磁気光学効果を用いた渦電流探傷プローブの開発と評価

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カテゴリ: 第17回
磁気光学効果を用いた渦電流探傷プローブの開発と評価 Development and Evaluation of Eddy Current Probe Using Magneto-Optical Effect 東北大学 金井一樹 Kazuki KANAI Student-member 東北大学 武田翔 Sho TAKEDA Member 東北大学 内一哲哉 Tetsuya UCHIMOTO Member Eddy Current Testing (ECT) is widely used for non-destructive testing in the industrial fields. Furthermore, ECT is expected to be used not only for evaluating the integrity of products, but also in the field of fundamental research, such as the mechanism study of hydrogen assisted fatigue crack growth since ECT can evaluate electromagnetic properties. However, the low spatial resolution of ECT is an issue for such applications. To improve the resolution of ECT system, a magneto-optic (MO) element is applied to the receiver part of ECT instead of the pick-up coil. In this system, the noise introduced into the section measuring the rotation angle of the polarization plane is an issue. To reduce this noise, the MOECT system that employs polarization beam splitter is constructed in this study. As the first step, the detection capability of the MOECT system is investigated by detection test on the through slit, and the validity of the result in the detection test is confirmed by analysis. Keywords: Eddy Current Testing, Magneto-Optical, Magnetic sensor, Magneto-Optical element, Eddy current probe 1.緒言 渦電流試験(Eddy Current Testing, ECT)は非接触で高速な非破壊試験が可能であるため,航空機からプラントに至 るまで幅広い分野で用いられてきた.ECT は非破壊で試験片の電磁特性も評価できるため,製品や設備の健全性 評価だけでなく,機械特性変化と電磁特性変化が関連付けられる水素助長疲労破壊のメカニズム解明のような基 礎研究の分野での活用も期待されている[1]. 一方で,メカニズム解明のような用途ではECT の空間分解能が課題となる.例えばオーステナイト系ステンレ ス鋼の水素助長疲労破壊に関しては,破壊メカニズムに 関係するとされる亀裂周辺の 100 ?m オーダーの領域で発生する相変態を分析するのに十分な空間分解能を有し ておらず,相変態量を定量的に評価するのは困難であっ た.これはECT の空間分解能が検出コイルの大きさに依存し,感度を維持したままコイルを小型化するには技術的な限界が存在するためである[2]. この課題に対し,検出コイルの代わりに磁気光学 連絡先: 金井一樹、〒981-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1 流体科学研究所、流動システム評価分野 内一研究室 E-mail: kazuki.kanai.p1@dc.tohoku.ac.jp (Magneto-Optical, MO)素子を用いた磁気センサを受信部に適用することが検討されている.MO 磁気センサの感度は素子の大きさに依存せず空間分解能はレーザー照射径の大きさに依存することから,コイルより小型化が容 易であり,ECT の受信部に適用することでECT の空間分解能向上が期待できる.例えば樋口らは,磁場の変化に対 応して偏光面が回転するファラデー効果を受信部に適用 し,偏光面の回転角変化を測定するMOECT システムを構築した.