蒸発乾固進展時の挙動及び重大事故等対処設備の設計条件
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カテゴリ: 第16回
蒸発乾固進展時の挙動及び重大事故等対処設備の設計条件
A phenomenon of the course of the evaporation to dryness and the design condition for countermeasures
日本原燃株式会社
瀬川
智史
Satoshi SEGAWA
日本原燃株式会社
長澤
和幸
Kazuyuki NAGASAWA Member
日本原燃株式会社
名後
利英
ToshihideNAGO
日本原燃株式会社
長谷川敬
Takashi HASEGAWA
日本原燃株式会社
有澤潤
JunARISAWA
日本原燃株式会社
越智英治
EijiOCHI
Abstract
The evaporation to dryness due to the loss of cooling functions is an event that leads to boiling and dryness if the cooling function to remove decay heat of solution is lost. We clarify a phenomenon that is caused by the result of the course of the evaporation to dryness, and we will prepare some countermeasures against these clarified phenomenon. And furthermore, we prepare the design condition for these countermeasures.
Keywords: reprocessing plant, sever accident, evaporation to dryness, design condition
蒸発乾固の特徴
六ヶ所再処理施設は、青森県六ヶ所村に位置している。再処理施設は、使用済燃料をせん断・溶解し、溶解液か らウラン及びプルトニウムを分離・精製した後、製品となるMOX粉末を製造する工程、および、ウラン及びプルトニウム以外の核分裂生成物をガラス固化する工程か ら構成される(図1参照)。こ)した工程の特徴から、再処理施設において扱)放射性物質は、広範な工程に分散 して存在し、多種多様で、事故影響も様々な事故の発生 が想定される。
使用済燃料をせん断・溶解し、MOX粉末又はガラス固化体を製造するまでの間は、放射性物質は硝酸に溶解 された状態で存在し、その溶液は放射性物質が有する崩壊熱により発熱する。再処理施設では、これらの溶液を 複数の貯槽に貯蔵しており、特に発熱量の大きい溶液を保持する貯槽には、溶液を冷却するための冷却コイル又は冷却ジャケットが備え付けられており、これにより常時水冷している。
この冷却機能が、地震、長時間の全交流動力電源の喪 失又は冷却水を循環するためのポンプ等の動的機器の多重故障を原因として喪失し、代替する措置が講じられな
図1 再処理施設の主要な流れ図
い場合には、貯槽に内包する溶液が有する崩壊熱により溶液の温度が上昇し、沸騰に至ることで、飛沫同伴によ り溶液に含まれる放射性物質が放射性エアロゾルとして気相中に放出される。
蒸発乾固進展時に想定される現象の整理
蒸発乾固が進行した場合に想定される事象として、高レベル濃縮廃液の場合、沸騰が継続することで溶液中の
連絡先:瀬川 智史、〒039-3212 青森県上北郡六ヶ所大字尾駁字沖付4 番地108、日本原燃、
E-mail: satoshi.segawa@jnfl.co.jp
硝酸濃度が上昇し、かつ、溶液の温度が上昇すると、溶液中に含まれる核分裂生成物のルテニウムと硝酸の反応が 進され、ルテニウムが揮発性の化合物へ 化し、溶液からの放射性物質の放出量が増大することが国内外の研究から明らかとなっている。
一方、蒸発乾固の発生が想定される溶液は、高レベル濃縮廃液の他、溶解液、抽出廃液、プルトニウム溶液、プルトニウム濃縮液及び高レベル混合廃液であり、これ らの溶液が蒸発・濃縮し、乾燥・固化に至り、乾燥・固化した後のさらなる温度上昇の過程においてどのよ)な物理化学的挙動を示すのかに着目し、過去の事故事例、溶液の特徴、扱)化学物質の組み合わせによる反応の有無等について多角的に検討を実施した。
