革新炉の統合的な設計評価と最適化に資する ナレッジマネジメントシステムの開発
公開日:
カテゴリ: 第17回
革新炉の統合的な設計評価と最適化に資するナレッジマネジメントシステムの開発
Development of knowledge management system contributing to integrated design evaluation and optimization of innovative reactors
JAEA
近藤佑樹
Yuki KONDO
Member
JAEA
橋立竜太
Ryuta HASHIDATE
Member
JAEA
浜瀬枝里菜
Erina HAMASE
Non-member
JAEA
江連俊樹
Toshiki EZURE
Non-member
JAEA
光元里香
Rika MITSUMOTO
Non-member
JAEA
矢田浩基
Hiroki YADA
Member
JAEA
江沼康弘
Yasuhiro ENUMA
Non-member
Abstract
JAEA has started the development of Advanced Reactor Knowledge-and AI-aided Design Integration Approach through the whole plant lifecycle (ARKADIA) that performs integrated design evaluation and optimization from various viewpoints such as safety, economy, and maintainability using risk information, in order to dramatically improve the development efficiency of innovative reactors. In this paper, we report the concept of a knowledge management system to support integrated design evaluation and optimization, and the realization of the knowledge base necessary for the design and optimization of innovative reactors.
Keywords:
Fast Reactor, ARKADIA, Knowledge Management System, Knowledge Base, Maintenance Optimization Scheme
1.はじめに
JAEA では、原子力イノベーションにおいて民間で実施される多様な炉システムの概念検討及び概念絞込みの支 援を目的とし、ナトリウム冷却高速炉を含む革新炉開発 における知見の深化の過程を集約し、最新の解析評価技 術と連携することで、既往知見を最大限活用した設計最 適化や安全評価を実現する AI 支援型革新炉ライフサイクル最適化手法(ARKADIA)の開発を進めている。
従来、原子力施設の設計、運用等は、逐次的な数値解析 や実証実験等の結果をもとにした人的な判断による意思 決定を行ってきた。ARKADIA は、仮想プラント上での現象評価やこれまでに蓄積されたナレッジデータベース、 並びに人工知能等を有機的に連結させたものであり、意 思決定を必要とする様々な条件(安全性、リスク評価・対 応、経済性、環境適合性等)の自動最適化を行うことで、 より合理的な意思決定およびプラントの最適化を支援す
連絡先: 近藤 佑樹
〒311-139 茨城県東茨城郡大洗町成田町4002 番地日本原子力研究開発機構
E-mail: kondo.yuki@jaea.go.jp
る。このような設計支援を具現化するために ARKADIA では、Fig.1 に示すような既往知見を集約したナレッジマネジメントシステム(KMS: Knowledge Management System) と最新技術による精緻/簡易解析及び異分野連成解析を 行う仮想プラントライフシステム(VLS: Virtual plant Life System)、KMS とVLS を連携させ設計最適化を進める評 価支援・応用システム(EAS: Enhanced and AI-aided optimization System)の 3 種類のシステムが連携するプラットフォームを採用している[1][2]。
本報では ARKADIA の主要システムの一つである
KMS の構想、整備方針について報告する。
Fig.1 ARKADIA system configuration
2.KMS の概要
