電子ビーム溶接を用いて再生した衝撃試験片の監視試験への適用性評価
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カテゴリ: 第15回
電子ビーム溶接を用いて再生した衝撃試験片の監視試験への適用性評価
Applicability Evaluation of Reconstituted impact test specimen by electron
beam welding for RPV Surveillance Test
東芝エネルキ`ーシステムス`株式会社
森島
康雄
Yasuo MORISHIMA
東芝エネルキ`ーシステムス`株式会社
小川
琢矢
Takuya OGAWA
日立 GE ニュークリア・エナシ ー 株式会社
豊田
哲也
Tetsuya TOYOTA
株式会社日立製作所
石寄
貴大
Takahiro ISHIZAKI
日本核燃料開発株式会社
櫻谷
誠司
Seiji SAKURAYA
東京電力ホールテ`ィン `ス株式会社
神長
貴幸
Takayuki KAMINAGA
Abstract
Additional RPV surveillance test are required to extend the operation license of nuclear power plants. Since the number of surveillance test specimens is limited, it is important to establish a reconstitution technique of the surveillance test specimen. Applicability evaluation of reconstituted impact test specimen by electron beam welding for RPV surveillance test were conducted, and it was confirmed that reconstituted impact test specimen was applicable to RPV surveillance test.
Keywords: Reactor pressure vessel, Low alloy steel, Surveillance test, Charpy impact test, Reconstitution method of test specimen, Electron beam welding
1.はじめに
原子炉圧力容器(以下、RPV という。)材における供用期間中の中性子照射による機械的性質の変化を確認する ため、炉内には監視試験片が備えられている。監視試験片を用いた監視試験を行うに当たっては、「原子炉構造材の監視試験方法 1 (以下、JEAC4201 という。)にき実施するよう定められている 2 。一方で、発電用原子炉の運転期間の延長認可申請を行う場合には、追加の 監視試験の実施が められているが、監視試験片の は
られているため、試験後の試験片 材を 用することが重要となっており、 材を用いた試験片の再生が考えられている。
JEAC4201 には監視試験片の補充等を目的として、照射 履歴のある試験後試験片の未変形部分を用いた監視試験片の再生方法について定められている。図1 にシャル゜ー衝撃試験片の再生方法の手順の模式図を示す。(以下、原子力発電プラント建設 に製作され炉内に装荷されている再生していない監視試験片をオリジナル試験片、再
連絡先:森島康雄、〒235-8523 神奈川県横浜市磯子区新杉田町 8、東芝エネルキ`ーシステムス`(株) 原子力機械システム設計部 材料・化学技術担当
E-mail: yasuo.morishima@toshiba.co.jp
生後の監視試験片を再生試験片という。)再生方法の手順としては、まず試験後のオリジナル試験片から採取した未変形部分を炉内へ再装荷し、追加照射を行い、取り出し後に再生試験片の試験部位となるインサート材に加工する。その後、インサート材の両側に補完材であるタブ 材を溶接等で接合することにより再生試験片を製作する。
