竜巻飛来物による機器破損確率の評価 -簡易評価法による実プラントを対象とした試算-

公開日:
カテゴリ: 第16回
竜巻飛来物による機器破損確率の評価 ー簡易評価法による実プラントを対象とした試算ー Failure probability of plant facilities subjected to tornado missiles - An evaluation for a real plant based on simple calculation - 日本原子力研究開発機構 日本原子力研究開発機構 鹿島建設株式会社(現 山口大学) 相澤康介Kosuke AizawaMember 江沼康弘Yasuhiro Enuma 山田和彦Kazuhiko Yamada An evaluation of failure probability for facilities in a real plant subjected to tornado missiles was introduced based on simple calculation. Impact speeds of the tornado missiles to the plant facility were calculated, assuming several initial locations for them and Rankine's model or Fujita's model as a tornado vortex model. Failure probability of each facility subjected to the tornado missiles was quantitatively evaluated, taking account of probabilities of tornado strike to the plant, number of missiles and so on. The results show that we can reduce the failure probability of the facilities by appropriate management of prospective missiles especially at the building roof. Keywords: Tornado missile, Failure probability, Vortex model, Missile location, Tornado missile management 1 序論 原子力規制委員会が定める「実用発電用原子炉及びその 施設の位置、構 及び設 の基 に する規 」[1] において、安全施設は竜巻が生じても安全機能を損なわないものでなければならないとしている。2011 年3 月に発生した福島第一原子力発電所事故以降に再稼働を達成した軽水炉プラントは、竜巻に起因する飛来物の衝突に対して安全施設を防護するために、防護が必要な安全施設の周囲に防護構 を設置し、上記規 への適合を達成している[2]。しかしながら、安全施設の破損につながる大規模竜巻が発生する確率は極めて稀と想定され、かつ大規模竜巻発生時に必ずしも飛来物が安全施設へ衝突するわけではないと考えられる。 本研究では、NUREG-CR-4458[3]記載を基とした簡易手法を用いて、実プラントを対象とした竜巻飛来物による機器破損確率の試算を実施した。 2 簡易評価手法 考 [3]の記載を基として以下の式により、竜巻飛 来物による機器の破損確率を算出した。 P = T X q X A X N ここで、P は機器破損確率、T は機器破損を生じさせる飛来物速度となるプラントへの竜巻飛来確率、'J' は単位面積あたりの飛来物衝突パラメータ、A は機器の投影面積、N は飛来物 である。本研究では、'J' は 考 [3] に記載された最大値、7.89x10-8 [1/m2]、を用いた。代表する飛来物種類毎、区画毎の飛来物存在位置について機器破損確率を計算し、合計値を当該機器の破損確率とした。 3 評価結果 竜巻ハザード曲線 「原子力発電所の竜巻影響評価ガイド」[4]及び「原子力発電所の竜巻影響評価ガイド(案)及び解説」[5]に基づき、竜巻ハザード曲線を図1 のとおり算出した。竜巻検討地域は、評価対象の実プラントの設置位置から、北海道宗谷岬から本州の日本海側及び北海道の襟裳岬以西の海岸に沿った海側5km と陸側5km の地域、とした。年超過確率10-5 における竜巻最大風速は約54m/s である。本研究では、機器破損の評価において考慮する竜巻最大風速の最大値は150m/s とした。これは、日本で発生した竜巻の最大クラスであるF3[6]より大きいF4 の最大風速116m/s を大きく上回り、竜巻ハザード曲線評価時にサン プルとした竜巻の最大風速より非常に大きい値であるが、対 正規分布仮定での外挿により飛来確率を推定した。 