連続肉厚測定が可能な超音波探触子の肉厚測定精度妥当性評価

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カテゴリ: 第16回
連続肉厚測定が可能な超音波探触子の肉厚測定精度妥当性評価 The evaluation of validity of accuracy in measuring thickness by ultrasonic probe for continuous measurement of pipe thickess 東京電カホールディングス株式会社 酒井 裕介 Yusuke SAKAI 東京電カホールディングス株式会社 吉田 正志 Masashi YOSHIDAMember 東京電カホールディングス株式会社 松下 義昭 Yoshiaki MATSUSHITA 東京電カホールディングス株式会社 栗原 恵 Satoshi Kurihara In power plant, most of the pipe is examined for confirming the thickness of the pipe wall during the period of inspection in the suspension of the plant. As pipe thinning phenomenon can progress mostly in the running of the plant, the measuring for the thickness value in running time is needed for confirmation of health and safety evaluation precisely. In this study, “Flex Dry UTM” was developed as a new type of UT system for making it possible to monitor pipe wall thickness continuously. Its measuring performance was evaluated by simulating the pipe thinning phenomenon continuously. The accuracy and validity were evaluated with regard to the influence of thinning surface shape and residual thickness. Keywords: Pipe wall thinning, On-line monitoring, Nondestructive inspection, Wall thickness measurement, Ultrasonic testing probe, Dry coupling, Remote monitoring, Condition-Based Maintenance, Reduction of radiation exposure, IoT ー 緒言 発電所や工場等の様々な施設・設備において、数多くの配管がその目的に応じて、様々な条件下で使用されている。これらの配管には経年的に肉厚が減少してく配管 減肉事象が起こり得る。特に高温高圧配管の減肉事象の場合、事故が生じた場合の影響が甚大である。そのため、設備の 全な には、配管肉厚管理が 要不可 である。現在までのところ、発電所においては、停止期間中に配管肉厚を計測し、その健全性を検査するという配管点検が定期的に実施され、これにより配管余寿命が評価 され、保全方針が決められている。 現在の点検方法では、配管肉厚を把握できるのはプラント停止中の点検時期に限られる。よって、確実な配管肉厚の把握と健全性評価のためには、減肉が進行するプラント運転中の期間にも肉厚測定を実施する配管肉厚モニタリングの実施が望ましい。しかし、モニタリング測 定の実現には、 の肉厚検査用装置において、以下のような機能が満たされる 要がある。 連絡先: 酒井 裕介、〒230-8510 神奈川県横浜市鶴見区江ヶ崎町4-1、東京電カホールディングス株式会社、E-mail: sakai.yusuke@tepco.co.jp ・探触子・ケーブルの100℃以上の耐熱性 ・配管表面への長期固定が可能であること ・液状接触媒質が不要であること ・遠隔測定・制御システムの構築 ・長期の連続測定が可能であること ・各種長期耐久性 これまで、超音波探触子であるフレックスドライUTM Flex Dry UTM 以下FDUTM Fig.1 と、連続肉厚測定装置であるUTM オンラインモニター 以下UTMOM Fig.2 を開発し、発電所への適用に向けて、その測定性能を評価してきた 2 FDUTM のこれまでの開発・性能評価[1] 配管肉厚の連続モニタリングを実施するために開発し てきたFDUTM とUTMOM は以下に示す特徴を有する。 ① FDUTM ・耐熱性 200℃までの高温環境下肉厚測定性能 ・ 状 保温 下での固定機能 ・液状接触媒質不要 施工・管理の合理化 ② UTMOM ・多チャンネル測定 複数個所の同時測定機能 ・通信機能 遠隔監視・制御機能 ・防塵・防水・防滴機能 これらの各機能は、現場で配管肉厚モニタリングを実 施する上で 須な機能である。これまで、これらの肉厚測定モニタリング機能が現場において適用可能であるかどうかを実験によって評価してきた。具体的には、耐熱評価試験では、200℃環境において、FDUTM が試験片厚さを正確に測定できることを確認してきた。