福島第一原子力発電所の燃料デブリ大規模取り出し工法の開発に 関する研究
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カテゴリ: 第17回
福島第一原子力発電所の燃料デブリ大規模取り出し工法の開発に関する研究
Study on Development of Large Scale Retrieval Method of Fuel Debris at Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant
東京大学大学院
横山開
Kai YOKOYAMA
Student-member
東京大学大学院
鈴木俊一
Shunichi SUZUKI
Member
In order to complete the decommissioning of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, it is necessary to develop a method to retrieve the fuel debris remaining in the RPV on a large scale. In the existing method, the gradually picking debris using a robot arm is being studied. But the method has complicated processes, and it requires a great deal of time and cost. Therefore, a method to solidify the fuel debris and internal structures in the RPV by filling the geopolymer, which is a material with excellent heat and radiation resistance, is being considered. In this study, the required specifications of the geopolymer for the method were clarified, and the physical strength properties were confirmed. The effects of different curing conditions and amounts of additives on the physical properties of the geopolymer were clarified through strength tests and calorimetric analysis.
Keywords: Decommissioning, Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, Fuel Debris Retrieval, Geopolymer,Strength Properties, Calorimetric Analysis
1.序文
福島第一原子力発電所の廃炉を達成するためには、原子炉格納容器や圧力容器内に残存する燃料デブリの大規模取り出しに関する工法および技術の開発が必要不可欠である。既存の取り出し方法では、ロボットアームを用いて小分けしたデブリを段階的に取り出す方法が検討されている[1]。この工法は複雑な工程が複数にわたり存在するため、多大な時間と費用を要する。これに対して、耐熱性や耐放射線性に優れた材料であるジオポリマーを充填し、燃料デブリと炉内構造物を一体的に固化することで、安全かつ効率的に取出す方法が提案されている[2][3]。
そこで、本研究では当該工法に求められるジオポリマーの水中での強度特性に注目し、試験を通じてジオポリマーの適用可能性を検討した。また、反応熱量測定を通じてジオポリマーの固化過程における熱流束の経時的変化を明らかにした。
試験材料
今回使用したジオポリマーの原料質量比は、水酸化ナトリウム:水ガラス:メタカオリン:純水 = 1.00:14.6:13.3:5.73 である。以上の原料質量比から求めたジオポリマーの物質質量比を表 1 に示す。
また、本研究ではジオポリマーの各種性能向上を期待して、試験ごとに珪砂等の添加材を添加した。
表1 ジオポリマー内の物質質量比
物質
質量パーセント [%]
SiO2
36.4
Al2O3
16.3
Na2O
9.9
H2O
37.4
圧縮強度評価
概要
ジオポリマーを充填材として使用するためには、一般に考えられているセメント系材料およびベントナイト系材料と同等以上の強度を持つことを示す必要がある。ここでの物理的強度とは、燃料デブリ取り出しの際にデブリ及び周囲の構造物を一体化さ
せ、支える機能を指す。
本研究における圧縮強度評価の目的は、本研究で使用するジオポリマーの圧縮強度が、原子力発電所に使用されているコンクリートの一般的な設計基準強度である、210~300kgf/cm2(20.6~29.4MPa) [4]以上であることを確認することである。加えて、臨界管理や乾燥収縮の低減といった実際の施工観点から、様々な養生条件や添加条件下のジオポリマーの圧縮強度評価を行い、条件ごとの傾向を確認した。
方法および条件
表 2 に圧縮強度試験の条件を示す。本研究では、実際に注水環境下でジオポリマーが施工されることを想定し、養生環境は水中とした(C-1~C-12)。
試験条件は、基本となるブランクに加えて、乾燥収縮やひび割れを防止する効果を持つとされる珪砂を添加した条件と、臨界防止のために酸化ガドリニウムを 2wt%添加した条件を比較対象として用意した。また、燃料デブリの発熱による水温の上昇を想定し、40 度および 60 度条件下での養生を行った。さらに、添加量の圧縮強度への影響を調べるために、水中養生の条件の試験体において 10wt%と20wt%の条件を用意した。
なお、C-1 からC-12 までの水中養生のサンプルは、材齢 20 日で水中から取り出し、100%RH かつ常温状況下で気中養生したのちに、試験に供した。
試験に供したジオポリマー試験体の大きさは直径50mm、高さ 100mm であり、試験前に試料の両底面を研磨により面出しした。試験方法は、日本工業規格のJIS A 1108 に準じた。なお、本圧縮強度試験では数量の都合上、サンプル数をn=1 とした。
結果および考察
図 1 に圧縮強度試験の結果を示す。全条件において、原子力発電所に使用されているコンクリートの一般的な設計基準強度を満たしていることが確認された。
各条件においては、40℃で養生した試験群(C-5
~C-8)の強度が最も高くなる傾向にあることと、珪砂を 10wt%以上添加することで強度が向上する傾向にあることが確認された。これらの傾向は、気中養生における圧縮強度評価の傾向とも一致しており[5]、施工時に乾燥収縮を防ぐ目的で珪砂を一定量添加したとしても、圧縮強度に大きな影響を与えないことを示している。
また、臨界防止のための酸化ガドリ二ウムを 2% 添加したとしても、ブランクと同等かそれ以上の強度を確保することができることが確認された。
表 2 圧縮強度試験の条件
No.
