照射欠陥形成による内部応力の照射誘起応力腐食割れへの影響

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カテゴリ: 第16回
照射欠陥形成による内部応力の照射誘起応力腐食割れへの影響 Influence of internal stress by irradiation defect formation on irradiation assisted stress corrosion cracking 京都大学 大野健太郎 Kentaro ONO Student member 京都大学 中筋俊樹 Toshiki NAKASUJI Student member 京都大学 証小勇 Xiaoyong RUAN Student member 京都大学 陳翌婢 Yuting CHEN 京都大学 森下和功 Kazunori MORISHITA Member QST 渡辺淑之 Yoshiyuki WATANABE Abstract The prediction of the initiation and propagetion of irradiation-assisted stress corrosion cracking is one of the issues for aging countermeasures in nuclear power plants, and it is desirable to improve the accuracy of the prediction. In recent years, theoretical calculations have shown that irradiation defects introduced by neutron irradiation generate internal stress. Therefore, in this research, we calculate the increase of internal stress using the molecular dynamics method when irradiation defects are formed in the metal material, and investigate the relationship between the irradiation-assisted stress corrosion cracking and the internal stress due to the formation of irradiation defects. Keywords: irradiation assisted stress corrosion cracking, internal stress, irradiation defect, reactor internals 1 緒言 原子力発電所の構造物はその運用に伴って経年劣化が進行し、特に多くの中性子照射を受ける炉内構造物では、 照射 応力腐食割れ IASCC が発生 る とが となっている。例えば、PWR では、IASCC が原因となるバッフルフォーマボルトの損傷が多数確認されている[1]。また、BWR では制御棒のシース等が割れる原因がIASCC とされている[2]。現在、IASCC による重大な損傷は確認されていないものの、IASCC の発生や進展のメカニズムは に されていない。き の進展 度の評価を小さく見積もっていた場合、炉内構造物の破壊につなが 非常に危険である。進展 度評価を大きく見積もってい :大野健太郎, 611-0011 , 大学 エネルギー 工学研究所 E-mail:ono.kentaro.47x@st.kyoto-u.ac.jp た場合は経済的な面で損失が生じる。そのため、その評価 の精度を高める とは原子力発電所の高経年化対策において非常に重要である。 応力腐食割れ(SCC)は、腐食性の環境に置かれた金属材料に 応力が発生 る とで生 る現 であ 、その発生要因として材料、応力、環境の3つが考えられる。中性子照射はSCC の3要因に大きな影響を与えるため、その影響を調査 る とは重要である。 また、近年Dudarev らによって、中性子照射によって導入された照射欠陥が材料の内部に応力(内部応力)を発生さ る とが よ された[3]。 の では、中性子照射によって形成される欠陥 布や内部応力などのミクロな情報から、マクロな応力やひ みを推定 るモデルが提案されている。現在の応力拡大係数K の評価には、 応力や トの運 中に 用 る応力が考慮されているものの、照射欠陥形成による内部応力は加 味されていない。 そ で、本研究では、照射欠陥形成による内部応力がき 端近傍の応力場に与える影響を らかにしてき 進展の評価制度を高める とを目標とし、その基礎研究として金属材料中に照射欠陥が形成された場合の内部応力 の上昇を 子動力学法を用いて した。そして、照射欠陥による内部応力が応力拡大係数およびき 進展 度評価に与える影響を議 した。 2 研究方法 ま 、 子動力学法を用いて、純鉄およびタ グステ中に格子間原子(SIA と空孔が形成された場合について を行った。シミ ーシ ボックスは10 10 10 のbcc セルとし、総原子数は2000 とした。ポテシャルには純鉄にはMendelev[4]のものを、タ グステにはMarinica[5]のものを用いた。そして、以下の手順で を行った。 ま 以下の式よ 、欠陥を導入した時の弾性双極子力テ ソルを求めた。 で、弾性双極子テ ソルとは、ある欠陥とその欠陥が る弾性場を関 付ける、欠陥周の応力場をエネルギーの次元で表したものであ 、欠陥周辺の変位場の異方性を表 とができる。 以下の式よ 、各原子にかかる力と位置ベクトルの関係から欠陥を導入した時の応力場を求めた。 