脱炭素化に向けたエネルギーベストミックスと原子力

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カテゴリ: 第17回
脱炭素化に向けたエネルギーベストミックスと原子力 The Role of Nuclear Energy in Energy Best Mix for Carbon Neutrality 東京大学小宮山涼一Ryoichi KOMIYAMAMember Abstract Nuclear power generation with improved safety and reliability is a promising technological option for the achievement of a carbon-neutral society. In addition to the decarbonization of electric power systems, it is expected to contribute to the decarbonization of non-electric power fields such as carbon recycling. In this presentation, the author will give an overview of the energy situation surrounding nuclear energy and consider the role of nuclear power in achieving carbon neutrality in 2050 through numerical simulations of energy models. The study is implemented towards 2050 with an optimal technology selection model considering more than 300 forecasted future technologies and the detailed temporal representation in the electric power sector for modelling variable renewable energy (VRE). The computational result of the modelling analysis reveals that new expansion and replacement of nuclear power generation could be an economically optimal option for the achievement of carbon neutrality toward 2050 in Japan. Keywords: Carbon neutrality, Energy system, Nuclear, Renewable energy 1.はじめに エネルギー資源に乏しい日本にとって、エネルギー源の確保は、一国の産業、社会活動、生活を維持するうえで、 極めて重要な国家的課題である。そして現在のエネルギー確保は、気候変動問題への対応が国際的課題として必須となり、極めて困難な課題となった。 日本においては政府により、2050 年にカーボンニュートラルを目指す目標が、地球温暖化対策推進法の改正に より法制化され、義務的目標となった。2016 年発効のパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ2℃以下とし、1.5℃まで抑制するため、今世紀中頃から後 半に世界の排出量をゼロとする目標が掲げられており、 世界の主要国をはじめ、取組強化が進んでいる。また最近 では2030 年も、より野心的な数値目標を先進国が宣言し ており、日本は2030 年に2013 年比で排出量を46%削減するとの厳しい目標が公表された。 エネルギーの脱炭素化を進め、同時にエネルギーセキュリティを確保するための特効薬となる技術は存在せず、 様々な技術の最大限の活用が必要となる。本発表では、エネルギーモデルによる日本の2050 年カーボンニュートラルを実現しうるエネルギーベストミックス評価と、原子 力への示唆を考える。 2.エネルギーモデルによる2050 年の分析 2.1 エネルギー技術選択モデル 分析対象とするエネルギー技術選択モデルは、一次エ ネルギー、システム内のエネルギーキャリア、それらを変 換、送配、消費するエネルギー技術やインフラにより構成 される(図1)[1][2].エネルギー技術、インフラ、エネルギ ーキャリアの種類は 300 種類以上にのぼり、発電技術、その他転換・送配技術(送電、石油製品輸送、都市ガス輸 送など)、エンドユース技術から構成される。 エンドユース技術は、エネルギーキャリアを消費して Power generation/storage Primary energy General industry Power Commercial /Residential Cooling Boiler Heating Furnace Hot water Iron and steel Crude steel production Cooking Rolling Power, etc. Others Passenger transport Railways Cement Power Road Kiln Aviation Paper and pulp Power Navigation Boiler Freight transport Railways Chemicals Power Trucks Boiler Aviation Furnace Navigation Feed CCS CO2 emissions Fig.1 Energy System Model Secondary energy NuclearNuclear Lifetime Nuclear Lifetime CO2 emissions[Mt-CO2] Fig.2 Carbon emission constraint Expansion (max. 50GW) 2,000 1,600 Electricity Generation [TWh] 1,200 800 400 0 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 60 years 40 years Battery(short cycle) Battery(long cycle) Pumped Heat Storage Wind(offshore) Wind(onshore) PV Geothermal Hydro Biomass Ammonia Hydrogen Oil(incl. CCS) LNG_CC(incl. CCS) LNG_ST(incl. CCS) Coal(incl. CCS) 最終消費部門へエネルギーサービスを提供する。