逆止弁診断へのAI適用の検討

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カテゴリ: 第17回
逆止弁診断への AI 適用の検討 Study on the Application of AI to Check Valve Diagnosis 原子燃料工業 ㈱ 〇礒部 仁博 Yoshihiro ISOBE Member 原子燃料工業 ㈱ 松永 嵩 Takashi MATSUNAGA Non-member 原子燃料工業 ㈱ 小川 良太 Ryota OGAWA Member Abstract As an attempt to apply AI in the field of maintenance, we have been developing a diagnosis method of check valves to detect the internal leakage and the signal before the leakage based on the signal analysis of their vibration measurements by a portable system with AE (Acoustic Emission) sensors. CNN (Convolutional Neural Network) was applied to the measured raw waveform and its frequency distribution corresponding to the leakage rates in order to classify the leakage rates. The leakage rate was gradually increased from the zero-leakage state using an experimental loop set-up. We also examined the effect of ambient noise on the diagnosis. Keywords: Check Valve Diagnosis, AI, AE sensor, Vibration measurement 1.はじめに 逆止弁点検の時間短縮、被ばく低減に加え、弁の状態監視による運転中の機能確認を目標に、AE センサを用いたポータブル音響計測システムによる逆止弁診断技術の開発と現場適用を進めて来た[1,2]。具体的にはAE センサを逆止弁に設置し、計測された音響の生波形(振幅値、スパイクノイズ)、その周波数分布(周波数成分)から健全性を確認する。一方で、逆止弁の状態とAE センサで計測される音響信号との非線形関係を DB 化して、AI により学習することで、状態監視技術を高度化することは有益であると考えられる。そこで、逆止弁実験ループにおいて健全から内部リーク量を段階的に増加させた場合の計測信号をCNN(畳込みニューラルネットワーク)により学習して、逆止弁のリーク状態、或いはリーク前の兆候の診断を目指したAI 適用を検討した。合わせて周囲の環境ノイズの診断に与える影響についても検討した。 2.逆止弁診断 AE センサを用いた逆止弁診断システム 逆止弁診断には、Fig.1 に示すAE センサ(NF 回路ブロック 広帯域AE センサ AE-900S-WE:φ12mm×40mm)、計測ハードウェア、波形処理装置(タブレットPC)等よ 連絡先: 礒部仁博、〒590-0481 大阪府泉南郡熊取町朝代西一丁目950、原子燃料工業株式会社 E-mail: isobe@nfi.co.jp り構成されている AE センサを用いた音響計測システムを用いた。計測された音響信号、並びに、高速フーリエ変換後の周波数分布の例をFig.2 示す。 AE センサを用いた音響計測システムの特徴は、ハンディータイプで現場適用が容易であること、計測信号を信号処理して周波数分布等を出力すること、AE センサを2 個使用した2ch 同時測定が可能であること、AE センサの種類を交換することで高温部位の測定も可能であることなど多方面の診断が可能となることがあげられる。また、デジタル計測信号のデータベース化により、経年傾向を把握し、適切な保全計画策定が期待される。 音響計測において2ch のメリットは、例えば1 個のAE センサを弁本体(弁箱または弁蓋)に設置し、もう 1 個を近傍の配管に設置することで、2 個のセンサ間の差分を評価したり、逆止弁診断に適切な AE センサ設置位置を評価したり、さらには、測定対象となる弁本体にセンサを設置しなくても音響は材料内を伝わるため、近傍配管に設置することで多少離れたところからでも弁の振動を計測する有効性を評価したりすることが可能となることである。 