超微小硬度試験での変形組織進展と損傷組織の相互作用による照射硬化量への影響

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カテゴリ: 第16回
超微小硬度試験での変形組織進展と損傷組織の相互作用による照射硬化量への影響 Effect for irradiation hardening due to interaction between deformation process and microstructural evolution during nano-indenter examination 福井大院 馬渕 貴魁彰 Takaaki Mabuchi Member (現)関西電力 梶原 祐介 Yusuke Kajiwara Non-member 福井大原子力研 福元 謙一 Ken-ichi Fukumoto Member An irradiation hardening behavior in a SUS316 steel was investigated from the ultra-micro hardness test after hydrogen ion irradiation as parameters of irradiation dose and indentation depth systematically. Based on the crystal orientation of the sample surface specified using EBSD, comparative evaluation of ultra-micro hardness in the same crystal orientation relationship was performed. Cross-sectional TEM observation of ion-irradiated microstructure under the indentation after deformation was performed to examine the relationship between hardness and microstructure. Keywords: nano-indenter, TEM observation, stainless steel, ion irradiation, deformation, irradiation hardeing 1 緒言 中性子照射を受けた炉心構造物の合理的な検査と補修 のためには損傷現象の解明と理解が 欠である。しかし、中性子照射試験は、特別な施設と技術を要するため 利用できる試験炉が世界的にも少なく、照射によって放 射化された試料の取り扱いなど、広く事象の解明を試ることは非常に困難であるのが現状である。 中性子照射に替わる損傷研究の手法として、イオン加 速器を用いた実験研究が従来から実施されている。しか しながら、イオン照射による材料損傷現象は、中性子照 射による損傷過程と異なる点が多い。 損傷領域が表面から数?m の試料極表面に限定されるため、損傷領域の機械特性の評価には試験荷重が小さく、 サブミクロンオーダーの微小領域で硬度測定が 能な超微小硬さ試験機が用いられている。しかし、試験荷重が10gf を下回る場合、試験する結晶粒によって硬度が異なる結晶方位の影響や、見かけ上の硬度が大きくなる荷重依存性の存在が知られており、超微小硬さ試験機を用いた材料評価技術は完全には確立できていないのが現状である。イオン照射材を利用した材料評価を、中性子照射模擬試験として確立するためには、上記の問題点を考慮した材料評価技術および損傷評価技術を発展さ ていく必要がある。 本研究では、転位と照射欠陥の相互作用の解明を目的とした。316 ステンレス鋼に対し照射線量、温度等をパラメータとしたプロトン照射試験を行った後、結晶方位や し さ等を 的に 化さ た超微小硬さ試験を実施した。その後、照射欠陥や転位性状を識別した上で、 超微小硬さ試験によって導入された 形領域における組織や欠陥、転位等の観察を行い、転位と照射欠陥の相互作用や硬度と組織の関係性についての評価を行った。 2 実験方法 試料作製 厚さ0.2mmのSUS316 を直径3mm の円状にパンチにて打ち抜き、真空熱処理炉にて1050℃.4X10-4[Pa]以下の真空度で2 時間焼鈍を行った。熱処理後、試験片中心部の平滑化を行った。試料に用いたSUS316 の化学組成を表1 に示す。 Table 1 Chemical composition of SUS316 steel specimen C Si Mn P Ni Cr Mo N 0.04 0.61 0.81 0.025 11.05 16.64 2.27 0.073 イオン照射実験 若狭湾エネルギー研究センターでマイクロ波イオン源イオン注入装置を用いてプロトン照射を行った。プロトンのエネルギーは190[keV]、損傷速度は6X10-5[dpa/s]で 連絡先:馬渕貴魁彰、〒914-0055 福井県敦賀市鉄輪町1 丁目3 番33 号、福井大学敦賀キャンパス、 E-mail: jn190075@u-fukui.ac.jp ある。イオン照射条件を表2 に示す。 Table 2 proton irradiation condition Irr.Temp. [℃] Current [μA] Irr. period [s] Damage level [dpa] 300 13 140 0.01 13 700 0.05 10 1800 0.1 超微小硬度試験 FE-SEM にてEBSD による結晶粒の 定を行った。超微小 し 硬さ試験機ENT-1100a を用いて超微小硬度試験を行った。本研究では結晶方位による ラ キを少なくするために、EBSD を用いて特定の方位を持つ結晶粒を 定し、超微小硬さ試験を実施した。方位関係は図1 に示すような、圧子面垂線方向に荷重がかかると仮定した場合に、ある圧子面からの荷重に対するシュミット因子が最大となる方位とした。 