例え ば、乗用車としては、ガソリン車、ディーゼル車、次世代 車(HEV、EV、PHV、FCV)を想定している。分析対象を2015 年から 2050 年とし、2050 年までの割引現在価値換算後のシステム総コストを目的関数とし、サービス需要 を外生的に与え、技術等の制約条件のもとで最適化計算 (目的関数の最小化)を行うことにより、最適な技術への投 資、技術構成、CO2 排出量などが算出される。モデルの特徴として、日本を 4 地域に分割することで変動制再生可能エネルギー(VRE)資源の地域偏在性や地域間連系線容量制約も考慮可能としている。 2.分析結果 ケース設定 原子力発電に関するシナリオとして、新増設・リプレー ス評価シナリオ、原子炉60 年運転シナリオ、原子炉40 年 運転シナリオの 3 シナリオを想定した。新増設・リプレ ース評価シナリオでは、原子炉60 年運転シナリオを原子力設備量の下限値として、最大 50GW(日本の 2005 年値) を上限値として新増設・リプレースが可能と仮定した。ま た、いずれのシナリオにおいても2050 年にCO2 排出量ゼロとするCO2 排出制約を課して分析を実施した(図2)。 分析結果 図 3 に各シナリオの 2050 年までの電源構成(発電量構 成)を示す。いずれの原子力シナリオにおいても 2050 年には再エネ、原子力、CCS 付火力、CO2 フリー水素・アンモニア発電による電力供給が行われ、電源ゼロエミッシ ョン化が実現する。また、発電量自体が2050 年にかけて増加する。これは電力化の進展と電源のゼロエミッショ ン化がエネルギーシステムのカーボンニュートラル実現 の上で経済合理的な選択となり、電力需要(発電量)が増加 するためである。特に運輸部門では電気自動車の普及拡 Nuclear Fig.3 Electricity Mix (power generation) Electricity Demand [TWh] Fig.4 Electricity demand in nuclear expansion scenario Total Power System Cost(2015-2050)[billion $] Fig.5 Total Cumulative Power System Cost up to 2050 大により電力需要が急増し、産業部門でも電力化が進展 し、日本の電力需要は現状の約 1 兆kWh から 2050 年に 1.6 兆kWh まで増加する(図4)。また電力化はエネルギーシステム全体に占める電力需要の比率が高まることを意 味するため、電力安定供給がこれまで以上に重要となる ことを示唆する。 また原子力発電に着目すると、新増設・リプレース評価 シナリオでは、モデル分析の結果、2050 年までに原子力発電の 26GW 新増設が選択されることから、原子力新増 設はカーボンニュートラル実現に貢献しうる経済合理的 オプションであると言える。 また図 5 に 2015 年から 2050 年までの電力システム総コスト(累計)を示す。原子力依存度低減により、電力シス テム総コストが上昇することが分かり、原子炉40 年運転シナリオの電力システム総コスト(累計)は、新増設・リプ レース評価シナリオに比べ、約 2 割(約 40 兆円)上昇することから、原子力新増設はカーボンニュートラル実現に 向けた電力システムコスト上昇抑制に貢献することが分 かる。電力供給は、送配電網などの電力システム全体とし て理解することが重要であり、発電、送配電から消費まで を含めたシステムとして理解する必要がある。発電コス トで競争力のある再エネが大量に導入されても、送配電 網や蓄電池などへの投資が必要になり、その結果、電気料 金が高騰するリスクがあることを認識する必要がある。 安価な太陽光発電を大量に導入しても、電気料金が低下 するとは限らず、電気料金は発電コストに加え、送配電網 や電力需給調整技術も合わせたシステム全体のコストの 影響を受ける。再エネを拡大するドイツやカリフォルニ ア等の地域の電気料金は上昇しており、システム全体で のコスト評価の視点が重要となる。 また図6 に関東圏の2050 年4 月での1 週間の電力需給運用を示す(図6 上がCO2 制約を課さない参考ケース、図6 下がCO2 排出ゼロ制約を課したケース)。電力システムに、太陽光発電や風力発電が電源構成に大量導入される 場合、時々刻々と変化するそれらの出力変動の下で、最適 な経済性を実現する電源構成が選択される。カーボンニ ュートラル制約により2050 年に太陽光発電が大量導入される場合、特に昼間の太陽光の急激な増加と、夕方にかけ ての急な減少といった出力変動に対して、蓄電池、熱貯蔵 システム、揚水発電、CCS 付LNG 複合火力や水素・アン モニア発電等の負荷追従運転,太陽光・風力の出力抑制に よる負荷調整機能が働き、システム全体として様々な出 力変動対応技術が機能することが分かる。また原子力発 電は、昼夜を問わず、一定出力でベースロード電力を電力 システムへ安定的に供給する役割を担い、エネルギーシ ステムの電力化が進む中で、重要な役割を担う。 3.考察 モデル分析の結果、2050 年カーボンニュートラル実現には、原子力発電の新増設・リプレースが経済合理的なオプションになりうることが示された。ただし現実に は、日本の場合、電力システム改革により電力自由化が進んだことで、原子力発電新増設への投資が円滑に進む市場環境となっているかは定かではない。電力システム改革により、電源はその価値に応じて、容量市場、需給調整市場、非化石価値取引市場、ベースロード市場等から収益を得られる環境が整備されたが、いずれの市場も競争原理により管理運営されるため、収益の見通しは必ずしも高くはない。