配管系の弾塑性解析手法の検討 (その1)
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カテゴリ: 第15回
配管系の弾塑性解析手法の検討 (その1)
Investigation on Method of Elasto-plastic Analysis for Piping System (No.1)
MHI NS エンジ
小島
信之
Nobuyuki KOJIMA
MHI NS エンジ
蒲谷
拓郎
Takuro KABAYA
MHI NS エンジ
暁井
雅史
Masashi ARAI
MHI NS エンジ
廣内
悟
Satoru HIROUCHI
MHI NS エンジ
板東
雅嗣
Masatsugu BANDO
This report proposes an elasto-plastic analysis method to be used for practical aseismic designing of nuclear piping system made of carbon steel. This elasto-plastic analysis method is based on the elasto-plastic analysis method which has been decided by JSME. By using this analysis method, the test result has been reproduced with sufficient accuracy for the strain range used as the intensity evaluation index of carbon steel piping. Furthermore, fatigue life has also been reproduced with sufficient accuracy by using the curve of fatigue of carbon steel piping upon which it decided in a cooperative study among electric power companies and manufacturers in Japan.
It seems that this analysis technology is applicable also to the preservation after an earthquake since this elasto-plastic analysis method can grasp the elasto-plastic behavior of carbon steel piping analytically.
Keywords: elasto-plastic analysis method, carbon steel piping, strain range, fatigue life, curve of fatigue
1 緒言
日本では、2011 年3 月11 日の東日本大震災以降、耐震設計地震動の ルが し、耐震設計に弾塑性 動を導入する動きが出てきた。このような背景から、日本機 械学会 発電用設備規格委員会 原子力専門委員会 耐震許容応力検討タスク フェーズ2 では、 ンチマーク解析による配管系の弾塑性解析手法の検討が2014 年から実施された。
本論文は、この ンチマーク解析の一環として実施してきた解析結果 及び策定した弾塑性解析手法[1],[2]についてまとめたものである。
従来の配管の弾塑性解析の研究[1]"-'[3]は、試験結果の再 現性を目的に、材料試験結果および形状計測結果に基づ いて解析的な検討が行なわれてきたが、これらの手法は、実際の設計では使用できない。そこで、本検討では、実 設計への適用を考慮し、極力規格・基準に規定された数 値を使用し、安全側な評価が導き出せる配管系の弾塑性
析手法を検討した。なお、検討は炭素鋼配管を対象と
して実施した。
2 解析対象試験
ンチマーク解析は 1996 年 から実施している 年劣化を有する配管系の耐震安全性に関する検討の中[6]で 実施されたエルボ要素試験及び配管系振動試験を対象と している。本検討では、配管系振動試験を対象に解析検討を実施した。振動試験体の形状を図1 に示す。配管系はエルボ部と直管部から構成されており、各エルボ部を 図1 の通りエルボ1、エルボ2、エルボ3 とする。
この振動試験は、配管系の構成要素の中で脆弱であるエルボ部を破損させることを目的として実施された試験 であり、配管系を共振させるために1850 Gal の人工地震波が使用された。図2 に地震波を示す。
4 解析条件
各ステップにおける共通の解析条件を表1 に示す。地震波は図2 を用いた。配管の種類、温 、内圧、入力地震波は試験と共通である。地震応答評価では直接積分時刻歴解析、構造強 評価では静解析を用いた。解析コードは汎用有限解析コードであるAbaqus6-13-1 を用いた。
Table 1 Analysis condition
Type
Carbon steel pipes for high temperature
service (STPT370)
Outside diameter
114.3 mm (100A)
Thickness
8.6 mm (sch80)
Temperature
25 ℃
Internal pressure
10 MPa
Density
1.04E+4 kg/m3
Fig.1 3-D piping model for piping system test
2.0E+3
1.5E+3
Acceleration (Gal)
1.0E+3
5.0E+2
0.0E+0
-5.0E+2
-1.0E+3
-1.5E+3
-2.0E+3
5 地震応答評価
固有値解析
地震応答評価では、試験体 図1 を図4 に示すようなはり要素とエルボ要素でモデル化した。
このモデルの弾性域での固有振動数を算出し、試験結果[1]と比較した。固有振動数の比較を表2 に示す。表2 よ