実験ループと振動計測結果 接続口径25A のリフト式逆止弁の実験ループをFig.3 に示す。異物によるリークを模擬するために弁体にテープを貼り付けている(Fig.4)。AE センサは弁蓋と近傍の配管に設置して(Fig.5)、60 秒間の振動を計測した。 AI 適用の検討 リフト式逆止弁の実験ループにより、1 個のAE センサを弁蓋に設置し、もう1 個を近傍の配管に設置すること によりサンプリング間隔4 ?sec で60 秒間の振動を計測した。その際、Fig.3 のループタンクから水頭圧によりリークを段階的に発生させた例をFig.6 に、付属のP20 ポンプによりループタンクに水を連続的に供給しながらリークを段階的に発生させた例をFig.7 に示す。ポンプを作動させた場合にはポンプ自体の振動が配管ループを通じて計測されるため、計測信号の振幅が大幅に増加している。 CNN の設計と検証方法 リーク条件の異なる60 秒の計測信号をそれぞれ0.1 sec×600 に分割して入力層のデータとし(1 分割データには25,000 計測点)、出力層においてリーク条件を分類するCNN を設計した。また、全入力データをランダムに6 分割して、交差検証法により汎化性能を評価した。 水頭圧により健全を含め、リーク条件を5 段階とした場合のCNN の設計条件をFig.8 にまとめる。中間層は2 層の畳み込み層と、マックスプーリング層、全結合層から構成される。 水頭圧下でのリーク条件の分類結果 水頭圧下でのリーク条件の分類を試みたCNN による学習と検証結果として、配管に設置したAE センサの計測信号を入力データとした場合のepoch 数に対する平均二乗誤差と推定精度の推移をFig.9 に示す。推定精度は80%程度であることを確認した。出力層からリーク条件を分類した結果をFig.10 に示す。リークの有無は100% 分類可能であった。また、リーク量が小さい分類では幾分過大評価となり、逆にリーク量が大きい分類では幾分過小評価となる傾向があるものの、概ね分類可能であることを確認した。 また、12ml/min のリーク量と健全との差異を識別していることから、リーク前の予兆の検出についても可能性が示唆された。 ポンプ作動時のリーク条件の分類結果 次にポンプ作動時のリーク条件の分類を試みたCNN による学習と検証結果として、epoch 数に対する平均二乗誤差と推定精度の推移をFig.11 に示す。水頭圧下でのリーク条件と比較して平均二乗誤差は大きく、同じレンジのグラフには現れず、推定精度は30%程度であった。そこで、ポンプ作動時の特徴的振動を考慮するように 計測信号に対して、FFT(高速フーリエ変換)によって0-10000Hz の範囲で周波数分布(Fig.12)を計算してCNN の入力データとした。CNN による学習と検証結果としてepoch 数に対する平均二乗誤差と推定精度の推移をFig.13 に示す。また、出力層からリーク条件を分類した結果をFig.14 に示す。 周波数分布を入力データとした時には、リーク条件が9 条件であっても100%に近い推定精度があり、推定が外れた場合でも近いリーク条件を示している。その理由としては、計測信号そのものの学習と比較して、周波数分布の学習の場合には、リークに伴う特徴量や外部ノイズの特徴量を事前に抽出していることによると考えられる。 3.まとめ 逆止弁実験ループによる試験からAE センサを用いて計測された振動波形に基づき逆止弁のリークに関するCNN によるAI 診断の可能性が示唆された。 ポンプ起動時にはノイズが多量に確認され、計測信号の特徴量をFFT により周波数分布として抽出してから学習することが有効であった。 今回の検討では、同一リーク量に対してリーク発生条件は1つであり、他のリーク発生条件も考慮したAI の学習と検証を計画している。環境ノイズについても各種ノイズ発生条件を考慮することを計画している。 今後はCNN の設計の工夫により所謂、回帰問題として、リーク量の定量評価、並びに最終的にはリーク前の兆候(リークまでの期間)の診断を目指している。 参考文献 三浦進, 工藤盛雄, 服部功三, 小川良太, 匂坂充行, 礒部仁博, “逆止弁診断に関する取組み 2”, 日本原子力学会2019 年秋の大会, 3O08, 富山大学五福キャンパス, 2019 年9 月11-13 日. 小川良太, 匂坂充行, 桒島翔, 松永嵩, 礒部仁博, 服部功三, 工藤盛雄, 三浦進, “AE センサを用いた弁診断の取組み”, 日本保全学会第16 回学術講演会要旨集 pp.135-138, リンクステーションホール青森, 2019 年7 月24-26 日.
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