養生温度
[℃]
養生環境
添加材
添加量
[wt%]
材齢[日]
C-1
22.5±2.5
水中
-
-
30
C-2
22.5±2.5
水中
珪砂9号
10
30
C-3
22.5±2.5
水中
珪砂9号
20
30
C-4
22.5±2.5
水中
Gd2O3
2
30
C-5
40
水中
-
-
30
C-6
40
水中
珪砂9号
10
30
C-7
40
水中
珪砂9号
20
30
C-8
40
水中
Gd2O3
2
30
C-9
60
水中
-
-
30
C-10
60
水中
珪砂9号
10
30
C-11
60
水中
珪砂9号
20
30
C-12
60
水中
Gd2O3
2
30
C-1
C-2
C-3
C-4
C-5
C-6
C-7
C-8
C-9 C-10 C-11 C-12
0.020.040.060.080.0
圧縮強度[MPa]
図1 圧縮強度試験の結果
引張強度評価
概要
燃料デブリおよび炉内構造物を一体固化して取り出すためには、固化したジオポリマーを炉心部と共に吊り上げる際にジオポリマーが割裂し落下しないことが重要である。この場合の工法は、炉心支持板が存在する場合を想定しており、水中で固化したジオポリマーの引張応力に対する強度が備わっていることを確認する必要がある。
本研究における引張強度評価の目的は、本研究で使用するジオポリマーの引張強度を確認することである。さらには、臨界管理や乾燥収縮の低減といった実際の施工観点から、水中養生条件や添加条件下のジオポリマーの引張強度評価を行い、条件ごとの傾向を確認した。また、本研究で使用するジオポリマーの圧縮強度試験と引張強度試験の結果からそれらの強度差を確認した。
方法および条件
表 3 に引張強度試験の条件を示す。本研究では、実際に原子炉圧力容器内において注水環境下でジオポリマーが充填され固化することを想定し、養生環境は水中とした(T-1~T-12)。
試験条件は、圧縮強度試験と同様に、ブランクに加えて珪砂や酸化ガドリニウムを添加した条件を比較対象として用意した。また、燃料デブリの発熱による水温の上昇を想定し、40 度および 60 度条件下での養生を行った。さらに、添加量の圧縮強度への影響を調べるために、水中養生の条件の試験体において 10wt%と 20wt%の条件を用意した。
なお、T-1 から T-12 までのサンプルは、材齢 20 日で水中から取り出し、100%RH かつ常温状況下で気中養生したのちに、試験に供した。
試験に供したジオポリマー試験体の大きさは直径50mm、高さ 100mm であり、試験前に試料の両底面を研磨により面出しした。試験は、日本工業規格のJIS A1113 に基づく割裂引張強度試験を実施した。なお、本引張強度試験では数量の都合上、サンプル数をn=1 とした。
結果および考察
図 2 に引張強度試験の結果を示す。
珪砂を 10wt%以上添加することで強度が向上する傾向にあることに加えて、40℃養生かつ添加材を加えた試験群(T-6 から T-8)の強度が最も高くなる傾向であることが確認された。この傾向は、圧縮強度評価の傾向とも一致していることが確認された。
また、酸化ガドリ二ウムを 2wt%添加したとして
も、全養生温度においてブランクと同等かそれ以上の強度が発現することが確認された。
T-1
T-2
T-3
T-4
T-5
T-6
T-7
T-8
T-9 T-10 T-11 T-12
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
表 3 引張強度試験の条件
012345
圧縮強度[MPa]
No.
