補修作業管理ガイドラインの検討
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カテゴリ: 第16回
補修作業管理ガイドラインの検討
The Study on the Guideline for Management of Repair Activities
二菱重工業(株)
小山
幸司〇
KojiKOYAMA
Member
(株)東京エネシス
成川
薫
IsaoNARIKAWA
Member
東北大学
青木
孝行
TakayukiAOKI
Member
While the importance of maintenance of NPP is now being well recognized, standardization on maintenance has been mainly implemented for hardware that is SSCs. The quality of the SSCs in service is ensured not only by recognition of physical characteristic of the SCCs, but also by activities of the organization and personnel for maintenance of the SSCs. This paper presents status of study on the guideline for management of repair activities, which provides a typical example of standardization on management of human activities on maintenance of SSCs.
Keywords: maintenance, human activities, standardization, repair process management, guideline.
はじめに
2017年 10月に日本保全学会内に「保全標準化推進検討会」が設置され、この検討会の下に「保全作業管理検討WG」が設けられた。ここでは、原子力発電所の機器に対する検査 補修等の保全現場にフィノトした現場作業を合理的に実施するには、運転開始前の段階と運転開始後の段階での の な いを考慮した保全作業管理が重要であるとして、その標準的な考え を明確にするための検討が進められている。
本WGでは、保全活動のうち、「補修」を例として原子力発電所の保全現場において活動を行う上で考慮する必要のある事項とその考え を検討しガイドラインとしてまとめる活動を行ってきているが、ここでは、そのガイドラインの検討状況を紹介する。
保全に関する基本事項
補修活動を管理する前提として 次に示す保全に対する基本的な事項を認識するために以下を挙げている。ここに記載の事項は補修等の是正措置に限らず点検 評価等のそれぞれの保全活動に対して共通の考え である。
2 1 保全活動に投じる資源
保全活動に じる資源(ヒト、モノ、カネ、情報/時
)が十分でないと、全 的に適 な保全活動が実施できないことから、資源が十分であるか うかを確認しておくことは重要である。実施年度 機器を 定する うな限定的な視野ではなく、事業者の長期的な経営戦略な
俯鰍的な視野で資源の適正配分を考慮して定めること
連絡先 小山 幸司、〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎町1 丁目 1 番 1 号、三菱重工業株式会社 パワードメイン原子力事業部 機器設計部、
E-mail: koji_koyama@mhi.co.jp
が重要である。
2 2 保全活動の目的
終的に社会に貢献するという保全の目的を意識する
ためには、必ずしもハードウエア(機械システム)の安全性の観点だけではなく、広い意味での経済的な面も十分に考慮することが必要である。保全は、プラントの安全性と生産性(運転継続性あるいは稼働率)を同時に維
・向上させ うとする行 であり、その目的は 者の
化である。保全遂行能力を に高め、 必要な 資を避け、それをプラントの安全性及び生産性に与える影響度の高い、つまり保全重要度の高い機械システムに優先的に適用すれば、保全の目的を効率的・効果的に達成でき、結果として社会貢献につながることになる。
事業者は、保全の重要度(優先度)を考慮して、単に機械システムの安全性(SSC 故障率低減等)に留まることなく、常に効率的・合理的な手 への改善に り経済性の追求も図りつつ、あらゆる保全に係る活動の効率を向上させる努力を継続的に行う必要がある
2 3 保全品質を決定する要素
高い保全品質は、次の要素が良好に整うことで達成さ
れるとの認識が必要である。
保全遂行能力
保全品質は、保全の直接的な実施者である保全要員の
だけでなく、 の うな手 に って の うな点に注意を払って作業を進めるか等を定めた保全要領書と
用する資機材も機械システムの保全品質に きな影響を与える。これら①保全要領書、②保全要員及び③保全 用資機材の組合せである「保全遂行能力」が保全品質を主体的に決定する。したがって、常日頃 り保全作業に対し、①保全要領書、②保全要員及び③保全用資機材のそれぞれを維 ・向上させるだけでなく、これらの組合
