立地自治体の視点からの継続的安全性向上
公開日:
カテゴリ: 第17回
立地自治体の視点からの継続的安全性向上
Continuous improvement of safety from the viewpoint of the local government
福井県庁山本 晃弘Akihiro YamamotoNon-Member
After the Fukushima Daiichi accident, it became difficult to gain the understanding of the public only by the response of plant operators, regulators, and the national government, and the local government forced to join decision-making process such as restarting of Nuclear Power Plants in Japan.
In order to rebuild the trust of the public, it is most important to accumulate good operating experience, and continue to make bilateral efforts to enhance safety through incorporating the states of arts knowledge.
Fukui Prefectural Government has own technical experts and also set up a nuclear safety expert committee to independently discuss the safety of nuclear power plants. The committee compiled a report to encourage the plant operator and regulator to improve their safety culture and regulatory framework.
Through such activities, it is important for the three parties to discuss nuclear safety to gain public understanding of nuclear safety.
Keywords: Continuous improvement, Public understanding, Safety culture, Regulatory framework, Stakeholder involvement
1.福井県内の原子力発電所を取り巻く状況
福島第一原子力発電所事故により、敷地外部に大量の放射性物質が放出され、周辺環境に長期間かつ広範囲に甚大な被害をもたらす事態となり、それまでの事故、不祥事とは全く異なり、原子力発電所の安全性に対する国民の信頼は失墜した。これらを払拭し、信頼回復を図るのは容易ではないが、原子力発電所の安全な運転を継続し、良好な運転実績を積み上げていくことが何よりも重要である。
そのためには、原子力安全に第一義的責任を有する事業者が、日常点検や定期検査などの保全活動を通じて設備の機能維持やトラブルの未然防止に努めるとともに、法律に基づき原子力の安全を規制している原子力規制庁においても、現場を中心に事業者の保安活動の継続的な改善を促すような実践的な規制活動を行う必要がある。福井県内では、福島第一原子力発電所事故後、現行の規 制基準の審査に合格した大飯3、4号機、高浜3、4号機の4基が再稼働し、2019 年度の設備利用率は、蒸気発生器伝熱管に損傷が確認された高浜4号機を除き、約 80% と好調であったが、2019 年9月に発覚した関西電力の金
品受領問題により、関西電力に対する県民の信頼が完全に失われた。
また、2020 年には、高浜3、4号機において蒸気発生器伝熱管の損傷が再発し、過去の原因調査が十分でなかったことが判明した。さらに、大飯3号機では、一次系配管分岐管に応力腐食割れが発生し、原因調査に時間を要しており、2020 年11 月に大飯4号機が定期検査を開始して以降、約2か月以上にわたり、すべての発電所が停止した状態となった。
さらに、2020 年12 月には、大飯3、4号機の行政訴訟の一審判決で国が敗訴し、判決内容が基準地震動の審査に関わり県内すべての発電所に共通することから、多くの県民に不安や懸念をもたらすことになった。また、関西電力は、福井県に対して、以前より2020 年内に中間貯蔵施設の候補地を提示することを約束していたが、それを反故する事態となっている。
