ATENAによる産業界の自主的安全性向上

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カテゴリ: 第17回
ATENA による産業界の自主的安全性向上 Nuclear Industry’s Voluntary Safety Improvement with the Leadership of ATENA 原子力エネルギー協議会示野 哲男Tetsuo SHIMENONon-member 原子力エネルギー協議会(ATENA)は、原子力発電所の安全性に関する共通的な技術課題に取り組 み、自主的に効果ある安全対策を立案し、事業者の現場への導入を促すことにより原子力発電所の安 全性をさらに高い水準に引き上げることを目指して活動している。ATENA の活動状況について、いくつか具体例を示しながら紹介する。 Keywords: ATENA、自主的安全性向上、ソフトウェア共通要因故障(CCF)、経年劣化管理 1.はじめに 原子力エネルギー協議会(Atomic Energy Association :英文略称ATENA)は、2018 年7 月に、原子力事業者、メーカー及び関係団体など19 の法人・団体を会員として設立された。 福島第一原子力発電所の事故以降、原子力産業界は、 このような事故を二度と起こさないという強い決意の下、外部事象等の多様なハザードへの対策強化、深層防 護(特に第3,4 層)対策の充実等、安全対策の強化を行った。さらに、規制の枠に留まらないより高い次元の安 全性確保に向けた取り組みを進めているところである。 ATENA は、このような原子力産業界の自律的かつ継続的な取り組みを定着させることを目的に、ミッション として、「原子力産業界全体の知見・リソースを効果的に活用しながら、原子力発電所の安全性に関する共通的 な技術課題に取り組み、自主的に効果ある安全対策を立 案し、事業者の現場への導入を促すことにより、原子力 発電所の安全性をさらに高い水準に引き上げる」を掲げ ている。また、ATENA は次の3 項目をその役割としている。 ① 原子力産業界全体で共通的な技術課題(テーマ) の解決に取組み、各事業者に効果的な安全対策の 導入を要求する ② 安全性向上という共通の目的の下、原子力産業界の代表者として、規制当局と対話する 連絡先: 示野 哲男、〒100-8118 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館、原子力エネルギー協議会 E-mail: shimenot@atena-j.jp ③ さまざまなステークホルダーと安全性向上の取組みに関するコミュニケーションを行う これらのうち、①の共通的な技術課題の検討について、ATENA は、さらなる取り組みへ向け「原子力産業界が自ら一歩先んじて取り組む」「これまでに配備した安全対策に改善余地がないか常に問い直す」「自ら安全性向上のスパイラルを達成できる方策を構築する」の姿 勢の元、2021 年4 月現在20 件の「テーマ」を定め技術検討を実施中であり、成果として得た安全対策等を技術 レポートとして取りまとめ公開している (https://www.atena-j.jp/report/)。 次章以降では、これらのうち規制当局との対話を重ね て取り組んだ事例として、「デジタル安全保護系のソフトウェア共通要因故障(CCF)への対応」と「安全な長 期運転に向けた経年劣化管理」を紹介する。 2.デジタル安全保護系のソフトウェア共通要因故障(CCF)への対応 デジタル回路は、アナログ式の場合にはなかったソフトウェア起因のCCF(ソフトウェアによって機能する電 子計算機の不作動又は誤作動による、多重化された安全保護回路の同時機能喪失)を考慮する必要があり、従来より、アナログ回路による多様化設備を設置している。デジタル回路については、これまでも信頼性向上の取り組み(高信頼設計、設計・製作時のV&V、定期試験 等)により、ソフトウェアCCF が発生する可能性は極めて低く抑えられているが、原子力規制委員会(NRA) の検討会合における議論等を踏まえ、さらなる安全対策 として、炉心損傷防止を確実にするために自主設備を強 化することとした(図1)。ATENA は、このための技術要件書を作成しており、事業者はこれに基づき対策の実 施に着手し2023 年度から順次導入予定である。ATENA は事業者の取り組みを定期的に確認し、公開していく。 図1 ソフトウェアCCF 対策の概要 3.安全な長期運転に向けた経年劣化管理 各事業者は、主に腐食や疲労等の経年劣化(物理的な 経年劣化)に対して、最新知見を反映した評価も踏まえ た保全を行うことによって経年劣化を管理してきた。一 方で、停止期間の長期化に的確に対応するため、また一 部のプラントでは40 年超運転の延長認可を受けたことから、経年劣化への対応はさらに重要性を増している。 こうした状況を踏まえ、ATENA は、関連するIAEA ガイドも参照し、物理的な経年劣化、および非物理的な経 年劣化(時間の経過とともに最新の技術や知見、設計か ら時代遅れになること)の両面から検討し、さらなる強 化が必要な3 項目を抽出してガイドラインを作成した。 〇プラント長期停止期間中における保全ガイドライン: 保全を行う各事業者の発電所の現場における、長期停止 期間中に想定される経年劣化事象に着目した保全活動の 確実な実践を目的として、推奨事項を提供する。特に、 プラント運転期間に影響する可能性がある、取替困 難な原子炉容器、格納容器、コンクリート構造物に ついては、長期停止期間中の経年劣化影響と保全ポ イントを提供する。 〇設計の経年化評価ガイドライン: 新規制基準への適合を前提としつつこれに甘んじる ことなく、時間の経過に伴う設計の経年化に対して、継続的に安全性の改善を展開するための新たな 仕組みを構築した。設計の経年化に係る着眼点の抽 出・評価の方法を標準化・明確化している。 〇製造中止品管理ガイドライン: 将来的に運転を長期に継続していくにあたって、一 部部品の製造中止や既存部品メーカーの撤退が増加 していくことが想定される。製造中止品情報の定期 的な入手、プラントメーカーや各事業者間での情報 共有等、製造中止品に関わる情報を効率的に収集し、対策を検討する原子力産業界の仕組みを構築す ることを推奨している。 上記3 件のガイドラインに基づき、事業者は安全対策の実施計画を立案・実施している。ATENA は、これら事業者の取り組み状況を定期的に確認し、公開していく。 NRA とATENA は、本件について実務レベルの意見交換会を2020 年3 月~7 月に6 回開催した。議論の結果はNRA 及びATENA それぞれが報告書としてまとめている。 4.まとめ ATENA の使命は、原子力発電所の安全性を自主的かつ継続的に向上させるために、原子力産業界が一体とな って取り組むようリーダーシップを発揮していくことで ある。ATENA は、産業界における連携を一層強化して 「課題(潜在リスク)の共有~対策実施~実施状況確認」というプロセス全体を効率的に進めていく。また、 規制当局との間で、課題に対する認識を共有し、安全確 保の方向性や、安全上の重要度、対応時期等について、 より積極的かつオープンに議論し、産業界の代表者とし て意見を述べていく。
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