cosα法によるX線残留応力測定における入射角揺動の適用効果の調査
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カテゴリ: 第17回
cos?法よる X 線残留応力測定における入射角揺動の適用効果の調査
A study for the oscillation effect of x-ray irradiation angle inresidual stress measurement by the cosα method
パルステック工業㈱ 内山 宗久Munehisa UCHIYAMAMember
Abstract:
It is known that materials with large grain size are difficult materials to measure the residual stress by X-rays. Materials in maintenance industry are sometimes large grain sized materials, electromagnetic steel sheets are as well.
In this study, we show the measurement results of improve the accuracy of the measurement, residual stress by multi angles oscillation x-ray diffraction.
Keywords: Residual stress, X-ray, portable, large crystallization
緒言
X線応力測定法[1, 2]は,X線回折により金属などの材料の結晶格子面間隔の変化から, ひずみを測定する方法である.
我々が上市したcos?法[3, 4, 5]を用いたポータブル型X 線応力測定装置(?-X360s)が市場に出回り始めるなか, 測定が困難な鋼が見受けられるようになった.
X線応力測定に適した鋼は, 次の条件が満たされている必要がある.
対象となる材料が均質等方性体であること.
X線照射域内に回折に寄与する結晶粒が充分な数だけ存在すること.
測定対象とする材料表面の応力状態が平面応力状態であること.さらに(3)に関しては
応力が表面からのX線侵入深さ内で変化しないこと.
試料表面に垂直な方向の応力成分は0であること.
主応力軸の一つが試料表面法線方向に一致すること. 以上の仮定のいずれかが欠落しても, X線応力測定は原理的に成立せず, 応力解析は不適当と言わざるを得ない.
加えてXYマッピングを行ったところ興味深い結果が得られたので, 合わせて報告する.
研究背景
cos?法について
cos?法について簡単に紹介する.Fig. 1はcos?法による回折環測定のX線光学系を示す.主軸から?0およびゆ0で示される方向から原点Oへ測定試料にX線を照射し, 試料から発生する回折環を撮像したとする.X線入射方向から見て, -nから時計回りに, αの角度方向の回折X線に対応するひずみをEaで表すと, 試料のひずみによる回折環の変化は, Fig. 2のようなイメージとなる.回折環上の各中心角におけるひずみは, ブラッグ角0を用いて
1
Ea = - tan0 ?0(0 ? a ? 2冗)(1)
と表わされる.ただし, ?0は試料のひずみによって引き起こされた回折角の変化である.また, 鉄鋼などの金属材料では,X 線の侵入深さが数?m と浅いので, 多くの場合平面応力状態が仮定できる.その場合,式(1)で求められるEa から
しかしながら, 上記条件が満たされていない鋼も多数存在し測定が困難となっている.本研究では(2) の結晶粒が充分な数だけ存在しない条件にあてはまる, 結晶粒が粗大な鋼の測定手法[6,7]のさらなる向上を目指した.中でも電磁鋼板においては, 磁気特性の向上に伴い, 結晶が
大きくなる傾向があり, さらに応力と透磁率の関係も研
a ≡ 1 {(E - E
2
ーa冗+a
なる量を定義すると
(1 + v)
) + (E-a - E冗-a)}
(0 ? a ? 冗)
2
(2)
究[8]されていることから, 電磁鋼板の測定精度向上方法
aー = -
Esin2nsin2ゆ0cosa・ax(3)
を模索し,結果が得られたので報告する.さらに安川電機製汎用ロボットを用いても測定精度の向上が確認され,
という関係が成り立つ.ただしE,vは試料の X 線的なヤング率およびポアソン比(具体的な数値については,例えば
など), nは Bragg 角の余角, axは試料のx軸方向の垂直応力である.式(3)より, cos?を横軸に取りaーを縦軸にプロットすると直線関係が成り立つ.その直線の傾きaaー/ acosaを用いると, 式(3)から
2.3 入射角揺動
回折に寄与する結晶を増やすための方法として,入射角揺動法や試料平面揺動法が提案されているが, 本研究では測定点が小さくマッピングも簡単であることから, 入
E
ax = -
1[ aaー
](4)
射角揺動法を適用して実験を行った.なお入射角揺動法と
1 + v sin2nsin2ゆ0
となり, axを求めることができる.
acosa
は, 試料とセンサ中心までの距離(以下, 試料距離)を変えずに入射角のみを変更する方法である.実際に作成した揺動装置をFig. 4 に示す.一般的に入射角揺動はゆ軸に対してのみ行われるが, 本研究では, これを拡張し?軸とx軸に対しても揺動を行った.
ここで平面応力場における, 揺動が測定に与える影響を確認しておく.
