照度測定の自動化に向けた自律移動ロボットの知能化技術
公開日:
カテゴリ: 第15回
照度測定の自動化に向けた自律移動ロボットの知能化技術
Intelligent Technology of Autonomous Mobile Robot for Illuminance Measurement
岡山大学戸田 雄一郎 Yuichiro TODANonmember 首都大学東京 WeiHong Chin WeiHong CIHNNonmember 首都大学東京 新井 智之 Tomoyuki ARAINonmember 株式会社きんでん 辻元 誠 Makoto TSUZIMOTO Nonmember
株式会社きんでん
首都大学東京
谷口和彦 久保田直行
Kazuhiko TANIGUCHI Naoyuki KUBOTA
Nonmember Nonmember
Abstract
Recently, the expectation to autonomous mobile robots has been increasing much in order to try to save labor in various scenes. However, there are many critical problems in autonomous mobile robot system. In this paper, we develop the autonomous mobile robot system for an illuminance measurement. In the mobile robot, the environmental map building and self-localization is the fundamental capability for performing the task given by operator. Therefore, we propose the real-time self-localization method based on an evolution strategy. Next, we propose a method of a control system based on fuzzy estimation and multi-objective behavior coordination. Finally, we show an experimental result of the proposed method.
Keywords: Illuminance Measurement, Intelligent mobile robot, Self-localization
1.はじめに
近年,少子高齢化社会にともない,労働人口の減少に 関する問題が注目されている.そのような中,ロボット は,生産現場や極限作業環境だけでなく,家庭内や福祉 にも適用されており,省力化や作業時間の短縮のため様々な産業へのロボットの導入が検討されている [1].建築現場でもまた,省力化などのためにロボットが導入さ
れつつあり,建築現場での作業の一つに照度計測がある. 照度測定は,夜間等,外光の影響の無い時間帯に実施され,多くの計測点を必要とするため,建築現場の中でも特に照度測定の自動化が望まれている.そこで本稿では, 電気設備業における照明の照度測定を,ロボット技術を用いて自動化することを研究目的とする.このような照度測定用自律移動ロボットを実現するためには,ロボットが、現在の自己位置を認識し,構築された環境地図の中から,ロボットが作業者の指定した多数の測定地点へ移動し,照度の計測を行う必要がある.このような作業を効率よく行うためには,環境認識・行動計画・行動制御といった知的な要素技術が必要となる.
また,これらの要素技術は,単一の技術として用いるの ではなく,要素技術を高度に統合しなければならない. そこで,本稿においては,これらの知的な要素技術をフ ァジィ理論・進化計算といった計算知能の観点から実現 することによって,照度計測用ロボットの知能化に関す る提案を行う.さらに,開発した照度測定用ロボットを 用いて,実環境での実験を行いその有効性を検証する.
2.照度測定用ロボットのシステム構成
本研究にて開発を行なった照明測定用ロボットの外観 を図1 に示す.基本的な照度計測において,一般照明の照度は,床面から800mm の高さで測定することがJIS 規格で決められているため,本研究では,用いるロボットの移動ベースに三脚を設置し,その上に照度計を取り付け,照度測定を行なうこととした.また,ロボットに搭載されているセンサとしては,コニカミノルタ株式会社 から発売されている照度計であるT10 [2]とロボットには, 周囲の環境地図の構築を行い,自身の自己位置を推定する能力が求められるため,北陽電機株式会社から発売さ れている測域センサであるUTM-30LX [3]が搭載されて
いる.
連絡先:戸田雄一郎、〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1、岡山大学、E-mail: ytoda@.okayama-u.ac.jp
図1 照度測定用ロボット
自己位置推定が可能となるため本研究において採用した. 自己位置推定の最適化における,進化戦略では,各個
体を現時刻におけるロボットの自己位置(gk,1, gk,2)と姿勢(gk,3)として表現し,各遺伝子に対して,遺伝的操作を行 なっていくことによって,探索を行なっていく.遺伝的 操作の1 つである,交叉には,最良個体とランダムに選択された個体から交叉を行なうエリート交叉を用いる. また,突然変異には以下の式によって計算される適応的突然変異を用いる.
g? g
? ? ?
? fitmax ? fitk ? ? ? ? N (0,1)(2)
k ,h
k ,h
?? h
fit
max
fit
min
h ??
