配管減肉のモニタリングと予測に基づく配管システムのリスク管理 (1)固液混相流条件下における壁面近傍の物質移動係数評価

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カテゴリ: 第16回
配管減肉のモニタリングと予測に基づく配管システムのリスク管理 (1)固液混相流条件下における壁面近傍の物質移動係数評価 Piping System, Risk Management based on Wall Thinning Monitoring and Prediction ( ) Mass transfer coefficient evaluation near the wall surface under solid-liquid multiphase flow conditions 東北大学 中河 良太 Ryota NAKAGAWA Non-Member 東北大学 阿部 博志 Hiroshi ABE Member 東北大学 渡追 豊 Yutaka WATANABE Member Abstract In the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, it is possible that fuel debris dust, scraps of reactor structural materials, etc. will be mixed into the cooling water during future fuel debris retrieval process. In that case, the thinning mechanism of the cooling system piping may be different from that under liquid single-phase flow. In this study, the final goal is to predict the thinning behavior based on the carbon steel pipe thinning mechanism under solid-liquid mixed phase flow. Then, mass transfer coefficient measurement was performed as an index to evaluate the mass flux of the wall. Keywords Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, Fuel debris retrieval process, Solid-liquid phase flow, Mass transfer coefficient, Carbon steel, 1 緒言 現在の福島第一原子力発電所における廃炉作業では既設の炭素鋼製冷却水配管が、原子力発電所における安全 3 原則(冷やす 止める 閉じ込める)の点か 在が物質移動係数に与える影響を研究することとした。次に、物質移動係数を測定した条件下で炭素鋼腐食試 を実施し、物質移動と腐食速度の相関関係について調査した。 ] = id = D △C = k△C( ) nF8c ら重要な役割を担っている。今後の燃料デブリ取り出し工程においては燃料デブリ粉塵や、原子炉構造材料の切子などが冷却水中に混入する可能性がある。圧力容器・格納容器内に存在する燃料デブリの密度は 2. g/cm3 と れている[ ]。これらの固 粒子は管壁近傍の流動状態に影響を及ぼすことで、母材から溶出した鉄イオンや水中の溶存酸素の物質移動速度に影響を及ぼす可能性がある。また、デブリ粉塵が配管壁面に衝突することにより機械的な損傷を与える可能性がある。このような場合、配管材料の減肉メカニズムは液単相流下と異なる可能性がある。 そこで、固液混相流下での炭素鋼配管減肉メカニズムに基づく減肉挙動を 測する手法の開発を本研究の最終目標とした。その上で流動下の腐食速度に影響を与える因子のひとつである物質移動流束を評価する指標として物質移動係数k[mIs ((1)式)が知られていることから、本研究ではまず、固 粒子の存 ] 物質移動流束[mo!I(m2s) id 電流密度[A/m2] n 反応電子数 F ファラデー定数[C/mol] D 拡散係数[m2Is △C バルクー界面の濃度差[mo!Im3 8c 濃度境界層厚 [m k 物質移動係数[mIs 2 物質移動係数測定方法 物質移動係数の測定には拡散限界電流法を用いた。これは、作用極近傍での酸化還元反応の反応物濃度Cs=0 とみなせる条件(拡散律速条件)では反応速度すなわち電流密度が拡散速度に等しくなることを利用する手法である[2]。電荷移動が早い[Fe(CN)6 ]3- + e- 可 [Fe(CN)6]4-の酸化還元系を用い、作用極に適当な電位を印加することで壁面近傍の反応物濃度を0 とみなせる条件を達成し、得られた拡散限界電流密度から( )式を用いてkを求める手法である。 な実 系で流動 境下の試 を うため、流動の発 には 電極を用いた。 電極は 作用電極を溶液中で せることで強制対流をみ出しながら電気化学試 を う装置である。本研究では、固 粒子として化学的に安定で扱いが容易であるガラスビーズを用いた。ガラスビーズは、粒径 38 3?m(粒度#320)で、角のない球形であ る。Table に溶液条件、試 片条件およびガラスビーズの詳細を示す。