その結果、溶液が乾燥・固化に至る前の水分が存在する領域においては、従来知見であるルテニウムの揮発の他、有機物等が混入している溶液において爆発等へ進展 する可能性がある。また、乾燥・固化後の水分が存在しない領域においては、上述の爆発等の他、乾燥・固化物の温度上昇に伴)放射性物質の揮発、貯槽の構造的な健全性が損なわれることに伴)臨界及び貯槽損傷の発生の可能性があることを特定した。
図2 蒸発乾固の進展 発 想定される事象
溶液の濃度上昇の観点
蒸発乾固の発生が想定される溶液は硝酸水溶液であり、プルトニウム又はウランが溶存している溶解液、プルトニウムが溶存しているプルトニウム溶液及びプルトニウム濃縮液、核分裂生成物が溶存している溶解液、抽出廃 液、高レベル濃縮廃液及び高レベル混合廃液に整理される。
水分が存在する領域において沸騰が継続することに伴い、遊離硝酸濃度の上昇、遊離硝酸量の減少及び核燃料物質等の濃度上昇が生じるため、ルテニウムの揮発以外に顕在化する可能性のある事象を検討した結果、臨界の可能性があることを明らかにした。
これに対し、遊離硝酸濃度の上昇、遊離硝酸量の減少
及び核燃料物質等の濃度上昇をパラメータとして未臨界性を評価したところ、水分が存在する領域においては、い れのパラメータ 動を しても臨界に至らないことを確認した。
共存する化学物質の観点
水分が存在する領域においては、蒸発・濃縮に伴)沸 点上昇が生じる。再処理施設において扱)化学物質には自己反応性物質の硝酸ヒドラジン及び硝酸ヒドロキシルアミン、可燃物としてのn-ドデカン、TBP等があり、これらの化学物質が混入する可能性のある溶液は抽出廃液及び高レベル混合廃液である。これらの溶液の温度が74℃又は135℃に至ると爆発等へ進展する可能性があるが、抽出廃液の場合、崩壊熱は小さく、これらの温度まで溶液の温度が上昇することはないことから、爆発等へ進展する可能性のある溶液は高レベル混合廃液のみ となる。
また、高レベル混合廃液が乾燥・固化した後の水分が存在しない領域においては、硝酸 (乾燥・固化物)及び可燃性物質の共存による爆発等の発生の可能性がある。
これらに対し、高レベル混合廃液の模擬溶液を用いて、蒸発・濃縮から乾燥・固化後の温度上昇の各過程におい て爆発等の反応が発生するかについての確認試験を実施し、爆発等の反応が発生していないことを確認し、また、仮に爆発等が発生した場合においても機器の健全性を損な)ものではないことを評価により確認した。
乾燥?固化後の温度上昇の観点
崩壊熱が大きいプルトニウム濃縮液、高レベル濃縮廃 液及び高レベル混合廃液では、蒸発乾固の進行により乾燥・固化に至り、乾燥・固化後は、温度上昇に伴)乾燥・固化物中の揮発性の放射性物質の放出量の増加の他、貯 槽の構造的な健全性が損なわれる可能性がある。
プルトニウム濃縮液を保持する貯槽は環状型であり、 全濃度安全形状寸法管理及び中性子吸収材管理により未臨界を確保しており、プルトニウム濃縮液の乾燥・固化物の温度上昇に伴い中性子吸収材等が損傷することにより臨界に至る可能性がある。
高レベル濃縮廃液及び高レベル混合廃液の乾燥・固化物が温度上昇した場合には、比較的融点が低い酸化セシ ウム及びその他核種のさらなる放出に至る可能性があり、また、プルトニウム濃縮液、高レベル濃縮廃液及び高レベル混合廃液の乾燥・固化物の温度がさらに上昇した場
合には、貯槽損傷の可能性がある。
蒸発乾固の進展時の特徴を踏まえた対策
2.の整理のとおり、水分が存在する領域においてはルテニウムの揮発以外の留意すべき事象はなく、乾燥・ 固化後の水分が存在しない領域において、崩壊熱が大きいプルトニウム濃縮液の臨界及び貯槽損傷、同じく崩壊熱が大きい高レベル濃縮廃液及び高レベル混合廃液において酸化セシウム等をはじめとする放射性物質のさらな る放出及び貯槽損傷の発生の可能性がある。
これらは、蒸発・濃縮が進行し、乾燥・固化に至るこ とで健在化することから、「水分が存在する領域」に対し て事業指定基準規則第35条に適合する信頼性の高い対策を整備し、これを確実に実施することで放射性物質の 発生を抑制し、「水分が存在しない領域」へ進行することを防止する。
さらに、上記対応にも係ら 、「水分が存在しない領域」に「蒸発乾固」の状態が進行した場合には、事業指定基準規則第40条に基づく放射性物質の放出を抑制するための対策を講 る。
事業指定基準規則第35条対策
発生防止対策
冷却機能が喪失した場合には、蒸発乾固の発生を未然 に防止するため、冷却コイル又は冷却ジャケットに冷却水を供給する配管(以下、本稿では「内部ループ」とい
)。)に建屋の外部から通水し、蒸発乾固を想定する貯槽に内包する溶液を冷却する(図3参照)。
さらに、内部ループへの通水が実施できなかった場合においても、冷却コイル又は冷却ジャケットに建屋の外部から直接通水することにより、蒸発乾固の発生が想定される貯槽に内包する溶液を冷却する(図4参照)。
