産業界におけるリスク情報活用の実現に向けた 取り組み状況について
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カテゴリ: 第17回
産業界におけるリスク情報活用の実現に向けた取り組み状況について
Current efforts to utilize RIDM process
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
古田泰
Tai FURUTA
会員
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
矢吹健太郎
Kentaro YABUKI
非会員
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
下野哲也
Tetsuya SHIMONO
非会員
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
喜多利亘
Toshinobu KITA
非会員
概要
原子力事業者は、福島第一原子力発電所事故後にリスク情報を活用した意思決定(RIDM)プロセス を、発電所のマネジメントに導入することとし、そのための取り組み方針等を 2018 年 2 月「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン」に取りまとめ、2020 年 6 月にその後の取り組み状況を踏まえ、同プランを改訂した。同プランの概要及び NRRC における同プランをサポートするための取り組みを概説する。
Keywords: リスク情報活用
1.リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン
事業者はすでに実施している安全性向上対策にとどまることなく、発電所の安全性を向上するべく、リスク情報を活用して、プラントの設備や運用において強化すべき点を特定し、有効な対策を取っていくために、リスク情報を活用した意思決定(以下「RIDM」という)プロセスを、発電所のマネジメントに導入することとした。そして、産業界一体となって取り組む基本方針や計画を2018 年 2 月「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン」に取りまとめた [1]。2020 年 6 月には、その後の取り組み状況を踏まえ、同プランを改訂した。(図1および図 2)。
同プランで示す RIDM を導入したマネジメントシステムに必要な機能を整備し、そして最新の研究成果等の知見を随時取り込む改善を、産業界一丸で取り組むとともに、原子力発電事業者が発電所の現場において RIDM を実践して、規制当局をはじめとするステークホルダーにその有効性を示
連絡先:矢吹 健太郎、〒100-8126 東京都千代田区大手町 1-6-1、(一財)電力中央研究所 原子力リスク研究センター、E-mail: yabuki@criepi.denken.or.jp
していくことが、RIDM の活用の拡大につながり、原子力発電の自律的な安全性向上にとって重 要である。
図 1 RIDM によるリスクマネジメントの概念図
2.NRRC における取り組み
電中研 NRRC(以下「NRRC」)は、事業者の安全性向上の取り組みに必要となる技術やノウハウを獲得するための研究開発拠点として 2014 年 10
月設置され、更に 2016 年 7 月には、「リスク情報活用推進チーム」を設置した。
2020 年 6 月の「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン」の改訂において、事業者は、RIDM 導入のための基盤整備が着
図 2 戦略プランの基本方針
実に進捗していること、更に今後は RIDM プロセスの適用範囲を拡大し組織全体に定着させることが必要との認識を示している。
NRRC は、事業者の掲げた「安全性の維持・向上のための RIDM プロセスの実践及び定着」という目標とその達成に向けた活動を支援するため、人材育成、PRA 高度化の支援、RIDM プロセスの活用範囲の拡大を促す取り組みを行っている。
人材育成
リスク情報活用に必要な人材育成のため、
NRRC では以下の 3 つの教育を提供している。
基礎教育教材の配布
幅広い職員を対象とするため、NRRC にて教材を開発し各社に配布している。
PRA 実務者育成コース
PRA 実務者育成のための専門コースを開催している。
マネジメント層向け演習
意思決定を実施するマネジメント層向けに リスク情報活用のケーススタディを中心とし たコースを開催している。
PRA 高度化の支援
技術基盤支援として、海外専門家による PRA 高度化パイロットプロジェクトへのレビューをコーディネートしており、出力運転時内的事象レベル 1 及びレベル 1.5 の PRA モデルの高度化が概ね完了している。また、地震、津波、内部溢水、内部火災などのリスク評価技術の開発・高度化を進めている。更に、発電所の現物・現実に則した評価の実現を目指し、PRA モデルだけでなく、高度化に必要な機器信頼性パラメータ整備、データベースの構築、人間信頼性解析手法の改善、PRA ピアレビュー体制の検討等を進めている。
RIDM プロセスの活用範囲の拡大
NRRC では、米国の過去の経験[2]を参考に、日本では未だ導入されていない RIDM 活用手段(運 転中保全等)や様々なリスク情報を統合した意思 決定の実践手法について、具体的な技術検討を進 めている。例えば運転中保全については、米国プ ラントにおいて行われている運転中保全関連の各 業務(定量及び定性リスク評価手法を含む)につ いて、国内での成立性や運用性を順次検証してい る。こうした取組みで得られた成果を電力各社殿 事業者へタイムリーに提供することで、原子力発 電所における RIDM プロセスの活用範囲の拡大に 貢献していきたい。
また、RIISI(Risk Informed In Service Inspection)などの確率論に基づく保全管理に活用可能な 経年劣化事象による配管損傷確率の評価手法の検討[3]などの先駆的な研究も実施している。
参考文献
リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及 びアクションプラン(2020 年改訂版),2020年 6 月 19 日
(https://www.fepc.or.jp/about_us/pr/osh irase/ icsFiles/afieldfile/2020/06/19/p ress_20200619_b.pdf)
“リスク情報を活用した意思決定:米国の経 験に関する調査”2017 年 5 月
(https://criepi.denken.or.jp/jp/nrrc/pu blication.html)
森田ほか,“配管減肉による配管損傷確率の評価手法の検討”日本保全学会第 17 回学術講演会予稿集,2021