高強度・軽量なアラミド繊維を用いた竜巻飛来物防護ネットの開発

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カテゴリ: 第17回
高強度・軽量なアラミド繊維を用いた竜巻飛来物防護ネットの開発 Development of protective net using high strength lightweight aramid for tornado missile 日本原子力研究 相澤 康介 Kosuke Aizawa Member 開発機構 日本原子力研究 石丸 卓 Masaru Ishimaru Non-member 開発機構 日本原子力研究 前田 茂貴 Shigetaka Maeda Non-member 開発機構 東レ・デュポン 岡田 泰一 Taiichi Okada Non-member 株式会社 東レ・デュポン 松井 宏之 Hiroyuki Matsui Non-member 株式会社 前田工繊株式会社 熊谷 幸博 Yukihiro Kumagai Non-member 前田工繊株式会社 井坂 慎吾 Shingo Isaka Non-member The protective nets against the tornado missile are important for power plant equipment. Japan Atomic Energy Agency has developed the protective net using aramid fiber rope to aim high strength lightweight net. The net element tests and analyses were conducted to clarify the characteristic of the protective net using aramid fiber rope. The actual size net was designed based on the results of net element tests and analyses. The dynamic analysis which simulates a car crash on the designed actual size net was conducted. The result of the dynamic analysis confirmed that the protective net using aramid fiber rope has a possibility to withstand the car crash. In addition, the fire resistance test and the resistance to weather of the aramid fiber rope were conducted. The results showed that the aramid fiber rope has high performance for firing resistance and weather resistance. Keywords: Tornado missile, Protection net, Aramid fiber, Dynamic analysis, 1.緒言 原子力規制委員会が定める「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」[1]において、安全施設は竜巻が生じても安全機能を損なわないものでなければならないとしている。この竜巻飛来物防護対策の一つとして、屋外に設置された安全施設の周囲への防護ネット等の設置がある。防護ネットとして、鋼材で構成された高強度金網を用いたネットが開発され[2]、再稼働を達成した軽水炉プラントに実装されている。この防護ネットは金網を取り付ける支持構造物に緩衝構造を設けて、衝突エネルギーの一部を緩衝構造の 塑性変形で吸収する構造である。このため、ある一定以上の衝突エネルギーを有する飛来物がネットに衝突した場合、ネットの交換または補修が必要となる。 本稿では、飛来物衝突時に塑性変形が生じず、継続して利用できる軽量・高強度な竜巻防護ネットの実用化を目的として進めている、高強度及び高弾性のアラミド繊維を用いた竜巻防護ネットの開発状況について報告す る。 2.開発目標及び方針 原子炉施設に近接する一般道路の考慮、また竜巻事象に対する原子炉施設における安全性の向上(例:想定を超える飛来物への対策)を目指し、乗用車を設計飛来物とし、乗用車の衝突に耐え得るアラミド繊維ロープを用いた防護ネットを開発する。 本稿では、スケールモデルを用いたネット形状動的試 ット特性を把握して、実規模ネット仕様を決定し、動的解析により当該ネット仕様の成立性を検証した結果について述べる。さらに、アラミド繊維ロープの耐火性及び耐候性を実験的に検証した結果について述べる。 3.飛来物の衝突条件 乗用車の衝突条件を決定するため、電力中央研究所開発のTONBOS コード[3]を用いて乗用車の飛散評価を実施した。