米国における原子炉監督プロセス(ROP)開発に学ぶ

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カテゴリ: 第15回
米国における原子炉監督プロセス(ROP)開発に学ぶ Learning from the ROP development in the U.S. マトリクス K近藤寛子Hiroko KONDOMember The ROP is the reactor oversight framework developed by the US NRC in the late 1990s to ensure public trust for nuclear safety in power generation. The mechanism of the ROP was developed as risk informed and performance based. The ROP`s concept is embedded in the process as an essential philosophy being designed by regulatory body industry and public. The study examines the history behind the changeover to the ROP in the U.S. and the significance of the ROP philosophy on nuclear safety. Keywords: ROP, SALP, NRC, public, industry, oversight 1.はじめに 本稿は、新しい検査制度(日本版ROP)の設計および運用の成功要因を明らかにすることを目的に、ROP 開発国である米国での検討開始の経緯と意義、そして、日本にとっての学びを考察するものである。検査に関わる取組みの前に、ROP とは何か、望ましい検査制度の姿はどういうものかについて、歴史から学び、考えてみることは必要なことであろう。 2.米国における検査制度の変遷 米国のROP は、原子力規制委員会(NRC; Nuclear Regulatory Commission)によって1990 年代後半に開発された検査制度であり、2000 年から運用が開始されている。今日までの米国における検査制度を振り返ると、図1の通りである。 図1. 米国における原子力発電所向け検査制度の変遷 米国の原子力検査制度は大きく4 つの変遷を経て今日のROP に至る。スリーマイルアイランド(TMI)事故前の制度、TMI 直後の制度 (SALP)、SALP からROP への移行期の 制度(IRAP)、そしてROP である。 5つの問い ROP 制度が誕生した背景と開発プロセスに関し、本稿では以下の5 つの点に着目した。 ROP の前制度であるSALP が引き起こした問題は何か SALP はなぜ廃止されたのか ROP はどのように開発されたのか ROP はいかに安全性向上を促進するか ROP は、なぜ目指す姿から外れず運用されるのか ROP の前制度(SALP)が引き起こした問題は何かSALP (Systematic Assessment Licensee Performance)は、1979年に起きたTMI 事故の反省により誕生したオーバーサイトで、ライセンシーの安全パフォーマンスを総合的に評価しようとする制度であった。しかし、運用過程において、SMM(Senior Management Meeting)、Watchlist、PPR (Plant Performance Review)等の措置が次々と加わり制度が複雑化した。また「ライセンシーは主観性混じりの検 査への対応に注力する」状況も生じた。 SALP はなぜ廃止されたのか 1990 年代中半、NRC によるオーバーサイトの実態を明らかにしたレポートがタワーズペリン社(当時)により .米国におけるROP 検討の経緯と意義 発行された。同レポートをきっかけに、SALP 見直しの声が高まり、また、NRC をとりまく関係者からもNRC に対する批判の声が強まる中、NRC は、レビューとアセスメント業務の統合検討活動IRAP (Integrated Review Assessment Processes) に取り組んだ。そして、SALPは1998 年秋から運用停止となった。 ROP はどのように開発されたのか ROP は、「NRC は内部改革を成功させるべき」という議会からの厳しい注文を背景に、産業界、パブリック(第三者)との協働を通じて開発された。産業界によるSALP の見直し案である”New Regulatory Oversight Process”を参考に、NRC が、産業界、そしてパブリックとの議論と検討を重ねたことにより、ROP は開発された。 ROP はいかに安全性向上を促進するか ROP は、公衆の信頼を得ることが、ROP 開始時により根本的な理念として合意された制度である。この理念のもと、ROP が備える「客観的かつリスクインフォームドで、理解しやすく、予測可能な監督」という機能は、「公衆のための原子力安全確保」するためのものとして働いている。安全パフォーマンスに応じ、NRC はプラントを厳しく確認する。その特徴は、確認されるべき7つの領域(コーナーストーン 図2 を参照)、パフォーマンス指標、 重要度決定プロセス(SDP; Significant Determination Process)、 確率論的リスク評価(PRA; Probabilistic Risk Assessment)といったROP の構成要素がどのような機能を備え、そして働くかが関係者の間で共通理解されていることにある。 図2. 原子炉監督プロセスの枠組み (NRC,2017-2018 Information Digest より一部抜粋) ROP は、なぜ目指す姿から外れず運用されるのか 米国のROP では、原子力の安全性を向上させるという関係者全員の目標のもと、オーバーサイトがそれに資す るものとして働いているかどうかをNRC はもとより、産業界、パブリックも定期的にチェックする。