試験片再生 の接合方法として、熱影響部 を小さできることが見込まれる電子ビーム溶接の適用が検討されている。
実 の監視試験片の再生接合への電子ビーム溶接の適用にあたって、以下の課題があり、これらについて した結果について報告する。
課題1 電子ビーム溶接の接合技術確証
電子ビーム溶接法により再生した試験片を用いて、JEAC4201 附属書C のC-2200 項「接合方法の確認試験方法 をにおける確認項目を実施し、当該溶接法が監視試験片を再生する接合方法として適用できることを確証す る必要がある。
課題2 熱影響部の板厚方向採取位置の影響確認
監視試験片はJEAC4201 では供試材の種類で母材試験片、熱影響部(以下、HAZ という)試験片、溶接金属試験片に分類され、各試験片で供試材からの板厚方向の採
取位置が定められているが、HAZ の再生試験片に用いるインサート材は定められた位置から採取できない。
オリジナル試験片
再生試験片
試験片再生
試験
接合部
(溶接)
評価
2 2 再生試験片の接合
図2 に再生接合の実施状況、図3 に接合手順を示す。まず、図2 に示すようにインサート材およびタブ材の接合面を接触させ、接合面がずれないように押さえ材で保持した後に、図3 に示すようにノッチ面(表面)および裏面から1パスずつ、計2 パスで溶接接合する手順とし た。溶接条件を表2 に示す。本溶接条件は、ノッチ面(表面)および裏面からの溶接部の溶け込みが試験片中央部で十分重なり未溶接部が生じない溶け込み深さが得られ
る範囲で、熱影響部 を小さ するため、溶接入熱を抑
インサート材
(未変形部分を加工)
タブ材
制するとの考え方に き設定した[3]。
1 ー衝撃試験片の再生 の
2 電子ビーム溶接の接合技術確証
電子ビーム溶接法の監視試験片再生の接合への適用に
あたっては、下に示すJEAC4201 附属書C のC-2200 項「接合方法の確認試験方法 における(1)および(2)を満足するとともに(3)および(4)を実施する必要がある。そのため、 電子ビーム溶接により接合した再生試験片を用いて以下(1)~(4)を実施した。
接合後、目視試験および断面観察により、接合部に
害な割れまたは融合不良のないことを確認する。
接合部の強度が十分であることを確認するため、再生試験片を用いて、上部棚吸収エネルギー領域の温度で衝撃試験または破壊じん性試験を実施し、接合部から破壊しないことを確認する。
熱影響部 (エッチングによる着色で確認できる接合による熱影響部の )を測定する。
インサート部の温度履歴を計測または解析により
め、熱回復 (接合した の熱履歴によりインサート材の照射脆化が回復する )を める。
2 1 供試材
供試材は未照射の母材(低合金鋼SQV2A(JIS G 3120
(2003))である。表1 に母材の化学 分を示す。JIS に規定されている化学 分および機械的性質を満足している。実 の監視試験片の供試材と 様に、母材に対して溶接後熱処理を模擬した熱処理を行った。
表1 母材の化学成分(wt %)
再生試験片形状はオリジナル試験片と サイ (10mm X10mmX55mm)のV ノッチシャル゜ー衝撃試験片である。再生試験片の試験部となるインサート材は供試材の板厚tに対して(1/4)t の位置より、JEAC4201 の衝撃試験片に準拠し採取した。インサート長さ(Wa)は10mm および14.4mm の2 条件とした。
接合後に押さえ材および溶接ビードの盛り上がり部を 機械加工により除去し、JEAC4201 の再生した衝撃試験片の寸法要 を満足するよう試験片を製作した。
2 再生接合の実施状況
再生試験片の接合 表2 電子ビーム溶接条件
項目
条件
真空度
9.9X10-3Pa 以下(溶接前)
接合パス
2 パス
ノッチ面(表面)1 パス
裏面1 パス
加速電圧
58kV(両面)
ビーム電流
28.5mA ノッチ面(表面)、
26.5mA(裏面)
溶接速度
12.5mm/sec(両面)
2 試験結果
2 1 目視試験/断面観察