また、連続肉厚測定試験については、サンドブラストによる機械的な模擬減肉過程における連続的な配管肉厚測定性能を確認した Fig.4 。 Fig.1 FDUTM[1] Fig.2 UTMOM and monitoring system[1] Fig.3 The simulation of thinning phenomenon Fig.4 Continuous measuring performance of FDUTM and UTMOM. [1] 2 FDUTM の測定性能における課題 これまでに実施したFDUTM、UTMOM の連続肉厚測定性能評価試験の結果、5.24 mmの65A 炭素鋼配管において最減肉計測値3.11 mm 57 時間経過後 までの範囲では、計測肉厚値と波 の推移から、妥当な肉厚計測性能を確認した[1]。しかし、最減肉計測値3.11 mm 57 時間 以降では、減肉速度に関係するサンドブラストの投射圧カが 一定にもかかわらず計測値の推移傾向が変化し、肉厚が増加しているような計測値が確認され、妥当性が確認で きない Fig.5 。また77 時間後にマイクロメータにより実測した最減肉厚値とFDUTM により測定した肉厚値には、非保守的な差異が存在し、FDUTM が最減肉値を正確に測定できていない Fig.5 。測定値の比較結果をTable.1 に示す。Table.1 より、77 時間後のFDUTM とマイクロメータ による肉厚測定値には0.1mm 以上の有意な差異を確認した。この結果より、57 時間までは連続測定の妥当性を確認できたが、57 時間以降はそれを確認できなかった。このように連続肉厚測定は可能でも、減肉 が進行するにつれて、一番 要な配管最減肉値を正確に計測できない点が課題である。 Fig.5 Continuous measuring performance of FDUTM and UTMOM until 77 hours. Table 1 Comparison of measurement results of thickness between FDUTM and micrometer. FDUTM A mm Micrometer B mm Variance |A- B | mm Before testing 5.24 5.25 0.01 After testing 2.84 2.46 0.38 3 FDUTM 測定性能の再現性確認 試験終 後に、実測による最減肉値とFDUTM による最終測定値結果との間で、測定誤差範囲を超える有意な差異が確認された点について再現性を確認するため、再度、連続配管減肉加速試験を実施した。また、連続測定性能において、投射圧カ条件を変更し、減肉速度を変化させた場合の肉厚測定値追 性を確認することも目的に実施した Fig.6 。また測定 所として2か所設定し、減肉 所をCH1、減肉 い 所をCH2 とした。各CH とも同仕様のFDUTM を使用した Table 2 。 測定肉厚値の推移をFig.7 に示す。測定肉厚値は両CH とも連続的に記録できており、配管肉厚連続測定性能を 確認できる。CH1 では、投射圧カ条件を変更した毎に、減肉速度傾向は変化している。また減肉装置の投射圧が大きいほど、配管減肉速度が増加することが繰り返し定 性的に確認できる。またCH2 では、減肉操作していない配管肉厚に対して、一定の測定肉厚値を測定できている。FDUTM による配管肉厚測定値とマイクロメータ による実測値の比較をTable 3 に示す。試験後の比較では、0.1mm 以上の有意な差異が確認され、FDUTM が最減肉値を測定できていないことが再度確認された。 本実験でFDUTMにより測定した波 をそれぞれFig.8, 9 に示す。Fig.8 より肉厚内部の減肉面からの反射波である第一回底面エコーの振幅が、試験が進行するにつれて減衰している。特に測定肉厚値が4mmを超えたあたりから、波 波高は著しく減衰し、最終的に肉厚値3.4mmを計測した地点では、40%以下にまで波 振幅が減衰している。本試験ではゲインは一定である。 って、少なくとも3.99mmの肉厚を60%の波 振幅で測定した以降の測定結果においては、波 振幅として十分な第一底面エコーを有しているとは言えず、測定肉厚値自体も妥当な結果とはいえないと考察できる。一方、Fig.9 より配管外表面からの反射波である表面エコーについては、試験が 進行しても、波 振幅の有意な減衰は確認されないため、各測定点において妥当な測定結果である。 ってこれらの結果より、FDUTM 測定値が最減肉値を測定できていない原因として、測定波 の減衰が関係していると推定できる。すなわち、最減肉面からの反射波がFDUTM 信面に十分に 信されていないか、または、 信はされているもののその音圧が さす て、第一底面エコーのヒークとして得られないという理由が考察できる。 