建屋の外部からの冷却水の供給に使用する設備は、可 搬型のポンプ及びホースとし、対処に必要な個数の他、必要な予備を整備するとともに、これらが想定されるハザードに対して同時に損傷しないよ)分散して保管する。内部ループ、冷却コイル又は冷却ジャケット、水源の貯水槽等の恒設設備は、高い耐震性を確保するとともに多重化することで同時に機能喪失しない設計とする。
図3 発 防止対策概要図(内部ループ通水)
図4 発 防止対策概要図(冷却コイル通水)
拡大防止対策
貯槽に内包する溶液が沸騰に至った場合には、貯槽の内部に建屋の外部から直接注水することにより(図5参照)、揮発性のルテニウムが気相中に大規模に放出されるのを抑制し、「水分が存在しない領域」への進行を緩和す る。
建屋の外部からの希釈水の供給に使用する設備は、可 搬型のポンプ及びホースとし、対処に必要な個数の他、必要な予備を整備するとともに、これらが想定されるハザードに対して同時に損傷しないよ)分散して保管する。機器への注水に使用する注水配管、水源の貯水槽等の恒設設備は、高い耐震性を確保するとともに多重化することで同時に機能喪失しない設計とする。
図5 大防止対策概要図
異常な水準の放出防止対策
貯槽に内包する溶液が沸騰に至った場合には、機器に 接続する排気系統の配管の流路を遮断することにより、 放射性物質をセルに導出し、セルに閉じ込めることで放射性エアロゾルの沈着を図る。
また、放射性物質をセルに導出する前に、導出経路上に設置されている凝縮器に通水することで、沸騰に伴い発生する蒸気を凝縮し、放射性エアロゾルを除去する。 セルの内圧が上昇し、経路外放出の可能性が高まった 場合には、可搬型の排風機を起動し、高性能粒子フィルタにより放射性エアロゾルを除去することで大気中へ放出される放射性物質を低減し、管理しながら放出する(図
6参照)。
放射性エアロゾルを除去するための設備は、可搬型の排風機、高性能粒子フィルタ及びダクトとし、対処に必要な個数の他、必要な予備を整備するとともに、これらが想定されるハザードに対して同時に損傷しないよ)分散して保管する。
恒設設備の凝縮器は、高い耐震性を確保するとともに多重化することで同時に機能喪失しない設計とする。
図6 異常な水準の放出防止対策概要図
事業指定基準規則第40条対策
プルトニウム濃縮液を保持する貯槽への対処
貯槽の形状及び貯槽の中性子吸収材の健全性を維持す ることが未臨界状態を維持する上で重要であり、これらを保護する方法として、貯槽が設置されているセル内にアクセスし、貯槽の外側に圧縮空気を供給することで中性子吸収材をはじめとする貯槽の構造材を空冷する対策及び貯槽への注水配管を切断し、切断した箇所から直接貯槽内へ希釈水を供給する対策を整備する(図7参照)。
図7 プルトニウム濃縮液を保持する貯槽への対処概要図
高レベル濃縮廃液及び高レベル混合廃液を保持する貯槽への対処
乾燥・固化物の温度上昇を出来る り制 することで、乾燥・固化物からの放射性物質の移行を抑制し、貯槽の 形状が損なわれることを防止することが重要である。
プルトニウム濃縮液を保持する貯槽が設置されているセルとは異なり、高レベル濃縮廃液等を保持する貯槽が設置されているセルへのアクセスは高 量であり 可能なため、上記目的を達成するために、貯槽が設置されているセル内へ注水し、セルを冠水させることで貯槽を直接冷却する対策を整備する(図8参照)。
また、セシウムが大規模に揮発する状態に対しては、 換気を停止し、できるだけ建屋内に滞留させることで、セシウムを固体化させ建屋内に沈降させる対策を整備する。
図 ル濃縮 液等を保持する貯槽への対処概要図
常設重大事故等対処設備の設計条件
「再処理施設の設計及び工事の方法の技術基準に関する総理府令」の「第二十六条 重大事故等対処設備」に重大事故等対処設備に対する設計要求が規定されている。 本報では、「第二十六条 第1項 第二号 想定される重大事故等が発生した場合における温度、放射 、荷重その他の使用条件において、重大事故等に対処するために必要な機能を有効に発揮すること。」の要求に適合させるための常設重大事故等対処設備の設計条件を、蒸発乾固を例に示す。
常設重大事故等対処設備の使用状態
設備設計を行)場合には、設計のベースとなる「使用状態」を定義する必要がある。
再処理施設の設計基準設備において、例えば設備設計を行)際の基本パラメータである圧力及び温度は、通常運転時の使用状態におけるパラメータの 動幅を した上で、最も厳しい運転圧力及び運転温度に設計余裕を
し、これを最高使用圧力及び最高使用温度として設定している。この際、「通常時の使用状態」からは、保 ・点検、誤操作等の過渡的な状態は除外され、また、事故時に想定されるよ)な状態も「通常時の使用状態」とはしていない。