図4 に接合後の 観 真、図5 に接合部の断面観察真を示す。いずれもWaが14.4mm の例である。図5 は溶接方向に直行する断面であり、硝酸ナイタールによるエッチングを施している。Waが10mm および14.4mm のインサート材を用いてそれぞれ3 本ずつ製作した再生試験片に対し目視試験および断面観察を行った結果、すべての接合部で割れ 融合不良は確認されなかった。また、上下からの電子ビーム溶接により試験片内部まで完全に溶込み接合されていることを確認した。
4 接合後の外観写真
5 接合部の断面観察写真
2 2 ー衝撃試験
再生試験片を用いて上部棚吸収エネルギー領域の温度 でシャル゜ー衝撃試験を実施した。試験温度は室温、50℃、100℃とし繰返し は3 とした。表3 にシャル゜ー衝撃試験結果を示す。室温(19℃)は上部棚から遷移領域に入る境界と考えられ、延性破面が100%のものと100%未満のものがあった。一方で、温度50℃および100℃は、上 部棚吸収エネルギー領域の温度と考えられ、全ての試験片で延性破面率は100%であった。図6 にシャル゜ー衝撃試験後の試験片 観を示す。Waが10mm および14.4mm の全ての再生試験片において、接合部からの破壊は 、接合部の強度が十分であることを確認した。
表 接合技術確証試験における ー衝撃試験結果
Wa
(mm)
試験温度
(℃)
吸収
エネルギー
(J)
横膨出量
(mm)
延性破面率
(%)
10
19(室温)
151
1.94
90
19(室温)
141
1.84
85
19(室温)
185
2.14
100
50
181
2.14
100
50
182
2.14
100
50
191
2.04
100
100
208
2.30
100
100
207
2.27
100
100
206
2.28
100
14.4
19(室温)
189
2.23
100
19(室温)
179
2.15
100
19(室温)
161
2.03
75
50
199
2.28
100
50
202
2.31
100
50
185
2.17
100
100
214
2.31
100
100
213
2.22
100
100
218
2.43
100
インサート長さ14 4mm の試験後の接合部(試験温度:100℃)
インサート長さ10mm の試験後の接合部(試験温度:100℃)
6 ー衝撃試験後の試験片外観
2 熱影響部幅(WHAZ)計測
断面観察を行った試験片6 本に対して、熱影響部
(WHAZ)を計測した。なお、図5 に示したように、エッチングによる着色で確認できる接合面両側の熱影響部の
が2WHAZ であり、WHAZは片側分の と定義される。WHAZの計測はシャル゜ー試験片の裔さ10mm をh とした場合の(1/4)h、(1/2)h、(3/4)h(ノッチ側表面から2.5mm、5mm、7.5mm の深さ位置)の3 位置であり、2 か所の接合部に対して計測し、平均値を各試験片のWHAZ とした。計測の結果、インサート長さによらず全ての試験片でWHAZ は0.8mm であった。
断面観察により計測したWHAZ と溶接接合による硬さ測定から めたWHAZとの を するため、接合部のビッカース硬さ測定(測定荷重 0.98N)を実施した。硬さ測定は、WHAZ の断面観察の計測位置で、接合面から士3mm の範囲を0.2mm ゜ッチで実施した。図7 に硬さ測定結果を示す。表4 にWHAZについて断面観察からの計測と硬さ測定から めた結果を比較して示す。接合部近傍では溶接の熱影響により硬化する領域が確認され、硬化領
域の平均値は1.4mm~1.5mm であった。硬化領域を に想定されるWHAZ は0.7mm~0.75mm となり、断面観察において計測したWHAZである0.8mm と概ね一 した。
7 WHAZ 計測ライン上の硬さ測定結果表4 接合部の硬化領域とWHAZの比較
試験片 (インサート長さ(mm))
表面からの距離
(mm)
接合部 硬化領域a側
(mm)
接合部 硬化領域b側
(mm)
硬化領域平均値(mm)
硬化領域想定WHAZ
(mm)
計測
WHAZ
(mm)
B48U1MC01
2.5
1.6
1.6
1.5
0.75
0.8
5.0
1.2
1.2
(14.4)
7.5
1.6
1.6
B48U1MC02
2.5
1.6
1.8
1.5
0.75