01020304050607080
Time(S)
Fig.2 Seismic wave 1850Gal
り、解析結果と試験結果の固有振動数は概ね一致した。
3 評価手順
弾塑性解析評価は図3 に示す手順で実行した。各ステップの詳細は以降の章に示す。地震応答評価では、試験体全体の 動を把握し、塑性変形を生じるエルボ両端での変位を求める。構造強 評価では、エルボ部を含む部分モデルを作成し、その両端に地震応答評価で得られた変位を入力し、相当塑性ひずみが最大となる部分でのひずみ履歴を求める。疲労寿命評価では、構造強 評価で得られたひずみ履歴からひずみ範囲を求め、配管が破損 に至る 振回数を算出する。
Seismic response evaluation
Step 1
Step 2
Structural strength evaluation
Step 3
Fatigue life evaluation evaluation
Fig.3 Evaluation flow
Fig.4 Beam element model
(Red: Pipe, Green: Frame, Blue: Support and anchor) Table 2 Eigen value
Eigen value (Hz)
Experiment
2.74
Analysis
2.72
弾塑性解析
弾塑性解析を実施するために材料特性を選定した。塑性域を考慮した材料特性を図5 及び表3 に示すが、弾塑性特性は二次勾配をヤング率の1/100として2直線近似したバイ・リニアモデルを採用した。なお、実設計への適用を考慮し、設計降伏点とヤング率はJSME 設計・建設
規格を用いた。また、降伏点は設計降伏点の1.2 倍とした。設計降伏点が降伏点として使用される 、塑性変形は実際の塑性変形に比べてより早く発生し、解析結果は実際の地震動応答をシ ー することができない。そこで、設計降伏点の1.2 倍の降伏点を用いた。硬化則はBauschinger 果を考慮するため、 動硬化則とした。減衰比の設定には、低振動数範囲と高振動数範囲を考慮す るためRayleigh 減衰を用いた。減衰比は配管設計用減衰の0.5%[7]を用いた。
1000
800
Stress (MPa)
600
400
200
0
051015202530
Strain (%)
Fig.5 Stress-strain diagram Table 3 Material property
ボ1 の変位時刻歴を、図7 のエルボ両端に入力し、ひずみ分 を求め、き裂発生位 を特定した結果、 試験結果と同じ位 となった。
考として、エルボ1 の の相当塑性ひずみを図8 に示す。試験では、内 からのき裂が貫通した結果となっており、エルボ1 の内 に相当塑性ひずみ分 を表すと図9 のようになった。図8 と図9 によれば、エルボ1 の 内の相当塑性ひずみは、 の相当塑性ひずみに比べ大きいことがわかった。
Fig.7 Elbow1 shell element model
図4 の配管解析モデルに図2 の地震波を入力した地震応答解析結果から、次項の構造強 評価の入力となるエルボの開閉変位については、エルボ1 がエルボ2 とエルボ3 に比べ、大きな開閉変位を示しており、これは試験結果と一致している。エルボ1 の開閉変位を図6 に示す。
20
15
Fig.8 Elbow1 outer face equivalent plastic strai
6.2 塑性
n
Fig.9 Elbow1 inner face equivalent plastic strain
10
Open-close displacement (mm)
5
0
-5
-10
-15
-20
01020304050607080
Time(s)
Fig.6 Elbow1 open-close displacement
エルボ1 内の最大相当塑性ひずみが発生する を図10 及び図11 に示す。図11 は、 A-A での最大相当塑性ひずみの分 を示す。図10 及び図11 より最大塑性ひずみはエルボの中 から3.1 、エルボ側から90 の配管脇部で発生した。最大相当塑性ひずみ発生 のひずみ履歴を図12 に示すが、 ひずみは、
軸 ひずみと比べ大きいことが明らかで、試験結果を
6 構造強度評価
6.1 評価
構造強 評価では 塑性変形によりき裂が生じたエルボ1 を図7 のようなシェル要素でモデル化した。シェル要素は4 節点完全積分シェル要素とした。材料特性は地震応答解析と同一である。地震応答解析で得られたエル
裏付ける結果と言える。
7.2 累積疲労損傷係数算出
累積疲労損傷係数算出のため使用した疲労曲線を図14 に示す[8]。この曲線はこれまで国内で実施された既往研究 の試験結果に基づき、統計処理を行い得られたものである。今回の評価では、緑色の曲線で平均値を示し、マイナー則により累積疲労損傷係数を算出した。マイナー則は以下の式で表される。
Fig.10 Maximum equivalent plastic strain point (Inner face)
N
(1)
Elbow ventral
Fig.11 Maximum equivalent plastic strain point (Inner face) (Section A-A)
5.0E-1
4.5E-1
ここで、Ni は一定ひずみ範囲ciを与えられたときの疲労寿命、ni はci の り し回数である。( ni / Ni)はひずみ範囲ciによる疲労損傷 を表す。
上記により累積疲労損傷係数を算出した結果 1850 Gal 一回の 振では0.0744 で 14 回目の 振でエルボ1 が破損する結果となり 試験結果と同じ結果を導き出すことが出来た。
また、使用した疲労曲線に を たせた試験結果平均-3 の 色の疲労曲線を使用すると、1850 Gal 一回の
4.0E-1
3.5E-1
3.0E-1
2.5E-1
Strain
2.0E-1
1.5E-1
1.0E-1
5.0E-2
0.0E+0
Circumferential direction Axial direction
