power Plant Simulator for Multiple Reactor Types with Virtual Control Panels”, Proc. of The 2017 International Congress on Advances in Nuclear Power Plants (ICAPP 2017) (2017), Paper No. 17142.
TOSHIBA REVIEW SCIENCE AND TECHNOLOGY HIGHLIGHTS 2017, pp.35.