赤外線サーモグラフィによる設備診断適用事例 (下水処理設備の長寿命化)
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カテゴリ: 第17回
赤外線サーモグラフィによる設備診断適用事例
(下水処理設備の長寿命化)
Application example of equipment diagnosis by infrared thermography (Extend the life of sewage treatment plants)
サーモグラファー山田 浩文HirofumiYAMADAMember
サーモグラファー山越 孝太郎KotaroYAMAKOSHINon-member
The introduction of mechanical condition monitoring technology is progressing in domestic nuclear power plants. However, the equipment of nuclear power plants is highly sound, and it is difficult to detect characteristic nonconformities and confirm the effects by condition monitoring. Here, we would like to introduce examples of introduction of condition monitoring technology at domestic sewerage facility treatment plants and pumping stations, and refer to characteristic nonconformities and required effects.
Keywords: Infrared thermography, condition monitoring, CBM, maintenance, deterioration / failure, temperature, stock management, AI
1.はじめに
国内の原子力プラントにおいて、機械的状態監視技術の導入が進んでいるが、おおむね設備健全度が高く、 状態監視によって特徴的な不適合の検出例、有効性の評価などが明確にしづらいのが現状と思われる。
ここでは、国内下水道処理場やポンプ場での状態監 視技術の導入例を紹介し、特徴的な不適合や期待され る効果について説明する。
2.国土交通省の指針と状態監視
我が国では、管きょ延長約42 万km、処理場数約2,100 箇所におよぶ膨大なストックが、今後年を経るにつれて劣化が進み、施設を維持管理する費用の増大が見込まれ、 下水道は電力設備と同様に、人々の日常生活や社会経済活動を支える基本的な社会基盤施設であるために、計画的かつ効率的な施設管理を行うことにより所期の機能を継続的に発揮していく必要がある。
国土交通省は、適切な管理による下水道サービスの維持、ライフサイクルコストの最小化、さらには、予算の平準化が求められていることを踏まえて、2015 年に、
「下水道事業のストックマネジメント実施に関するガ イドライン」を策定した。「点検・調査の実施」の中で、 予防保全の手法として「状態監視保全」が記されてい る。
3.下水処理設備の健全度評価
従来、下水処理設備における電気・機械設備の健全度評 価は、機器全体又は主要部品を対象に目視、聴覚、等五感 による定性的な方法、あるいは、振動計や絶縁抵抗計など の簡易な測定装置を用いた定量的な方法で行っている。しかし、これらの方法では、分解しなければ構成部品、特に主要部品が見えない設備に対しての評価が十分に行
えないことが健全度調査の試行実施で課題となっている。 また、ほとんどの電気設備は、時間計画保全に位置付け
ているが、目標耐用年数で更新されていない設備が多く 存在し、これら設備の対処方法も課題となっている。
そこで、非破壊、非接触での診断が可能で、電気設備に も適応する、赤外線サーモグラフィ診断技術の導入効果 実地検証が各地で行われ、その効果が確認さている。
4.状態監視の目的と効果
ストックマネジメントにおける状態監視の目的は、設 備の安定稼働と長寿命化であり、その期待される効果は ライフサイクルコストの最小化である。
赤外線サーモグラフィ診断に求められるのは、先ずはすでに劣化、故障状態にあるもの、環境過酷度(環境温度、 湿度、外観目視、臭気、音など)、負荷条件の把握とベースラインの設定である。次に、適正状態における劣化、故障徴候の検出および、通常劣化周期と劣化部位とモードの特定で、その情報を長寿命化計画に反映(プロアクティブ的提言)することを期待される。
図1 状態監視の目的と期待される効果
5.状態監視のベストミックス
当然、赤外線サーモグラフィのみで十分なことはなく、 振動、潤滑油、超音波、AEなど専門特化された診断手法を用いて、診断の最適化を図ることを怠ってはいけない。
赤外線サーモグラフィは、機器への適用範囲が広く劣 化要因の把握も同時にできるため、導入時に先行して行 うことが効果的であると考える。
図2 状態監視の最適化
6.下水処理設備における事例
年数を過ぎた機器も3割近く存在する。機械設備に関し ては、定期補修も行われているが、電気設備に関しては、ほぼ事後保全で運用されている。
傾向としては、耐用年数を過ぎたもので電気設備の不 適合が多い傾向にあり、表1には表れていないが深刻度 の高いものが多い。機械設備に関しては、おおむね低速、大荷重の機器に不適合が多い傾向がある。
また、待機機器も多く、短時間の定期試運転の際にし か診断できないものは、熱応答特性を取得し起動後の一 定時間で測定することで評価した。
図3 電動機固定子枠の熱応答
7.おわりに
原子力プラントにおいては、前述のようにおおむね機 器の健全度が高く、診断による不適合事例が少ないが、 言い換えれば開始時から適正状態での診断が行え、図1 の「適正状態の維持」を行えるアドバンテージがあると いえる。 その反面、要員育成面での知見、経験の蓄積が進まないという課題が残る。
セキュリティ面の壁はあるが、昨今ICT の進化に伴い、計測、診断技術もIoT やAI を活用し集中化、効率化が図れる時代となっている。そこで得られるビッグ データを知見、経験とし、要員育成やAI のラーニングも効果的に行うことが可能となる。
とある下水処理場での試験導入をした際のベースライ ン測定結果を表1に示す。
表1 ベースライン測定結果
参考文献
図4 ICT を活用した診断モデル
赤外線サーモグラフィ診断結果(ベースラインデータ採取時)
分類
診断機器
正常(許容)
不適合
監視強化
注意
異常
耐用年数未満
耐用年数超過
耐用年数未満
耐用年数超過
耐用年数未満
耐用年数超過
耐用年数未満
耐用年数超過
耐用年数未満
耐用年数超過
機械設備
458
101
94%
86%
6%
12%
1%
2%
0%
0%
電気設備
935
298
90%
83%
7%
10%
2%
4%
2%
3%
対象となった処理場は、運用開始から約40年が過ぎ ており、途中大規模な更新工事も行われているが、耐用
[1] 国土交通省水管理・国土保全局下水道部
国土交通省国土技術政策総合研究所下水道研究部 “下水道事業のストックマネジメント実施に関する ガイドライン”、
2015、pp.1-13. pp.72-92.