0.8
5.0
1.4
1.2
(14.4)
7.5
1.6
1.6
B48U1MC03
2.5
1.6
1.6
1.4
0.7
0.8
5.0
0.8
1
(14.4)
7.5
1.6
1.6
B48U2MC01
2.5
1.6
1.6
1.4
0.7
0.8
5.0
1.0
1.0
(10)
7.5
1.6
1.6
B48U2MC02
2.5
1.4
1.6
1.4
0.7
0.8
5.0
1.0
1.0
(10)
7.5
1.6
1.6
B48U2MC03
2.5
1.6
1.6
1.5
0.75
0.8
5.0
1.0
1.4
(10)
7.5
1.6
1.6
結果は測定結果と概ね 様であり、インサート材の過渡温度履歴を解析によりよ 再現できていると考えられる。図9 に熱 解析結果を にした熱回復パラメータと接 合面からの距離の を示す。ここで、熱回復が 視できるとみなされる熱回復パラメータ最大値は-42 とされ
ており 1 、その の接合面からの距離が熱回復 とされている。図9 より、熱回復 は0.81mm と された。ここで、解析における熱影響部の (Ac1 変態点(700℃) 以上に到達した領域と定義)は接合面から0.5mm の範囲であった。すなわち、熱影響部の端部からさらに母材側に0.31mm 離れた領域まで熱回復しているとみなされ、この領域を熱回復領域の とする。一方、2.3.3 項で断面観察により計測した熱影響部 (WHAZ)は0.8mm であり、解析上の熱影響部の 0.5mm より い領域であった。そのため、本 では計測したWHAZである0.8mm に熱回復領域の 0.31mm を加えたものを熱回復 (WANL)とし、WANL は1.1mm と した。
800
700
600
500
温度(℃)
400
300
200
100
2 4 熱回復幅(WANL)計測
熱回復 (WANL)は、接合した の熱履歴によりインサート材の照射脆化が熱回復する と定義されている。本 では熱回復パラメータから めるWANL 算出方法に準拠しWANL を しており、熱回復パラメータ
は”Abaqus”の3 熱 解析を用いた試験片内の過渡温度履歴 を に算出した。なお、接合 の試験片の実温度の確認および熱 解析の妥当性確認のため、接合中のインサート材の過渡温度履歴を測定しており、長手方向と直交する10mm 角の正方形面の中央部(試験片表面から5mm の深さ)に穴をあけ、K 型シース熱電対(常用 度 500℃)を設置しインサート材内部の温度を測定した。図8 は溶接接合 の過渡温度履歴の測定および解析結果を示しており、凡例( )内は接合面からの距離を表している。測定値と解析値を比較すると、接合面から1.5mm の位置において良 一 している。接合面からの距離が 等しい測定値(1.9mm)と解析値(2mm)では、過渡温度の 間応答に違いがみられるものの、最裔到達温度は 等しい結果であった。以上より、解析
0
0246810
時間 (sec)
8 溶接接合時の温度履歴の測定および解析結果
3
2.5
接合面からの距離 (mm)
2
1.5
1
0 81
0.5
0-42
-70-60-50-40-30-20
熱回復パラメータ
9 熱回復パラメータと接合面からの距離の関係
2 5 接合技術確証まとめ
電子ビーム溶接を用いた試験片の接合部で 害な割れ
融合不良は認められず、また、衝撃試験において十分 な強度を しており、JEAC4201 の接合方法の確認試験の要 を満足することを確認した。また、熱影響部 (WHAZ)は0.8mm、熱回復 (WANL)は1.1mm と した。
3 HAZ における板厚方向採取位置の影響確認
JEAC4201 では監視試験片は供試材の種類で母材試験
片、HAZ 試験片、溶接金属試験片に分類され、各試験片で供試材からの板厚方向採取位置が定められている。図10 に監視試験片の採取位置の模式図を示す。供試材の板厚をt として、母材試験片とHAZ 試験片は(1/4)t 位置、溶接金属試験片はルート部および表面より13mm 以上離れた位置から採取するよう定められているが、HAZ 再生試験片のインサート材は、各試験片に^まれる溶接金属HAZ の位置 からオリジナルのHAZ 試験片からは採取できず、(1/4)t 位置以 から採取された溶接金属試験片のHAZ から採取するため、オリジナルのHAZ 試験片とは異なる位置からの採取となる。そのため、(1/4)t 以 から採取されたHAZ をインサート材としたHAZ 試験片の再生を想定し、HAZ の板厚方向採取位置の違いによる衝撃特性等への影響確認試験を行った。
