火力発電プラント配管の破断余寿命診断のデジタルツイン
公開日:
カテゴリ: 第17回
火力発電プラント配管の破断余寿命診断のデジタルツイン
Digital Twin for Fracture Life Expectancy Diagnosis of Thermal Power Plant Pipe
大阪府立大学
高橋陸
RikuTAKAHASHI
Student-member
大阪府立大学
木谷悠二
YujiKITANI
Student-member
大阪府立大学
小野進
SusumuONO
Non-member
中国電力株式会社
西田秀高
HidetakaNISHIDA
Non-member
電力中央研究所
西ノ入聡
SatoshiNISHINOIRI
Non-member
大阪府立大学
生島一樹
KazukiIKUSHIMA
Non-member
大阪府立大学
柴原正和
MasakazuSHIBAHARA
Non-member
In recent years, there has been a growing demand for power generation from renewable energy sources. However, power generation from renewable energy sources is characterized by the fact that it is highly dependent on weather conditions, and thermal power generation requires large changes in output to adjust power. The sudden changes in temperature and strain that occur during this process have a significant impact on the remaining life of the equipment. In this study, we developed a system to identify internal damage in piping from temperature and strain measurements at a small number of measurement points by using a digital twin.
Keywords: Digital Twin, Life Expectancy Diagnosis, Creep, Thermal Power Plant, Pipe
1.緒言
近年、世界的に地球温暖化を抑制することが持続可能 な社会の実現の目標の一つに掲げられており、エネルギ ー分野においても再生可能エネルギーの導入によってCO?排出量を抑制することが求められている.ただし, 再生可能エネルギーによる発電は天候の影響を大きく受 け,供給量が不安定になるという特徴を持ち,それによ り従来安定的な電力の供給を行ってきた原子力発電や火 力発電は電力供給の負荷調整機能としての役割を新たに 担うことが想定されている.ただし,起動停止時や負荷 変動時に生じる急激な温度・ひずみの変化は伝熱管のク リープ破断などを引き起こし,配管の余寿命に大きく影 響する.現状では配管全体の劣化,き裂などをオンライ ンで監視可能な技術は確立されていない.そのため本研 究では大規模解析手法とデータ同化手法を統合すること
により,限られた計測データから高温下における配管全 体の力学的な状態をデジタル空間上で再現することによ り,リアルタイムで予測する手法の開発を行った.
2.大規模解析手法
大規模クリープ解析技術の開発
まず実構造物に適用可能である大規模なクリープ解析 技術の開発を行った.ボイラ配管などの大規模構造物の
連絡先:高橋 陸、〒599-8531、大阪府堺市中区学園町1番1号、大阪府立大学工学研究科
E-mail: r_takahashi@marine.osakafu-u.ac.jpFig.1 Flow of creep analysis by IEFEM
詳細な熱伝導解析や熱応力解析を行うためには有限要素法(FEM)によって大規模な有限要素モデルを取り扱う必要がある.ただし従来の一般的なFEM 解析である静的陰解法は解析時間が要素数の三倍に比例して大きくなる特徴を持ち,リアルタイムでの解析は実質的に不可能となる.そこで本研究では柴原,生島らが開発した理想化陽解法FEM(IEFEM)[1]を解析手法として用いた. IEFEM は動的陽解法であり,陽解法の長所である高速計算能力を有しながら陰解法なみに高精度で解を求めることが可能な手法となっている.本研究においてIEFEM にクリープ解析を組み込んだ.計算フローをFig.1 に示す.まず初めに外荷重などの負荷を弾塑性解析によって計算した後,クリープ弾塑性解析を行っている.
クリープ解析の精度検証
次にIEFEM を用いたクリープ解析の精度検証を行う.文献[2]の試験体を参考にして周溶接継手管の八分の 一モデルを用いて解析を行った.モデル図をFig.2 に示す.要素数,節点数はそれぞれ74,918 および81,019 となっている.クリープひずみの時間増分は次に示すノー トン則に従うとした.