せで保全遂行能力を維 ・向上させることが重要である。さらに、現有の保全遂行能力を日頃から評価(できれば定 的に)しておき、保全重要度の高い機械システムに高い保全遂行能力を優先的に配置する必要があるとの認識が重要である。
保全の組織
レベルの高い保全遂行能力を発揮するためには、堅実に構築された組織の下で品質の高い保全現場が実現され ている必要がある。保全現場で実務を行う発電所員等の組織構成員が円滑に実務を行うためには、組織の役割分担がそれぞれ明確になっていることが重要である。
トノプマネジメントは明確な保全業務の目標設定を行うとともに職場 を確保するためのコミノトメントを明確にし、これを組織全体に伝えること。それを受けて管理職であるリーダは目標を達成するために業務に関する具体的目標を設定し、その達成のために組織を牽引するとともに職場 の整備を行うこと。さらにマネージャは現場の所員、作業員等が実務を遂行し すいうに、実務の調整及び管理を行うとともに現場における実務 を整えることが重要である。
保全の
レベルの高い保全遂行能力を発揮させるには快適な保全現場の作業 (温度、照度、騒音な )が重要であり、保全要員な 保全関係者の力を発揮させるためには作業 の一定以上の の確保及び充実が欠かせない。また、保全現場の物理的な作業 以外の要素として保全要員の精神状態、健康状態の維 も重要である。さらに規制当局 産業界自身の制度的
職場の意識的 にも客観性 合理性が強く求められ、保全要員に納得感があれば保全関係者の意欲を向上させ、円滑な実務を行うことができる。これらの
「 」が良好であれば、高い保全遂行能力が得られる。
補修管理の基本事項
保全活動の中での補修活動は、設備を直接取り扱う活動であり、PDCA イクルにおける保全計画 から点検・評価へとつながった後、新たな保全計画へのフィー ドバノクを行う活動である。その管理には、時 的(設計、 造( )から の点検、補修な との関連)、組織的(検査部門、保全部門、発電部門等との関連)及び空 的(物理的な配置、系統的な取合い等との関連)
範囲の認識が求められる。したがって、本WGでは現場の作業管理を行う観点で代表的な保全活動として補修活動を取り上げた。
なお、原子力発電所を構成する機械システムに是正措置を える場合、その に って「補修」、「取替」、「改造」、「劣化緩和」に区分されるが、本ガイドラインでは原子力安全への本質的な影響という純粋に 術的観点から、次の うに定義し区分している。
補修 機器の機能・性能が経年劣化等に り低下した部
分を修復する手段で、原子力安全に影響を及ぼす基本
性(例えば機器の構造強度 性 内部流体の流動 性)が変化するものは除く。この考えに れば補修は、機能・性能という機器の基本 性を変更するものではないので、安全審査段階まで遡って評価する必要がない作業であり、事業者が単に材料、構造、施工等をチェノクすれば い。
取替 同等の機能・性能を有する機器に入れ替える手段
で原子力安全に影響を及ぼす機器の構造強度 性が変化するものは除く。
改造 機器の全て又は一部を入れ替え、当該機器の機能・
性能が変わる手段で原子力安全に影響を及ぼす基本 性が に変化するものが該当する。
劣化緩和 機器・部品の材料・構造を変えずに経年劣化
因子を排除あるいは弱める目的で実施される手段で、例えば応力腐食割れ感受性の緩和のための水質の改善、残留応力の低減措置な が該当する。この考えに れば劣化緩和は、対象機器あるいは系統の基本 性に影響を与えるものではないため、安全審査段階まで遡って評価をし直す必要がなく、事業者の責任で施工の術的妥当性のチェノクをすれば い。
補修を行うにあたって、現場の作業管理の観点で実施組織として前もって明確にすべき事項として次のものを挙げている。
3 1 補修の目的
補修を行うにあたって、実施組織として補修の目的
(例 経年劣化で低下したバウンダリ機能を復旧すること)達成のために必要な管理を行ううえから目的を明確にすることが重要であるとしている。
3 2 補修計画の前提
補修を計画するにあたって、制約になりうるものとし
て考慮すべき次の事項( に実施対象部分に対する時的、組織的、空 的な周辺との 界)を認識したうえで、実施対象部分に着目することが重要である。
所掌範囲と責任
当該補修に関する計画、補修部の検査、施工等の活動の組織内及び社内・外組織 との分担及び責任、並びに補修部の取合い部分(対象外となる部分との関連)と補修に伴う周辺部分への影響(影響ある場合はその内容及び確認 )を認識することが重要である。
当該補修の達成目標と工 の選択
適 なコンフィグレーション管理された関連図書を参照し、当該部の設計段階から現状までの要求機能・性能を把握し、相 の理由を明らかにし、補修は、建設時と異なる 及び のもとで行われることを理解したうえで、達成目標( 与すべき機能・性能レベル)を認識することが重要である。また、適 な保全工 とその工 に応じた保全の三要素からなる保全遂行能力が実際の保全現場での原子力安全の水準と保全品質の水準を形成することを理解したうえで、達成目標及び保全重要度に応じて補修工
を複数の工 から選択するとの認識が重要である。
3 3 適用規格・基準及び適用図書
当該補修に適用する規格・基準及び年版を明確にする
が、建設時のものと異なる 能性もあるので、要求レベルの変化に注意する必要がある。建設時のものと異なる場合は、周辺部分への適用規格・基準が当該部と異なる 場合に周辺部分への影響に注意するな 、その適用に関する取扱いを明確にする必要がある。また、規格・基準及びそれらの年版を準用する場合は、準用規格・基準の解釈(程度、 等)も確認することが重要である。