竜巻最大風速は100m/s とし、竜巻渦モデルはフジタモデルを採用した。フジタモデルは実観測に基づいて考案されたモデルであり実際に近い風速場と考えられる。竜巻の中心より±60m の正方形領域内2601 か所 (51×51 の格子状に等間隔)の配置条件を考慮した飛散評価を実施し、乗用車の最大速度を得た。乗用車の仕様及び飛散評価結果を表1 に示す。表中の衝撃荷重は以下の式で算出した。 ???? ??mpact = ??in ここで、NImpact は衝撃荷重、m は質量、V は最大速度、Lmin は飛来物の最小短辺である。 飛散評価の結果、乗用車の衝突速度52 m/s(想定衝撃 荷重2700 kN)を条件として、防護ネットの動的試験等を実施することとした。 Table 1 Specifications of the car and wind-borne evaluation results Length [m] 5.2 Width [m] 1.9 Height [m] 2.3 Weight [kg] 1890 Maximum velocity [m/s] 52 Kinetic energy [kJ] 2500 Impact load [kN] 2700 4.ネット形状動的試験及びロープ単体試験 小規模ネット形状動的試験及び解析 ネット特性を把握するため、小規模ネット(ネットサイズ:2 m×1.2 m、ロープ径:φ6 mm、ロープピッチ: 100 mm)を用いた動的試験を実施した。ロープ内層は した。以降、本稿で示すロープは全て内層アラミド繊 維、外層低密度ポリエチレンである。製作性を考慮し、ロープ同士に編込みは行わず、ラッセルネットで拘束することによりロープ間の応力伝達に期待した。また、試験で用いた重錘の質量は約100 kg であり、落下高さをパラメータとした。小規模ネット形状試験の概略図を図1 に示す。図に示すとおり、重錘は6 本のロープに直接的に接触する。この6 本のロープに生じる張力をひずみ計により計測した。試験で生じたロープの最大張力及び重錘の加速度計から算出した衝撃荷重を表2 に示す。落下高さの低い条件から試験を実施し、落下高さ0.5 m、1.0 m の条件については、試験方法の適正化に資するため、各々2 回実施した。落下高さ4.0 m で一部のロープが破断した。小規模ネット形状動的試験で用いたφ6 mm ロープの規格値(事前の引張試験により評価された許容 値)は14.0 kN である。落下高さ3.0 m 条件で、ロープには最大張力18.2 kN が生じたがロープの破断に至らなかった。重錘が直接接触したロープの強度合計値(14 kN×6=84 kN)に対して、落下高さ3.0 m 条件で生じた衝撃荷重は57.7 kN であり、本ネット形状はロープ強度合計値の約70 %の衝撃荷重に耐えることが示された。 動的解析手法の検証のため、小規模ネット形状動的試験を対象としてLS-DYNA を用いた解析を実施した。解析では、落下高さに応じた速度を剛体の重錘に与えた。重錘の衝突位置は試験と同じくネットの中心とした。表3 に解析結果を示す。落下高さ4.0 m でロープ規格値を超過しており、動的解析においてはロープ規格値を基準とすることで、ロープ破断に至る落下高さ条件について試験を再現できることが示された。 Fig.1 Schematic diagram of the small-size net test Table 2 Results of the small-size net tests Drop height [m] Maximum tensile force of ropes [kN] Impact load [kN] 0.5 (1st) 5.7 14.7 0.5 (2nd) 6.0 17.2 1.0 (1st) 11.3 23.8 1.0 (2nd) 8.5 26.4 1.5 10.7 36.9 2.0 16.5 44.3 3.0 18.2 57.7 4.0 17.3 51.8 Table 3 Results of small-size net analyses Drop height [m] Maximum tensile force of ropes [kN] 0.5 7.0 1.0 8.9 1.5 10.2 2.0 11.3 3.0 13.2 4.0 14.7 (Standard load of the rope) (14.0) 中規模ネット形状動的試験 設計飛来物の質量と同等規模の重錘を用い、かつ小規模ネットよりロープ径を太くした中規模ネット(ネットサイズ:5 m×3 m、ロープ径:φ10 mm、ロープピッチ:100 mm)を用いた動的試験を実施した。ロープの拘束方法は小規模ネット形状試験と同一である。重錘の質量は約1000 kg であり、落下高さをパラメータとした。小規模ネット形状試験と同じく、重錘は剛体とし た。図2 に中規模ネット形状動的試験実施時の写真を示す。重錘は10 本のロープに直接的に接触し、この10 本 を含めた合計18 本のロープに生じる張力をひずみ計により計測した。試験で生じたロープの最大張力及び重錘の加速度計から算出した衝撃荷重を表4 に示す。