このように、事業者、規制当局に対する信頼を損ねる問題が噴出している中、福井県は、美浜3号機、高浜 1、2号機の再稼働プロセスの矢面に立ち、同県の原子力行政の三原則である「安全の確保」、「地域住民の理解と同意」、「地域の恒久的福祉の実現」に基づき、福井県原子力安全専門委員会の議論、地元の美浜町、高浜町、県議会の意見、国や事業者の対応状況等を踏まえ、2021 年4月、再稼働に同意した。
2.原子力安全に対する福井県の関わり
立地自治体は、IAEA の INSAG-27“Ensuring Robust National Nuclear Safety Systems”において、ステークホルダーとして位置づけられており、規制当局、事業者から説明を受ける立場とされている。しかし、我が国では、福島第一原子力発電所事故後、事業者、規制当局、政府の対応だけでは、地域住民、国民の理解を得ることが困難となり、前述したように、再稼働やトラブル対応などの意思決定プロセスに対して、各自治体が不可避的に関与せざるを得ない状況となっている。
原子力発電所の運転など、原子力利用における安全の 確保に関しては、原子炉等規制法に基づいて規制が行わ れており、例えば、トラブルが発生した場合を例に挙げる と、事業者は、その重要度に応じて規制当局に報告を行う ことが義務付けられている。一方、立地自治体は、原子力 発電所の周辺環境および発電所従事者の安全確保等を目 的として、事業者と安全協定を締結し、地域住民の安全と 信頼を確保するための地方行政の礎として運用している。
具体的には、原子力発電所の運営に関わる平常時、異常時の情報連絡を求めるとともに、発電所の従事者も地域住民であるとの視点から、労働災害の発生防止や予防策、被ばく管理を確実に行うことを求めている。
福井県は、1971 年に全国に先駆けて原子力の専門職員を採用するとともに、それ以降も京都大学や大阪大学などで原子力工学等を専攻した学生を採用し、知見・経験の蓄積に努めるとともに、軽微なトラブルについても、絶えず事業者から報告を求め、県が直接、メディア等に状況を説明してきた。
過去には、安全管理等に関わるトラブル等を踏まえた福井県からの要請により、事業者が対外的に安全文化醸成活動計画等を示しながら、職員の意識向上など現場に密着したボトムアップアプローチによる改善策の実施を行うなど、立地自治体の関わりが、事業者の安全文化醸成活動を促すきっかけとなった事例も多くある。
このように、福井県は、原子力安全について、事業者や国任せにせず、様々な事故やトラブルの経験等を通じて、自らの技術的専門知識を蓄積し、事業者、規制庁と技術的な議論をできる体制づくりに努めるとともに、事業者、国に対して、これまで、蒸気発生器などの設備・機器の交換や高経年化対策の充実強化、安全管理体制の強化などを求めるなど、原子力安全の向上に関わっている。
2020 年4月には、新検査制度が施行され、規制委員会
は、事業者の保安活動に対して、総合的に監視・評価を行う仕組みを導入した。また、2020 年7月には、「継続的な安全性向上に関する検討チーム」を設置し、原子力発電所の継続的な安全性向上の取組みをより一層、円滑かつ効果的なものとするための議論を開始した。
また、2013 年12 月に安全性向上評価制度が施行されたことを踏まえ、事業者は、高浜発電所3、4号機、大飯発電所3、4号機について、運転サイクル毎にそれまでの運転経験や最新知見をもとに安全性向上計画等をまとめ、規制委員会に届出を行っている。
このような状況を踏まえると、原子力安全に対する社会の理解を得ていくためには、今後、事業者、規制当局、立地自治体の間で、原子力安全のための共通言語となりうる要素、基盤とは何かについて改めて議論を行い、原子力発電所の継続的な安全向上に繋げていく必要がある。
3.立地自治体の視点からの継続的安全性向 上
冒頭で述べたように、福井県には、独立的、専門的な立 場から、技術的な評価・検討を行う「原子力安全専門委員 会」があり、2004 年以降、美浜3号機2次系配管破損事故や耐震バックチェックなどの課題について議論を行い、福島第一原子力発電所事故後は、大飯3、4号機、高浜3、4号機、美浜3号機および高浜1、2号機に関して、規制 当局および事業者から新規制基準適合性審査や許認可の 内容、安全性向上対策工事等について説明を受け、現場確 認も行い報告書をまとめている。
その中には、委員会独自の視点から、規制当局や事業者に対して「発電所の安全性を維持・向上させるため、個別事象に対応した局所的な安全対策を図るのではな く、プラントシステム全体への影響を考慮し継続的改善を行うこと」などを求めている。
他の立地自治体においても、原子力発電所の安全性向上対策などについて、事業者や規制当局から説明を受 け、議論を行う委員会を有しており、福島第一原子力電所事故後は、石川県や鹿児島県などが、そのような組織体を新たに立ち上げている。
今後、プラントの継続的安全性向上を図るためには、立地自治体として、このような委員会の専門知を活用 し、規制当局や事業者に対して、検査制度や安全性向上評価のプロセスの改善を求めていくことが重要である。