KMS では、「もんじゅ」の設計、建設、試運転、保守等から得られた技術開発成果[3]を JAEA 大洗研究所等で実施した高速炉関連研究開発成果も含め集約するとともに体系的に整理・提供することで、次期炉の設計・各種成立性評価、施設運用、技術伝承を支援する。また、設計・各 種評価プロセスに応じた技術情報の相関関係をタグ付け等により構造化し、知識ベースを構築・提供することで、 設計プロセス変革に向けた設計最適化を支援する。このような支援が可能なKMS を具現化するには、それぞれの支援方法に適した知識ベースが必要となる。ニーズに応じた技術情報を提供できるよう、知識ベースはFig.2 に示すような構成としている。知識ベースの各階層は高速炉に関係する技術図書や試験データを集約・整理した基盤情報群、設計知見や各種試験、トラブル事例[4]技術情報 を利便性の観点で集約したデータベース群、設計の考え方や根拠等の相関関係等を考慮し組織化された技術情報Data Bas(e DB)であるナレッジ群の3 階層で構成される。基盤情報群とデータベース群は、施設運用、技術伝承、各種成立性評価の支援として、ナレッジ群は設計最適化の支援として活用するものである。
3. 次期炉の設計・各種成立性評価、施設運用、技術伝承の支援
3.1 次期炉の設計・各種成立性評価、施設運用、技術伝承を支援する知識ベースの構想
高速炉開発に係る知見・経験を活用することで、次期炉 の設計・各種成立性評価、施設運用、技術伝承を支援する 知識ベースの基盤情報群とデータベース群の構想につい て述べる。
Fig.2 Knowledge management system
高速炉の研究開発は、実験炉「常陽」から原型炉「もんじゅ」へと進められ、核データや材料開発などの基礎的分野から、機器開発、ナトリウム取扱いや運転員養成など広範囲にわたり、研究施設を含む高速炉技術基盤を整備しつつ、裾野を広げながら進めた。また原型炉「もんじゅ」では、40%出力までの試運転を通じて設計・開発の妥当性を確認し、その開発過程や運転を通じて経験した技術課題や事故・トラブルなど、高速炉の実用化に向けた経験と教訓を蓄積している。これら高速炉の技術開発成果に係る図書やデータを基盤情報群としてとりまとめ、情報探索を支援するシステムと合わせ整備し、設計根拠やトラブル事例とその対応などの個別成果を DB として集約することで利便性が向上するものについては、それら技術情報をデータベース群として整備する。また、情報探索性向上に向け、高速炉特有の技術課題毎に“開発目的”、“経緯”、“解決済み”、“現状での到達点”等を整理し、形式知・ 暗黙知を含む俯瞰的な開発状況の情報を用いて探索したい技術情報にたどり着くための情報探索用インデックスの整備も並行して行う。上述の知識ベースのシステム化においては、利便性向上の他に判断支援のための工夫も図る。
研究開発施設の運用を支援する観点での事例について 述べると、工事計画や試験計画を策定する際、機器の仕様 書や設計書、試験報告等の資料が必要となる。使用目的に 即した図書を探索できたとしても、工事計画や試験計画を策定するには図書からの情報だけでなく、対象とする設備がどのような場所に設置されているかを現場へと赴き把握する必要がある。KMS により、工事の成立や実行性の確認を効率的に行うためには、施設運用に関係する図書を全て電子化し、施設の 3 次元情報[5]等と共に共通キーワードにて検索できるよう整備を進めることでより合理的な作業支援を行うことができる。
収集された研究開発施設に関する技術情報は上記の施設運用支援だけでなく、評価手法の妥当性確認の観点からの支援性向上も期待できる。解析の入力データ作成支援の観点では、機器の仕様書や設計図書等の提供に加え、 解析メッシュの自動生成を阻害する試験計装等の形状データを削除した3 次元CAD データ、各種物性値や相関式等の情報を DB としてとして整備することで合理的に支援することができる。なお、相関式のDB では、提供する相関式の適用範囲・適用条件等も関連づけて整理し、評価者に有益な支援が可能なDB を構築する。
3.2. 次期炉の設計・各種成立性評価、施設運用、技術伝承を支援する知識ベースの整備方針
3.1 節で紹介した構想の実現に向け、原子力機構の保有するナトリウム試験施設を例題に、「設計、各種成立性評 価、施設運用、技術伝承を支援する知識ベース」の基本構 想を具体化する。まず基盤情報群として、設計図書などの 技術資料の電子化や 3 次元 CAD データ及びアズビルドの空間情報となる点群データ等の取得を進める。また、こ れらの情報を、どのようなタグ情報で整理すれば情報探索性が向上し、担当者の利便性向上につながるか検討する。情報探索イメージをFig. 3 に示す。
また、熱流動解析等の例題検討に基づき、解析モデル作 成の支援に必要となる試験結果DB や、物性値DB、相関式 DB 等に判断根拠等の技術情報をどこまで取り込むかについて検討を行い DB の構成を具体化する。具体化したデータベースの基本構成を基に、他の試験施設や原子 力プラントへの適用範囲拡充を適宜進める。
