行政訴訟と民事訴訟

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カテゴリ: 第17回
行政訴訟と民事訴訟 Administrative Litigation and Civil Litigation 大阪大学名誉教授日本保全学会 日本原燃 堀池 寛 Hiroshi HORIIKEMember 鈴木 孝寛 Takahiro SUZUKI Member 田中 治邦 Harukuni TANAKA Member 元法政大学宮野廣Hiroshi MIYANOMember Trial cases against operation of nuclear power plants are studied from the view point of nuclear science and engineering. At present both administrative litigations and civil litigations are allowed to take place in Japan, where the latter method is mainly aims to relieve cases of immature legal regulation. Problems of civil litigation in the nuclear reactor regulation of very well adjusted and established. Keywords:nuclear reactor regulation, trial case, nuclear power plants, administrative litigation, civil litigation 1.はじめに 核エネルギーの平和利用としての原子力発電を主体と する各施設の利用においては、原子炉等規制法とそれに 基づく諸規則により適切な運用が計れるようになってい る.原子炉が内蔵する放射能が膨大で、万一外部に大漏 洩して周辺の住民に危害を及ぼすことのない様に、原子炉の設置と運転操業について十分な規制をして安全を担 保する目的を実現している.一般論として法の目的を実 現する方法は、行政法、民事法、刑事法と3種がある. 政策目的を持つ法はこの3手法のうちの二つ以上を複層 的に利用する構造を持つことも多く、消費者法、競争 法、環境法など多数がある.同じ法令違反に対し行政措 置、私的権利行使、刑事罰が使い分けられている. 原子炉規制は高度に専門的な行政措置であるが、その 目的が一般住民への危害の防止であるところから、私人 による自らの権利行使という行動を取らせることを許容 する側面があり、原子炉の稼働の停止を直接事業者に求 める民事訴訟と、並行して行政措置の停止を求める行政 訴訟が提起されることが許容されている. 本報告ではこの原子炉等規制法の目的の実現のための行政、民事の手段の使い分けについて議論を行うもので ある. 連絡先:堀池 寛、〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1、大阪大学工学研究科気付け E-mail: horiike@nucl.eng.osaka-u.ac.jp 06-6879-7882 2.行政手法と民事手法の組み合わせ 法律の考え方の一般論 社会の秩序を守るための法律の最も根幹部分は、個人 の財貨や人格という秩序を守る処にあり、その外郭に外 部秩序や国家の利益がある.図1にそれを示すが、財産 や健康な生活という個人的な権利の外に生活利益、公共 的利益、競争利益がありその秩序が行政規制で維持され る.中央の根幹秩序は民事法で、外側の外部秩序は行政 法で維持され、その間に両法が作動可能な領域が残る. この領域は、行政法の責任領域だが不十分な処があれば 民事で救済することができる、民事と行政が相互補完さ れている.この考え方の原点は公害法にあり、その規制 の重点は行政法の規制にあるが、公害の形態が多種多様 であるので私法的な救済の組合せが重要とされ、四大公害訴訟で市民の権利の救済に効果があったと高く評価さ れる.環境保全は行政の課題だが、その制度整備よりも 工業発展の方が早く、規制が追いつかない領域をカバーするために民事法的規制の必要性が増大した.この成功 体験が原子炉の差止訴訟に大きな影響として継承されて いると考えられる. 行政措置である原子炉規制での民事訴訟 行政の目の届かない所で公害原因を排出する工場を止 めるのに民事規制が、効果があったとしても、炉規法に よる高度に専門的で且つ緻密に制度設計された法体系に おいて民事法の領域を残す効果はどこにあるか検討する. 原子炉の運転判断は行政機関が責任を負うものの、次 の3点から民事は最後の砦として残すべきであると言わ れる. 1)民間人から成る若い原子力規制委員会が、政治的な 動きに翻弄され、専門的能力に対する不安、電力業界の 規制の虜になる等の恐れがあり、十分な信頼を置くこと ができない. 2)行政訴訟は訴訟要件のハードルが高い、行政裁量の 司法審査の方法が確立していない等より、適切に機能す る可能性が低い. 3)原子炉等規制法の行政規範に違反しなくても民事差 止が認められる可能性が残る. 要するにここまで炉規法の制度が拡充されていてもま だ行政規制が不十分であるという意見である.これを支 持した判決が平成4 年9 月22 日のもんじゅ訴訟最高裁判決である.判決では試験用原子炉設置許可無効確認訴 訟と動燃相手の原子炉施設の建設運転差止民事訴訟の併 合提起を適法とした.これにより、周辺住民は運転差止 民事訴訟と、国を相手の行政訴訟の両方を提起できる、 という併存状態を是認した. 行政訴訟は行政庁の社会の危機管理の監督権限を適正 に作動させるもので、民事訴訟は個人の具体的危険状態 の除去を目的とする、という別個の効用を有し、両者の 適切な機能分担が国民の救済を一層容易にすると言う意 見である.住民対電力は民事訴訟、住民対国は行政訴訟 と2種類あるから両者の併存は当然で、一つに限定する には根拠が必要であるという意見が広く共有されている. 社会情勢はもはや当てはまらないと言う指摘と考えら れる.これを更に詳細に考えていくと 事故確率、事故の深刻さ、放射線障害の評価など不確 実な将来予測を必要とし、行政機関の判断は専門家鑑定に留まるという問題点がある. 裁判官の生の政策判断を要求し、原発政策に関する裁 判官の主観的判断が介在する懸念がある.その結果裁判所は、中立的な法原理部門という性格を失いかねない. 行政庁の安全審査を裁判所が一から見直すことになる が、原子力規制委員会規則の制定に係る民主的正統性がないがしろにされることになり、伊方最高裁の云う行政機関の専門的技術的裁量の容認と矛盾する. 近年の裁判では、裁判官の生の政策判断、を避けるた め、伊方最高裁の判例の定式を転用する審査方法が有力になっていて、民事訴訟が実質的に形を変えた行政訴訟となっている. 本来は行政訴訟で国を相手に争うべき事項を、事業者 相手に争うという争点と当事者との関係のズレという難点がある. と言う様なもので、この問題提起は大きな制度設計の方 向性として共感できると、民事手段を維持すべきという 論者からも評価されている.講演ではこれらの論点につ いて工学者の視点で議論を深めたい. 原子炉差止民事訴訟不要論 原子炉規制は言うまでもなく長く広範囲で国際的な標 準も整備された制度である.従って筆者たちとしては上 述の論に色濃く残る原子炉規制未熟論には強い違和感を 抱くものである.また法学者の中にも炉規の民事不要論 が出されている.それは 参考文献 Fig.1 現代社会の法構造の一般論 新規制基準の整備で安全規制が充実した 2004 年の行政事件訴訟法改正にて、行政決定を対象とする義務付けの訴えが利用できるようになった. 原子炉規制についての行政規範は、民事法規範より厳 格な規律を採用しているため、それが遵守されている限り民事訴訟が認められる余地がない. と云ったものであるが、要するに公害問題多発時代の 安永裕司、行政規則・訴訟と民事差止訴訟との役割 分担に関する覚書1と2、自治研究 第96 号 1 号、2 号 中川丈久、行政法における法の実現、法の実現手法111-154 2014 年11 月 神戸大学 もんじゅ訴訟最高裁判決 1992 年9 月22 日
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