板厚(t)
10 監視試験片の採取位置の
1 供試材
供試材は未照射の溶接継手であり、板材と鍛造材の2 鋼種を用いた。板材溶接継手における母材、溶接材料の化学 分、鍛造材溶接継手の母材、溶接材料の化学 分を表5~8 に示す。母材、溶接材料とも、実 のRPV に
用いられている材料と 等である。溶接継手は実施工と
表7 母材(鍛造材)の化学成分(wt %)
表8 溶接材料(鍛造材用)の化学成分(wt %)
2 HAZ 試験片
図11 にHAZ 試験片の板厚方向採取位置の影響確認試験におけるシャル゜ー衝撃試験片の採取位置を示す。オ リジナルの溶接金属試験片のJEAC4201 における採取位置を考慮して表面から13 mmの位置と板厚をt(板材167mm、鍛造材 178 mm)とし、オリジナルのHAZ 試験片の採取位置の 準である(1/4)t の他、表面から13 mm、(1/8)t、(3/8)t ならびに(1/2)t の位置から試験片を採取した。また、比較のために母材についても衝撃試験を行うこととし、図12 に示す通り、HAZ 試験片と 等の位置で試験片を採取した。
11 HAZ 試験片の板厚方向採取位置の影響確認試験における試験片採取位置
1/8t
1/4t
様に溶接後に溶接後熱処理を実施した。
表5 母材(板材)の化学成分(wt %)
板厚(t)
3/8t
1/ t
表6 溶接材料(板材用)の化学成分(wt %)
12 母材試験片の板厚方向採取位置の影響確認試験における試験片採取位置
試験結果
1 ー衝撃試験
板材および鍛造材の各板厚より採取したHAZ 試験片を用いてシャル゜ー衝撃試験を実施し、遷移曲線を3 セ
ット取得した。なお、板材の表面から13 mm位置については1 セット取得した。図13 および図14 に板材および鍛造材のHAZ 試験片の採取位置と吸収エネルギー41J、68J に対応する温度(Tr30 、Tr50)、および上部棚吸収エネルギー(Emax)の を示す。また、比較のために図15 およ
び図16 に板材および鍛造材の母材試験片の採取位置と
(Tr30 、Tr50)および(Emax)の を示す。
板材および鍛造材のHAZ 試験片について、採取位置によりTr30、Tr50、Emax に 意な差があるかを するため、分散分析による統計解析を行った結果、各採取位置(板材の熱影響部試験片に しては表面から13 mm位置は1 点データのため )に し、板材および鍛造材の熱影響部についてはデータ群の平均値の間に統計的な 意差は 、いずれの値においても採取位置の依存性は認められなかった。一方、母材試験片については、分散分析による統計解析を行った結果、板材、鍛造材ともに表面から13 mm、(1/8)t を^めた場合、平均値の間に 意な差が る結果となり、両者とも(1/4)t から内部で採取位置の依存性は認められない結果となった。母材で認められた表面近傍で 連温度が低 なり、(1/4)t より内部では一様な衝撃特性を示す結果については薄田による報告例 4 があり、これと一 している。一方、熱影響部では、表面近傍^めて板厚採取位置の影響が認められなかった。これは、溶接による入熱で熱影響部においてはAc3 変態点以上まで加熱されることで一旦オーステナイト化し母材に存在した上記の傾向がな なったことに加え、溶接による入熱の履歴は、パス間温度管理が行われていること等から、板厚方向で大きな違いが 、一様な熱履歴となったことにより、熱影響部の金属組織において板厚方向で大きな違いが生じなかったためと推察される。
2 断面金相観察
表9 に板材および鍛造材のHAZ の断面ミクロ組織観察結果を示す。例として表面から13 mm、(1/4)t、(1/2)t 位置について示す。断面金相観察の結果、採取位置による金属組織の違いは認められなかった。
硬さ測定