補修の対象部分を定義する根拠となる図書が、対象の機械システムの現在の状態と合致していることを確認する必要がある。構成図書は規制当局への提出・承認された設計等に関連する図書を含み、適 なプロセスに り作成・管理されている信頼できる図書を用いる。これらの構成図書にはその機械システムが含まれる系統及びプラント全体の設計要求レベルと機械システムの機能・性能との関連についての 新の考え が記述されていなければならない。 の保修記録が対象の機械システムの現物と合致していることを確認することが重要である。
補修作業前の確認事項
ここでは、補修の現場で補修に直接かかわる関係者が事前に自ら確認する事項として次のものを挙げている。
また、前述の補修に関する基本事項が整っていることを現場で自ら確認することも必要であるとしている。
4 1 補修対象
まず、補修対象の機械システムが の うなものであ
るかを理解することが重要である。 に、プラントシステムの観点から補修対象の機械システムに求められる性と、その 性について現在の状態のみならず建設・
け時からの差異を把握し、実施し うとする補修作業に対してその 性が の うに影響するかを認識することが重要である。
補修対象の機械システム
補修の対象となる機械システムつまりハードウエアそのものに関する次の うな事項である。
対象部位の 定
設備区分
他のシステムとの 界
設計
機能・性能
材料・構造・表面状態等
(2)
補修の対象となる機械システムが置かれた に関する次の うな事項である。これは、補修作業を行う際に補修現場において、建設段階と異なり制約となりうるものをあらかじめ理解しておく観点で重要である。
設置位置
周辺の空 制限
対象部位の隔離
作業空 の (気中/水中)
4 2 補修の方法
ここでは補修作業を実際に行うために具体化する手段
に関して認識することが重要である。適 な補修工 を選択することだけでなく、その工 を用いて補修を具体化するには補修遂行能力が適 に配備されていることが必要である。
補修工 の選定
前項で挙げた補修対象とその設置された に対して、目的達成のために採りうる工 のうち、適用実績、有効性、検査・評価の保守性等の事項を考慮して 適な補修工 を選定する必要があるとしている。さらにここでは、採用した工 の効果を事前に確認すること及びその工 を適用した場合の他の機械システムへの影響(の有無)を確認することも重要であるとしている。
適 な補修遂行能力の配備
補修対象の機械システム当該部の補修品質を決定するのが補修要領書、補修作業 及び補修資機材であり、これらが当該補修部の重要度に応じて配備されていることが重要であるとしている。
4 3 補修実施時期
ここでは、劣化予測との関連で適 な補修実施時期が
設定されていることを確認することが重要であるとしている。
補修作業の実施計画の立案
ここでは、具体的に補修要領書の策定において考慮する事項として次のものについて、それぞれの考慮するべき点を挙げる。策定にあたっては当該補修に適 な重要度の補修が適 なコストで行える う効率性を考慮することが重要であり、効率性についてはクリチカルパスへの適正化、補修にかかわる要員及び資機材の適 な配備を考慮するとしている。
補修 と手
補修作業工程
補修要員配置計画
補修資機材調達計画
適 な補修作業 の整備
その他管理計画(QA/QC、安全、放管、異物混入管理)
補修の実施
ここでは、補修の現場で補修要領書を具体的に展開し、次に示す補修活動において具体的に実施する事項を挙げる。補修前検査では、経年劣化が予想される部位については表面状態な の 性を建設段階から前回までの状態からの変化を把握し、計画した補修が計画通りに実施できるかを確認することが重要であるとしている。また、補修作業においては、補修計画からの逸脱が生じた場合の措置をあらかじめ確 し、作業に伴うリスクの低減をはかることが重要であるとしている。
補修前検査
補修作業
補修後検査
補修後の措置
ここでは、補修作業後の現場で実施する活動において具体的に実施する事項を挙げる。保全計画への反映にお
いて、 に暫定措置な を選択した場合は後段の保全活動のために引き継ぐ情報を明確にし、適 な図書に反映し、反映する図書はコンフィグレーション管理に うことが重要であるとしている。
保全計画への反映
補修記録並びに図書の作成及び保管
まとめ
保全標準化推進検討会傘下の保全作業管理検討WGで取り組んでいる「補修作業管理ガイドライン」の検討状況を紹介した。
保全活動の重要性についてはすでに広く認識されてい るが、その標準化はこれまで機械システムそのものに対するものに重きを置かれてきたと考えざるを得ない。機械システムの供用中にわたる品質は当初 与された機械システムそのものの 性とその変化の把握だけでなく、保全を行う組織とそれを構成する人 の活動にかかわる要素が左右する。したがって人 の活動にかかわる部分に関する標準化が充実することで真の保全品質の向上が図れるものと考える。
今後、補修を例として現場における保全活動の標準化
の検討を進め、その結果得られた議論をさらに保全全体に広めていきたいと考えているところである。
参考文献
[1] (一社)日本保全学会 補修 術活用検討会: ‘原子力発電所の保全における補修等是正措置 術活用のための課題と改善提 ”,JSM RAP001(2017 年 3月)