連絡先:相澤康介、〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗町成田町4002、日本原子力研究開発機構 E-mail: aizawa.kosuke@jaea.go.jp i .1 ornado a ard cur e 3 2 飛来物調査 評価対象とする実プラントにおいて、標高をもとに8 区画に分け飛来物調査を行った。なお、飛来物調査の段 では、竜巻事象を考慮した飛来物 は実施していない。飛来物は、その形状及び質量にて分類し、鋼製材、コンテナ、乗用車、大型バスに代表させた。代表とした飛来物の総 及び仕様を表1 に示す。 able 1 Number and specifications of tornado missiles Steel beam Container Car Bus Number [-] 164 51 388 23 Length [m] 4.2 6.0 4.7 12.0 Width [m] 0.3 2.4 1.7 2.5 Height [m] 0.2 2.6 1.8 3.5 Weight [kg] 135 2300 1570 15855 Aerodynamic parameter [m2/kg] 0.0065 0.0104 0.0083 0.0034 3 3 飛来物飛散評価 電力中央研究所開発のTONBOS コード[7]を用いて、表1 に記載した飛来物の飛散評価を実施した。竜巻渦モデルの影響を把握するために、ランキン渦モデル[8]、フジタモデル[7, 8]の2 種類を仮定した。ランキン渦モデルは簡易な式により風速場を表現しており、フジタモデルは実観測に基づいて考案されたモデルであり実際に近い風速場と考えられる。飛来物の軌跡評価は代表とした飛来物毎に実施した。その際、竜巻の中心より士60m の正方形領域内2601 か所(51X51 の格子状に等間隔)の配置条件を考慮した。また、調査時の飛来物標高に応じた、飛来 物初期高さを考慮した。飛来物軌跡の評価結果より、最大速度、最大飛散距離、最大飛散高さを得た。 図2に飛来物初期高さを0mとした飛散評価結果の例を示す。鋼製材については、ランキン渦モデルでは竜巻最大風速約70m/s で飛散がはじまり、竜巻最大風速150m/s 条件では最大水平速度は約70m/s となる。フジタモデルでは、ランキン渦モデルと比較して、飛散が生じ難く、かつ最大水平速度が低下する結果となり、竜巻最大風速150m/s 条件で最大水平速度は約40m/s となる。一方、コンテナについて、竜巻の渦モデルが最大水平速度に与える影響は さい結果となった。これらより、竜巻の渦モ デルが飛来物の飛散挙動に与える影響は、飛来物の仕様と強く 連することが示された。図3 に竜巻最大風速を100m/s として、飛来物初期高さをパラメータとした鋼製材の飛散評価結果の例を示す。ランキン渦モデルでは、初期高さによらず、最大水平速度は一定である。一方、フジタモデルでは、初期高さが0(地面配置)であると、極端に最大水平速度が低い。初期高さが10m 以上ではランキン渦モデルと同等の最大水平速度である。 Steel beam Container i .2 E aluated peak speed of tornado missiles i .3 E aluated peak speed of steel beam for se eral initial ei t 3 4 機器破損の判定基準 機器破損の判定においては、評価対象とする機器の障墜が鋼板(例 燃料タンク)の場合にはBRL 式[9] をもとにした鋼板への貫通限界板厚を、障墜がコンクリート墜(例 電源盤)の場合にはChang 式[10]をもとにしたコンクリートの裏面剥離限界板厚を基 とした。これらの式により機器破損と判定される飛来物速度を生じさせ、かつ飛来物存在位置から機器配置位置まで飛来物を 達させる竜巻最大風速の下限値の発生確率を、2.章で示したT「機器破損を生じさせる飛来物速度となる竜巻飛来確率」とする。 表2 に、一例として、燃料タンク配置位置と同区画に配置された飛来物(初期高さ0m)によって燃料タンクの破損を生じさせる竜巻最大風速の下限値を示す。コンテナ、乗用車、大型バスについては、渦モデルが燃料タンクの破損を生じさせる竜巻最大風速の下限値に与える影響は さく、コンテナ及び乗用車で約130m/s、大型バスで約100m/s と評価された。一方、鋼製材について、ランキン渦モデルでは破損を生じさせる竜巻最大風速の下限値は104m/s と評価されたが、フジタモデルでは竜巻最大風速150m/s でも破損が生じないと評価された。この結果は、図2 及び図3 に示したとおり、飛来物初期高さが0m の条件において、ランキン渦モデルと比較してフジタモデルでは鋼製材の最大水平速度が低く評価されるためである。 able 2 Peak wind speed of tornado leadin to failure of fuel tank 3 5 機器破損確率 Steel beam Container Car Bus Rankine's model [m/s] 104 130 128 98 Fujita's model [m/s] Over 150 128 128 100 前項まで記した方法を用いて評価した機器破損確率を表3 に示す。