このシステムにより,従来のECT では空間分解能の問題から困難であった0.5 mm 間隔で配置された2 つの異なるスリットの分別に成功している[3].一方で, この研究では偏光面の回転角を直交偏光子法で検出しているが,この手法には出力値に環境ノイズが入り込むことで精度を減じてしまうという課題がある[4]. そこで本研究では,MOECT の測定精度向上のため偏光ビームスプリッタ(Polarizing Beam Splitter, PBS)を用いて偏光面の回転角を測定する手法を提案する.この手法ではレーザーを PBS により P 偏光と S 偏光の 2 つに分離し,個々の信号強度をフォトディテクタ(PD)によって計測する.これらの信号の差動電圧????測定することにより,環境ノイズが除去され測定精度が向上することが期待される.今回は第一段階として試験片に導入した貫通スリットをPBS の適用されたMOECT システムにて探傷 することで,システムの探傷能力について調査する.また, 数値解析によって試験結果の妥当性について検証する. 2.MOECT システムの構築 本研究で用いる MOECT プローブの概略図を図 1 に示す.プローブは励磁コイル,MO 素子とこれらを固定するアクリルの治具からなる.コイルの諸元は内径6.0 mm, 外径 8.55 mm,高さ 4.0 mm,銅線径 0.1 mm,巻き数 210 回である.また,MO 素子には直径15 mm,厚さ2.0 mm のテルビウムイオンを含有するリン酸ガラス製ファラデー素子(VL5000,株式会社住田光学ガラス)を使用する. 反射光の偏光面の回転角を測定するために素子の片側には厚さ300 nm のAl およびMgF2 薄膜を成膜する. 本研究で構築するMOECTシステムの概略図を図2 に, 外観図を図 3 に示す.レーザー光源には標準波長が650 nm,照射径が 2.0 mm × 0.7 mm の楕円形の赤色レーザーを用いる.発信したレーザーはハーフミラーを透過し,ファラデー素子に入射する.ファラデー素子に成膜した薄膜でレーザーは反射し半波長板を通過したのちにPBS に至る.PBS に入射したレーザーは,P 偏光と S 偏光に分離される.レンズによって集光されたレーザーの強度を2 つの PD によって計測し,その差動電圧????ロックインアンプで測定する. 本システムでは半波長板により磁場未印加時の偏光面 の方位角を45°となるように調節する.これにより,磁場未印加時からの回転角???微小な場合の差動電圧????回転角???関係は次のようになる. ???∝ √2 sin ??? √2??∝ ??1) (1)式の通り???????比例しているとみなせるため,???? 測定することでファラデー効果による回転を検出するこ とが可能である.また,ファラデー効果による回転角??? 磁場???関係はヴェルデ定数を???ファラデー素子の厚さを???すると次のようになる. ??= ??????2) (1),(2)式より,測定する????より磁場???評価すること が可能である. 探傷試験を行う前にシステムで用いるファラデー素子 の感度を評価するため,図4 に示す実験システムを用い Fig. 1 Schematic drawing of MOECT probe. Fig. 2 Diagram of MOECT system with PBS. Fig. 3 Overview image of MOECT system. て直流磁場に対する感度を調べた.直流磁場をヘルムホ ルツコイルにより54.0 Oe まで6.75 Oe 刻みで印加し,偏光面の回転角を測定した.レーザーの発振にはファンクションジェネレータからの周波数 7.7 kHz,印加電圧 0.54 Vp-p の矩形波の信号を使用する.このファンクション Fig. 4 Experimental setup in DC magnetic field. Fig. 5 Amplitude of differential of PDs in DC magnetic field. ジェネレータからの信号をロックインアンプの参照信号 として PD 出力をロックインアンプに通すことで,外乱光などのノイズを低減させる.図 5 に直流磁場をMO 素子に印加した際の偏光面の回転に伴う出力信号を示す. この結果から 6.75 Oe ~ 13.5 Oe の比較的小さな磁場による出力変化でも高い感度で測定できることが確認された. また,????与えた磁場???対してほとんどばらつきなく比例していることからこの測定系の精度が高いことが確認できた. 3.MOECT による探傷試験 次に,MOECT システムにより探傷試験を行う.図6 に試験片の概略図を示す.試験片には幅 0.3 mm,長さ 7.0 mm の貫通スリットが導入された,厚さ10 mm のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304 を用いる.