ゆ軸においてゆ0 ± ?ゆ0だけ揺動したとする.すると式(4)
から応力値は
a = -E
x
1 + v
1
・sin2n ・
1 、1
+1}
(5)
Fig. 1 X-ray diffraction diagram
2 sin2(ゆ0 - ?ゆ0)
sin2(ゆ0 + ?ゆ0)
[ aaー ] acosa
となり, 式(5)を用いることで応力値に与える影響は補正され軽微となる.
Fig. 2 Changes of Debye-Scherrer ring by stress
2.2 結晶粒が粗大な鋼から得られる回折環
測定条件が満たされた試料にX 線を照射して得られる回折環は連続的でFig. 3(a)のようになるが,結晶粒が粗大
な鋼から得られる回折環は,回折に寄与する結晶の数が
Fig. 4 Oscillation Unit
次に?軸において?0=0°+Δ?0での平面応力テンソルは
a = a cos2(Δ? ) + a sin(Δ? )
少なく Fig. 3(b)に示すように斑点状となり測定精度が悪
xー0ー20
(6)
化する.
(a) Small grain size(b) Large grain size Fig. 3 Debye-Scherrer ring
+ a2sin2(Δ?0)
で表され, 例えばΔ?0 = ±5°で露光した場合, aー2は打ち消されるため, 揺動した結果得られる測定値は
ax = 0.992(aー) + 0.008(a2)(7)
となる.誤差は 1%以下と非常に小さく, 応力値に与える影響は軽微といえる.
最後にx軸においては, Δx0 = +90°の時 a2方向からの平行入射となり, 平面応力と仮定して測定した場合, 得られる測定値はax = 0 となることから, 例えばΔx0 =±5°で露光した場合の応力値は
ax = aーcos2( Δx0)(8)
ax = 0.992(aー)(9)
となり, これも1%以下と応力値に与える影響は軽微といえる.
以上により, ゆ, ?, x軸の3 軸を揺動した場合において応力値に与える影響は軽微であると理解された.
実験方法
揺動パス(軌跡)
3 軸を揺動するに当たり, 揺動パスをFig. 5 のように行い, 本実験では揺動パスを以下のように変えて実験を行った.
Path 4? ? : x: ゆ
=
1 : 2 : 4
Path 8? ? : x: ゆ
=
1 : 4 : 8
Path 16 ? ? : x: ゆ
=
1 : 8 : 16
Path 32 ? ? : x: ゆ
=
1 : 16 : 32
揺動幅であるが, 各軸を ±5°として実験を行った.
Fig. 5 Oscillation sequence (e.g. 2-axis / 2 times ψ : χ = 1 : 2)
測定条件
X 線応力測定装置の条件をTable 1 に示す.なお露光時間であるが,ステージの動作速度から以下のようにした.
Path 4 ≒ 30秒Path 8 ≒ 60秒Path 16 ≒ 120秒Path 32 ≒ 240秒
Table 1 Measurement conditions
Tube voltage (kV)
30
Tube current (mA)
0.1
? ? (deg)
30
Collimator (mm)
?1.0
X-ray erastic constant E /(1+ν ) (MPa)
1.75 * 105
Determination method of peak angle
Rolentz method
Sample distance D (mm)
70.0
?? ? (deg)
156.4
Stress calculation method
cos?
実験
揺動の確認
一般構造用圧延材料SS400 を用いて四点曲げ負荷試験を行い, 揺動の有無により応力値に変化がないか確認を行った.Fig. 6 に使用した試験片と四点曲げ負荷装置の写真を示し, Fig. 7 に試験片から得られた回折環を示す.揺動の有無により回折環の変化は見受けられず. 揺動中において試料距離が大きく変わっていないことが見て取れる. 次に四点曲げ負荷試験を行った結果をFig. 8 に示す.揺動の有無による誤差は, 極めて小さく, 揺動による測定誤差は軽微であることが実験により確認できた.
Fig. 6 Test piece and four-point bending load tool
without oscillation(b) with oscillation
Fig. 7 Comparison of Debye-Scherrer ring with and without oscillation (SS400)
Fig. 8 Results of a four-point bending load test, with and without oscillation function
粗大結晶材の回折環の確認
結晶粒が50?m, 100?m, 170?m, 300?m の鋼においてX 線を照射して得られた回折環をFig. 9 に示す.結晶が大きくなるほど回折環が斑点状になることが見て取れる.
Fig. 9 Grain size and Debye-Scherrer ring
揺動の効果確認
結晶粒径が異なる試料に, 揺動を行った結果をFig. 10(a)~(d)に示す.なお図中の上部は揺動条件を変えて得られた回折環であり, 下部のグラフは得られた応力値である.なお誤差範囲 (エラーバー)はcos?線図の直線近似誤差(標準偏差)である.