Table1. Elastic dipole tensor of vacancy in tungsten. All the values are in eV units. w n=l -1 08 0 0 -1 08 0 0 0 0 -1 08 n=2 (第一隣接) -2 28 0 44 0 44 0 44 -2 28 0 44 0 44 0 44 -2 28 n=2 (第二隣接) -5 75 0 0 0 -2 40 0 0 0 -2 40 n=3 -6 33 0 0 55 0 -2 85 0 0 55 0 -2 85 -6 33 0 0 n= 0 -2 47 0 0 0 -6 33 n=5 -5 89 0 0 04 0 -5 90 0 0 04 0 -5 90 n=6 -5 98 0 0 -10 05 0 0 0 0 -10 05 1 aij == 2 こ a,b ab,i ? fab,j n で、 ab,iはab 二原子間の位置ベクトル、fab,jはa によってb にかかる力ベクトル、n は原子体積である。 次に、参考 献のDudarev らによって導かれた式よ 、双極子テ ソルを求めた。 Pkl ==- fakldV == -Vcell a k l vcell で、Pkl は弾性双極子力テ ソル、Vcell はセルの体積、 a k lは セルにおける応力の平均である。 3 結果・考察 弾性双極子力テンソルの計算結果 タ グステ 中に空孔を導入した場合の双極子力テソルの 結果を以下のTable.1 に 。また、空孔を導入した位置をFig.1 に 。 双極子力テ ソルの対角成 は静水圧成 であ 、垂 Fig.1 Position of vacancy 直応力を発生さ 、非対角成 は偏差応力を表し、物体の凹みのような変形を発生さ る。欠陥の数が1,2 の第二隣接の場合、4,6 の時は対角成 のみが現れる。また、対角成 の値は欠陥の数によら 負となってお 、空孔が生じた場合には 応力が発生し、体積が減少 ると考えられる。非対角成 は欠陥の配置に応じて現れ、その双極子テ ソルの値は対角成 よ 小さくなっている。その値は、欠陥の配置に関係していると考えられ、配置によ斜めにシ リ ク る成 がある場合にのみ、 ん断力を表 非対角成 が現れる。また、ク スターのサイズが大きくなるにつれて対角成 の絶対値が大きくなってお 、発生 る応力が大きくなっている。 次に、タ グステ 中に SIA ク スターが発生した場合の結果をTable.2 に 。また、SIA を導入した位置をFig.2 に 。 SIA の場合も空孔と同様に欠陥の配置によってどの成 に値が現れるかが決まっている。対角成 の値は正であ 、各成 の値は空孔の場合よ も大きくなっている。つま 、SIA が形成された場合は空孔が生じた場合よも強い応力場が生じ、圧縮場になると予想できる。また、 空孔の場合と同様に欠陥のサイズが大きくなるにつれて、 各成 の値が大きくなってお 、よ 強い応力場が形成されているといえる。 Table.2 Elastic dipole tensor of SIA in tungsten. All the values are in eV units. w n=l 53 78 13 16 0 〈ll0〉 13 16 0 53 78 0 0 52 89 n=l 〈lll〉 37 32 16 58 16 58 16 58 37 32 16 58 16 58 16 58 37 32 n=2 67 85 34 38 35 82 34 38 73 78 34 38 35 82 34 38 73 78 190 86 93 46 93 46 n=5 93 46 181 84 92 57 93 46 92 57 190 86 n= 276 25 131 85 131 85 276 25 131 85 131 85 131 85 131 85 276 25 Fig.2 Position of SIA Table.3 に純鉄に空孔ク スターを導入した場合の双極子力テ ソルの 結果を、Table.4 に純鉄にSIA ク スターを導入した場合の 結果を 。 タ グステ の場合と同様に空孔の静水圧成 は負であ 、SIA の静水圧成 は正となった。 の とから、空孔が形成した場合は体積が減少し、SIA が形成された場合は体積が 加 る とが予想される。純鉄の場合 は、値は異なるもののタ グステ の場合とほぼ同じ成 に値が現れる。また、SIA ク スターの双極子テ ソルの各成 の値はタ グステ よ 小さく、空孔の双極子テ ソルの書かう成 の値の絶対値はタ グステ よ 大きい。ク スターのサイズが同じ場合、各成 の値の絶対値の大きさはSIA の方が大きいため、欠陥が形成されるとトータルとして圧縮応力場ができるといえ、欠陥の形成によ 体積 加が ると予想できる。 Table.3 Elastic dipole tensor of vacancy in Fe. All the values are in eV units. 緩和体積の計算結果 次に、求めた双極子テ ソルを以下の式を用いてひみ量に相当 るものに直 とで、緩和体積を求めた。 n el == kl Pkl で、n el Fe n=l -2 31 0 0 -2 31 0 0 0 0 -2 31 n=2 (第一隣接) -4 23 0 63 0 63 0 63 -4 23 0 63 0 63 0 63 -4 23 n=2 -6 33 0 0 (第二隣接) 0 0 -5 79 0 0 -5 79 n=3 -7 09 0 1 36 0 -6 68 0 1 36 0 -6 68 n= -7 84 0 0 -7 59 0 0 0 0 -7 84 -8 66 0 -1 05 n=5 0 -9 01 0 -1 05 0 -9 01 n=6 -9 66 0 0 -10 73 0 0 0 0 -10 73 は緩和体積、 kl は弾性 イ ス テ ソルである。タ グステ の欠陥一つ当た に対る緩和体積をFig.3 に、純鉄の欠陥一つ当た に対 る緩和体積をFig.4 に 。 1 5 1 0 Qrel/n(Qo) 0 5 0 0 02468101214 slZe Fig.3 Relaxation volume of irradiation defects in tungsten. 