Table 2 Specification of verification test Type of test pipe Carbon steel (STPG) Size 65A, sch40 Measuring points CH1: Thinning CH2: No thinning Probe type FDUTM (Two beam) Temperature Room temperature (Max. 15 degree Celsius) Couplant material No need for applying Duration of test 132 minutes Fig.6 The system of experiment for simulating the thinning phenomenon and for continuous measuring of thickness. Fig.7 The thickness measured by FDUTM and UTMOM under various conditions of injection air pressure. Table 3 Comparison of measurement results of thickness between FDUTM and micrometer. FDUTM A mm Micrometer B mm Variance |A- B | mm Before testing 5.13 5.08 0.05 After testing 3.40 1.42 1.98 Fig.8 Waveform of first bottom echoes in R side of FDUTM. してしまうことが影響していると考えた。②については、 機械的に模擬した減肉面 状により、入射波が散乱するために、十分な反射音圧を得られないことが影響していると考察した。本研究では、FDUTM センサーの構造に直接関係すると考えられる①の原因について検証した。 音場影響についての考察 一般的に、超音波探触子から送信された超音波ビームは、進行する過程で、2種類の波 態をとる。探触子から送信された直後の超音波ビームは、ある一定距離を平面として直進する。距離が進むにつれて、超音波ビームは球面上に拡散する。この平面波で進む部分を近距離音場と呼び、球面状に拡散してしまう部分を遠距離音場と呼 Fig.10 。近距離音場内では、超音波ビームの収束が進むため、音圧がばらつき、上下限値を繰り返しながら、最大音圧を示すまで続く。この最大音圧を示す点を近距離音場限界点と呼び、近距離音場と遠距離音場との境界となる。近距離音場限界点までの距離は次式で表される。 限値 の 最 離音 点ま 近距離音場限界距離 L = D2/4入 (1) こ で、D 探触子口径 入 波長 こ Fig.9 Waveform of surface echoes in T side of FDUTM. 4 第一底面エコーの減衰原因 将 的に発電所の実配管へ、本モニタリングシステムを導入することを想定した時に、波 振幅の減衰により、配管最減肉値を正確に測定できなくなってしまうような事態はあってはならない。そこでまず、この減衰事象が最減肉値の正確な測定に影響を与えていると仮定して、 減衰原因を考察した。 波 減衰原因として、2 つの原因を考察した。 ①入射音波の減衰 近距離音場影響 ②反射音波の散乱減衰 減肉面影響 ①については、入射音波が減肉反射面に到達するときにはすでに減衰していることから、得られる反射も減衰 遠距離音場は、近距離音場限界点を超えた領域を示すが、遠距離音場では超音波ビームが拡散し、音圧は徐々に低下する。 本研究で評価対象のFDUTM センサーの音場分布計算結果をFig.11 に示す。また、式 1 用いると近距離音場限界距離は5.28mm と計算された。これより、FDUTMによる超音波ビーム音圧は5.28mmの配管肉厚測定時に最大となり、本実験で使用した配管の 期肉厚測定時 5.24mm には、ほぼ最大の音圧により理論上測定が実施されることが分かる。一方、Fig.13 より5.24mm 以降の音圧は、配管肉厚2.6mm の位置にかけて理論上減少することが分かる。 遠 すが 徐々 本 算結 音場 って、Fig.11 のFDUTM センサーの入射音圧の理論推移から、減肉過程におけるFDUTM 波 振幅の有意な減衰傾向の理由の一つとして、各配管肉厚におけるFDUTM の入射音圧の傾向が、反射波の音圧に影響しているためであると考察した。 この考察の妥当性を確認するため、FDUTM センサーの入射音圧推移と、3.にて採取した測定振幅波 ヒーク値の各測定肉厚値における推移とを比較した。比較 した結果をFig.12 に示す。これより、FDUTM センサーの測定振幅の推移は、理論入射音圧の推移とおおよ そ同じ傾向を示す。よって、FDUTM センサーの理論入射音圧傾向が配管肉厚5.28 mm から2.6mm にかけて減少傾向にあることが、反射波音圧にも影響し、得られた第一底面エコーの波 振幅も減肉過程で減衰したということが考えられる。 Fig.10 The near sound field and the far sound field. Fig.11 The ratio of incident wave pressure in the near sound field and the far sound field. Fig.12 The comparison between the amplitude of first bottom echoes in pipe thickness measuring and the ratio of incident wave pressure in the near sound field. 校正試験片によるFDUTM の音場影響評価 4.1 でのFDUTM 反射音圧の評価結果は、減肉面 状影響を 外していない。すなわち、生 された減肉面による超音波ビーム散乱影響も、FDUTM 測定波 振幅の減衰には影響していると考えられる。