配管減肉による配管損傷確率の評価手法の検討

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カテゴリ: 第17回
配管減肉による配管損傷確率の評価手法の検討 Development of evaluation method of pipe failure frequency due to wall thinning 電力中央研究所 森田 良 Ryo MORITAMember For the quantitative evaluation of importance of maintenance and management to the piping in the turbine system and the feedwater system, an evaluation method of the piping failure frequency due to wall thinning, one of the major aging phenomena in the secondary and BOP systems, were developed. Based on the uncertainty of the thinning rate, initial thickness and material strength, frequency of the piping failure was evaluated probabilistically. As a trial evaluation, the difference of the failure frequency between the main steam system and the feedwater system was evaluated under assumption of no wall thinning management. Keywords: piping failure frequency, wall thinning, importance of maintenance and management 1.背景 原子力プラントの保全活動全般に関する規程である日本電気協会のJEAC 4209「原子力発電所の保守管理規程」[1]では、系統・機器の「保全重要度」を指標とした保全計画の策定が位置づけられている。「保全重要度」は、安全機能の重要度分類やPRA(Probabilistic Risk Analysis)によるリスク情報などの原子力安全上の指標 に加えて、工学的な判断に基づく供給信頼性、運転経 験、作業安全、環境影響などの保全管理上の指標も考慮可能となっている。しかし、これらは必ずしも定量化されておらず、原子力安全上の指標が相対的に小さいタービン系・復水/給水系統などに対しては、現状では保全重要度を指標として保全管理方式を決定することは困難である。また、それらの系統では配管減肉や振動疲労等の経年劣化事象が生じ、検査箇所数も少なくはないため、保全管理上の指標による保全管理の効率化や現状の保全管理の効果の定量化は必要であると考えられる。 電中研では、上記背景を踏まえ、経年劣化事象の進展 による配管損傷確率の評価と、配管損傷時の周囲への (作業安全や環境影響などの保全上の)影響度を用いた保全管理上の指標の定量化研究を進めている[2]。本発表では、タービン系・復水/給水系統における主要な劣化事象である配管減肉を対象に、減肉事象進展時の配管損傷確率の試評価を実施した結果について紹介する。 2.配管減肉による配管損傷確率の評価 減肉率・配管条件の確率分布の評価手法 まず、減肉による配管損傷の確率論的な評価の方法について述べる。本発表では、減肉の進行によって薄肉化した配管が内圧によって損傷するモードを考え、その発生確率を評価する。具体的には、図1 に示すように、配管の初期厚さから減肉が一定の速度(減肉率)で進行 し、配管厚さが内圧による損傷限界厚さに到達する時期 (配管損傷時期)を、[配管損傷時期] = ( [初期厚さ] - [損傷限界厚さ] ) / [減肉率]から求めることを考える。式中の減肉率や初期厚さ、損傷限界厚さに確率分布を持たせて配管損傷時期を繰り返し計算することで配下減肉の進展に伴う内圧による配管損傷確率を評価する。 次に、各因子の確率分布を検討する。本評価で確率分布を持たせるのは減肉率、初期厚さ、及び損傷限界厚さである。減肉率については、減肉管理に関する日本機械学会の規格「発電用原子力設備規格 沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」(JSME BWR 規格)[3]において、BWR プラントの各系統における減肉率のヒストグラムや、確率分布を対数正規分布近似した場合の95%累積値が公開されているため、これを用いることとした。初期厚さについては寸法許容差の範囲に基本的に収まっていると考え、公称厚さを平均値として標準偏差の6 倍(±6σ)が寸法許容差の範囲にある正規分布を仮定した。損傷限界厚さについては、日本高圧力技術協会のHPIS Z 107-1TR「リスクベースメンテナンスハンドブック」[4]に記載の限界状態関数g*を用いて算出することとし、g*の評価に必要な流動応力に対しては、 「材料強度の統計的性質」[5]の引張強さの分布を参考に Wall thickness Initial thickness 表1 配管減肉による配管損傷確率の試評価条件 減肉率分布 JSME BWR 規格[3]を参照 (上限:99%累積値) 材料 STPT 材 対象系統 主蒸気系、給水系 設計圧力 9MPa 最高使用温度 300℃ 配管口径・Sch 450A・Sch80 公称厚さ 23.8mm Operation time 図1 配管減肉による配管損傷確率の評価の考え方 設計応力の値を下限として、そこから4%の範囲に標準偏差の4 倍(4σ)が収まる正規分布を仮定した。 上述の評価手法及び確率分布を用いることで、配管減 1.0E+00 1.0E‐01 Breakage limit thickness 配管損傷の累積分布確率※ [1/基/部位] 1.0E‐02 1.0E‐03 1.0E‐04 1.0E‐05 1.0E‐06 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 運転時間[年] 肉の進行に伴う配管損傷確率の評価が可能となる。ただし、本評価は配管厚さ測定などによる減肉管理は考慮せず、配管損傷が生じるまで減肉が一様に進行するとした場合の評価であり、実際にはJSME BWR 規格に基づいた配管厚さ測定による適切な減肉管理がなされているため、損傷限界厚さよりも裕度を持たせた必要最小厚さに到達する前に取替・補修が行われている。 配管損傷確率の評価 次に、BWR プラントの配管系統に対して配管損傷確率の試評価を実施した。評価条件は表1 にあるとおりであり、破損時の影響が相対的に大きいと考えられる高 温・高圧系統の主蒸気系及び給水系を対象として評価を実施した。また、減肉率分布は対数正規分布仮定のた め、実際の減肉率データなどを参考に上限値を99.7%累積値として評価した。図2 に減肉管理を一切行わない場合の配管損傷確率の累積分布を示す。図から、評価した条件では、40 年程度までは減肉管理を行わない場合においても累積配管損傷確率は10-6 以下であり、BWR プラント29 基の当該系統の点検対象部位数が約1 万箇所[6]をであることを考慮しても十分小さいことが分かる。ただし、それ以降は累積損傷確率が上昇するため、JSME BWR 規格などに基づいた減肉管理によって配管厚さを適切に管理する必要があるといえる。 3.まとめ 保全重要度のうちの作業安全などの保全管理上の指標 図2 配管減肉による配管損傷確率の試評価例 (BWR プラント、減肉管理なしの場合) の定量化に向け、配管減肉事象の進展による配管損傷確率の評価手法の検討及び試評価を行った。実際のプラントでは減肉管理が適切に実施されているため、本評価結果よりも更に低い配管損傷確率となると考えられるが、一定の条件の下での配管損傷確率の定量化によって、保全重要度に基づく減肉管理や減肉管理の必要性・妥当性の定量的な説明が可能になると共に、RI-ISI などへの活用も可能と考えられる。 参考文献 日本電気協会、「原子力発電所の保守管理規程」、 JEAC 4209-2016(2016) 渡辺、米田、「破損時影響を考慮した保全重要度評価手法の開発(その1)」、電中研報告、L16001 (2016) 日本機械学会、「発電用原子力設備規格 沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格(2016 年度版)」、JSME S NH1-2016(2016) 日本高圧力技術協会、「リスクベースメンテナンスハンドブック」、HPIS Z 107-1TR : 2010(2010) 養賢堂、「材料強度の統計的性質」(1992) 原子力安全・保安院、「美浜発電所3 号機 二次系配管破損事故について」(2005)
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