米国原子力発電所保全分野の標準化と合理化について

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カテゴリ: 第16回
米国原子力発電所保全分野の標準化と合理化について Standardization and Optimization of Maintenance at US Nuclear Power Plants 日本エヌ・ユー・エス(株) 伊藤 邦雄 Kunio TTO Member 日本エヌ・ユー・エス(株) 富田 洋一郎 Yoichiro TOMTTA Member 東北大学大学院工学研究科 青木 孝行 Takayuki AOKT Member The latest trends related to standardization and optimization of US nuclear power plant maintenance are explained as follows, including the history from the past. Standard nuclear performance model (SNPM) of power plants started in the late 1990s. Standardization of maintenance process by TNPO AP-913 "Equipment Reliability" and AP-928 "Work Management" and maintenance optimization by EPRT PM (Preventive Maintenance) Template and PMBD. Critical component reduction and Value Based Maintenance (VBM) as the latest trend of maintenance optimization. Keywords: standardization, optimization, equipment reliability, criticality, value based maintenance はじめに 日本保全学会「保全標準化検討会」におけ る活動の参考とするため、米国原子力発電所保全分野の標準化と合理化に関連した最近の動向について、その経緯を含めて以下のポイントを中心にとりまとめた。 1990 年代後半に導入された原子力発電所の標準パフォーマンスモデル(SNPM) TNPO AP-913「設備信頼性」とAP-928 「作業管理」による保全プロセスの標準化とEPRT の予防保全(PM)テンプレート/PM 基盤データベース 保全合理化の最新動向としてのクリテイカル機器の削減と価値基準保全(VBM) 保全プロセスの標準化 原子力標準ハフォーマンスモデル(SNPM) 米国の原子力発電所において標準化に関連した活動で最初に実施され、現在においてもその基礎となっている 連絡先 伊藤邦雄、〒160-0023 東京都新宿区西新宿 7-5-25、日本エヌ・ユー・エス(株)エネルキ‘ー技術ユニットE-mail: itohk anus.co. p 図1 原子力標準ハフォーマンスモデル(SNPM) 重要なものは、1990 年代後半に導入された原子力標準パフォーマンスモデル(SNPM)である。 このSNPM では原子力発電所を「電気を生産する工場」としてとらえて、発電所のすべての業務プロセスをコア プロセスと支援プロセス、管理プロセスに分類し、さら に各プロプロセスを複数のサブプロセスに分解して定めている(図1 参照)[1]。 さらに、このようにして標準化された各業務プロセスの達成度を測る指標(パフォーマンス指標)が決められていて、そのパフォーマンスが可視化されるとともに、 を各プロセス に することで活動基準 (ABC) の算定を可能にしている。これによって、各発電所間の生産性や作業プロセスの相違を図るベンチマー ク活動が活発に行われ、産業界全体の業績の底上げ?向上に役立つことになった。 INPO の設備信頼性(AP-913)と作業管理(AP-928)プロセス 原子力標準パフォーマンスモデル(SNPM)のコアプロセスの中で特に重要なものとして、「設備信頼性(Equipment Reliability)」プロセス、「作業管理(Work Management)」プロセス、「構成管理(Configuration Management)」プロセスがある。米国産業界の団体である原子力発電運転協会(TNPO)は前2 者に対するプロセスの解説書としてAP-913「設備信頼性」とAP-928「作業管理」という文書を発行している。 TNPO AP-913「設備信頼性」プロセスは、発電所の設備信頼性を改善させるために必要な様々な活動を一つに統合?調整したプロセスで、以下の6 つの要素から構成されている。 クリテイカル機器のスコーヒングと特定 パフォーマンス?