電力自由化による電源の投資回収の予見性の低下、すなわち、電源の事業収益の不確実性が高まったため、電源への投資は自由化以前の投資回収が確実に可能であった総括原価規制の時に比べて、その事業性が見通しにくい環境になったと言える。特に原子力発電の場合、その新増設には火力や再エネに比べて巨額のファイナンスが必要になるため、電力自由化との親和性が低い。そのため、カーボンニュートラル実現に貢献しうる原子力発電等の投資回収の予見性を高める市場制度の整備が必要であると考えられる。 モデル分析の結果の通り、カーボンニュートラル実現 に向けて、原子力の必要性が高まる可能性の一方、新増設 が今後なければ、原子炉等規制法に定められた運転年数 200 (100万kW) 100 0 -100 200 100 0 -100 (out) Curtailment (GW) Power exchange (in) Coal Solar PV LNG-CC No CO2 Regulation Hydro Geothermal Nuclear Heat Storage(in) (GW) (short cycle) (out) Wind (onshore) (PV)(in) WindLNG-CC (offshore)(CCS) Solar PV Pumped (out) Ammonia Hydrogen Heat Storage (out) Geothermal Hydro Battery(l Batterye) (long cycle) Nuclearong cycl (in) Battery (short cycle) (in) Electric Vehicle (EV)(in) Pumped (in) CN Regulation (100 万kW) Curtailment(wind) Curtailment(PV) Power exchange(in) Battery(short cycle) Battery(long cycle) Pumped Heat storage Wind(offshore) Wind(onshore) Solar PV Ammonia Hydrogen Biomass Oil(incl.CCS) LNG-ST(incl.CCS) LNG-CC(incl.CCS) Coal(incl.CCS) Hydro Geothermal Nuclear Power exchange(out) Heat storage(in) Electrolysis EV(charge) Battery(short cycle)(in) Battery(long cycle)(in) Pumped(in) Electricity load Fig.6 Power Supply & Demand Balance in April 2050 (Kanto region, hourly) Fig.7 Nuclear power generation capacity to 2100[3] Fig.8 Outlook of world nuclear power generation[4] (最大60 年)を終えた原子炉が順次廃止され、長期的に日本の原子力発電は減少する(図 7)[3]。原子炉を全て 60 年運転したとしても2040 年代以降、大幅に減少し、今世紀末にはゼロとなる。原子力の新増設がなければ、地球環境 問題に加え、エネルギーセキュリティへの対応も困難に なると考えられる。現在でも、国内の原子力発電は再稼働 が進まず、また、老朽化や電力自由化による電気事業の不 確実性等により廃止措置を選択する原子炉が増加した。また、IPCC の評価(図 8)[4]では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ1.5℃まで抑制するには、世界の原 子力発電量を 2050 年までに 2010 年比で 2 倍~6 倍まで拡大する必要があると報告されており、原子力はカーボ ンニュートラル実現に必要な技術であると考えられる。 他方、世界の原子力発電量は2012 年以降、増加している が、IPCC 報告書で示された 1.5℃目標達成に必要となる原子力発電量の増加テンポからは乖離している。そのた め、原子力発電の維持増強に資する市場制度の整備が必 要であると考えられる。 4.まとめ 本稿のモデル分析では、日本の2050 年カーボンニュートラル実現には原子力新増設・リプレースが経済合理的 な技術オプションになるとの示唆を得た。原子力の維持 増強を進めるためには、原子力の継続的な安全性や信頼 性の確保、経済性向上への取り組み、再生可能エネルギー との共存など自助努力に加え、原子力発電への投資環境 の整備や原子力の環境価値の評価など、共助、公助の観点 から見た総合的な取組が必要であると考えられる。 謝辞:本発表はJSPS 科研費JP20H02679, (独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-2104),文部科学省原子力システム研究開発事業JPMXD0220354480 の助成を受けた。 参考文献 Y. Kawakami, R. Komiyama, Y. Fujii Y, “Penetration of Electric Vehicles toward 2050: Analysis Utilizing an Energy System Model Incorporating High-Temporal- Resolution Power Generation Sector”, IFAC-Papers OnLine, 51(28), 2018, pp.598-603 川上、小宮山、藤井、” 高時間解像度の発電部門を持つエネルギーシステム技術選択モデルによる CO2 削減シナリオの分析”電気学会論文誌B、138(5)、pp.382-391, 2018 資源エネルギー庁、”2050 年カーボンニュートラルの実現に向けた検討” 、2020 年 IPCC, “Special Report: Global Warming of 1.5 ?C, Summary for Policymakers”, 2018 .
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