ROP には改善が重ねられるプロセスが埋め込まれているのである。 4. 日本は何を学ぶことができるか 理念、オーバーサイトプロセス検討の進め方 ROP 開発の背景と経緯を踏まえ、日本が参考としうることを以下に整理する。第一に、NRC による制度見直しの「検討の進め方」である。「公衆の健康と安全を確保する」ことを関係者共通の目的として設定し、その目的を体現するものとして、オーバーサイトプロセスの組み立てを速やかに進めていったことは、実用的な検討であったと言える。 従来の制度からの転換を成功させるために、新たな制度の理念が、関係者の間で共通基盤(common ground)になるよう、新しい検査制度の目的や大切にすべきことについて、より関係者が多層的に対等な話し合いを行うことは、方向性のぶれにくさをもたらす一手となりうる。 「総論賛成、各論反対」「検討の深さ浅さが、物事の戦略的優先度より、関わる人の関心やその時々の事象にとらわれかねない」「現場に全く浸透していない」といった事態を回避するために、最初から難易度の高いものを導入する代わりに、検査の現場に適用できるものから展開していくアプローチも有用と言える。 第三者によるオーバーサイト機能 第二に、米国では、ROP 検討に対する「第三者によるオーバーサイト」として、議会と会計検査院によるオーバーサイトが、NRC に対し変化と結果創出を促す強い力となった。加えてパブリックの専門家が、原子安全行政の監視者(watchdog)としての知見と経験を活かし、ROP の開発と運用改善に向けた提案等の関与をする。 NRC の方も、SALP に見られた課題を直視し、抜本的な見直し検討を加速化させるために、3-3 で触れたようにIRAP による内部での閉ざされた検討から、産業界・第三者からの提案を受け入れるようになり、協働検討へと枠組みを広げていった 規制者と被規制者という当事者以外の第三者が検査制度に関わりを持つことは、制度の設計・運用の透明性、と信頼性における意義をもたらしうるものである。 産業界の関わりに関しては、「規制当局と事業者とがなれ合う状況」や「事業者が規制当局の顔色をみることに注力する状況におかれる」ことなどにより、原子力安全 の確保が二の次となることを避ける必要がある。第三者活用等の複合的なアプローチは、規制当局と事業者が、原子力安全の確保というベクトルに向かい続けているかどうかという制度の健全性をチェックする方法として有用性もあると言える。ROP が理念に根差した明解な制度であるからこそ、より多くの人に理解される制度となりうる。 産業界の自主規制機能 第三に、米国の原子力産業界は、スリーマイル島原子力発電所の事故後、事故の反省から、エクセレンスに対する取り組みや自主規制機能力を培ってきた。業界団体である原子力発電運転協会(INPO; Institute of Nuclear Power Operations)は、TMI 事故から10 年後の1989 年に、ケメニー委員会からの勧告に対する取り組み結果を報告書としてまとめている。同報告書にはエクセレンススタンダードの設定、マネジメントの責任、発電所運営の振り返りと分析、訓練、安全に対する姿勢等に対する産業界の10 年にわたる取組が記されている。3-4 で取り上げた産業界の提案は、こうした業界挙げてのたゆまない努力が表出したものであった。 今後、日本においても、リスク情報を活用したパフォーマンスベースドの規制を実効させていく際には、事業者が自ら問題を見出し、是正する能力を引き上げることが不可欠である。産業界における自主規制活動は従来に増して重要なものと考えられる。 5. おわりに ROP は、原子力安全に取り組む最前線の事業者が自主的に常に安全性確保に取り組み、それを規制当局が適切で あることを確認する制度である。言い換えればROP は、原子力の安全に対する責任を示し続けるしくみでもある。 「原子力の専門家にしかわからない閉じた制度」であることをやめ、地域・社会に対し、ひいては国際社会の一 員として、国際水準とのハーモナイズを目指し、「原子力安全のパフォーマンスを示していくことができる制度」である。 このような性質をもった制度が日本で始まることに 対し、今一度考えるべきことを、最後に論じたい。それは、福島第一で事故を起こした日本が、産業として、検査制度をも通じて、原子力安全を国際社会、そして国内のパブリックに提示していくことである。検査制度に関して言えば、ROP は諸外国で運用されている。それらの国々と共同でベンチマークを行い、互いに改善の機会を見つけ合うよう働きかけていくことも、国際社会、規制当局、産業界、パブリックにとって資することでないか。検査官が、新しい検査に基づいて地域に説明することで、パブリックが、社会全体が、原子力安全のオーバーサイトの実情を知ることができる。産業界を中心に、規制当局を含めて、広く原子力の安全に携わる者は、その責任を忘れず、責任を示し続けていくことが求められる。そして、自らの姿勢、パフォーマンスと取組をパブリックに知ってもらい、パブリックの声に耳を傾ける対話を続けていく(dialogue & engagement)ことが望まれる。 参考文献 Report of Nuclear Utility Industry Responses To Kemeny Commission Recommendations, 1989 NRC, Draft Report -Licensee Inspection and Enforcement Indicators, 1977 [3] NRC, NUREG 1214, 1986 NRC, Stakeholders` Concern, 1998 NRC, Inspector Mannual Chapter 0308 NRC, Information Digest, 2017-2018, 2018 Towers Perrine, Nuclear Regulatory Review Study, 1994 UCS, Reactor Oversight Process, 2016 (平成30 年6 月1 日)
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