最も高く評価された1 年あたりの破損確率でも10-8 オーダーであり、竜巻飛来物による機器破損は低頻度であることが示された。評価対象とした全ての機器について、フジタモデルによる破損確率はランキン渦モデルによる値を下回り、フジタモデルでの破損確率はランキン渦モデルでの値の13,--. 60%となった。表4 に機器破損確率における建物屋上に設置された飛来物の寄与率を示す。寄与率は、建物屋上の飛来物による破損確率/ 全飛来物による破損確率、にて算定した。建物屋上の飛来物による影響は、建物から離れている燃料タンク及び海水 ンプに対しては低く、建物内または建物に近 して位置する電源盤及び崩壊熱除去用冷却器に対しては高い結果となった。特に、高い標高に位置する崩壊熱除去用冷却器に対しては、竜巻渦モデルによらず、建物屋上の飛来物の寄与率は95%以上となった。これより、建物屋上に飛来物となり得る物品を置かないよう をすることで、電源盤及び崩壊熱除去用冷却器の破損確率を大幅に低減出来ることがわかった。 able 3 ailure probability of eac facility Failure probability [1/year] F/R Rankine's model (R) Fujita's model (F) Fuel tank 2.4 10-11 3.2 10-12 0.13 Seawater pump 5.8 10-9 1.1 10-9 0.19 lectric power supply board 9.3 10-8 5.3 10-8 0.57 Cooler or decay heat removal 7.1 10-9 4.3 10-9 0.60 able 4 Contribution rate of tornado missiles on t e roof of buildin Contribution rate [%] Rankine's model Fujita's model Fuel tank 1.6 2.1 Seawater pump 0.3 0.01 lectric power supply board 78.8 92.9 Cooler or decay heat removal 97.2 99.9 4 結論 NUREG-CR-4458 記載を基とした簡易手法を用いて、実 プラントを対象とした竜巻飛来物による機器破損確率の試算を実施した。その結果、1 年あたりの機器破損確率は10-8 オーダー以下であり、竜巻飛来物による機器破損は低頻度であることが示された。また、フジタモデルによる破損確率はランキン渦モデルによる値を下回ることを定量的に示した。さらに、建物屋上に設置された飛来物が、建物内または建物に近 した機器の破損確率に大きく寄与していることを示した。この結果は、高い所に位置する飛来物を することで、建物内または建物に近 した機器の破損確率を大幅に低減可能であることを示す。 参考文献 原子力規制委員会、 実用発電用原子炉及びその 施設の位置、構 及び設 の基 に する規 の解釈”、原規技発第1306193 号、平成25 年6 月19 日. 例、四国電力株式会社、 伊方発電所の安全対策について”、https://www.yonden.co.jp/assets/pdf/corporate/yonden/bro chure/index/ikata_safety_measure.pdf#page=9. U. S. NRC, Shutdown ecay eat Removal Analysis of a Westinghouse 2-Loop Pressurized Water Reactor," NUREG/CR-4458, (1987). 原子力規制委員会、 原子力発電所の竜巻影響評価ガ イド”、原規技発第13061911 号、平成25 年6 月19 日. 原子力安全基盤機構、 原子力発電所の竜巻影響評価ガイド(案)及び解説”、JNES-RE-2013-9009、2013. 象 ー ージ、 竜巻等の突風データ ース”、 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/tornado/. 電力中央研究所、 竜巻による物体の浮上・飛来解析コードTONBOS の開発”、N14002、平成26 年6 月. 日本保全学会、 軽水型原子力発電所の竜巻影響評価における設計竜巻風速および飛来物速度の設定に するガイドライン”、JSM-NRM-009、平成27 年1 月. 土木学会、 構 工学シリーズ6、構 物の衝撃挙動と設計法”、1993. W. S. Chang, Impact of solid missiles on concrete barriers,” Journal of the Structural ivision, Proceeding of ASCE, Vol. 107, No. ST2, 1981.
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)