焼入れ分布を持つマルテンサイトステンレス鋼の磁気特性・微細組織変化
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カテゴリ: 第16回
磁気特性・微細組織変化
Magnetic properties and microstructures change in quenched martensitic stainless steel
岩手大学
菊池
弘昭
Hiroaki KIKUCHI
Member
岩手大学
菅井
康平
Kohei SUGAI
Non-Member
インフィテックエム
掬
松村
慶一
Keiichi MATSUMURA
Non-Member
Abstract
We investigated the magnetic properties, hardness and microstructure of the martensitic stainless steel with and without quench. The quench introduced to fine grain boundaries, which relates to an increment of coercivity and Vickers hardness, a decrease in Barkhusen signal. The magnetic property changes reflect the changes in microstructures and mechanical property appeared on the quenches specimen. The obtained results contribute to aim developing a magnetic nondestructive evaluation of residual stress appeared on the steel combined with and without quench.
Keywords: hysteresis curve, Barkhausen noise, nondestructive evaluation
1 研究 背景
発電プラントなどのインフラ関連機器の寿命・劣化診
とその ンシン の 的 ーズは、発電機器の寿命延伸の ーズからますます高まっている。磁気バルクハウゼンノイズ(MBN)やヒステリシス曲線など磁気計測による材料劣化診 [1]-[4]は、短時間、非破壊での測定、供用期間中での測定への適用性が高い。火力発電プラント等で用いられているタービン部材によって、その寿命延伸を目的に焼入れが施されている。一方で、タービン 部材を長期使用していく中で、残留応力に起因して寿命 に至る場合が想定される。よって、残留応力の評価が重 要である。一般的には、非破壊で計測できるX 線回折により評価を行っている場合が多いが、試料の前処理が必 要、計測に時間を要する、現場での計測が容易でない。X 線回折に代替し得る短時間に簡便に残留応力評価を行う
開発が望まれており、磁気計測がその候補になるものと る。そこで、 では、焼き入れを施したタービン部材の磁気特性・組織変化について検討を行った。実際の測定現場では応力以外に組織的な因子に起因する機械・磁気特性変化が生じるためそれらを把握することが の目的となる。
2 実験方法
連絡先: 菊池弘昭、〒020-8551 盛岡市上田4-3-5、岩 大学理工学部
E-mail: hkiku@iwate-u.ac.jp
測定試料
試料にはマルテンサイト系ステンレスSUS420 鋼を用いた。試料寸法は、70 mmX17 mmX8 mm であり、長さ方 において試料 部から20 mm までの にレー ー焼入れを施した。焼入れした のビッカース硬度は
450-500 程度であり、母材部分は290 程度になっている。
計測方法
ヒステリシス曲線の計測は純鉄もしくはケイ素鋼板の
磁気ヨークに巻いた励磁コイルに0.1 Hz の三角波電流を印加することで試料を励磁し、ヨークの足に設置したピ ックアップコイルで磁束変化を計測した。磁場 H は印加電流I を用いてH=nI/l(n 励磁コイルの巻き数 l 磁路長)から算出し、磁束密度はピックアップコイルの電圧を積分することで求めた。一方、MBN 計測の励磁はBH 計測と同様としたが、励磁の周波数は1 Hz とした。励磁ヨークの間に試料に接するように設置したピックアップ コイルにより MBN 信号を検出した。その際、信号は増
した 、バン スフ ルタ(BPF)を して処理した。このMBN 信号の移動平均値をVrms値とした。また、出力の半周期における二乗平均平方根の値を RMS 電圧として評価した。計測では、焼き入れされている方の 部を
置0 mmとして, 試料長 方 にヨークを移動さ て磁気 ラメータを計測し、 置に対する分布の変化を評価した。
3 実験結果
図 1 は、純鉄の小型ヨークを用いて計測したヒステリシス曲線から保磁力を算出し、その値を測定 置に対してプロットした結果である。なお、試料の励磁方 は試料 方 に対してである。焼入れ部においては、保磁力の値が大きく、焼き入れを施していない部分にでは、保磁力の値が低下している。EBSD による組織観察を行った結果、焼き入れしていない領域と比較して、焼き入れ部は結晶粒が微細化されていることが確認された。焼入れ部の方がビッカース硬度は大きく、保磁力が増加している要因も結晶粒の微細化が支配的であると られる。
400
350
Coercivity Hc (A/m)
300
250
200
010203040506070
Position (mm)
また、試料長 方 に磁界を印加して保磁力の評価を行ったが、先に示した結果と同様の結果であった。
図2 は、バルクハウゼンノイズ計測を行い、RMS 電圧を 置に対して示した結果である。励磁は試料長 方に行った。焼入れ部ではRMS 電圧は低く、母材で高い結果となっている。保磁力の結果で述べたように、組織観察の結果によると粒が微細化している。バルクハウゼンノイズは磁壁の不連続運動に基づく信号であり、不連続 の基になるのは、ピン ン サイトの存在である。そのピンサイトの数とピンからはずれて磁壁が移動するときの移動量とで信号が決まる。今回の場合、結晶粒界が磁壁のピン ン サイトとなるが、粒が微細化されたことによってピン ン サイトは増 るので、バルクハウゼンノイズの事象は増 るが、移動量が減少し、結果、焼き入れ部ではバルクハウゼンノイズが減少したものと
られる。
4 まとめ
焼入れに伴う結晶粒の微細化によって、保磁力の増加やRMS 電圧の低下が確認された。また、機械特性としての硬度は大きくなり、硬度と磁気特性との間に 関関が確認された。焼入れ部と母材との遷移領域における磁 気特性も硬度の変化を反映しているものと期待される。 今 は、微細組織が異なる状況が混在した場合において、さらに応力が印加された場合の磁気特性変化について評 価する予定である。
参考文献
C. G. Stefanita, D. L. Atherton and L. Clapham, “Plastic
versus Elastic Deformation Effects on Magnetic
図1 保磁力 位置
180
160
140
RMS voltage (mV)
120
100
80
60
40
0102030405060
Position (mm)
図2 RMS 電圧 位置
Barkhausen Noise in Steel”, Acta mater., Vol. 48, 2000, pp. 3545?3551.
X. Kleber, A. Vincent, On the role of residual internal stresses and dislocations on Barkhausen noise in plastically deformed steel,NDT & E Int., Vol. 37, 2004, pp. 439?445.
J. Anglada-Rivera, L. R. Padovese, and J. Cap?-S?nchez, Magnetic Barkhausen noise and hysteresis loop in commercial carbon steel: Influence of applied tensile stress and grain size, J. Magn. Magn. Mater., Vol. 231, 2001, pp. 299?306.
A. Mart?nez-de-Guerenu, K. Gurruchaga, and F. Arizti, Nondestructive characterization of recovery and recrystallization in cold rolled low carbon steel by magnetic hysteresis loops, J. Magn. Magn. Mater., Vol. 316, 2007, pp. e842?e845.