スリット Fig. 6 Scanning condition of MOECT Fig. 7 Result of slit scan by MOECT に対して垂直方向に,スリット先端から4.0 mm の位置における一次元走査を行う.スリット前後の-7.0 ~ 7.0 mm の範囲を1.0 mm ピッチで走査し,信号を取得する.このときレーザーの発振には 45.4 mA の直流電源を用いた. また,ファンクションジェネレータから励磁コイルへの入力信号は周波数を 50 kHz,印加電圧を 5.0 Vp-p とした. 図 7 にスリット探傷試験結果として走査位置と差動電圧との関係を示す.本実験では,きず信号に着目するためにスリットがない箇所でも測定を行い,得られた 2 つの 信号を比較する.測定位置x = -7.0 mm から-4.0 mm まで差動電圧????ほぼ一定であるが,-4.0 mm を超えると上昇し始め,スリットが存在する原点の位置で最大値を示す.その後差動電圧????減少し,測定位置x が4.0 mm を超えると再び上昇する.スリットがない箇所での測定とも同様に,測定位置 4.0 mm 以降で値の上昇がみられる. これは試験片の端に近いところを測定しているため端部効果の影響を受けているのではないかと考えられる.それに対して原点付近に生じるピークはスリットがない箇所での測定には出ていないことから,スリットによる磁場の変化が差動電圧????変化として検出出来ていると考えられる. 4.有限要素法による電磁場解析 続いて,探傷試験結果について検証するため,有限要素 法による 3 次元電磁場解析ソフトウェア PHOTO EDDY (株式会社フォトン)を用いて渦電流探傷シミュレーシ ョンを行った.試験片モデルは28 mm × 14 mm × 10 mmの導体領域とその中央部に配置された幅 0.3 mm,長さ 7.0 mm の貫通スリット領域からなり,比透磁率を両領域とも1,導電率をスリット領域では0 S/m,導体領域では 1.380 × 106 S/m と設定する.数値解析における試験条件は探傷試験と同様である. 探傷試験で得られた差動電圧????変化を数値解析によって算出された試験片表面の磁場の変化と比較することで,探傷試験結果について検証する.図 8 に探傷試験結果と併せて数値解析結果を示す.端部効果が生じない 大きな試験片領域を想定して解析を行っているため x = 4.0 mm 以降の変化は試験と一致しないものの,解析結果は差動電圧????変化と同様にスリットの存在する原点をピークとした山型になり,これらの形状が一致して いることがわかる.従って,差動電圧????変化がスリットによる磁場変化に起因するものだと示された.以上の 結果から,本研究で構築したシステムを用いることで幅 0.3 mm の貫通スリットを検出可能であることが示された. 今後,励磁コイルやファラデー素子,照射径の小型化や, ファラデー素子の材質,レーザー波長の選定などのプローブの最適化を図ることで,MOECT システムを高度化することができると考えられる.また,ステージをより細 かいステップで動かせるようにシステムを改良することで,最終目標であるサブミリスケールの分析が可能になると考えられる. 5.結言 本研究では,MOECT の測定精度向上のためPBS を用いて偏光面の方位角を測定する手法を提案した.今回はファラデー素子をシステムに組み込み直流の磁場を印加した際の感度や精度を,また試験片に導入した貫通スリットを構築した MOECT システムにて探傷し,探傷能力について調査した.さらに,数値解析を用いて試験結果の Fig. 8 Comparison between detection test and analysis 妥当性について検証した. その結果,本研究で作製したプローブは微小な磁場変 化を高精度に検出できる感度を有していることが確認された.また,構築したMOECT システムは0.3 mm 幅の貫通スリットを検出するのに十分な探傷能力を持つことが確認され,数値解析から探傷試験結果の妥当性も確認された. 参考文献 徳田衣莉,内一哲哉,高木敏行,榎浩利,飯島高志,“水素暴露したオーステナイト系ステンレス鋼の疲労試験片の渦電流試験による水素脆性評価”,日本非破壊検査協会,2019 年度非破壊検査総合シンポジウム,東京,2019. 西水亮,松井哲也,小池正浩,野中善夫,小島史 男,小林太,高木敏行,内一哲哉,遠藤久,橋本光 男,福岡克弘,“複雑形状部検査のための渦電流システムの開発”,日本原子力学会和論文誌,7 巻,2号,pp.142-151,2008. 樋口貞雄,福富広幸,黒野正裕,緒方隆志,“磁気光学式渦電流探傷プローブの試作と金属表面の探傷 性能評価”,電気学会論文誌A,126 巻,9 号, pp.945-946,2006. [4] 佐藤勝昭,“光と磁気”,朝倉書店,2001,pp.90-91.
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