ここで?????? はクリープひずみ速度,A,n は材料に依存する係数である.用いた材料は改良9Cr-1Mo 鋼であり,材料定数をFig.3 に示す.試験体の溶接金属部(WM 部),熱影響部(HAZ 部),母材原質部(BM 部)における A,n の値はTable 1 に示すような値に設定した.このモデルに対しTable 2 で示すような文献と同様な二つの条件によって温度,内圧及び軸力を付与してクリープ解析を行い,文献値との比較を行った.解析条件1,2における肉厚中央部の溶接金属から母材にかけての周方向,
Table 1 Creep coefficient of material
?????? = ?????????n
BM
HAZ
5.39 × 10-18
6.53
WM
3.75 × 10-18
6.53
Table 2 Analysis condition
No.
Temperature (℃)
Internal pressure (MPa)
Tensile stress (MPa)
Time(h)
1
650
24.35
0
6536
2
650
24.35
35
1088
?????= ????????1)
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
Fig.2 Analysis model
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0.06
0.04
Creep strain
0.02
0.00
-0.02
-0.04
-0.06
0.06
0.04
Creep strain
0.02
0.00
-0.02
-0.04
-0.06
Distance from center of weld metal
IEFEM
No.1
Bibliography [2]
0
0 100 200 300 400 500 600 700 800
Temperature(℃)
BM and HAZ
0
0 100 200 300 400 500 600 700 800
Temperature(℃)
WM
Distance from center of weld metal
IEFEM(ii) Bibliography [2]
(b) No.2
Fig.3 Material propertiesFig.4 Comparison of creep strain
軸方向,中心線方向のクリープひずみについて,IEFEM
????= ????+ ??(????- ??????(3)
による計算結果と文献値の比較をFig.4 に示す.結果か
?????????? ??
らIEFEM による計算結果と文献値のクリープひずみ分布がおおむね一致するという結果が得られた.
ここで添え字のa はデータ同化(assimilation)を意味し,f は予測(forecast),o は計測(observation),t は時間ステップを示す.この式は計測値とIEFEM で得られた予測値との差に対し?????よる重み付けを行うことで時刻t におけるデータ同化値?????得られることを示している. ??は
????FEM の値から計測値に相当する物理量を取り出す行列である.ここで理論上最も確からしいデータ同化値が得られるときの?????カルマンゲインと呼ばれ,アンサンブ ルカルマンフィルタでは次式のように計算される.
????= ????????????????????+ ??-???4)
????
Fig.6 Conceptual of Ensemble Kalman filter
データ同化手法
式(4)の???計測値の分散値を表す.また,?????アン サンブルメンバーの分散で次式のように計算される.
??
????=
∑(?????- ???) (?????- ???)???5)
データ同化手法の概要
本解析手法に統合したデータ同化の説明を行う.デー
タ同化とは統計的な予測手法とFEM 等の物理モデルに
????- ??????????????
よる予測手法を統合し,より信頼性の高い実現象の予測 を行うことを可能にする手法である.統計的な手法は実 計測に基づくので実現象に近い予測を行うことができる が,計測値が得られていない現象の予測が困難であるの に対し,物理モデルによる予測は設定した境界条件が現 実と異なっていた場合に予測が実現象と乖離してしまう 特徴を持つ.データ同化によりそれらの特徴を補完する ような予測を行うことで少数の計測データから実現象全 体の予測を精度良く行うことが可能となる.
アンサンブルカルマンフィルタ
次に本解析で用いたデータ同化手法である,アンサン ブルカルマンフィルタ[3]の説明を行う.アンサンブルカ ルマンフィルタの概念図をFig.6 に示す.アンサンブルカルマンフィルタではまず初めに推定する物理量の初期 値に対して摂動を与えた粒子をm 個(???? ? ?????用意する.これらをFEM により時間発展させる.