結晶粒が50?m 未満であれば, 1軸の揺動で充分な効果が期待できるが, 100?m となると3 軸揺動が必要なことが見て取れる.さらに結晶粒が大きくなると, 揺動パスを長くする必要があることが見て取れるが, 結晶粒が300?m となると揺動パスを長くしても効果が得られていない.これは揺動のピッチが狭くなりすぎ, 効果が少なくなっていると考えることができ, 揺動幅を広くするなどの工夫が必要になると思われる.
Fig. 10 (b) Grain size 100?m
Fig. 10 (c) Grain size 170?m
200
R? =
0.99
23
180
160
μ-X360s (MPa)
140
120
100
80
60
40
20
0
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
strain gauge (MPa)
揺動時の応力信頼性(四点曲げ負荷試験)
四点曲げ負荷試験を行い, 応力測定の信頼性評価を行った.Fig. 11 に使用した試験片 (電磁鋼板50SX470) ,
Fig. 12 に試験片から得られた回折環を示す.電磁鋼板50SX470 の結晶粒径は不明であるが, 回折環の斑点状の度合いから100?m 程度と予測される.
次に四点曲げ負荷試験を揺動幅 ±5 度Path 32 行った結
果をFig. 13 に示す.相関係数が0.99 を上回る充分な測定精度が得られ, 揺動の有効性が確認された.
Fig. 11 electromagnetic steel plate 50SX470
without oscillation(b) 32 Repeated
Fig. 12 Debye-Scherrer ring from electromagnetic steel plate
.
50SX470
Fig. 13 Results of four-point bending load test with oscillation using stage
ロボットを用いた入射角揺動による四点曲げ
負荷試験
安川電機製汎用ロボットMH5F (Fig. 14)を用い, 照射点とロボットのツール座標が一致するように設定し, 入射角を変えても試料距離や照射点が変わらないことを目視にて確認をおこなった.
前節までの実験と同じ揺動パスとなるように,ロボットのペンダントにてJOB を作成し,揺動幅 ±5 度Path 32 の設定で四点曲げ負荷試験を行った結果をFig. 15 に示す.前節での実験と同等な結果が得られ, さらに, ロボットの高速性により240 秒?100 秒以下と測定時間の短縮ができ, さらなる高速化も期待される結果となった.
Fig. 14 Yasukawa Robot and ?-x360s
R? =
0.9
948
Fig. 15 Results of four-point bending load test with oscillation using robot.
?-X360s (MPa)
電磁鋼板のマッピング測定
電磁鋼板の残留応力測定において, カシメ周りの応力の状態が重要である.ロボットを使って入射角揺動が可能となったことで, 合わせてマッピングも行うことが可能となった.そこで電磁鋼板の一部にブラスト処理をした試験片(Fig. 16)を製作し, 残留応力のマッピング測定を行った結果をFig. 17 に示す.ブラスト処理した部分は, 結晶の微細化や転位密度の増加により揺動なしでも測定精度が向上しているが, 未処理部の測定結果のバラツキが激しく.測定が困難であるが, 揺動を行うことでブラストでの残留応力の影響が, ブラストした上下の未処理部へ影響与えている様子を見て取ることができる.
Fig. 16 Blasted test piece
a)without oscillation(b) with oscillation Fig. 17 Osillation and mapping
結言
入射角揺動法を用いることにより, ひずみゲージとの高い相関が得られ, 高精度で応力測定が可能であることが確認された.また測定可能な粒径について次の知見を得た.
① 粒径が50?m で程度あれば単軸揺動でも可能
② 粒径が50?m 以上では多軸揺動を行う必要があり, 粒径が大きくなると揺動パスを長くする必要がある.
③ 粒径200?m を超えると揺動幅 ±5°では不足する.
ただし粒径が同等であっても, 転位密度の差によって変わる可能性も考えられるため, 実験を行いながら最適な揺動幅やパスを求める必要があると思われる.また安川電機製汎用ロボット(MH5F)を用いて, 入射角揺動が可能なことを確認し, さらにマッピングを行うことで, 比較的粗大な結晶な材料であっても応力の流れを可視化できることがわかった.
今後, 揺動幅やパスの決定方法の明確化を行い, より大きな結晶を持つ鋼の測定精度向上や, 測定の高速化などを模索していくつもりである.
参考文献
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平, 田中, 山崎, “細束X 線応力測定の一方法とその疲労き裂伝ぱ問題への応用” 材料27, p.251 (1978)
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谷, 大穀, 中野, 有田, 山口, 都出,“応力下における無方向性電磁鋼板の鉄損特性”,日本応用磁気学会誌Vol.30,No.2,pp.196-200 (2006).
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〒431-1304 静岡県浜松市北区細江町中川7000-35
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