また、Fig. に試 セットアップの概略図を示す。セル底面を球状にし、スターラーを用いて撹拌子を せることで、水よりも比重の大きな粒子が沈殿することを防いだ。 Table 1 Test condition Fig.1 Test equipment 試 では、 電極の 数を適宜変更しながら動電位分極試 によって拡散限界電流を示す電位を探し出した後、その電位で定電位分極試 をい、得られた電流密度から式( )を用いて物質移動係数を算出した。 3 物質移動係数測定結果 試 を Fig.2 に示す。Fig.2 より、液単相流では 速度の増加に伴って物質移動係数が上昇することが分かった。これは、Eisenberg によって示 れた実 式(k = 3D 3 ) [3]とおおよそ一致した。ここで は 電極の 径[m]、Dは反応物の拡散係数[m2/s]、vは動粘性係数[m2/s]、 は電極の 周速度[m/s]である。 Fig.2 Rotational speed and solid particle concentration versus mass transfer coefficient 固液混相流では、同じ 速度の液単相流と比較 して物質移動係数が増大する傾向にある(Table 2)。また、同じ固 粒子濃度では 数が増すほど液単相流と比較して物質移動係数が増大している。これらは、粒子が壁面近傍にl達したことにより濃度境界層が乱 れたためであると考えられる。 Table 2 Comparison of liquid only and multiphase flow 次に、 0000 rpm にて粒子濃度を 20 vol%まで増加 せた際の様子を Fig. 3 に示す。固 粒子濃度の上昇によって物質移動が促進 れ、 0 vol%では液単相流と比較して物質移動係数が 60 %増加した。しかし、物質移動係数の増加は粒子濃度 0 vol%程度で頭打ちになっている。これは、粒子の存在により実効拡散係数が減少したため[4]だと考えられる。また、液単相流(固 粒子 0 vol%)では、スターラーを用いた時と、用いない時に物質移動係数が大きく変化せず、スターラーによる流動は固 粒子の液中への分散に 与するが、 物質移動係数に 与する割合は小 いことが分かる。 Masstransfer coefficient of ferricyanide ion [mm/s] 0 0 .4 0 .3 0 2 0 0 0 20 スタ ーラー ON スタ ーラー O 0 o me fraction of so id artic e [ o ] Fig.3 Solid particle concentration versus mass transfer coefficient at 10000rpm 4 炭素鋼腐食試験方法 物質移動係数測定を実施した 境と同じ流動条件で、 炭素鋼腐食試 を実施することで、物質移動速度と腐食速度の関係を考察することを試みる。 腐食試 においても、小規模な実 系で流動境下の試 を うため、流動の発 には 電極を用いた。Fig. と同様の試 系にて試 を実施した。ただし、電気化学試 は実施しないため、不要な参照電極と炭素棒、ポテンショスタットは用いなかった。 試材として、 配管用炭素鋼管STPT4 0- S-C( 目 し・冷 上 、 径 8A( 3.8 mm)、厚SCH80(3 mm))を用いた。配管の 周を試 面とした 電極を作成した。 溶液は 30℃(曝気)純水を用いた。流動条件として 速度 0000 rpm で#320 ガラスビーズを vol% 加した。また、比較のため静止水中での試 も った。試 は 0 時 実施し、試 後の重量減から腐食速度を計算した。 5 炭素鋼腐食試験結果 試 後の試 片 面 と、重量減から計算した腐食速度を Fig.4 に示す。液単相流、ガラスビーズを混ぜた流動下では、試 面が金属光沢をもち、腐食速度も小 いことから、不動態化していると考えられる。一方、非流動下では、試 片は局所的に腐食しており、金属光沢をもつ部分も存在する不均一な腐食が発 していた。しかし、非流動下で改めて 2 時試 を実施し、腐食 成物を除 した後の試 片(Fig. )を見ると、全面的に腐食が発 しており、均一な腐食に移 したことが分かる。このことから、本試境の非流動下において、炭素鋼は不均一な腐食から、時 が経 するにしたがって、均一な腐食へと移することが分かった。 Fig.4 Result of corrosion test Fig.5 Result of corrosion test under static water for 525 hours 6 炭素鋼腐食試験考察 水溶液中の炭素鋼の腐食はアノード反応 Fe → Fe2+ + 2e-とカソード反応 02 + 2H20 + 4e- → 40H- が等量ずつ じ、2Fe + 202 + 4H20 → 2Fe2+ + 80H-として進 する。これらの反応は一般的に、酸素拡散律速状態になっている。したがって、試 片への溶存酸素の拡散流束と腐食速度には相関関係があると考えられる。そこで、今 の試 および に実施 れた試 の [ - 3]をまとめ、溶存酸素の拡散流束によって腐食速度を整理することを試みた。溶存酸素の拡散流束は、今 の試 条件については物質移動係数測定 から算出した。 の の条件については、流動条件と試 片形状から計算した。整理した を Fig. 6 に示す。 Fig. 6 より、溶存酸素の拡散流束によって腐食速度を 測できる可能性があることが分かった。