常設重大事故等対処設備は、設計基準設備と共用する設備および重大事故等対策の専用設備の2種類に分類さ れ、また、重大事故等対策が機能しているか否かによっ て、その設備が置かれる状態が わる。こ)いった特徴を し、設計基準設備における「通常時の使用状態」の え方を参 に、重大事故等対処設備としての「通常時の使用状態」の え方を以下のとおり整理した。
重大事故等対策の成否の観点
蒸発乾固では、例えば発生防止対策である内部ループ 通水が成功している状態を想定した場合、冷却配管がさらされる温度は溶液の沸点未満となるが、一方、発生防止対策が機能しなかった状態を想定した場合、冷却配管がさらされる温度は溶液の沸点となり、条件が異なる。重大事故等対策の成否の観点に立った場合、対象とな る重大事故等対策の「通常時の使用状態」は、対策が達
成すべき目 の状態と整理することが であると え、各対策が必要となる条件下において 該対策が成功して
いる状態を「通常時の使用状態」と整理した。なお、 該対策が失敗している状態については、過渡的な状態として位置づけ、設計条件とはせ 実力評価として参照するパラメータの位置づけとした。
①発生防止対策
発生防止対策は、設計基準で整備した安全冷却水系の機能が喪失している状態において、代替する重大事故等対処設備を用いて溶液を冷却し、未沸騰状態を維持することが目 であることから、発生防止対策である内部ループ通水が成功している状態を「通常時の使用状態」とする。
②拡大防止対策
拡大防止対策は、重大事故等対策の発生防止対策が機能せ 、溶液が沸騰している状態において、重大事故等対処設備を用いて貯槽内部に直接注水し、溶液が まることを防止することが目 であることから、発生防止対策である内部ループ通水が失敗し、溶液が沸騰している状態を「通常時の使用状態」とする。
③異常な水準の放出防止対策
異常な水準の放出防止対策は、重大事故等対策の発生 防止対策が機能せ 、溶液が沸騰している状態において、重大事故等対処設備の凝縮器、可搬型フィルタ、可搬型 排風機等を用いて、沸騰により気相中に移行した放射性 物質を除去することが目 であることから、発生防止対策である内部ループ注水が失敗し、溶液が沸騰している 状態で、拡大防止対策が成功し、かつ、凝縮器が稼動し ている状態を「通常時の使用状態」とする。
常設重大事故等対処設備の)ち設計基準設備と共用する設備及び専用設備の「通常時の使用状態」の え方
常設重大事故等対処設備の「通常時の使用状態」の基本的な整理は4.1 (1)に示したとおりであるが、常設重大事故等対処設備の)ち設計基準設備と共用する設備は、本来の再処理運転中の「通常時の使用状態」に基づき設計されている。これらの設備側の観点に立った場合、重大事故等が発生している状態は、「通常時の使用状態」と はせ 、過渡的な状態として整理するのが であると
えられる。
一方、常設重大事故等対処設備の)ち、重大事故等対策の専用設備は、再処理運転中には使用しない設備であ り、4.1(1)に示した重大事故等対処時の状態を「通常時の使用状態」と整理することが であると えられる。
具体的な設計条件
4.1 に示した「通常時の使用状態」の え方に基づき設定した温度条件を 1に示す。なお、圧力条件については、本報における を する。
1中の「最高使用温度(確認用)」は、重大事故等対
処時における「通常時の使用状態」を超える状態、すなわち前提としていた対策が機能しなかった場合を想定した過渡的な状態として設定したものであり、本条件に基づき常設重大事故等対処設備の)ちの設計基準設備と共 用する設備及び専用設備の 設備の実力評価を実施する。
表1 常設重大事故等対処設備の設計条件(温度条件)
運転温度
最高使用温度
最高使用温度
(確認用)
発生防止対策
共用設備
溶液と接する部位
設計基準と同じとする
130℃
溶液と接しない部位
設計基準と同じとする
60℃
専用設備
溶液と接する部位
該当なし
溶液と接しない部位
55℃
60℃
60℃
拡大防止対策
共用設備
溶液と接する部位
設計基準と同じとする
130℃
溶液と接しない部位
設計基準と同じとする
60℃
専用設備
溶液と接する部位
該当なし
溶液と接しない部位
29℃
60℃
60℃
セル導出
凝縮器上流
共用設備
設計基準と同じとする
130℃
専用設備
100~125℃
130℃
130℃
凝縮器下流
共用設備
該当なし
専用設備
50℃
50℃
130℃
影響緩和
凝縮器
胴側
100~125℃
130℃
130℃
管側
55℃
60℃
60℃
給排水配管(接続口)
55℃
60℃
60℃
凝縮水回収系
50℃
50℃
130℃
その他影響緩和設備(ダクト、排風機等)
50℃
50℃
130℃