高精度な損傷蓄積則構築のためのメゾ空間スケールモデル構築
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カテゴリ: 第16回
高精度な損傷蓄積則構築のためのメゾ空間スケールモデル構築
Construction of a meso-space scale model for constructing a high-precision damage estimation rule
東京大学
小菅
寛輝
Hiroaki KOSUGE
東京大学
沖田
泰良
Taira OKITAMember
東京大学
村山
英晶
Hideaki MURAYAMA
東京大学
川畑
友弥
Tomoya KAWABATA
Abstract
In many cases, the function loss by fatigue and fracture is considered as the ultimate condition of the artificial structure. While various CAE technologies have been developed, a high-precision calculation algorithm has been developed for material damage during repeated loading, which is assumed to be difficult to describe in a digital twin in a computer virtual space. To make high precision evaluation, material damage from cyclic pre-strain is investigated. Then, material damage depends on not only equivalent plastic strain but the order of pre-strain loaded. Also, material damage can be expressed by effective damage strain from back stress uploading and total dislocation density calculated from conventional mechanism based on strain gradient plasticity (CMSGP). These results and the development of various monitoring technologies under parallel development are expected to significantly improve the accuracy of artificial structure management.
Keywords: safety assessment, pre-strain, material damage, brittle fracture, dislocation density
1 序論
近年、液化天然ガス需要の高まりから地上ガスタンクなどの鋼構造物の需要が拡大している。地上構造物は地震が起きたときに繰り返し予ひずみが負荷されるため損傷が蓄積する。しかし、予ひずみに対する研究は数多くなされているが、未だに単一ひずみ条件さえ統一的な見解は得られておらず、余寿命の推測や安全評価を行う上で極めて重要な繰り返し予ひずみなどの複雑な予ひずみパターンに対応可能なモデルは確立されていない。
現在、実構造物に与えられる外力や拘束条件などを常
し、構造物の全 の状況を ーチ ルな計算で常に再現しておくデジタルツインという手法が提案さ
〒113-8656
東京都文京区本郷7-3-1
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻小菅寛輝
E-mail: kosuge@fract.t.u-tokyo.ac.jp
れており、昨今の計算機能力の飛躍的な向上により、い よいよ現実味を帯びている。ミクロなレベルからマクロなレベルまでの波浪や微小揺れによる負荷に対してマルチスケールモニタリングを行い、そこから得られたデータを用いてマルチスケール数値モニタリングを行いリア ルタイムで構造物の状態を計算するものである。リアル タイムで計算値を保持しながら、次の状態への移行を計算することから、よりリアリティのある構造物の状況を知ることができ、安全評価や構造物の設計を最適化することが可能である。構造物維持補修の意思決定に対し、このようなデジタルツイン技術は大いに威力を発揮し、これまでの の 全 でのリスク イ 評価をベースとした過度に保守的な決定を、連成問題化することにより合理的なものに置き換えることも可能であろう。しかしながら、前述したような正負交番予ひずみをもたらす地震荷重が加わったあとの材料損傷量を正確に知るためには、損傷を するアルゴリズムが必要であり、現状では らかにされていない。
本研究では、デジタルツインを用いた高精度な安全評価を行うために、繰り返し予ひずみが負荷された場合の新しい材料損傷則についての 察を行っていく。
2 繰り返し予ひずみ試験による材料損傷則
既存の知見として、マンソン・コフィン則[1]と呼ばれ る、繰り返し予ひずみが負荷された 、材料損傷は相当塑性ひずみ量に依存するという え方がある。しかし実際には同じ相当塑性ひずみ量でもその負荷する順番によって材料損傷が変化すると えられる。そこで実際に様々な繰り返し予ひずみを付与した試験片に対して静的曲げ試験を行い靱性値の変化を比較した。
実験内容としては、Fig.1 に示す試験片に6 パターンの予ひずみ付与を行い、そこからFig.1 に示すような曲げ試験片を切り出して疑似的な CTOD 試験を行った。限界CTOD 値0.1mm を示す遷移温度のシフト量を主な評価パラ ータとした。 行して2 つの FEM 解析を行った。1 つ目は背応力に基づく有効損傷量評価であり、大畑ら[3] が提案した手法に基づき、未 の背応力 を 新するのに要したひずみが材料損傷に 与すると 定したものである。2 つ目は、Conventional Mechanism based Strain Gradient Plasticity (CMSGP) (Martinez ら[3])に基づく計算であり、転位密度に関する計算を行い、予ひずみ付与によ る粒界近傍の転位密度増加(GN 転位およびSS 転位の総和)を材料損傷量の指標の一つとした。
実験結果および FEM 解析結果を Fig.2 に示す。予ひずみを付与することで らかに靱性が低下し、また予ひずみ条件ごとに 確な靱性の違いが見られた。CMSGP に基づいた FEM 解析から得られた転位密度の値と疑似的なCTOD 試験における遷移温度との には 確な相関が見られ、転位密度を材料損傷量の指標とすることへの妥当性が確認された。結果として、最終回予歪方向および予歪量が重要な脆化因子となることが判った。繰り返し予
46.0
Fig.1 Configurations of specimens used
Fig.2 Comparison between dislocation density and △T
ひずみによる材料損傷の載荷パターンへの依存性を示す ことができた。
3 結論
本研究では、繰り返し予ひずみによる材料損傷について
を行ってきた。その結果、相当塑性ひずみが同じである予ひずみを付与したとしても、予ひずみ付与の順番が なる場合、靱性が大きく変化するという知見が得られた。ここから、材料損傷は負荷 に依存することがわかった。これは、材料損傷は相当塑性ひずみにのみ依存するというマンソン・コフィン則とは なる結果である。
また、材料損傷量を背応力 新による有効損傷量およびCMSGP による全転位密度によって表現することに成功した。これらのパラ ータの挙動は、実際の靱性劣化挙動と高い精度で一致しており、正確に材料損傷量を記述できていると えられる。
今後は、これらの結果をデジタルツインに実装してより高精度な安全評価を行うために、より実構造物に近い多軸的な予ひずみによる影響を していきたい。
参考文献
Manson.S.S, A complex subject ? Some simple approximations, Experimental Mechanics, Vol5, 1965, pp.193-226
大畑充ら, 繰返し荷重下での構造用鋼の延性亀裂発生クライテリオン, 溶接学会論文集, 21 巻4 号, 2003, pp.592-602
[ 3] Mart?nezet al, Modeling damage and fracture within
strain-gradient plasticity, International journal of Solids and Structures, Vol 509, 2015, pp. 208-215