しかしながら、FDUTM 波 振幅が、FDUTM の入射音場影響、それとも配管減肉面 状影響のどちらの原因に主に影響を けているかという評価をすることは、減衰原因を特定し、対策を講じる上で重要である。 そこで、3.の実験で使用した同仕様のFDUTM を使用して、JIS G 0801 2008 にて規定される校正用試験片RB-E Fig.13 により、10mm から3mm までの各厚さ測定を実施した。各厚さ測定時に、第一底面エコーの 測定波 高さと測定値を確認した。RB-E 校正試験片は完全フラットな平板であるため、減肉面 状影響を外して厚さ測定が可能である。各試験片厚さにおける 測定波 振幅と厚さ測定値をTable 4 に示す。また測定した振幅波 の結果をFig.14 に示す。各厚さ測定値と試験片厚さ値との差異は0.1mm 以下であり、測定値としては妥当な結果である。また第一底面エコーの測定波 振幅値については、校正試験片厚さが10mm から5mm までは、有意な減衰傾向は確認されなかった。一方、校正試験片厚さが4mm 以降は有意な減衰傾向を確認した。校正試験片厚さ3mm の測定時には、波 振幅値が49%を示し、約50%の減衰を確認した。 Fig.15 にFDUTM 理論入射音圧推移と本測定結果との比較を示す。また3.の実験で測定した反射波振幅値も合わせて示す。これより、校正試験片により測定したFDUTM 波 振幅高さは、近距離音場と遠距離音場の範囲においてFDUTM 理論入射音圧の推移とおおよそ似た傾向を示す。また、3.の実験で測定した反射波振幅値推移と比較すると、測定時肉厚値が さいほど、反射波 振幅値の差異は広がり、校正試験片による結果の方は、波 振幅の減衰傾向が緩やかになる。この減衰傾向の差異が減肉面 状影響による減衰影響として考えられるが、FDUTM 理論入射音圧の減衰傾向の方が支配的であると考える。 現場適用におけるFDUTM 開発課題 式 1 より近距離音場限界距離は探触子のサイズまたは、波長 振 数 を変更することにより。 可能であると考えられる。本研究の結果から、FDUTM の測定感度は、近距離音場において著しく減衰し、最減 肉値を正確に測定できないことが分かったが、この近距離音場限界距離を制御することにより、測定対象の肉厚レベルに応じて、FDUTM 測定感度を制御できる可能性がある。 って、FDUTM の音場影響については、探触子の構造を最適化することで、高い感度で、幅広い実配管肉厚測定が可能になると考えられる。また、減肉影響 について十分評価し、FDUTM の測定精度向上につなげることが、現場適用に向けた課題である。 Fig.13 Calibration test specimen RB-E (JIS G 0801 2008)[1]. Table 4 Comparison of measurement results of thickness and the transition of amplitude in each echoes. Nominal Thickness A[mm] Thickness by FDUTM B[mm] Variance A - B [mm] Amplitude of peak surface echo % First bottom echo % 10.0 10.08 0.08 100 86 9.0 8.95 0.05 100 100 8.0 8.07 0.07 100 75 7.0 7.09 0.09 100 100 6.0 6.03 0.03 100 83 5.0 5.00※ 0.00※ 100 100 4.0 3.99 0.01 100 73 3.0 3.04 0.04 100 49 ※Calibration was conducted on 5.00mm standard test piece. Fig.14 First bottom echoes at thickness measurement of calibration test piece. Fig.15 The comparison of amplitude of first bottom echoes in between pipe thickness and calibration test piece. 6 結論 ・連続配管減肉試験では、減肉過程における第一底面エコー振幅の大幅な減衰が確認され、試験終 後の配管肉厚値では、FDUTM 計測値と実測肉厚値に有意な差異とその再現性を確認した。 ・本実験の第一底面エコー振幅の減衰原因として、最減肉面がFDUTM の近距離音場領域内を進行することにより、最減肉面をとらえる超音波入射音圧の減衰影響が大きくなることを考察した。 ・FDUTM の近距離音場領域は、センサー仕様を変更することで 可能であるため、 要な測定肉厚範囲の配管肉厚モニタリングに適したFDUTM 仕様を選択することが 要であることを確認した。 7 今後の展望 発電所への適用に向けて、FDUTM の具体的な性能評価を実施する。 ・FDUTM の遠距離音場領域での測定性能を評価する。 ・FDUTM の探触子のサイズまたは、波長 振 数 を 節し、近距離音場限界点を制御することにより、様々な測定肉厚範囲に応じた測定性能を開発し、評価する。 ・様々な減肉面を実験で模擬し、減肉面 状による FDUTM 測定性能影響について評価する。 8 参考文献 [1] 酒井 裕介ほか、“連続肉厚測定が可能な超音波探触子の耐熱性向上および遠隔測定装置の開発”、日本保全 会 第15 回 講 会要 、2018
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