図2 占有格子空間地図の概念図
3.照度測定用ロボットの知能化技術
環境地図構築と自己位置推定
照度測定用ロボットが測定を行う環境内を自律的に移 動し,照度測定点へと移動していくためには,上述のと おり環境地図構築と自己位置推定に関する技術が必要で
ある.本研究では,地図表現方法として,占有格子空間
ここで, fk は,k 番目の個体の適応度を表し, fmax とfmin は,それぞれ,個体群中の最大,最小の適応度を表す. また,N(0,1)は,平均0,分散1 の正規乱数を?hと?hは, それぞれ,係数とオフセットを表す.このように突然変 異では,?hの値によって,探索範囲を設計することが可 能であり,遠隔モニタリングに使用する移動ロボットの 最大移動速度に応じて,適切な係数を設計することによ って,ロボットにおける自己位置推定のための探索を行 なうことが可能である.また,k 番目の適応度 fitk は以下の式によって計算される.
M
地図を用いる.占有格子空間地図は,2 次元空間を格子として表現し,計測情報に応じて各格子の占有度合いを更
fitk
? pocc ?x
i,L
, yi,L
??? mapt ?x
i?1
M
t
i,L
, yi,L ?
新していく地図の表現手法である.図2 に占有格子空間
pocc ?x , y
?hit?t ?xi,L , yi,L ?
? ?i?1
の概念図を示すが,基本的にはセンサからの計測情報が
ti,L
i,LMM
?hit?t ?xi,L , yi,L ?? ?errt??xi,L , yi,L ?
存在したセルに対しては占有度を上げ,センサが透過し
i?1
i?1
(3)
たセルに対しては占有度を下げていくことによって,地 図の更新を行なっていく.本提案手法においては,以下
の式に基づき,占有格子空間地図を用いることによって
??1if hitt ?xi,L , yi,L ? ? 0
??0else if errt ?xi,L , yi,L ? ? 0
hit? ?x , y?? ?ti,L i,L
?1if err ?x , y ? ? 0
?
地図の更新を行なっていく [4].
errt??x
i,L
, yi,L
? ? ?
ti,L
i,L
mapt ?x, y? ?
hitt ?x, y?
hitt ?x, y? ? errt ?x, y?
(1)
??0else if hitt ?xi,L , yi,L ? ? 0
式(3)より,自己位置推定解の探索において,適応度は,
ここで,hitt(x,y)と err t(x,y)は,それぞれ,時刻 t までに格子(x,y)において,測域センサによって計測された回数と測 域センサの信号が透過した回数を表す.このようにして 本研究では,環境地図を構築していくが,ロボットの自 己位置推定の最適化には,進化戦略に基づく手法を用い る.具体的な進化戦略の手法としては,? 個の親となる個体群から 1 個の子個体を生成し,山登り的に探索を行なっていく(?+1)-ES を用いる.(?+1)-ES は,常に親個体を ? 個体保持するため解集合の多様性が保たれた状態において,近傍探索が可能な手法であり,より精度の高い
基本的に地図の占有度の総和によって決定される.適応 度が高くなるほど,測域センサのよって計測された格子 の座標と現時刻までに構築された地図情報の一致度合い が高くなるため,より精確に自己位置を推定できること が期待される.そのため,本問題は最大化問題として帰着される.
多目的行動調停による知的制御
各行動における各モータへの出力の計算には簡易型フ ァジィ推論を用いる.ファジィ if-then ルールは以下のよ
うになる.
IFxk,1 is Ak,i,1 and … and xk,M is Ak,i,M
を防ぐ目的がある.
wgt '
? ? ? wgt
?wgt
THENyk,1
is wk,i,1
and … and yk,N
is wk,i,N
kkk(8)
ここで,k は行動番号を表し,k = 1 は障害物回避,k = 2 は目標追従を表す.M は各行動における入力数であり, 障害物回避ではLRF からの計測データを一定角度ごとに5 分割して用いるためM = 5,目標追従,最適目標位置追
障害物回避,目標追従をそれぞれ,行動1,行動2 とし,式(8)における各タスク行動の重み更新則Δwgtk(k = 1,2) を設定する.
従では距離が前方,ゼロ,後方の 3 種と角度のずれが左
??wgt ?? dw
dw? ?si ?
右2 方向にあるため積をとってM = 6 となる.N はロボ
?1 ? ? ?
1,1
1,2 ? ? 1 ?(9)
ットの出力数であり,両輪の出力であるのでN = 2 となる.
??wgt2?
?? dw2,1 dw2,2
?? ?si2 ?