モニタリング 継続的な設備信頼性の改善 是正措置 予防保全タスクの実施 ライフサイクル管理 AP-928「作業管理」プロセスは、安全で信頼できる運転をもたらすために、保全その他の発電所のあらゆる作業を明確化し、選 し、 画化し、スケジュール化し、遂行するために使われるプロセスである。米国では運転中の保全が主体であるため、このプロセスも運転中に1 週間単位で行う保全作業の 画策定プロセスが策定される仕組みとなっている。 この二つは原子力発電所の保全管理業務の標準化において重要な役割を果たしている。特に AP-913 は重要度に応じた保全タスクと頻度の設定において、また、AP-928 は保全作業工程の作成とその管理の面で標準化につながるものである。 AP-913 では、重要な設備に対して保全リソースを重点的に配分するという、保 全の最適化アプローチを採 しており、合理的な保全を追求するための重要な 文書となっている。予防保全が必要と判 断されるすべての機器はその重要度に応じてクリテイカルと非クリテイカルに区分される。そのいずれにも区分されない機器は、故障するまでの使 が許容される(RTF (Run to failure)またはRTM(Run to maintenance)と呼ばれる)。 AP-913 は規制上の要求事項ではなく、産業界の自主的な最適慣行を追求するためのガイダンス文書である。ただし、TNPO による発電所評価で使 される文書であるため、多くの発電所ではこのプロセスを反映したプログラムを運 しているのが実態である。最近では、世界原子力発電事業者協会(WANO)との共同文書として発行され、フランスなど米国以外の発電所でもこのAP-913 に示される設備信頼性プロセスが参考にされている。 保全合理化プロセスの最新動向 EPRI の予防保全テンプレート 保全のタスクや頻度の標準化の面で大きな役割を果た しているのが米国電力研究所(EPRT)の予防保全(PM)テンプレートとPM 基盤データベース(PMBD)である[2]。これらはTNPO AP-913 でも参照されるもので、PM テン プレートは主要な機器タイプ(例、電動弁)ごとに推奨される予防保全タスクとその頻度をその重要度(クリテイカルか否か)、使 環境(過酷か否か)、使 頻度(常時運転か待機か)に応じて提示したものである(図2 参照)。 PM テンプレートは故障するまで予防保全をしないRTF(事後保全)機器には適 されない。非クリテイカルとはクリテイカルではないが、何らかのPM タスクを必要とするものである。NA は適 外(Not Applicable)を意味し、NR は推奨無し(Not Recommended)、AR は必要に応じ(As Required)(例、Tech. Spec.により実施頻度が決められている機能試験など)を意味する。 PM テンプレートの保全タスクと頻度の推奨値は産業界の専門家が まる会合形式で定められていて、その背 には信頼性重視保全(RCM)の考え方が採 されている。つまり、故障の頻度や影響から判断される重要度などに応じて、同じ機器であっても予防保全タスクの内容 と頻度に差をつけるという考え方である。 EPRT では利 経験と運転経験を まえて、機器タイプの追加や内容の 新を行わっており、最近では200 類以上の機器タイプが扱われている。 PM 基盤データベース(PMBD)はPM テンプレートで設定される保全タスクと頻度の となるもので、機器タイプ の劣化メカニズム、劣化影響、劣化の進展(継続的かランダムか)、故障のタイミング、発見または防止の機会、PM などの が含まれている。PMBD には改良が加えられていて、特に、劣化の進展に関する時間的な 子が数値化されている。また、保全タスクによって劣化がどの程度効果的に検知できるかについて (つまり保全の有効性)も半定量評価ができるようになった。それによって、いわゆる脆弱性評価が可能となり、保全タスクの内容(例えば、頻度)を変 した際に、故障率や信頼性の変化量が 算できるようになっている。 EPRT メン ーはこのPM テンプレートとPMBD にweb 経由でアクセスすることが可能である。PMBD の利 は原子 力から始まったが、その後火力、水力、送配電にも利 が 大され、 日では電力共通の技術基盤に成 している。米国の事業者は、EPRT の標準PM テンプレートを参考に、自社の保全能力や保全文化に合わせてカスタマイズし、自社固有のPM テンプレートを作成して運 している。 価値基準保全(VBM) 米国原子力産業界は、2015 年12 月から3 年間かけてDNP(Delivering the Nuclear Promise 原子力の約束の実現に向けて)と呼ばれる活動を実施している。これは、よ り効率的かつ経済的な方法で電力を安全に発電するための3 年間にわたる取り組みで、他の電源に対する原子力発電の競争力をつけるために発電単価30%減を目指している。 