高浜4号機 蒸気発生器伝熱管損傷事象における プラント長期停止の影響について
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カテゴリ: 第17回
高浜4号機 蒸気発生器伝熱管損傷事象におけるプラント長期停止の影響について
Affection of Long-Term Plant Outage on Steam Generator Tube Failure Identified at Takahama Unit 4
関西電力(株)
日下浩作
KosakuKUSAKA
Member
関西電力(株)
丹羽悠介
YusukeNIWA
Non-member
The cause of the steam generator tubing failure that was identified during the 23rd plant outage at Takahama Unit 4 was presumed to be caused by wear of the tubing due to repeated contact with exfoliated dense scale, which was formed on the tubing surface. It is suspected that the scale exfoliated because the scale could not follow the heat expansion and shrinking of the tubing applied during plant startup and shutdown operations, and then partial cracking occurred, resulting in exfoliation of partial scale. After the accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, Takahama Unit 4 had been out of service for approximately 6 years, so we investigated the effect of this long-term outage on the scale exfoliating behavior. The investigation result has shown that under the long-term steam generator storage conditions with hydrazine water, some of the constituent particles of the scale may have become coarse and easily exfoliated.
Keywords: Steam Generator, Tube Failure, Long-Term Plant Outage, Scale, Storage Conditions with Hydrazine Water
1.事象の概要
損傷した伝熱管の外観観察等
高浜4 号機第 23 回定期検査中の渦流探傷検査にて、A 蒸気発生器(SG)で1 本、C-SG で 3 本について、外面からの減肉とみられる有意な信号指示が認められた。当 該伝熱管の外観を、SG の 2 次側から小型カメラで点検した結果、摩耗減肉とみられる痕跡を確認した。また、A-SG の減肉部に接触する付着物を確認したことから回収を行った。(図1参照)
当該付着物の化学成分分析を行った結果、主成分はFe3O4(マグネタイト)であり、また伝熱管径に近い円弧形状であったことから、伝熱管から剥離したスケールであると推定した。さらに、伝熱管と接触していたとみられる部位には、接触痕及び光沢が認められたとととも
に、伝熱管の主成分であるニッケル及びクロムの付着が確認された。
また、C-SG においても、SG 器内から回収したスケールの中から、ニッケル及びクロムの付着等、A-SG と同様の痕跡を有するスケールが発見された。
図1 A-SG 減肉部の外観観察結果
一方で、本事象以前に高浜発電所3,4 号機 SG では系 外から持ち込まれた異物によると推定される伝熱管損傷事象が発生していたことから、並行して SG 器内外の点検を行った結果、異物の混入は認められなかった。
これらのことから、本事象の原因は、いずれも伝熱管から剥離したスケールによるものと推定した。
原因と推定されたスケールの性状調査
本事象の原因と推定されたスケールについて、断面ミクロ観察を行った結果、いずれも稠密な層が主体であることが分かった。なお、過去の知見からスケールの性状は伝熱管群の部位に応じて異なり、伝熱管群の下部で生成するスケールは稠密層主体で薄く、上部で生成するスケールは粗で厚い傾向にあることが分かっていることから、これらのスケールは伝熱管群下部で生成したものと推定された。さらに、これらのスケールと同等の稠密層を有するスケールを用いて伝熱管と擦り合わせる摩耗試験を行った結果、スケールよりも伝熱管の方が早く摩耗したため、稠密層が主体のスケールは伝熱管に減肉を与える可能性が高いことが分かった。
他プラントとの比較
スケールの成長は、SG 器内に給水とともに持ち込まれた鉄イオンや鉄微粒子の蓄積量(鉄持込み量)によるため、当社プラント間で鉄持込み量と稠密層厚さの比較を行った。その結果、運転時間が最大の高浜3,4 号機が鉄持込み量、稠密層厚さともに最大であることが分かった。また、各プラントの実機スケールを用いて伝熱管との摩耗試験を行った結果、高浜 3,4 号機のスケールのみ伝熱管に有意な減肉を与えることを確認した。
対策の検討
稠密層が主体のスケールをポーラス化して脆弱化を図るべく、対策として SG 器内の薬品洗浄を検討した。ラボ試験として実機から回収したスケールを用いて実機と同条件で洗浄試験を行った結果、稠密層厚さは減少し、また伝熱管との摩耗試験においても、スケールが先に摩滅するか試験開始後に折損したため、十分な洗浄効果が確認された。また、念のため実機上でも有効性を検証すべく、高浜3 号機で先行して薬品洗浄を行い、洗浄後のスケールを回収して稠密層厚さの確認及び摩耗試験を行った結果、同様に十分な洗浄効果を確認した。従って、対策として薬品洗浄を行うこととした。
2.長期停止の影響
高浜3,4 号機では、定期検査毎のスケール回収量が長期停止後に増加していることが確認された。伝熱管表面のスケールは、プラントの起動・停止に伴う伝熱管の熱伸び・熱収縮に追従できず剥離するものと推定されており、長期停止がスケール剥離挙動に影響を与えた可能性が考えられたため、電子線後方散乱回析法を用いて長期停止前後のスケール断面の比較観察を行った。その結果、長期停止後のスケールでは、粒の一部粗大化が認められた。(図2参照)
この現象が長期停止によるものであることを実験で検証すべく、実機SG の保管状態を再現し、スラッジ(粒の観察を容易にするため粉末状スラッジを使用)のヒドラジン水浸漬試験を1 か月間実施した。その結果、試験前後で有意な粒成長が認められたことから、長期停止の影響は、スケールの粒粗大化であると推定した。
図2 長期停止前後スケールの粒観察結果
3.まとめ
以上を踏まえ、長期停止の影響を次の通り考察した。
・長期停止中のヒドラジン水中での化学平衡の下、伝熱管表面のスケールは鉄イオンの溶出・再析出を繰り返すことで一部粒が粗大化する。
・粗大化した粒近傍では、伝熱管界面での空隙増加等に
より、スケールの剥離が促進される可能性がある。
・元々鉄持込み量が大きくスケールの稠密層が厚く成長していた高浜3,4 号機では、長期停止を経てスケールの剥離量が増加したことが、伝熱管損傷の発生に寄与した可能性がある。
なお、今後もスケール性状監視を継続し、必要に応じて薬品洗浄を行うことで、再発防止に努めていく。