図17 および図18 に板材および鍛造材のHAZ 試験片の硬さ測定(測定荷重 9.8N)結果示す。測定は板材の表面から13 mmで1 ライン、その他は3 ライン実施した。例として表面から13 mm、(1/4)t、(1/2)t 位置について示す。いずれもHAZ 部と推定される領域では溶融境界から母
材側に離れるにつれて硬さが低下する傾向であり、硬さ の最大値およびHAZ と想定される 等に大きな違いはな 、採取位置による違いは認められなかった。
関連温度(Tr 0 、Tr50)
上部棚吸収エネ ギー(Emax)
1 HAZ 試験片(板材)の採取位置と衝撃 性の関係
関連温度(Tr 0 、Tr50)
上部棚吸収エネ ギー(Emax)
14 HAZ 試験片(鍛造材)の採取位置と衝撃 性の関係
関連温度(Tr 0 、Tr50)
上部棚吸収エネ ギー(Emax)
15 母材試験片(板材)の採取位置と衝撃 性の関係
関連温度(Tr 0 、Tr50)
上部棚吸収エネ ギー(Emax)
16 母材試験片(鍛造材)の採取位置と衝撃 性の関係
表9 HAZ の断面ミクロ組織観察結果(400 倍)
表面から1 m
採取
位置
板材
鍛造材
表面から
1 m
(1/4) t
(1/2) t
(1/4)t
(1/2)t
17 硬さ測定結果(板材)
表面から1 m
(1/4)t
(1/2)t
18 硬さ測定結果(鍛造材)
4 HAZ の板厚方向採取位置の影響確認のまとめ
HAZ 部において、板厚方向採取位置の違いが衝撃特性等へ与える影響の について確認するための試験を板材および鍛造材で実施した。表面から13 mm、(1/8)t、(1/4)t、(3/8)t および(1/2)t からHAZ 試験片を採取し、シャル゜ー衝撃試験、金属組織観察および硬さ測定を実施した結果、板材、鍛造材ともにHAZ 部における材料特性に板厚方向採取位置の違いは影響しないことを確認した。これによ り、(1/4)t 位置から採取されていない溶接金属試験片のHAZ をHAZ 再生試験片用のインサート材として用いてもよいことを確認した。
4.結言
RPV 構造材の監視試験片に使用されている低合金鋼を用いて、監視試験片の再生方法として電子ビーム溶接の適用性を した。また、HAZ 試験片の再生を考慮し、HAZ 試験片の板厚方向採取位置の違いによる衝撃特性への影響確認試験を実施した。得られた 果を以下に記す。
・電子ビーム溶接による試験片の接合部は、 害な割れ
融合不良は 、シャル゜ー衝撃試験において十分な強度を し、JEAC4201-2007 の接合方法の確認試験の要 を満足することを確認した。また、本試験より得られた熱影響部 (WHAZ)は0.8mm、熱回復 (WANL)は1.1mm であった。監視試験片再生の接合方法として電子ビーム溶接が適用可能であることを確認した。
・表面から13 mm、(1/8)t、(1/4)t、(3/8)t および(1/2)t 位置において、HAZ 試験片の板厚方向採取位置の違いが衝撃特性、金属組織および硬さに影響しないことを確認し た。これにより、(1/4)t 位置から採取されていない溶接金属試験片のHAZ をHAZ 再生試験片用のインサート材として用いてもよいことを確認した。
本論文に掲載の商品の名称は、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。
謝辞
本 は電力共通 として実施いたしました。東北電力(株)、中部電力(株)、北陸電力(株)、中国電力(株)、日本原子力発電(株)、電源開発(株)、(一財)電力中央
所、(株)IHI および三菱日立パワーシステム (株) の 各位に感謝の意を表します。
参考文献
“原子炉構造材の監視試験方法(JEAC 4201-2007)”,社団法人 日本電気協会 原子力規格委員会
“実用発電用原子炉及びその附属施設の技術 準に
する規則の解釈”, 原子力規制委員会(平 30 年
1 月24 日改正)
櫻谷ら、“電子ビーム溶接によるRPV 監視試験片の再生技術の開発”日本原子力学会 2017 年秋の大会予稿集 1I14
薄田“超厚鋼の破壊靱性の について”圧力技術第14 巻第4 p20-27(1976)