Fig.1 Configuration of indenter and specimen geometry TEM 観察 FIB JIB-4500 を用いて、 100nm 厚さのTEM 試料を作製した。薄膜は図1 のようにシュミット因子が最大となるよう設定した任意の圧子面と垂直な関係にある。 透過型電子顕微鏡JEM-2100 を用いて、超微小硬さ試験機により導入された 形組織のTEM 観察とウィーク‘ ーム法を用い組織観察および組織(転位性状)の同定を行った。 Fig.2 A plot of damage level - Humh 3 実験結果 3.1 3 方 に る超微小硬 試験結果 方位解 の結 、超微小硬さ試験を実施する結晶粒は[135]方位を持つものとし150nm の し さで、非照射材および照射材にて超微小硬さ試験を実施した。この場合のシュミット因子は0.48 であった。 図2 は[135]方位における損傷量に対する超微小硬さ試験結 である。非照射材における超微小硬さはHumh 267[kgf/mm2]程度であり、損傷量の増加に伴う超微小硬さ の増加が められた。本研究において最も 照射量である0.01dpa 照射試料においても超微小硬さの 化は明確に表れた。 3.2 23 方 に る超微小硬 試験 試験を行う結晶粒の見直しを行い、非照射材および300℃0.1dpa 照射材の[123]方位を持つ結晶粒において、し さを50nm、100nm、150nm と 化さ た超微小硬さ試験を実施した。[123]方位の場合のシュミット因子は0.499 であった。 図3 に し さを 化さ た超微小硬さ試験結を示す。 し さが浅くなるほど見かけの超微小硬さが高くなる、荷重依存性が確 された。300℃0.1dpa 照射材は非照射材に比べ、すべて50[kgf/mm2]程度超微小硬さが増加した。また、150nm し 時の超微小硬さは、[135]方位における結 よりも小さかった。 300 Humh [kgf/mm2] 200 050100150200 Indentation depth [nm] Fig.3 Depth dependence of indentation hardness 3.3 TEM 観察結果 図4 に非照射材および300℃0.1dpa 照射材における、50nm と150nm し 試験後の暗視野像を示す。非照射材においては、圧子面垂線方向で最も転位が発達して おり、試料表面と平行な転位が多く観察された。照射材 では、すべり 形が達した最大 さは、非照射材に比べ浅くなっており、非照射材で多く見られた試料表面と平 行な転位は確 できず、異なるすべり と思われる短い線状の転位が観察された。50nm し 試験では照射損傷領域内の で塑性 形が生じていた。 Fig.4 TEM image of deformed SUS316 steels before/after ion irradiation 照射欠陥は表面から さ700"'-- 1000nm の領域にかけて 700"'-- 800nm、800"'-- 900nm および900"'-- 1000nm における数密度はそれぞれ、1.5、2.2、2.4(X1022[n/m3])であり、 さ 900nm あたりに損傷ピークを持つことが判った。しかし、照射欠陥の平均サイズはどの層においても5"'-- 6nm 程度であり、サイズ分布にも有意な差は見られなかったことから、照射損傷の さ分布は欠陥のサイズには影響を与えないものと考えられる。 Fig.5 Indentation depth dependence of irradiation hardening increase 4 考察 超微小硬さ Humh は[135]および[123]方位でそれぞれ異なっていたが、硬化量はそれぞれ47.2[kgf/mm2]と 47.1[kgf/mm2]で、ほぼ同一の値となった。このことから超微小硬さの硬化量は結晶方位に依存しないものと考えられる。 図5 に超微小硬さの硬化量△Humh を示す。今回実施し た試験の中で最も し さが小さい50nm し試験においても、すべり 形は照射損料ピーク領域にまで達していた。100nm および150nm し 試験では、すべり 形が達した最大 さは異なるにもかかわらず、 △Humh は同程度の値であった。結 と併 て考えると、超微小硬さによる 形領域が損傷ピーク領域にまで達する場合、損傷ピーク近傍と試料表面近傍では照射欠陥の数密度がオーダーで異なるため、損傷ピーク近傍の照射欠陥が照射硬化へ寄与する割合が高くなり、超微小硬さは欠陥の さ分布による影響をほとんど受けない 能性が考えられる。損傷量が0.1dpa までの場合、試料表面近傍の欠陥評価の重要性が くなるため、損傷ピーク領域近傍の の欠陥の評価を行えばよくなり、プロトン照射材の損傷評価が簡単になる 能性がある。 100nm および150nm し の場合の△Humh が50nm し の場合より くなったことについては、試料表面状態等による誤差、もしくは 形が達した さの違いにあると推察される。50nm し の場合は 形領域が照射損傷領域内で終了している一方、100nm および150nm し 試験では照射損傷領域を越えて転位が進んでいることから、非照射領域の硬さを反映し、超微小硬さが くなったと考えられる。 結論 照射量の増加に伴う超微小硬さの増加が確 できた。照射材では照射欠陥によって転位運動が阻害されている 様子が確 できた。照射硬化によって、高次すべり による 形が確 されたが、領域ごとに優先的に発生する転位の性状への影響は められなかった。 さ方向において、照射欠陥の平均サイズおよびサイ ズ分布に有意な差は められなかった。数密度の がさ分布を持つと考えられる。 照射による超微小硬さの硬化量△Humh は、結晶方位および し 荷重に依存しないことが判った。50nm し 試験では照射損傷領域内での 形が生じていたため、照射損傷領域の の硬さを反映できた 能性がある。
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