1 5 Table.4 Elastic dipole tensor of SIA in Fe. All the values are in eV units. Fe n=l 15 29 3 80 0 (ll0) 3 80 0 15 29 0 0 18 47 n=l 15 29 0 0 (lll) 0 0 18 47 3 80 3 80 15 29 n=2 26 78 9 47 -0 99 9 47 26 78 0 99 -0 99 0 99 31 89 n=5 70 97 22 56 8 52 22 56 71 75 13 50 8 52 13 50 74 05 n= 87 73 31 90 33 43 31 90 89 14 36 82 33 43 36 82 99 93 1 0 Qrel/n(Qo) 0 5 0 0 02468101214 slZe Fig.4 Relaxation volume of irradiation defects in Fe. 図のオ ジ色の点は空孔が形成された場合の緩和体積を表 。タ グステ 、純鉄のど らにおいても空孔ク スターの緩和体積は 0 に近い値を とから、空孔の緩和体積 の影響は小さいといえる。また、図の の点は SIA が形成された場合の緩和体積を、赤線は緩和体積量の平均値を表 。SIA が形成された場合、タ グステ では原子体積一つ の体積よ も約 25%、純鉄では約12%緩和体積が大きくなる とが かった。タ グステ 、純鉄の両方で、どのサイズの欠陥でも体積に対 る寄与は SIA の方が大きく、同じサイズの欠陥が形成された場合には体積 加が るといえる。また、タ グステと純鉄を比較 ると、SIA による体積 加の影響はタグステ の方が大きく、空孔による体積減少の影響はタ グステ の方がわ かに小さい とから、同一の欠陥構造を持つ場合、タ グステ の方が大きく体積が 加 るといえる。 応力拡大係数への影響 3.1 節および 3.2 節では、照射欠陥によって内部応力が発生し、その応力場によって体積が 加 る とが かった。本節では、き 端近傍にある照射欠陥が応力拡大係数に与える影響を議 し、き 進展 度の評価 の影響を考える。 材料中に SIA が形成された時のセルの平均応力をTable.5、空孔が形成された時のセルの平均応力を Table.6 に 。 Table.5、Table.6 よ 、照射欠陥周辺には強い応力場が生じている。サイズ 7 の 位ルー の場合、欠陥周辺には約1.4GPa の応力が生じる。また、ステ ス鋼に1dpa の照射を与えた照射材にはおよそ1 0 X 1024/m3の数密度で小さなク スターが形成される。[6] Table.5 Average stress of SIA W(MPa) Fe(MPa) n=l 〈ll0〉 280 ll0 n=l 〈lll〉 l90 ll0 n=2 3 0 200 n=5 9 0 500 n= l 30 6 0 Table.6 Average stress of vacancy 現在、JSME 維持規格[7]に記載のPWR 環境中のフェイト鋼の疲労き 進展評価の 度式[8]や炉心シ ウドのステ ス鋼のSCCき 進展評価の 度式[9]には応力拡大係数K が関係している。 の応力拡大係数は照射欠陥形成による内部応力が考慮されておら 、 の内部応力の影響を受ける可能性がある。そして、き 進展 度の予測にも影響を及ぼ 可能性があるため、今後の議 が必要である。 4 結言 本研究では、原子力発電所の炉内構造物に生じる照射 応力腐食割れの進展の予測精度を高める とを目標として、き 端近傍に生じた照射欠陥が応力拡大係数に与える影響を調査した。その基礎研究として、金属材料 中に照射欠陥が生じた場合の応力場について 子動力学法を用いて した。SIA が形成された場合は圧縮応力場が生じ、空孔が形成された場合には 応力場が生じる とが かった。生じる応力場の大きさは、SIA の方が大きいため、トータルでは圧縮応力場が形成される。 の応力場が、き 進展 度評価に与える影響は今後議 していく必要がある。 参考文献 照射 応力腐食割れ(IASCC)と研究の動塚田隆 Zairyo-to-Kankyo, 52, 66-72 (2003) 原子力施設情報公開 イフ リー ニ ーシ制御棒のひび等について http://www.nucia.jp/nucia/kn/KnTroubleView.do?troubleId=806 8 (最終閲覧日:2019/06/12) Amulti-scale model for stresses, strains and swelling of reactor components under irradiation Sergei L Dudarev Nucl. Fusion 58(2018) 126002 Development of new interatomic potentials appropriate for crystalline and liquid iron M. I. Mendelev(2003) Philo. Mag. 83:35, 3977-3994 Interatomic potentials for modeling radiation defects and dislocations in tungsten M-C Marinica (2013) Journal of Physics: Condensend Matter, Vol25-39 2 相ステ ス鋼の照射効果 藤井克彦、福谷耕司 INSS JOURNAl Vol.19 (2012) NT-10 発電用原子力設備規格 維持規格 (2004 年度) JSME PWR 炉内構造物点検評価ガイド イ [原子炉容器炉内 装筒](第2 版) 平成25 年6 月 一般財団法人 原子力安全推進協会www.genanshin.jp/archive/coreinternals/data/JANSI-VIP- 01.pdf (最終閲覧日:2019/06/13) BWR 炉内構造物点検評価ガイド イ [炉心ス イ配管・スパージャ](第2 版) 一般財団法人 日本原子力技術協会http://www.gengikyo.jp/archive/pdf/ronaiguidline/VIP-15r1.pdf (最終閲覧日:2019/06/12)
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