その中で保全に関連した活動が数多く取り上げられているが、保全の最適化、特に保全リソースの最適化につながる「クリテイカル機器の削減」(Efficiency Bulletin 16-25)とコスト効果性を従来よりも重視した保全 の 策定につながる「価値基準保全(VBM)」(Efficiency Bulletin 17-03a)を指示する通達文書が出されて、産業界でその実施が進められつつある[3],[ ]。 クリテイカル機器とは、その機器が故障した場合に重要な機能の障害をもたらす影響が生じるものをいう。これに対してはその故障を防止するために必要な予防保全 の設定が必要となる。非クリテイカル機器とは、その故障影響がクリテイカル機器 どではないが、決してその発生が許容できないものをいう。そのために、コスト効果的な予防保全タスクが設定される。非クリテイカル機器にも しない場合は、故障するまで使 できる(RTFまたはRTM と呼ばれる)。 機器の重要度(クリテイカリテイ)分類は、設備信頼性管理の基本 性であり、予防保全プログラムだけでなくその他の多くの保全プログラムでも活 される。いわゆる信頼性重視保全(RCM)を実行した発電所では、機器の重要度分類の平均的割合は概ね、 クリテイカル機器=約20%程度 非クリテイカル機器=約20%程度 RTF 機器=約60%程度 と区分されていて、 重な保全リソース( 、 、 ) をクリテイカル機器に重点的に配分し、設備の信頼性の向上やプラントのアベイラビリテイ向上を図るものとし ている。 米国の事業者は上記の通達文書16-25 のもとで、AP-913 の改 で採 されたクリテイカル機器の定 の見 し作業を実施しており、その結果、従来クリテイカルと判断されていた機器の約半数が非クリテイカルと区分できるようになっている。 また、VBM に関する通達文書17-03a では、上記のクリテイカル機器の見 し結果を使うだけでなく、機器が故障した場合の保全 に関する産業界データを利 して、従来よりもさらにコスト効果的な保全タスクと頻度を設定する評価手法である価値基準保全(VBM)が実施される。そこでは予防保全を減らすことで生じる可能性のある故障率の増加と(予防保全と修理 を加えた)保全 の影響を定量評価することで、従来よりもさらに 効果的と判断される保全タスクと頻度の設定を行う。価値基準保全(VBM)の考え方を図3 に示す。 VBM の実施によって2020 年末までに発電所保全予算が なくとも25%削減されると 待されている。 動の一環で、クリテイカル機器の削減と価値基準保全(VBM)というアプローチが導入されている。クリテイ カル機器の定 を見 すことで、従来より重要と判断されていた機器を に見 し?削減を行ったうえで、VBM の適 では、従来の信頼性重視保全(RCM)の考え方を 襲しながら、さらに保全の 効果性を追求する手法が適 されている。 これら保全裔度 図3 価値基準保全(VBM)の考え方(NEI EB 17-03a) (信頼性が最大になるポイント①とは別に 保全費用の合計が最小になるポイント②がある) 化の最近の活動は、90 年代から民間主導で進められてき まとめ 米国原子力発電所では、1990 年代後半から原子力発電所の標準パフォーマンスモデル(SNPM)が開発され、他 の発電所とのベンチマークが可能な仕組みができている。 そして、そのコアプロセスについては二つのガイダンス が出されていて(TNPO AP-913「設備信頼性」とAP-928 「作業管理」)、保全プロセスの標準化が図られている。 さらにその中の重要な要素と位置付けられるEPRT の予防保全(PM)テンプレートとその基盤データであるPM基盤データベースが開発?改良されてきている。PM テンプレート作成の背 には信頼性重視保全(RCM)の考え方が採 されている。つまり、故障の頻度や影響から判断される重要度などに応じて、同じ機器であっても予防保全タスクの内容と頻度に差をつけるという考え方であ る。 最近では、発電コスト30%低減を目指した産業界の活 ている標準化、裔度化検討の流れを 襲したものであり、その方向性は米国原子力発電所の継続的な運転パフォーマンスの向上という明らかな成果によって裏付けされていると言える。 後の我が国の保全標準化検討においても、本稿で取 りまとめた米国の状況を参考に検討が進められることを 待する。 参考文献 NET, EUCG Standard Nuclear Performance Model, Revision 5, December 2007 D. Worledge, et al., The EPRT Preventive Maintenance Basis Products, TAEA-TECDOC-1383, December 2003 NET, Efficiency Bulletin: 16-25, Critical Component Reduction, September 15, 2016 [ ] NET, Efficiency Bulletin: 17-03a, Value-Based Maintenance, Jan. 26, 2017
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