配管減肉のモニタリングと予測に基づく配管システムのリスク管理 (4)電磁超音波共鳴法による配管減肉測定のデータ処理方法
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カテゴリ: 第16回
配管減肉のモニタリングと予測に基づく配管システムのリスク管理
(4) 電磁超音波共鳴法による配管減肉測定のデータ処理方法
Piping System, Risk Management based on Wall Thinning Monitoring and Prediction
Data Processing Methods of Pipe Wall Thinning Measurement by Electromagnetic Acoustic Resonance (EMAR)
東北大学流体科学研究所
孫宏君
Hongjun SUN
Member
東北大学流体科学研究所
浦山良一
Ryoichi URAYAMA
Member
東北大学流体科学研究所
内一哲哉
Tetsuya UCHIMOTO
Member
東北大学流体科学研究所
高木敏行
Toshiyuki TAKAGI
Member
Abstract. The electromagnetic acoustic resonance (EMAR) method with an electromagnetic acoustic transducer (EMAT) is proposed for pipe wall thinning measurement in the previous study. In this study, the Cepstrum method is proposed to process the data obtained by an EMAR method, and it is compared with the previous autocorrelation function (ACF), superposition of nth compression (SNC), multiplication of nth compression (MNC) methods. The Cepstrum method can evaluate the thickness range of the specimen under EMAT. Also, the thickness difference between the maximum and minimum thicknesses calculated by the Cepstrum method might evaluate the uneven thickness condition of the specimen.
Keywords: Electromagnetic acoustic resonance, Electromagnetic acoustic transducer, Cepstrum, Autocorrelation function, Superposition of nth compression, Multiplication of nth compression.
1 はじめに
f1 = argmax こX(nf)
fn
福島第一原発において、廃止措置のデブリ取り出しな どの作業に伴い、冷却水の循環が必要である。冷却水の流
とする配管の は 要な である。 のため、電超音波探触子(EMAT)を用いた電 超音波共鳴法(EMAR) で肉厚をモニタリングする技術が提案されている[1]。
EMAR 法は試験片にバースト波を特定周波数ごとに掃引
ここで、f1 は基本共鳴周波数、X( f )はスペクトル強度、n はn 番目の共鳴ヒーク、arg max はスペクトル強度が最大の の周波数である。MNC 法 周波数 を1/n に し、複数のヒークを基本共鳴周波数に連乗する方法である。
f1 = argmax I X(nf)
fn
し,共鳴周波数のヒークを探すことにより肉厚を測定する手法である。しかし、EMAR 法を腐食された試験片に適用する場合、共鳴周波数の近くに複数のヒークや散乱のヒークが出る[2]。Takagi ら[1, 3]はデータ処理のために自己相関法(ACF)、N 周期加算法(SNC)及びN 周期乗算法(MNC)を提案している。
本論文はデータ処理に用いられるケプストラム(Cepstrum)法を EMAR による肉厚測定に適用することを提案し、ケプストラム法を含めて各データ処理方法を比較する。
2 データ処理方法
ACF は信号自身との関係を反映できる。特に、信号の周期的特性を表現する。SNC 法は周波数 を 1/n にし、複数のヒークを基本共鳴周波数に ねる方法である。
一般にCepstrum 法は 間領域信号のフーリエ変換の対数をフーリエ逆変換するが、EMAR 法では振幅のスペク トルを評価するので、次のよつに Cepstrum を定義する。
Cepstrum = \F{log(\F-1{X(f)}\2)}\2
ここで、F[ ]はフーリエ変換、Fー1[ ]はフーリエ逆変換である。
3 実験と考察
参考文献[3]の EMAR による肉厚測定の結果を使用し、データ処理を適用する。試験片は火力発電所の炭素鋼の配管を切り出した のである。配管のパラメータと測定点の分布を れぞれFig. 1 とFig. 2 に示す。比較のため、超音波厚さ計(UDMー570DL/帝通電子研究所)を用いて同じ測定点の肉厚を測定している。
Fig. 3 はACF、SNC 及びMNC で処理したEMAR 法の
測定結果と超音波厚さ計の結果比較を示す。Fig. 3(a)により、ACF 法は厚さ 3.5 mm 以上の箇所だ 処理できることが分かった。Fig. 3(b)と(c)により、SNC とMNC 法はすべての測定点を処理できるが、厚さ3.5 mm 以下の測定点では、両手法の精度が低くなることが分かった。SNC 及びMNC 法は過大評価の傾向がある。
Fig. 1 Pipe shapeFig. 2 Measurement points
ACF method
SNC method(c) MNC method
F g.3 Compar son of ACF, SNC, MNC and th ckness gauge
振幅のスペクトルのフーリエ逆変換は 間領域の信号になり、 の 要な情報は 間 の前半にある。従って、Cepstrum 法を適用する 、指数関数を 間領域の信号に
[4]、 要な成分を得る。 た、腐食された試験片は厚さが不均一となるため、EMAR 法の各共鳴周波数は一定の厚さに対 する ではない。Cepstrum 法はの対数変換を通して、信号の各共鳴周波数に強 するため、各共鳴周波数を特定できる。従って、EMAT 下の試験片の厚さの最大値と最小値をある程度評価できる。Fig. 4(a)により、Cepstrum 法により得られた最小厚さは超音波厚さ計の結果より小さい傾向がある。Fig. 4(b)はCepstrum 法により得られた最大厚さを示す。Fig. 4(c)はCepstrum 法により評価された最大厚さと最小厚さの差を示す。厚さ4 mm 以下の測定点では、腐食が進むことで厚さの差が大きくなり、不均一性が強くなることが分かった。
4 まとめ
本研究では Cepstrum 法を EMAR による肉厚測定に適
用することを提案した。 た、データ処理の各手法の原理を示し、比較した。Cepstrum 法はEMAT 下の試験片の不均一な厚さの範囲を評価することができ、 の評価された最小厚さは超音波厚さ計の結果より小さいことが分か った。最大厚さと最小厚さの差により、試験片の厚さの不均一性を評価できる可能性がある。
(a) M n mum th ckness(b) Max mum th ckness
(c) Th ckness d fference (Max-M n)
F g.4 Compar son of Cepstrum and th ckness gauge
謝辞
本研究の一部は、JSPS 科研費JP18J11863 及び「文部科学省英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(日仏)」により実施された「配管減肉のモニタリングと予測に基づく配管システムのリスク管理」の成果である。
参考文献
T. Takagi, R. Urayama, T. Ichihara, T. Uchimoto, T. Ohira and T. Kikuchi, “Pipe wall thinning inspection using EMAR”, Nucl Eng Int, Vol.58, 2013, pp.18-21.
孫宏君、浦山良一、小島 、 本 、 一 、高木敏行、Gerd DOBMANN、「連続波とパルス波の電 超音波共鳴法による配管減肉検査の比較」、日本AEM 学会誌、Vol.26、2018、pp.312-319.
H. Sun, R. Urayama, T. Uchimoto, L. Udpa, T. Takagi, K. Kobayashi, “Data Processing Method for Thickness Measurement Using Electromagnetic Acoustic Resonance”, ENDE Workshop, Detroit, USA, 2018.
Robert B. Randall, “A history of cepstrum analysis and its application to mechanical problems”, Mech Syst Signal Process, Vol.97, 2017, pp.3-19.