拡散流束が X 0-7 mol/m2s までは、拡散流束の増大に伴って腐食速度が増大している。これは、カソード反応物である溶存酸素の拡散流束の増大に伴い、拡散律速状態のカソード反応速度が増大し、腐食速度が増大したためである。このことを、エバンズダイアグラムを用いて Fig.7 で示す。一方、溶存酸素の拡散流束が X 0-7 mol/m2s よりも大きくなると、腐食速度は減少している。これは、酸素 給速度が増加したため、炭素鋼が不動態化したためであると考えられる(Fig.7)。 今 実施した流動下条件において、炭素鋼は液単相流で不動態化しており、固 粒子の混入によって酸素拡散流束が増大しても腐食速度への 与は明確ではなかった。 Fig.6 Correlation between Flux of dissolved Oxygen and Corrosion rate [5-13] 7 結言 Fig.7 Evans diagram 子力科学技術・人材育成推進事業(日仏)」により実施 れた「配管減肉のモニタリングと 測に基づく配管システムのリスク管理」の成 である。 参考文献 [ ] 鵞谷 忠博 燃料デブリの性状把握 原子力学会 20 年秋の大会 W. M. Taama et.al, Influence of supporting electrolyte on ferricyanide reduction at a rotating disc electrode, Electrochiemica Acta, Vol.4 , No.4, pp. 49- , 996 M. Eisenbverg, Ionic Maas Transfer and Concentration Polarization at Rotating Electrodes, Journal of the electrochemical society, Vol. 0 , No.6, pp.306-320, 9 4 内海秀幸, 粒状多孔質 に対する新たな屈曲度 物質移動係数測定試 より、#320 のガラスビーズの混入によって、物質移動係数が増加することが分かった。また、濃度が 0 vol%以上になると実効拡散係数が減少することで物質移動係数が減少する可能性があることが分かった。 流動下と非流動下の炭素鋼腐食試 及び、 献調査の から、溶存酸素の拡散流束が腐食速度を決定する重要な因子であることが分かった。 今 の試 において、固 粒子としてガラスビーズを用いた。一方で燃料デブリの密度は 2. g/cm3 と れていることから、密度 2. g/cm3 のガラスビーズを用いた混相流での試 だけでは、今後 定 れる 境をカバーしきれない。よって、酸化セリウムや酸化ジルコニウムなどの化学的に安定で密度の大きな粒子を用いて物質移動係数測定と腐食試 を実施する 定である。 また、今 の流動下の試 では不動態皮膜が じており、粒子の混入による酸素拡散流束の増大が腐食速度へ及ぼす影響が明確ではなかった。したがって、酸素拡散流束が腐食速度に及ぼす影響が明確であると考えられる、炭素鋼が不動態化しない酸素流束条件下で、固液混相流下での腐食試 を実施する 定である。 らに、今 の固液混相流下の試 では炭素鋼が不動態化していたためか、粒子によるエロージョンは明確には認められなかった。一方、炭素鋼が不動態化しない場合、脆い酸化皮膜が拡散障壁となることで腐食速度が経時的に低下する。しかし、固 粒子によってそれらの脆い酸化皮膜が削り取られる場合、腐食速度の低下が期待できない。不動態化しない条件での腐食試 によって、この点に関しても検討する 定である。 謝辞 本研究の一部は、「 部科学省英知を 集した原 推定モデル, 千葉工業大学研究報告理工編, No.6 , 20 4 [ ]松平光男 他 純度水中における炭素鋼腐食に及ぼす溶存酸素の影響 防食技術 vol.28, No. , pp.32-37, 979 酒井公雄 他, の 純度水中における炭素鋼の腐食,防食技術, vol.30, pp.4 0-4 , 98 本田卓 他, での炭素鋼の腐食に及ぼす純水中の微量不純物の影響, 防食技術, vol.33, pp.689- 693, 984 河合登 他, 流動水 境における炭素鋼の腐食に及ぼす溶存酸素の影響, 電力中央研究所・研究報告, T86038, 987 岩堀徹 他, BWR 給復水系の起動・停止時の腐食性(その 2)炭素鋼の腐食に及ぼす皮膜 溶存酸素および流動の影響に関する電気化学的検討, 電力中央研究所・研究報告, 282033, 983 [ 0]加藤俊二 他, BWR 給復水系の起動・停止時の腐食性(その )-BWR 停止時水質条件下における炭素鋼の腐食-, 電力中央研究所報告, 依頼報告, 28 3, 978 [ ] E. G. Brush et.al, Corrosion and corrosion product release in neutral feedwater, Corrosion, vol.28, No.4, pp. 29- 36, 972 [ 2]火力原子力発電技術協会,火力・原子力発電所 における化学管理II.水質管理 3.原子力発電所の水処理(BWR),火力原子力発電, vol.37, No.7, pp.76 - 78 , 986 [ 3]泉谷雅清 他, BWR プラント給水系への酸素注入による腐食抑制, 火力原子力発電, vol.27, No. , pp.4 9-426, 976
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