振で累積疲労損傷係数は0.451 であり、3 回目の 振でエルボ1 が破損する結果となった。
これまでの既往研究の試験結果から算定した疲労曲線
図14 の 線 は、試験結果を安全側に評価 と言えるが、JSME S NC-1[9]で規定されている設計疲労曲線は、
-5.0E-2 01020304050607080
Time(s)
Fig.12 Strain history (Maximum equivalent plastic strain point)
さらに安全側評価となる。
7 疲労寿命評価
7.1 範囲算出
疲労寿命評価では、図12 に示すひずみ履歴からひずみ
サイクル毎にひずみ範囲を求め、その結果を図13 に示した。
5.0E-2
4.5E-2
4.0E-2
3.5E-2
Strain range
3.0E-2
2.5E-2
2.0E-2
1.5E-2
1.0E-2
5.0E-3
8 結言
Fig.14 Fatigue life curve
0.0E+0
020040060080010001200
Number of cycle(Time)
Fig13 Strain range
(Maximum equivalent plastic strain point)
日本機械学会 発電用設備規格委員会 原子力専門委員会 耐震許容応力検討タスクで策定した配管系の弾塑性解析評価手法は、同タスク フェーズ2 の検討により、精 良く損傷部位を評価できることが確認された。また、
規格・基準に規定された数値 降伏点、ヤング率 を設計として評価した でも、既往の試験結果から設定した疲労曲線を用いれば安全側評価が であることが確認された。
この弾塑性解析評価手法は、炭素鋼配管の弾塑性 動を解析的に把握することが であるので、この解析評価手法は、炭素鋼配管に生じる 年変化事象である減肉
EC エロージョン・コロージョン 、全 腐食 を想定した の耐震安全性評価や、地震後の予防保全にも適用できると期待される。
考文献
M. Morishita, A. Otani, T. Watakabe, T. Shibutani and M. Shiratori, 2017, “Seismic Qualification of Piping Systems by Detailed Inelastic Response Analysis PART 1- A Code case for Piping Seismic Evaluation Based on Detailed Inelastic Response Analysis”, PVP2017-65166.
A. Otani, T. Shibutani M. Morishita, I. Nakamura, T. Watakabe, and M. Shiratori, 2017, “Seismic Qualification of Piping Systems by Detailed Inelastic Response Analysis PART 2- A Guideline for Piping Seismic Inelastic Response Analysis”, PVP2017-65190.
Y. Namita, K. Suzuki, H. Abe, I. Ichihashi, M. Shiratori, K. Tai, K. Iwata and A. Nebu, 2003, “Seismic Proving Test of Eroded Piping (Status of Eroded Piping Component and System Test)”, PVP2003-2097, PVP-Vol. 466.
Satoshi Tsunoi, Akira Mikami, Izumi Nakamura, Akihito Otani, Masaki Shiratori, 2007, “Comparison of Failure Modes of Piping Systems with Wall Thinning Subjected to In-plane, Out-of-plane and Mixed Mode Bending under Seismic Load - Computational Approach”, PVP2007-26476.
Izumi Nakamura, Akihito Otani, Masaki Shiratori, 2007, “Comparison of Failure Modes of Piping Systems with Wall Thinning Subjected to In-plane, Out-of-plane and Mixed Mode Bending under Seismic Load - An Experimental Approach”, PVP2007-26497.
Izumi Nakamura, Akihito Otani, Masaki Shiratori, “Study on Fracture Mechanics of Eroded Pipes under Seismic Loading”, March 2007, Technical Note of the National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention No.306.
日本電気協会 原子力発電 耐震設計技術規程
JEAC4601-2008 , 2008年
Masashi Arai, Nobuyuki Kojima, Takuro Kabaya, Satoru Hirouchi, Masatsugu Bando, “Investigation on Method of Elasto-plastic Analysis for Piping System”, PVP2016-63186.
日本機械学会 発電用原子力設備規格 設計・建設規
格第I編 軽水炉規格 JSME S NC1-2012 , 2012 年
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