適合度の計算には以下の式で表されるガウス型メンバシップ関数を用いる.
sim(m = 1, 2)は環境知覚情報を表し,それぞれLRF から求めた障害物の接近度や,目標までの相対角度.最適目
? ?x
? a ?2 ?
標位置までの距離である.dwk,m は行動k がsim によって受
?Ak ,i , j
?xk , j
? ? exp ? ?
?
?
k , j
2
b
i, j
i, j ?
??
(4)
ける影響を定める定数パラメータである.Δwgtk,dw
k,m,
ai,j , bi,j はメンバシップ関数の中央値と幅を表す.
メンバシップ関数により各入力に対する適応度を求め掛け合わせることで各ルールの発火度を計算する.
(5)
各ルールの設定出力値に対し,発火度を重みとした重 み付け平均を取ることで,行動kにおける両輪の出力yk,l ( l
=1,2)を得る.R はルール数である.
(6)
ロボットが複数のタスク行動を並行して実行する場合,環境の変化に応じて行動の優先順位を変化させる必要がある.多目的行動調停(Multi-objective Behavior Coodination)では,各行動(行動1:障害物回避,行動2: 目標追従)の出力yk,l を行動k の重み wgtk をセンサ値によって更新し,各出力の重み付け和を取ることで環境に適した最終出力yl を算出する.K はタスク行動の総数であり,本研究においてはK=2 である.
sim の値は正規化され,0~1 の範囲の値を取る. sim が高
い値となったときに Δwgtk が大きな値を取るよう dwk,m の値を決めることで知覚された状況に適した統合出力を得 ることができる.
このように,基本的な行動制御は,目標物追従と環境 情報からの入力によるファジィ制御によって各行動に対 する出力の計算が行われ,最終的に多目的行動調停によ って出力が行われる.このような手法は,環境を探索す る際においてタスク(行動)ごとに出力を計算すること ができ,現在のロボットの状況に応じた出力を計算可能となっている.
4.実験結果
本研究では,屋内フロアにおける照度計測を想定して, 体育館における実験を行なう.実験環境を,図3 に示す. 本体育館は約 30m×30m の大きさとなっており,環境地図構築を行なった結果を図 4 に示す.図 4 においては, ロボットを環境地図構築結果より,体育館のように,あまり環境の形状に特徴がない部分においても,環境地図構築ができていることが確認できる.
K
?wgtk ? yk ,l
y ? k?1
K
l
(7)
? wgtk k?1
yk,l はk 番目の行動出力おける両輪(l = 1, 2)の出力を表す.また,重みの更新則は次のように行われる.ここでα は忘却係数であり,センサ情報が初期値と同値になった場合に,累積の重み更新幅が0 に戻ってしまうこと
図 3 実験環境
図 5 照度測定における計測点と経路
図 4 環境地図構築結果(左図:地図,右図:位置推定)
次に,構築された地図を用いて,照明の計測に関す る実験を行なった.本実験において設定した計測点を図5 に示す.本計測地点は,ロボット上面に設置したカメラ で計測した際における照明の中心点の座標をそれぞれ手 動で設定し実験を行なった.図6 に制御結果の例を示す. 図における赤丸は設定した計測地点,青線はロボットが 移動した軌跡を示す.図6 より,各計測地点をほぼ正確に追加している.よって,ファジィ制御と多目的行動調 停によってロボットを制御することで,測定点の計測を 行なうことが可能である.
5.おわりに
本研究では,電気設備業における照明の照度測定を, ロボット技術を用いて自動化するための知能化されたロボットシステムとして,照度測定用ロボットの開発及び, 照度測定用ロボットに必要となる環境地図構築と自己位置推定,知的制御などの要素技術を計算知能の観点から実装し統合した知能化技術に関する提案を行なった.実験では,体育館における照度測定を目的とした実験を行
図 6 ロボットの制御結果
い,提案手法によってロボットが自己位置推定をしなが ら自動で照明点まで移動可能なことを示した.今後は, 実現場で適用していくことによって,有効性の検証を行なっていく予定である.
参考文献
NEDO ロボット白書 2014, http://www.nedo.go.jp/content/100567345.pdf
コニカミノルタ株式会社 T10, https://www.konicaminolta.jp/instruments/support/disconti nued_products/t10/index.html
HOKUYO, http://www.hokuyo-aut.co.jp/
Benet, Gines, et al. "Using infrared sensors for distance measurement in mobile robots.", Robotics and autonomous systems 40.4, 2002, pp.255-266.