確率論的リスク評価用原子力機器信頼性パラメータの整備

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カテゴリ: 第17回
確率論的リスク評価用原子力機器信頼性パラメータの整備 Development of Nuclear Component Reliability Parameters for Probabilistic Risk Assessment in Japan 電中研 NRRC 吉田 智朗 Tomoaki YOSHIDA Non-member 電中研 NRRC 清野 弘章 Hiroaki SEINO Non-member 電中研 NRRC 喜多 利亘 Toshinobu KITA Non-member 電中研 NRRC 古田泰 Tai FURUTA Member New reliability parameters of the nuclear components have been estimated for probabilistic risk assessment in Japan. The data for the estimation were collected in a manner consistent with their PRA modeling under the utilities quality assurance systems. The component reliability parameters were estimated with empirical Bayes method. These reliability parameters will contribute to the improvement of the PRA quality in Japan. Keywords: Probabilistic risk assessment Component reliability parameter Component failure rate, Component failure probability Bayesian 1.はじめに 本報は、我が国の原子力発電プラントの確率論的リスク評価(PRA: probabilistic risk assessment、ここでは特にレベル1 内的事象PRA のことをさす)に用いる国内一般機器故障率/故障確率(機器故障パラメータ)を、国内 プラントで収集した機器故障データから推定した結果について述べたものである。 従来、我が国のPRA で用いられていた 機器故障率/故障確率の値は、(一社)原子力安全推進協会(JANSI)の原子力施設情報公開ライブラリー(NUCIA)に登録された機器トラブル情報を用いて算出されたものである[1]。これらの値を用いて評価された我が国のPRA の炉心損傷頻度(CDF)が総じて欧米プラントのそれよりも数桁程度小さい傾向にあったことから、国内外専門家より、日本の機器故障パラメータは低すぎるのではないか、故障事象のデータが適切に収集されていないのではないかとの疑念の声もあげられていた。しかしながら、NUCIA には、その事象登録基準にPRA の故障基準が考慮されていないためPRA に必要な情報が登録されているとは限らないこと、また、機器故障パラメータの計算に必要な機器母集団・運転時間等のデータは登録されないの で、それらは別途概算して収集するしかないこと、など から、NUCIA データから算出した機器故障パラメータ の妥当性の説明ができなかった。 東京電力福島第一原子力発電所事故(1F 事故)の反省・教訓から、電気事業者はNRRC を設立してPRA の本格的技術開発に乗り出し、その一環として、各発電所で直接収集した説明性のあるデータを用いて機器信頼性パラメータを算出することとした。NRRC はこれを支援するため、PRA モデルと整合したデータ収集の技術要件をまとめ、それにしたがって電気事業が収集したデータを用いて、PRA 用の国内一般機器故障パラメータを推定した。 2.PRA 用信頼性パラメータ評価手法 PRA 用パラメータと推定のためのデータ 原子力発電プラントのPRA の基事象に用いられる機器故障事象は、大別して次の2 種類に分けられる。 継続運転失敗(あるいは状態維持失敗) 運転中(あるいは供用中)の機器が、運転(供用)時 間中に何らかの原因で機能故障し、運転(供用)が停 止する事象。一般にこの事象は、ある時間の間にある 一定の割合でランダムに事象が発生するポアソン過程 としてモデル化される。総運転(供用)時間T の間に故障がx 回起こるような確率は次式で表される。 (????????????????????????? ???????????? ???? = ???? (1) ここで、パラメータλ は正の定数であり、時間故障率を表す。問題は、データ(T, x)を得てλ を推定することである。 起動失敗(あるいは状態変更失敗) 安全設備など供用待機中の機器に、異常発生により起動デマンドがかかったときに、機能故障で起動しない事象。一般にこの事象は、複数回の試行のうちある一定の割合でランダムに発生する二項過程としてモデル化される。総起動デマンド回数D のうちx 回失敗する確率は次式で表される。 ???????????? = ????????????????????1 - ?????????????2) ここで、パラメータp は[0,1]の定数であり、デマンド故障確率を表す。問題は、データ(D, x)を得てp を推定することである。 階層ベイズ手法 ある原子力機器の機種について、国内M 基のプラントの機器故障エビデンスデータEj(前節では(T,x)、(D,x))を収集して、当該機器故障の信頼性パラメータθj (前節ではλ、p)を推定することを考える (j=1,2,...,M)。前節(1)、(2)で述べたように、データEj は、パラメータθj で特徴づけられる確率過程π(Ej|θj)から生ずると想定する(π は、前節ではポアソン過程、二項 過程)。さらに、信頼性パラメータθj は産業界におけるθ の母集団ばらつき分布g(θ|φ)から生成される、というモデルを考える。θ の分布形を特徴づけるパラメータφ はハイパーパラメータと呼ばれる。ベイズの定理から、エビデンスデータEj を得てパラメータθj、φ の同時確率分 布を表す式が得られる。 ??????????????, ?????????? ? ∝ ????????????????????????? ? ???????????????????? ? ????(????(3) ????1 ここで、????? = (????, ????, … , ????????),????? = (????, ????, … , ????????)。上記のように、パラメータとハイパーパラメータという 階層構造をもつモデルのベイズ統計の取り扱いを、階層 ベイズ手法という。階層ベイズ手法の構造概念を図1 に示す。 式(3)から各パラメータの確率分布を求めるには、適切 なφ の事前分布P(φ)を決めてマルコフ連鎖モンテカルロ (MCMC)法を用いる方法があるが、データ数(今回の 場合は故障件数)が希少な場合はMCMC が収束しない事が多いため、ここでは米国NRC での一般機器パラメータ評価手法にならって、経験ベイズ手法を用いた。す なわち、共役事前分布とエビデンスデータ??????を用い最尤 法によってパラメータの点推定値?????????, ?????を求めた。機器故 障パラメータθ の一般分布は?????????????)で求められる。さらに、プラント間でパラメータθj の差がない場合は、通常、最尤法の解がないので、予めデータ????? に対してχ2 検定を行い、差がないと判断した場合は、機器故障パラメ ータとデータは全プラント共通とみなし、一段階ベイズ手法 ????(???????????????????????????? ∝ ???????????????????????????????? ? ????(????(4) により産業界共通の機器故障パラメータθ を求めた(事前分布P(θ)にはJeffreys の無情報事前分布を用いた)。 一般機器故障パラメータの推定 電気事業者の品質保証体制が整った2004 年度から1F 事故直前の2010 年度までの国内プラントのデータを用いて前項の手法により算出した機器故障パラメータの例 を図2、図3 に示す。図2 は時間故障率の例、図3 はデマンド起動失敗確率の例である。比較のため、米国の同 機種、故障モードの一般故障確率の値もあわせて掲載し た[2]。 結果の全般的な特徴としては、・故障件数0 のものが多く、その場合はエラーファクターが大きめになってい る、・米国のパラメータの値より小さいが、その違いは概ね1 桁以内である。 電気事業は、今後もデータ収集を継続し、機器故障パ ラメータの信頼性を高めていくことが望ましい。 3. まとめ 電気事業者がPRA モデルと整合性のあるデータを適 切な品質保証の下で収集し、そのデータ用いて評価した 機器故障パラメータでPRA を実施することにより、PRA 結果の信頼性が大きく向上すると考える。 参考文献 https://nrrc.denken.or.jp/kisnrr/ http://nrcoe.inl.gov/resultsdb/publicdocs/AvgPerf/ ComponentReliabilityDataSheets2015.pdf. 図 1 階層ベイズ手法の階層概念 図 2 時間故障率の算出例 図 3 デマンド故障確率の算出例
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