養生温度
[℃]
養生環境
添加材
添加量
[wt%]
材齢[日]
T-1
22.5±2.5
水中
-
-
30
T-2
22.5±2.5
水中
珪砂9号
10
30
T-3
22.5±2.5
水中
珪砂9号
20
30
T-4
22.5±2.5
水中
Gd2O3
2
30
T-5
40
水中
-
-
30
T-6
40
水中
珪砂9号
10
30
T-7
40
水中
珪砂9号
20
30
T-8
40
水中
Gd2O3
2
30
T-9
60
水中
-
-
30
T-10
60
水中
珪砂9号
10
30
T-11
60
水中
珪砂9号
20
30
T-12
60
水中
Gd2O3
2
30
図 2 引張強度試験の結果
図 3 に圧縮強度と引張強度の比較を示す。結果から、水中養生における各条件における引張強度は、同条件における圧縮強度の約 2.5~7.3%であることが確認された。
0.020.040.060.080.0
強度[MPa]
図 3 圧縮強度と引張強度の比較
反応熱量測定
試験方法および条件
ジオポリマーの固化過程は、その強度発現や流動性といった、施工を考える上で重要な機能に影響しているため、ジオポリマー反応熱測定を通じて熱流束の経時的変化を明らかにすることを目的とした。測定装置内の温度は 30℃に保持し、混錬直後のジオポリマーを測定容器に流し込んだ上で、72 時間の測定を行った。ジオポリマーに対する添加割合による発熱量の影響を確認するため、珪砂を 30wt%添加
した条件とブランク条件の比較を行った。
結果および考察
表 4 および図 4 に反応熱量測定の結果を示す。結果として、30℃の気中養生環境においては、全条件とも開始約 36 時間で総発熱量の 95%に到達し、約48 時間で発熱反応が収束することが確認された。ま
た、測定開始直後から反応が始まり、約 12 時間で 総発熱量の 50%に到達することが確認された。この結果は、養生開始後約 12 時間における温度等の条件が固化に大きな影響を与えることを示している。
測定開始直後の発熱量のピークについては、活性フィラーであるメタカオリンから溶出した金属イオンと、水ガラス等の材料で構成されるアルカリ溶液が反応することによりケイ酸錯体を架橋し、ポリマー化が開始した点だと考えられる[6]。また、その後の継続した発熱については、メタカオリン粉体中から徐々に金属イオンが溶出し、ポリマー化が進んでいる様子が示されていると考えられる[7]。
また、珪砂 9 号を 30wt%添加した条件において、他の条件に比べて総発熱量及び測定開始直後の発熱量のピークが小さいことが確認された。これは、ジオポリマーの絶対量が少ないことが原因であると考えられる。この結果から、珪砂等の添加材の添加割合を調整することにより、発熱量の調整を通じて流動性の制御が可能であることを示している。
結論
本研究では、燃料デブリ大規模取り出し工法に対するジオポリマーの適用可能性を評価するために、水中における物理的強度およびジオポリマーの反応熱量に注目した。結果として、圧縮強度および引張強度ともに十分な強度が得られること、添加剤を添
加することによって更なる強度発現や発熱量の制御が可能であることが確認された。また、30℃の気中養生環境においては、開始約 36 時間で総発熱量の95%に到達することが確認された。
表 4 反応熱量測定の結果
No.
条件
試料量
[mg]
反応熱量
[J/g]
1
ブランク
2070
120
2
珪砂9号 30wt%添加
2020
90
3
Gd2O3 2wt%添加
2060
121
5.0
4.0
Heat Flow[mW]
3.0
2.0
1.0
0.0
0.010.020.030.040.0
時間[h]
図 4 反応熱量測定の結果
参考文献
NDF, “東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン 2020” (2020).
鈴木俊一, “俯瞰的アプローチによる燃料デブリ取り出し代替工法の提案”, 保全学, Vol.17, No.4, pp. 83-90 (2019).
酒井泰地, 鈴木俊一, 他, “燃料デブリ取り出しに向けたジオポリマーの適用可能性に関する研究”, 保全学, Vol.17, No.2, pp. 87-94 (2018).
仕入豊和, 嵩英雄, “コンクリートの品質管理”, コンクリート工学, Vol27, No.4, p. 41-47 (1989)
横山開, 高橋佑介, 鈴木俊一, “福島第一原発の燃料デブリ大規模取り出しに向けた被覆材に関する研究 -廃棄物としての特性評価-”, NDEC-6, オンライン会議, pp. 19 (2021)
一宮和夫, “ジオポリマーの研究開発の現状”, コンクリート工学, Vol55, No.2, p. 131-137 (2017)
池田政, “ジオポリマーバインダーによる鉱物質粉体の常温固化と材料化”, 資源と素材, Vol 114, No.7 (1998)