?????? = ??????)(2)
次に各粒子に対しその時間において得られた計測値のデ ータを反映することでデータ同化値を算出する.具体的 なフィルタリング式を式(3)に示す.
式(5)で??????m 個発生させた各アンサンブルメンバ
ーの値,??????アンサンブル平均となっている.式(1)で得られたデータ同化値?????時刻t+1 での予測値?????することで式(2)から(5)を逐次的に処理し,全時間にお けるデータ同化値を得ることができる.
??????
クリープ現象のデジタルツインの検証
検証方法
大規模クリープ解析技術とデータ同化手法を統合したデジタルツイン技術の検証を行った.検証にはFig.7 に示す試験片モデルを用いる.要素数,節点数はそれぞれ107,856 および113,731 である.ここで材料定数は 2 章における改良 9Cr-1Mo 鋼と同じとした.検証方法としては650℃の状態において軸方向に引っ張りの荷重を加えた解析を行い,これを順解析とする.荷重は中央部における最終的な応力が 200Mpa となるように与えた.時刻 t = 2000 s およびt = 4000 s における応力状態をFig.8 に示す. 図から試験片中央部に高い応力が発生していることが分かる.次に加えられた荷重を未知として計測データを試験片中央 1 点における z 方向ひずみのみとしてデータ同化を行い,試験片に働いた荷重および応力,変形状態が順解析通りに推定できるかについて検証を行った.このよ
[MPa]
X
Fig.7 Analysis model of test piece
16.00
14.00
Force in Z direction[MN]
12.00
10.00
8.00
6.00
4.00
2.00
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
(a) t = 2000 (s)(b) t = 4000 (s)
0.00
0.01000.02000.03000.04000.0
Time[s]
Fig.9 Result of force
0.0025
0.002
Strain in Z direction
0.0015
0.001
0.0005
0
Fig.8 Stress distribution of test piece
うに現実では把握不能な真値データを順解析によ
って数値的に作成しておくことで,デジタルツイン技術 の妥当性検証が可能となる.
検証結果
検証結果について示す.荷重の時間履歴,全ひずみの結 果について Fig.9,Fig,10 に示す.Fig.10 の結果からクリープひずみが発生することによって全ひずみが非線形的 に増加しているが,荷重,全ひずみに関して良好に推定で きているのが分かった.よって計測データが限られてい たとしても本手法によって実構造物全体の物理的な状態 を把握することができると考えられる.
結言
本研究では,火力発電プラント配管における破断余寿命診断を目標として大規模クリープ解析とデータ同化手法を統合したデジタルツイン技術を開発し,数値検討における妥当性の検証を行った.以下に得られた知見を示す.
理想化陽解法FEM(IEFEM)にクリープ解析を導入 することで実構造物に適用可能な大規模クリープ解
0.01000.02000.03000.04000.0
Time[s]
Fig.10 Result of total strain
析技術の開発を行った.また文献値との比較を行い, 本解析技術が妥当であることを確認した.
開発した大規模クリープ解析技術に対し,データ同 化手法であるアンサンブルカルマンフィルタを統合 することでデジタルツイン技術を構築した.
構築したデジタルツイン技術の検証を行った.検証結果から少数の計測点によってクリープ現象を仮想 空間上で再現可能であることを示した.
参考文献
生島一樹、 伊藤真介、 柴原正和“GPU を用いた並列化理想化陽解法FEM の開発”、溶接学会論文集、第31 巻、第1 号、2013、pp.23-32.
緒方隆志、 光枝利紀、 酒井裕史“改良Cr-1Mo 鋼周溶接継手管の内圧クリープ破断に及ぼす軸引張力 の影響”、日本機械学会論文集、Vol.81、№827、2015、 pp.1-12.
J. L. Anderson: An Ensemble Adjustment Kalman Filter for Data Assimilation: Geophysical Fluid Dynamics Laboratory, Princeton, New Jersey, Vol.7(2001), No.11
謝辞
この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技 術総合開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP14004) (JPNP16002)の結果得られたものです。