4. 設計プロセス変革に向けた設計最適化の支援
高速炉の点検工程最適化の観点から設計最適化評価を 担う「保全最適化スキーム」を対象に、設計・各種評価プ ロセスに応じた技術情報の相関関係を組織化したナレッジ群構想を紹介する。
保全最適化スキームとは
保全最適化スキーム[6]は、プラントの安全性とメンテ ナンスコストの観点から、設計と検査方法の合理的な組み合わせを提案する手法である。このような保全最適化プロセスが実現できれば、初期の設計段階で保全性に配
慮した設計最適化が実現できる。
保全最適化スキームの概要をFig. 4 の左側に示す。まず(1)、(2)でプラントや設備の設計情報を整理する。次に(3)、 (4)でプラントの安全目標を達成するために必要な機器の信頼性目標(許容故障確率)と評価対象機器に考慮すべき劣化メカニズムを検討する。(5)では、(3)および(4)の情報から構築した故障シナリオを考慮して、目標信頼性を達成するために必要な保全の方法を選択する。プラントの全ての設備の保全方法が選択され保全計画が提案されたのちに、(6)で提案した保全計画がメンテナンスコストや停止時の安全性の観点で合理的か評価する。合理的でないと判断された場合は、設計や保全方法を見直し最適解を導出するためのイタレーションが行われる。(7)で実行された保全経験は、有益な技術情報として知識ベースへ蓄積される。
保全最適化スキームと連携する知識ベースの構想
保全最適化スキームの(4)劣化メカニズムの評価においては、高速炉で想定される劣化メカニズムと評価対象機 器の個別部位の形状・応力条件・材質・使用環境等の設計 条件、劣化に対する設計対応等との相関関係を踏まえ検 査対象となる劣化メカニズムと対象部位を特定する。(5) 保全の方針の評価においては、選定された劣化メカニズ ムと対象部位に適合する検査技術と適用条件による制約、 各種規格等の相関関係に基づき、適用する検査技術およ び点検周期を特定する。このように、設計最適化に向けた 劣化メカニズムや保全技術に関する知識ベースを前述の ような技術情報の関連性を組織化したナレッジ群として 整備することで、人の手を介さなくても合理的な判断・評価が可能となる。
Fig.3 Information search approach using relationship of technical documents linked equipment layout
4.3. 設計プロセス変革に向けた設計最適化を支援する知識ベースの整備方針
4.2 節で紹介した構想の実現に向け、JAEA では次世代高速炉の「設計プロセス変革に向けた設計最適化」の1 つとして保全最適化スキームを対象に「設計最適化を支援する知識ベース」としてのナレッジ群の組織化構造の具体化を行う。
具体的には、保全最適化スキームの個別ステップごと に対応手順の詳細化を図り、プロセス毎の判断に必要十分なナレッジ群がどこまでの技術情報を組織化すれば実現できるかを検討し、基本構想を具体化する。
上記検討は例題検討を通して実施するが、保全重要度 の高い主冷却系機器・構造等の個別部位から検討に着手し、機器単位で適用範囲を拡大しつつ、最終的にはプラン ト全体まで拡充する。
5.まとめ
「もんじゅ」等を通して得られた高速炉開発に関する 技術情報を集約するとともに、施設運用、技術伝承、各種 成立性評価の支援に向けた知識ベース及び設計プロセス変革に向けた設計最適化を支援する知識ベースの検討に着手した。今後は例題検討を通した知識ベースの検討に
より基本構想を具体化する。具体化した基本構成を基に、 例題の適用範囲を適宜拡充しKMS を整備する。
参考文献
大島宏之 他、“AI 支援型革新炉ライフサイクル最適化手法 ARKADIA の開発 (1)全体計画” 、原子力学会、2021 年春の年会1C01 .
江沼康弘 他、“AI 支援型革新炉ライフサイクル最適化手法 ARKADIA の開発 (4)知識ベースシステムの開発計画” 、原子力学会、2021 年春の年会1C04 .
中島文明 他、“高速増殖原型炉もんじゅ-その軌
跡と技術成果-”JOPSS、JAEA-TECHNOLOGY2019- 007、2019.
下村健太 他、“ナトリウム冷却型高速炉のトラブル事例データベースの開発”、日本保全学会、第 12 回学術講演会 .
田村正篤、“3D-CAD データと非接触測定点群データの照合技術”、精密工学会、Vol.83、No.8、2017.
H.Yada et a“l. Proposal of inspection rationalization method and application for sodium cooled fast reactor ” , ICONE2020-16735, 2020.
Fig.4 Maintenance optimization schemes and knowledge base