全ケースにおいてロープに破断は生じなかったが、落下高さ 4.5 m 条件では、ロープを支持するフレームの一部に塑性変形が生じており、落下高さ4.5 m 条件における衝撃荷重は参考値とする。ロープ規格値(φ10 mm ロープの 破断に至らず、設計飛来物の質量と同等規模の重錘を用いた動的試験により、動的衝撃に対してロープ規格値を基としたネット設計が有効であることを確認した。 Fig.2 Photo of the medium-size net test Table 4 Results of the medium-size net tests Drop height [m] Maximum tensile force of ropes [kN] Impact load [kN] 2.5 34.9 208.2 3.5 41.8 260.6 4.5 45.4 306.8 4.3 実規模ロープ試験 ネットを構成するロープは、ターンバックル等の端部構造を介してフレームに接続する。実規模ネットで採用予定のφ30 mm ロープにターンバックル等の端部構造を施した体系で引張試験を実施し、端部構造を含めたロープ強度を確認した。端部構造を含めたロープの引張試験を実施した結果、破断時の引張荷重は430 kN 以上となり、この値はφ30 mm ロープ単体の規格値は353 kN の約1.2 倍である。これより、ネットのフレームへの接続構造を考慮しても、ロープ規格値を基としたネット設計が保守側であり有効であることが示された。 5.実規模ネット仕様の検討 実規模ネット設計 4 章で示した結果より、ロープ規格を基としたネット設計を実施する。また、4.1 項の結果より、乗用車衝突による衝撃荷重(2700 kN)の2 倍以上のロープ強度合計値(乗用車衝突時に直接接触するロープ全体の強度) これらの設計条件より、実規模ネット仕様として、φ30 mm ロープを200 mm ピッチで配置することとした。本ネット仕様では、乗用車衝突時に20 本のロープ に直接接触し、ロープ強度合計値は約7000 kN となり、 乗用車衝突による衝撃荷重の2 倍以上となる。 実規模ネット動的解析 5.1 項で設計した実規模ネットの成立性の検証のた め、乗用車を模擬した立方体を速度52 m/s でネットに衝突させる動的解析をLS-DYNA を用いて実施した。ここで、乗用車は剛体でモデル化した。 図3 に実規模ネット動的解析においてロープに生じた張力の結果を示す。解析結果より、衝突面の4 隅でロープに高い張力が生じたが、その最大値は約300 kN であり、ロープ規格値未満であった。これより、設計した実規模ネットの仕様が妥当であることを確認した。 Fig.3 Result of actual-size net analysis 6.耐環境性試験 耐火性試験 アラミド繊維ロープの耐火性を確認するため、国際電気標準会議が制定する規格ICE60632-1-2[4]に基づき、一条燃焼試験を実施した。試験の結果、自然消火時の炭化燃焼部は、規格の判定基準を満足しており、アラミド繊維ロープは高い耐火性を有することを確認した。 耐候性試験 メタルハライド・ウェザーメータを用いてアラミド繊 ーメータでロープを180 時間照射し、照射前後で引張試験を実施した。試験の結果、照射前後でロープの引張強度に変化はなく、外層を低密度ポリエチレンとしたアラミド繊維ロープは高い耐候性を有することを確認した。 7.結言 軽量・高強度化を指向しアラミド繊維を用いて、衝突速度52 m/s の乗用車衝突に耐え得る竜巻防護ネットの開発を実施している。 スケールモデルを用いたネット形状動的試験及び実規模ロープ試験により、ロープ単体を含めたネット特性を把握して、ロープ規格値を基としたネット設計が有効であることを確認した。実規模ネット仕様を決定し、当該ネットに対して衝突速度52 m/s の乗用車衝突条件の動的解析を実施し、発生する最大張力はロープ規格値未満であり、当該ネット仕様の成立性を検証した。また、アラミド繊維ロープは高い耐火性及び耐候性を有していることを試験により確認した。 参考文献 原子力規制委員会、“実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈”、原規技発第1306193 号、平成25 年6 月19 日 電力中央研究所、“竜巻飛来物に対する防護ネットの評価方法と対策工法の検討”、N13014、平成26 年3 月 電力中央研究所、“竜巻による物体の浮上・飛来解析コードTONBOS の開発”、N14002、平成26 年6 月 International Electrotechnical Commission、“Tests on electric and optical fiber cables under fire conditions ? Part 1-2: Test for vertical flame propagation for a single insulated wire or cable ? Procedure for 1 kW premixed flame”、IEC 60332-1-2:2004, (2004)
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